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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第三話

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第三話ーー晴れーー23

 ペンキ屋のRZ-Rを舐めるように眺めていた裕介が康一を読んだ。


 「康一!」


 裕介に呼ばれた康一が、呑気に缶コーヒーを持ってやって来ると、裕介が康一に言った。


 「このRZ-R綺麗じゃね?こんなの見たらうちのオヤジ喜ぶだろうなぁ」


 康一がRZ-Rを改めて見ながら感心して言った。


 「そうだな。綺麗に整備されてる」


 「それにさ、オリジナルペイントされてるぜ。センス良いわ」


 裕介と康一が夢中になって見ていると、ペンキ屋が迷惑そうに言った。


 「そろそろ良いですか?俺、もう行くんで」


 「お、悪い。悪い」


 裕介がRZ-Rから離れると、ペンキ屋はヘルメットを被ってキックを踏んでRZ-Rのエンジンをかけた。小気味の良い、2ストローク独特のチャンバー音が響いた。


 「な、ここよく来るの?結構見かけて気になってたんだ」


 裕介はペンキ屋に聞いた。


 「まあ、ちょくちょく」


 ペンキ屋は迷惑そうに素っ気なく答えた。


 「なら、また会うかもな。そしたら、また声掛けるわ。じゃな。気をつけてな」


 裕介は笑顔で言った。ペンキ屋は軽く頭を下げると、アクセルを上げて走って行った。


 その後……

 

 ペンキ屋は何度か峠で裕介や康一と顔を合わせるようになった。


 「よ!また会ったな!」


 裕介と康一が缶コーヒーを片手にペンキ屋に声をかけ、康一が缶コーヒーをペンキ屋に手渡した。


 「あ、ああ、ありがとう」


 ペンキ屋は戸惑いながら缶コーヒーを受け取ると、不器用ながらも康一にお礼を言った。


 初めは迷惑そうだったペンキ屋も、人懐っこい裕介や、控えめではあるが人の良い康一達と過ごすうちに、初めはほんの立ち話程度でしか無かったのものが、いつしか時間を忘れて、座り込んでバイク談義に話を咲かせるようになっていた。


 徐々にペンキ屋も二人に心を開くようになり、峠に来るのも、二人に会う事が目的となっていた。


 連絡先も知らない、待ち合わせているわけでも無い、いつ来るかわからない二人を、ひたすら待ち続ける事もあった。


 ある日、また、3人で缶コーヒーを片手にバイク談義に花を咲かせていると、ペンキ屋が、バイクの調子が悪いと二人に何気なく話した。


 「最近、なんか吹け上がりが鈍くなった気がするんだよね」


 すると、裕介が笑顔で言った。


 「なんだよ。実は俺んちバイク屋なんだよ。今度良かったら来ないか?RZ-R、調子が悪いんだったらオヤジに見て貰うと良いよ」


 「それが良いかも。オヤジさん凄腕だし」


 康一も笑顔で言った。


 ペンキ屋は、突然の誘いに少し戸惑っていた。人と距離を取る事に慣れていたペンキ屋は、こう言う誘いに慣れていなかったのだ。

 

 裕介は、ペンキ屋の戸惑っている顔を見て言った。


 「ま、気が向いたらで良いからよ。古い2ストだし、それなりにしっかりとメンテしてやらなきゃじゃね?一人だと限界あるだろ?工具だとか、パーツとかさ。一回しっかり見てもらった方が良いと思うけどな」


 そう言いながら、店の名刺をペンキ屋に渡した。


 「ここな。後藤モータースって言うんだ」


 ペンキ屋は、渡された名刺を見つめていた。裕介は笑顔で言った。


 「いつでも良いからな。じゃ、俺たち行くわ」


 そう言うと、二人はセルを回して愛車のエンジンをかけた。4ストローク大排気量エンジンの排気音が響いた。


 「あ、そうだ。お前の名前は?考えてみたら俺たち名前も知らなかったわ」


 裕介は、ヘルメットを被りながら言った。相手の名前よりも、バイクの方が気になるのがバイク沼にハマっているバイク乗りらしい。


 「佐野……佐野って言います」


 ペンキ屋は、少し戸惑いながらも嬉しそうに答えた。この二人に名前を聞かれた事、誘われた事が嬉しかった。


 「佐野くんか……俺は後藤裕介、裕介で良いよ。アイツは鈴木康一」


 「俺も康一で良いよ」


 康一も笑顔で言った。


 「裕介さんに康一さん……」


 ペンキ屋は貰った名刺を見ながら呟いた。


 「おう!いつでも来いよ。うるさいオヤジがいるけどよ、な」


 裕介はそう言うと康一に同意を求めた。


 「そうだな。うるさいけど、人はめちゃ良いよ。あと、隣の喫茶店のチーズケーキが美味い。作ってるヤツはうるさいけど」


 康一も笑いながら言った。


 「なんか賑やかそうだね」


 ペンキ屋も笑顔で言った。


 「おう、うるさいけど気のいい奴らだよ。絶対来いよな!じゃな」


 裕介が笑顔でそう言うと、軽く手を上げて出て行くと、康一も続いて手を上げて出て行った。


 ペンキ屋は二人が走り去った後も、後藤モータースの名刺をいつまでも見ていた。


 「後藤モータースか……」


 ペンキ屋は少し嬉しそうに呟いた。


 名刺を貰った日の次の週末、ペンキ屋は「後藤モータース」を目指して走っていた。


 自分から人に会いに行くのはいつぶりだろう?


 ペンキ屋は、微かな期待と不安を抱えて都内を2スト特有の甲高いチャンバー音を響かせて走っていた。


 「ここか……」


 見る限り何の変哲も無い普通のバイク屋、後藤モータースの前で、ペンキ屋はRZ-Rのエンジンをひと吹かししてから切って、バイクから降りた。


 ペンキ屋は恐る恐る後藤モータースの扉を開けた。


 「こんにちわ〜」


次回の更新は4月3日となります。

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