第三話ーー晴れーー25
「やっぱり、怒鳴られたな」
裕介がニヤつきながら言った。
「俺は大丈夫だと思ったんだけどなぁ」
康一が悔しそうに言った。
「え?一体どう言う意味?」
ペンキ屋が不思議そうに聞いた。すると、裕介が笑いながら言った。
「ま、洗礼みたいなもんかな。うちの客で怒鳴られなかった奴なんていないと思うな」
康一が続けて言った。
「俺と裕介なんか、もう毎日のように怒られてたもんな」
「そう言う事だから、気にすんな」
裕介はペンキ屋の肩を叩きながら言った。
「これで、オマエも俺らの仲間入りって事だ」
と言われても、ペンキ屋は何となく釈然としていなかった。
「って言われてもさ。いきなり怒られるとは思わなかったよ」
ペンキ屋が不満気に言うと裕介が答えた。
「けどさ、間違った事は言ってなかっただろ?」
「そうなんだけどさ……」
「オヤジさんは、大好きなバイクで悲しい思いをしてもらいたく無いんだよ。だから、俺たちを怒ってくれるの」
康一が諭すように言った。
ペンキ屋はオヤジさんに言われた事を思い出していた。
「まあ、俺らもオマエの走り方は気になってたけどな」
裕介がさらりと言った。
「そんなの分かんの?オヤジさんが言ったからじゃなねぇの?」
少しカチンと来たペンキ屋は疑いの眼差しを裕介に向けた。
「ばっか、ちゃんとわかってるよな。康一」
「まあね。気になってたのは確かだし……とりあえず、コーヒー飲も。あそこから妙な圧を感じるから」
康一が目を向けた先には、遥子が睨んでいた。
「何だよ。おっかねぇな。いつからそこにいたんだよ」
裕介が遥子に言うと、遥子は不満気に言った。
「ふざけんなよ。私はずっと、外の掃除をしてたんだよ。オマエらが気が付かなかったんじゃねぇか!男3人でいつまでもくっちゃべってやがってよ。入るなら早く入れ!邪魔なんだよ」
「悪かったよ。とりあえず、コーヒー頂戴」
そう言うと、裕介はそそくさと店の中に入って行った。
「何だよ、アイツ。で、コウちゃんこの子誰?」
遥子は、ペンキ屋を見て言った。
「ああ、紹介するよ。RZ-Rに乗ってる佐野くん。いつもの峠で知り合ったんだ」
「ふーん」
そう言いながら、遥子はペンキ屋を観察するように見ていた。
「僕もコーヒー頂戴。佐野くんは何が良い?」
「あ、俺も同じで」
「じゃあ、コーヒー2つにチーズケーキ付けてね」
康一は、笑顔で遥子に言った。あれ以来、康一は遥子のチーズケーキが大好きになっていた。
「了〜解」
遥子は嬉しそうに店に入って行った。
「ここのチーズケーキ美味いんだよ。食べてみてよ」
康一はそう言うと、ペンキ屋を誘って店に入って行った。店の中では裕介が偉そうに陣取っていた。
「ヒマそうだな。おばちゃんは?」
「うっせぇな。今はヒマな時間なんだよ。お母さんは奥で休んでる」
康一は心配そうに言った。
「おばちゃん、具合悪いのか?」
「うん。元からあんまり身体は強い方じゃなかったけどね。ずっと頑張って来たから疲れが溜まってるんだと思うんだ」
遥子が少し落ち込んだ様子で言った。
「そっか……」
「けど、私が店に出れば、お母さん休めるじゃん。今までお母さん一人で頑張って来たからさ。少しでも親孝行しないとさ」
遥子は勤めて明るく言った。それが多少の強がりである事は、裕介も康一もわかっていた。
「あんま、無理すんなよ」
裕介がぼそりと言った。こんな事を言っても気休めにしかならない事とわかっていても、それしか言えなかった。
「オマエに、そんな事言われると気持ち悪いな。大丈夫だよ。体力には自信あるんだ」
「そうだな。体力だけはあるもんな」
裕介が、笑いながら言った。
「体力だけはって何だよ!」
遥子はそう言って裕介を睨んだ。
「ねえ、仲良いね」
ペンキ屋が二人のやり取りを見て言った。
「まあ、俺と遥子は子供の頃からの腐れ縁」
裕介がわざと嫌そうな顔をして言った。
「何だよ、その顔。私の方こそ迷惑だよ!」
遥子がコーヒーを淹れながら裕介を睨んだ。
「なんで、康一はこんなのを彼女にしたかねぇ。ほんと不思議だわ」
裕介は遥子を煽るように言った。
「オマエ、ほんとムカつくな。コウちゃん、なんか言ってやってよ」
遥子が康一に助けを求めた。康一は笑いながら言った。
「裕介は、遥子を元気づけるようにわざと煽ってるんだよ。元気が無い遥子なんか、見たくないしさ」
「そうそう、それ!」
裕介は調子良く言った。
「ほんとかぁ?ほんと、コイツ調子良いからなぁ」
遥子は、呆れた顔で言った。
「信用ねぇな。俺……」
裕介は大袈裟に落ち込んでみせた。
「そう言う態度が、信用出来ねぇって言うんだよ」
遥子はそう言いながら、コーヒーとチーズケーキをそれぞれの前に置いた。
「食べなよ。ほんと美味しいんだ。遥子のチーズケーキ」
康一はペンキ屋に進めた。
「コイツさ、甘い物全然食べられなかったんだけどさ。遥子のチーズケーキだけは食べられるようになったんだよな。これも愛の力かねぇ」
裕介は、わかったような事を言いながら、チーズケーキをぱくついた。ペンキ屋も一口食べると、驚きの声を上げた。
「うん、確かに美味しい」
「だろ?」
裕介がドヤ顔で言った。
「なんでオマエが偉そうなんだよ」
遥子が不満気に裕介に言った。康一は、そんな二人の掛け合いを他所に、黙って嬉しそうにチーズケーキを食べていた。
なんか不思議な3人だな……
ペンキ屋は3人を見てそう思っていた。ケンカになるかならないかギリギリの裕介と遥子の掛け合いを、康一が柔らかく包んでいる。
こう言うのが本当の仲間なんだろうな……
ペンキ屋は、少し羨ましく思っていた。
次回の更新は10日となります。




