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雨のち曇りそして晴れ  作者: 冬馬
第三話

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第三話ーー晴れーー20

 「今、テーブルがいっぱいで、カウンターしか空いてないんですけど、良いですか?」


 希がそう言うと、その男が不思議そうな顔で言った。


 「あれ?新しいバイトの子?可愛いね」


 「へ?」


 希は、不意に「可愛い」と言われて、何のことか分からずに戸惑っていた。すると、遥子が後ろから

 

 「ペンキ屋!その子に手を出すんじゃねぇぞ!希ちゃん、そいつ相手にしないで良いから」


 ペンキ屋は、全く懲りずに言った。


 「へぇ、希ちゃんって言うのか。よろしくね」


 そう言うと、勝手にカウンターの席に座った。


 「早いじゃん」


 遥子がそう言うと、ペンキ屋は笑いながら言った。


 「姉御に言われたら、そりゃ何を置いても来ますって。で、僕を呼んだのは?」


 ペンキ屋がそう言うと、水を出しながら遥子が言った。


 「いや、あの子がオリジナルペイントのヘルメットの事を聞きたいって言うからさ。暇になったら話聞いてやってよ」


 「了解。それまで、あの子を観察してイメージ固めておくよ」


 遥子は、働いている希を観察しているペンキ屋に言った。


 「オマエ、希ちゃんに手を出すなよ?」


 ペンキ屋は首をすくめて言った。


 「嫌だなぁ。姉御は僕がそっちじゃないって知ってるでしょ?」


 そう言いながら、希を目で追っている。


 「知ってるけどさ。オマエ、そっちだけじゃないじゃん」


 「僕は、僕が美しいと思った物しか興味が無いの」


 ペンキ屋は、悪びれずに言った。遥子は、呆れた顔で言った。


 「ちなみに、希ちゃんは隣のオヤジのお気に入りだからな」


 「うえっ!?」


 ペンキ屋は、飲んでいた水を吹き出しそうになる程驚いて言った。


 「あのオヤジさんのお気に入り?それも女の子で?信じられない!?あのオヤジさんがねぇ。どう見ても普通の子なのに……」


 「普通だからかもね……」


  遥子は落ち着いた声で言った。ペンキ屋は遥子の様子を見て納得したように答えた。


 「なるほどね……」


 普通である事……それは簡単なようで難しい……個性が大事にされるようになった今の時代でさえ、普通である事が、世間一般的に人に安心感を与える材料になるのだ。


 ただでさえ、バイクに乗り続ける事……それが普通では無いと一般的には認識されている。バイクはヤンチャな若者がイキがって乗る物という認識を持っている人が、少なくなったとは言え、まだ数多くいる……

 遥子にしても、裕介にしても康二にしてもオヤジさんにしても、そんな世間の認識なぞ気にもしていない。もちろん、後藤オートに来る常連の連中もだ。しかし、遥子の店がSNSで話題になる一つの要因として「『イカついバイク乗りのおじさん達』がケーキを美味しそうに食べているのが可愛い」である事は間違い無い事実だ。

 逆に言えば、世間一般的に普通と言われる人がケーキを食べていて話題になるだろうか?

 後藤オートの常連は、個性的ではあるが、皆、しっかりとした仕事を持っていて、所謂「アウトサイダー」的な者はいない。どちらかというと、社会的にも認められた仕事をしている者も多い。


 バイクに乗っていない時の彼らを見たら、皆、とても信じられないだろう。「なぜ、バイクなんかに乗っているのか」と……


 ただ、バイクが趣味なのに……

 バイクが好きなだけなのに……


 それだけで普通には見られない悲しい現実……それを、オヤジさんも、遥子も、裕介も康二も後藤オートの常連も皆、知っている。


 だからと言って、無理に普通でいる事を選ばないのが彼らでもある……

 だからこそ、普通でいる事の難しさも知っている……

 普通では無い事の孤独も知っている……


 希が今後、バイクに乗り続けてどうなって行くのか……


 「普通」のままでいて欲しい……


 それがオヤジさん、いやオヤジさんだけではなく、遥子、裕介、康二の願いでもあった……それが難しい事であっても、希には期待してしまうのだ。

 

 「普通」の希が「普通」にバイクに乗って「普通」のままいる事を……


 「私らも大概だけど、オマエも含めて、みんなクセが強いからな」


 遥子がそう呟くと、ペンキ屋が意味ありげな顔で答えた。


 「癒しなわけ?」


 遥子はその答えを聞くと、含みのある笑顔を見せて言った。


 「あの子をそれだけだと思ったら大間違いだぞ。何にしても、手を出すなって事だ。わかったな!!」


 「わかりましたよ。もう、姉御の言う事は絶対だから……」


 単純に興味はあるけどねぇ……


 ペンキ屋はそう思いながら、希が働いている姿を見ていた。


 「ありがとうございました〜」


 希は伝票を受け取りながらさっきケーキを悩んでいたカップルの客に言った。


 「お姉さんのオススメケーキ、本当に美味しかった。ね!」


 女性客が嬉しそうに彼氏に言った。


 「うん、甘過ぎないし、上品な味で美味しかったです」


 「ほんとですか?ありがとうございます」


 希は、遥子のケーキが褒められた事が自分の事のように嬉しかった。 

 

 「ファンになっちゃったので、また来ますね」


 お釣りを受け取りながら女性客が言った。


 「ぜひぜひ、お願いします」


 希はそう言いながら笑顔で、客を見送ると、


 「希ちゃん!」


 遥子が希に声をかけた。


 「はい!」


 希は振り返り、遥子のいるカウンターへ小走りで来ると、遥子が笑顔でさっきの男を紹介した。


 「紹介するね。コイツが例のペンキ屋」


次回の更新は23日となります。

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