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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第三話

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第三話ーー晴れーー21

 「さっき、入口で簡単に挨拶したよね。僕は佐野って言います。イラスト描いたり、デザインしたりしてます。みんなと同じでペンキ屋って呼んでくれて良いよ」


 ペンキ屋は笑顔で言った。


 「私は、本田希と言います。私の我儘でお呼びだてしてしまってすみません」


 希はそう言うと、頭を下げた。


 「うん、しっかりした子だね。灯ちゃんとは大違いだな」


 とペンキ屋は笑いながら言うと、灯が膨れた顔をしてやってきて言った。


 「ペンキ屋、それどう言う意味?」


 「うん?別にそのままだよ。だって灯ちゃん、こう言う挨拶できないだろ?」


 ペンキ屋はさらりと言った。本当のことを言われて何も言い返せない灯は、希に耳打ちをして言った。


 「やっぱ、私、コイツ苦手かもぉ。コイツ変な奴だから、気をつけてね」


 「灯ちゃん、聞こえてるよ?」


 ペンキ屋は、笑顔で言った。


 実は希もペンキ屋の第一印象について灯の言った事がわからないわけでも無かった。

 今まで希が出会った大人の中でも何となくペンキ屋は雰囲気が違うと思っていた。どこか、見透かされているような、それでいて自分自身の本心は決して見せない、大人の処世術を身につけているような印象を受けていたのだ。

 少なくとも、後藤オートの面々はそのような形では希に接して来ない。もちろん、希よりも歳上で大人ではあるのだが、どちらかと言うと先輩と後輩と言うような、同じ視線で接してくれていた。だから、希も話しやすかったし、気軽に相談も出来たのだ。

 

 だが、ペンキ屋は違った。


 悪い人間では無い。それは、遥子の対応を見ていればわかる。灯も苦手とは言っているが、何だかんだ言っても楽しそうに話しかけている。こうやって軽口を言い合えると言うことは決して嫌いと言うわけでは無いのだろう。

 このペンキ屋の少々違和感のある立ち居振る舞いは、どこから来るのか。

 まだ、大学生の希にはわかるはずも無かった。ましてや、紹介してもらって挨拶を交わしたばかりである。ペンキ屋の心情を理解するには、希には経験も何もかもが足らなかった。

 希が感じている違和感の正体が何であれ、皆がペンキ屋を信頼しているのならば、希も信頼しようと思っていた。


 遥子が、カウンターに水を置きながら言った。


 「もうピークも過ぎたからさ、希ちゃん、ここに座ってペンキ屋に色々聞いたら良いよ」


 「はい。そうさせてもらいます」


 希はそう言って、カウンターの席に座ると、ペンキ屋が笑顔で言った。


 「改めてよろしくね」


 「よろしくお願いします」


 希は小さく頭を下げた。


 「で?どんなデザインがお望みかな?」


 ペンキ屋が聞いた。


 「どうしようかな……」


 正直、希にはデザインと言われてもわからない部分も多いので、うまく答えられない。希が悩んでいる姿を見て、ペンキ屋が言った。


 「難しく考えなくても良いよ。それじゃあ聞き方を変えようか?好きな色は?」


 この質問には、すぐに答えることが出来た。


 「好きな色は、オレンジです!なんか暖かい感じがして、お日様みたいで好きなんです」


 「なるほどね。イエローは?同じように暖かい感じがするけど?」


 ペンキ屋が聞いた。希は少し考えて答えた。


 「うーん、黄色も好きなんですけど、オレンジ色程では無いです。黄色は強いお日様って感じで……私、夕景が好きなんです」


 希は、そう言いながら、康二と一緒に見た、多摩川の夕景を思い出していた。


 「それに、お花もひまわりより、オレンジ色のガーベラが好きです」


 「確か、ガーベラの花言葉は『希望』『前向き』『美しさ』だったかな」


 さらりとペンキ屋が言うと、希は驚いて言った。


 「花言葉も知ってるなんて凄いですね」


 ペンキ屋は、希の反応に対して、別に得意げになる事も無く、当たり前のように答えた。


 「うん?仕事で覚えたんだ。結構、花関係の依頼多いから」


 「そうなんですね〜」


 そう言いながら、希はやはりどこかペンキ屋との間に壁があるのでは無いかと感じていた。


 親身に聞いてくれるし、話の広げ方も上手で、こちらの要望をうまく聞き出してくれる。


 だけど……


 ひどくフレンドリーではあるが、目に見えない壁。決して本心からでは無いであろう事がわかる口先だけの物言い。これが大人だと言うのであれば、確かにそうかも知れない。

 だが、同じ仲間として考えた時……相手が見えない壁を作っている以上、こちらもそれなりの付き合い方しか出来ない。

 希は、人として接してくれた康二をはじめとした後藤オートの面々との違いを感じていた。


 何となく、灯ちゃんの言っている事がわかるかも……


 きっと、その様に考えていた事が、ほんの少し希の顔に出てしまったのだろう。もしかしたら、普通の人だったら、見過ごしてしまう様な些細な変化だったのかも知れない。


 しかし、その些細な変化をペンキ屋は見逃さなかった。


 「ちょっと、僕に対して警戒心与えちゃったかな?」


 ペンキ屋はストレートに希に聞いた。不意に言われた希は驚いて言い訳とも言える様な答えを返した。


 「いえ、あの、そう言うわけじゃなくて……ちょっと、おじさんや遥子さん、雄介さんと違うなって……あの……決してそんな悪い意味とかじゃなくそう言うんじゃなくって……」


 うまく答えられない希を見て、ペンキ屋は笑いながら言った。


 「何となく言いたい事はわかるよ。よく灯ちゃんにも言われるから」


次回の更新は27日となります。

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