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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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98/122

寿綾乃という女 第3部 98

「…私を手に入れるためって? ウソ?…」


 思わず、そんな言葉が口をついて出た…


 あまりにも、意外な展開だったからだ…


 だから、思わず、口走ってしまった(苦笑)…


 すると、今度は、ナオキが、


 「…綾乃さんを手に入れるためって?…」


 と、口走った…


 これも、当たり前だった…


 「…つまりは、綾乃さんの帰る場所をなくすこと…」


 と、菊池リンさん…


 「…どういう意味?…」


 と、私。


 「…ホントは、FK興産の株を全額買い取って、完全に子会社にして、五井グループに組み込むつもりだった…でも、伸明さんが…」


 「…伸明さんがって?…」


 と、今度は、ナオキ。


 「…伸明さんが、反対したの…そこまで、するのは、藤原さんに、申し訳ないって…」


 「…」


 「…もちろん、おばあさまの言うことは、間違ってない…ホントよ…でも、綾乃さんのことも、ホント…ウソは言ってない…つまり、FK興産の株を買い取ったのは、複数の目的があったってこと…」


 菊池リンが、激白する…


 私は、驚いた…


 なにしろ、当事者だ…


 まさか、ここで、私の名前が出て来るとは、思わなかった…


 夢にも、思わなかった(苦笑)…


 だから、それが、ホントか、どうか、知るために、慌てて、二人を見た…


 伸明と和子を見た…


 すると、どうだ?


 二人とも、気まずい顔をしていた…


 実に、バツの悪い顔をしていた…


 その顔を見て、今、菊池リンが言ったことが、ホントだと思った…


 ウソではない、ホントだと、思った…


 …でも、複数の目的って?…


 まだ、なにか、目的があったのだろうか?


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、辿り着いたのは?


 それは、今なぜ、伸明が、ここにいるか?


 だった…


 なぜ、五井記念病院に身を隠しているか?


 だった…


 なにか、都合が悪いことが、あるから、身を隠している…


 それは、わかる…


 そして、それは、マスコミから、身を隠すためだとばかり、思っていたが、実は、違うかも、しれない…


 ほかに、目的があるかも、しれない…


 初めて、気付いた…


 なにより、ナオキは、逮捕された…


 所得税法違反で、逮捕された…


 脱税で、逮捕された…


 が、


 その直前に、ナオキは、私をFK興産の取締役に、任命した…


 非常勤の取締役に任命した…


 私に金を与えるためだ…


 私は、無職…


 FK興産をすでに、退職している…


 だから、無職の私にお金を与えるために、私を非常勤の取締役に、任命した…


 私は、そう、思った…


 が、


 違うかも、しれない…


 そうでないかも、しれない…


 それが、わかるのは、タイミング…


 FK興産の株を五井に売却するギリギリ…直前のタイミングだった…


 つまりは、五井にFK興産の株の半分を売却すれば、もしかしたら、私を非常勤の取締役に任命できない…


 が、株を半分、手放す今なら、任命できる…


 社長である、ナオキの一存で、任命できる…


 なぜなら、ナオキは、FK興産の株の筆頭株主…


 FK興産の株を、一番、持っているからだ…


 だから、力がある…


 が、


 その株を半分、五井に売却すれば、その力は、半減する…


 その結果、私を非常勤の取締役に、任命できるのか?


 だいぶ、怪しい(苦笑)…


 つまり、そう考えれば、ナオキは、もしかしたら、五井を信頼していないのかも、しれない…


 五井を信用していないのかも、しれない…


 伸明を信用していないのかも、しれない…


 和子を信用していないのかも、しれない…


 その可能性に気付いた…


 その事実に、気付いた…


 それは、なにより、ナオキが、伸明を信頼、あるいは、信用していれば、五井に株を売却した後でも、私を非常勤の取締役に任命することが、できるからだ…


 だから、信用あるいは、信頼していないのかも、しれない…


 そして、そして、だ…


 もしかしたら、ナオキが、私を非常勤の取締役に任命したのは、味方作り…


 あるいは、仲間作りなのかも、しれない…


 ふと、気付いた…


 なぜなら、五井に、ナオキの持ち株の半分を売却すれば、当然、ナオキの力は、半減する…


 間違いなく、五井から、取締役が、派遣されるだろう…


 それは、ハッキリ言えば、FK興産が、五井に乗っ取られることを、意味する…


 いくら、株を半分売却したから、五井とナオキは、対等の関係だ…


 などど、絵空事を言うつもりは、さらさらない(苦笑)…


 五井とFK興産では、規模が、違い過ぎる…


 株を半分売却したということは、普通に考えれば、いずれ、FK興産は、五井に乗っ取られる…


 それを、ナオキは、阻止するために、私を非常勤の取締役に任命にしたのではないか?


