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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第三話

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第三話ーー晴れーー24

 「うん?」


 店の奥にいた裕介が声がした入口の方を見ると、所在なさげにペンキ屋が立っていた。


 「お!早速来たな!康一、佐野クンが来たぞ!」


 裕介は喜びながらそう言うと、急いで入口のところまで行き、ペンキ屋に言った。


 「よく来たな!」


 裕介の後から来た康一も笑顔で言った。


 「待ってたよ」


 「あの……これ……」


 ペンキ屋は、おずおずとコンビニの袋を差し出した。


 「うん?何?」


 裕介はそう言いながらコンビニ袋を受け取り、中身を見た。


 「お!缶コーヒーじゃん!やった!」


 「いつも、缶コーヒー飲んでたから、好きかなって思って」


 ペンキ屋は照れながら言った。


 「おお!ありがとう!めちゃ嬉しいよ」


 裕介は中の缶コーヒーを取り出すと喜びの声を上げた。


 「やったね!俺の好きなジョージア!康一!ポッカもあるぞ!」


 「よく、俺たちの好きなメーカー知ってたね」


 康一は、感心したように言った。


 「いつも、おんなじの飲んでたから、こだわりがあるのかなって思って……」


 ペンキ屋は照れながら言った。


 「で、俺のは?」


 そう言いながらオヤジさんがコンビニ袋の中を覗くと


 「UCCが無え……」


 落ち込んで言った。


 「何、くだらねぇ事で落ち込んでるんだよ。あ、これ俺のオヤジな。一応、この店の主人」


 裕介はペンキ屋にオヤジさんを紹介した。


 「一応って何だよ!で、にいちゃんRZ乗ってるんだって?話は聞いてるよ。見せてみな」


 「は、はい」


 ペンキ屋はそう言うと、焦ってバイクを取りに店の外に出て行った。


 「手伝うよ」


 康一はそう言って、ペンキ屋を手伝いに行った。


 「な、言った通りいい奴だろ?」


 裕介はオヤジさんに言った。以前からペンキ屋の事は話題にしていたのだ。


 「……まあな……」


 と多少、含みのある言い方をしたので、裕介はそれが気になってオヤジさんに聞いた。


 「何だよ。含みのある言い方すんな。なんか気になるのか?」


 「うん?ま、バイクを見ればわかんだろ」


 店の外に出た康一は、ペンキ屋のRZを見て言った。


 「相変わらず綺麗に乗ってるなぁ。けど、多少鼻垂れてるね」


 ペンキ屋のRZのサイレンサーの先から多少オイルが漏れている。これは2ストロークエンジンの慢性病とも言えた。


 「結構回してるんですけどね。最近、白煙も多くなった気もするし……」


 ペンキ屋はそう言うと、RZを押し始めた。


 「オイル上がりかもなぁ。オヤジさんに見てもらお?元、ワークスのメカだった人だから、2ストはお手のものだと思うよ」


 裕介はそう言うと、RZを後ろから押した。


 当時のロードレース選手権は各クラスとも2ストロークエンジンが主流だった。その中でもオヤジさんはメーカー直属のワークスチームで凄腕メカニックとして名を馳せ、2ストロークエンジンはお手のものと言えた。


 「ここに置いて」


 裕介はそう言って、整備スペースに誘導した。


 RZが整備スペースに置かれると、オヤジさんはプラグレンチを持ってやって来た。


 「とりあえずプラグ見るか」


 オヤジさんは慣れた手つきでプラグを抜いて、焼け具合をチェックした。オヤジさんはプラグを見ると言った。


 「結構、回してんだろ?ちょっと、焼けすぎな感じもするな……ガスが薄いかもしれねぇな。キャブのセッティングもやり直すか……後は、サイレンサーの掃除してと。ただ、これだけ回して鼻垂れてるんだったら、オイルシールも見ねぇとな……」


 オヤジさんはRZを細かい部分まで見始めると、


 「おい、オマエ!結構無茶な運転してんだろ?」


 ペンキ屋に少々怒り気味に言った。


 「オマエ!ここまでタイヤ使うなんてどういう走り方してやがんだ?」


 オヤジさんは、タイヤを指差して言った。


 「いや……あの……普通に走ってるつもりですけど……」


 ペンキ屋はオヤジさんの迫力に驚きながら答えた。


 「いや、普通だったらこうはならねぇよ。公道でここまで使うのはやり過ぎだ。命いらねぇのか!!アホ!!」


 とうとうオヤジさんの怒鳴り声が店内に響いた。


 裕介と康一は慣れたもので、呑気にペンキ屋の差し入れの缶コーヒーを飲んでいる。


 「いや……あの……」


 「別によ、どんな走り方しようが、そんなのはかまわねよ。けどな命を削る走り方はやめろ!そんな事して早くなっても誰も喜ばねぇよ。無茶して、オマエ一人が事故るならまだ良い。けどな、公道はオマエらだけが走ってるんじゃねぇんだよ!オマエの無茶のおかげで、怖い思いしてる人が何人もいるんだ。巻き込んじまったらどうすんだ!!」


 「……はい」


 ペンキ屋は力無く答えた。


 「それにな、オマエが事故ったら、悲しむ奴も居るんだろ?人を悲しませちゃいけねぇよ」


 オヤジさんがそう言うと、ペンキ屋は呟いた。


 「そんな奴いない……」


 「あん?」


 「俺が死んでも悲しむ奴なんていない……」


 ペンキ屋は、力無く言った。オヤジさんはそんなペンキ屋を見て言った。


 「そんな事ねぇと思うぞ。裕介も康一もオマエをここに連れて来たんだ。仲間だと思ってるから連れて来てんだよ。オマエがどう思っていようが、奴らにとってはオマエは仲間なんだよ。仲間が死んじまったら悲しいに決まってるだろ!」


 「仲間……」


 「オマエが何を抱えてるか俺にはわからねぇがな。仲間を悲しませるようなマネをするな。それがバイク乗りの一番大切な事だ!わかったら、隣に行ってコーヒーでも飲んでろ!その間に、大体の所は見といてやる。裕介!」


 「はいよ」


 裕介は呑気に返事をしてやって来た。


 「こいつを連れて、康一と隣でコーヒーでも飲んで来い!」


 「了〜解。康一!行くぞ」


 「はいよ〜」


 この二人は、オヤジさんのカミナリに慣れているせいか、呑気に返事をしてペンキ屋を誘った。


 「ほら、オマエも行くぞ」


 「あ、ああ……」


 ペンキ屋は戸惑いながらそう言うと、オヤジさんに頭を下げて店を出て行った。

次回の更新は6日となります。

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