 あらためて、その事実に、気付いた…


 つまりは、ナオキは、この伸明も、和子も、心の底から、信用しているわけでは、まったくない…


 そういうことだ…


 そして、そんなことを、考えていると、ふと、ユリコの言葉を思い出した…


 以前、ユリコが、洩らした、私を癌の治療のために、オーストラリアに行かせた経緯…


 それは、私の身を心配しているのでも、なんでもなく、私をナオキから、遠ざけたかった…


 それが、真実だと、ユリコは、言った…


 私は、ナオキの相談相手…


 ナオキの唯一といっていい、相談相手…


 ナオキの公私すべてを、知っている…


 そして、ナオキもまた、私に全幅の信頼を寄せている…


 だから、私をオーストラリアに行かせた…

 

 私をナオキから、切り離すためだ…


 そして、経営の傾いたFK興産の扱いに悩んだナオキは、五井から、資本提携を受ける道を選んだ…


 五井から、金も人も派遣してもらって、経営を立て直すためだ…


 が、


 冷静に考えれば、それもおかしい…


 なぜなら、FK興産は、伊勢原周辺の土地を大量に保有していた…


 つまりは、数年経って、小田急が、伊勢原に車両基地を作れば、その周辺の土地が、大幅に上昇する…


 要するに、それまで、待てば、FK興産は、大幅な、含み益を得ることが、できる…


 伊勢原周辺の土地を取得した土地が、大幅に跳ね上がるのだ…


 それまで、待てばいい…


 それだけのことだ…


 それを、しないで、ナオキから、FK興産の株を半分、買い取ったのは、五井に下心があるから…


 今は、共同経営で、いずれは、完全に子会社化して、五井グループに、組み込むつもりだからに違いない…


 その目的にナオキが、気付いた?…


 そして、もう一つ…


 伸明が、功を欲しがっている事実だ…


 伸明は、五井家の当主に就任したが、目立った功績を上げてない…


 だから、功績が欲しい…


 それゆえ、FK興産を、手に入れたい…


 FK興産は、たいした会社ではないが、なにも功績がないより、マシ…


 マシだ…


 それに、なにより、伊勢原周辺の土地がある…


 数年後には、莫大な金額にその土地が大化けするかも、しれない…


 そうすれば、伸明は、メンツが立つ…


 五井家当主としてのメンツが立つということだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、そこまで、考えたとき、この伸明と和子を、どこまで、信じていいか?


 あるいは、


 どこまで、信頼できるのか?


 あらためて、考えた…


 考えざるを得なかった…


 私は、ナオキと、おおげさに言えば、一心同体…


 伸明とナオキを比べれば、間違いなく、ナオキを選ぶ…


 このナオキは、私が、高校時代からの腐れ縁(苦笑)…


 そして、ナオキは、私の事実上のパートナーだった…


 私の事実上の夫だった…


 だから、私は、ナオキを知っている…


 藤原ナオキという人間を知っている…


 しかも、それは、ただ、知っているというだけではない…


 仕事=パブリックも、私生活=プライベートも、すべて、知っているということだ…


 なぜなら、会社=FK興産では、社長と社長秘書…


 私生活では、男女の関係だった…


 だから、大げさでなく、藤原ナオキのすべてを知っていると思って、間違いは、ない…


 一方、伸明は、どうだ?


 出会って、まだ一年も経たない…


 知り合って、まだ一年も経たない間柄だ…


 おまけに、カラダの関係もない(笑)…


 ただ、一度、キスをしただけ…


 それだけの関係だ…


 つまりは、伸明のことを、私は、よく知らないということだ…


 そして、和子…


 五井の女帝…


 私の母と、同年代の女性…


 正直、五井の女帝と呼ばれる猛女…


 生半可な相手ではない…


 筋金入りの猛者だろう…


 だから、安易に、信用できない…


 安易に、信頼できない…


 悪い人間ではないと、思う…


 接していれば、それは、わかる…


 が、


 それと、信頼するのとは、違う…


 信用するのとは、違う…


 それは、例えは、悪いが、詐欺師を思い浮かべれば、いい…


 誰もが、一目見て、信用できない…


 一目見て、信頼できない人間に騙される人間は、稀…


 あまり、いない…


 誰もが、この人間の言うことだから、信用できる…


 あるいは、信頼できると、思って、お金を貸したり、投資をしたりする…


 だから、騙される…


 そういうことだ…


 誰から見ても、信用できない、うさん臭い人間に騙される人間はいない…


 信用、信頼できると、思ったから、騙されるのだ…


 だから、それを、思えば、この伸明も、和子も、信用できない…


 もちろん、悪い人間ではない…


 が、


 よい人間でもないだろう…


 底抜けに、ひとのいい人間ならば、簡単にひとに騙され、現在の地位を維持は、できないだろう…


 渡る世間は、鬼ばかりではないが、金を持っている人間を食い物にしようと企む人間は、世の中に多い…


 あるいは、そこまでいかなくても、なにか、自分に有利になるかと、思って、近づいて来る人間は、星の数ほど、いるだろう…


 そんな環境に置かれた人間が、ただの金持ちのお坊ちゃま、お嬢様のわけがない…


 十分にひとを、多く見てきたに違いない…


 この寿綾乃より、もっと多くの様々な人間を見てきたに違いない…


 だから、ただのお坊ちゃま、お嬢様ではない…


 十分、人生経験の豊かなお坊ちゃま、お嬢様に違いない…


 だから、油断できない…


 だから、信用できない…


 私は、思った…


 私は、考えた…


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