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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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97/122

寿綾乃という女 第3部 97

菊池リンの父親が、五井長井家出身であることは、わかった…


 が、


 なぜ、菊池リンが、五井長井家に味方するのか、わからない…


 そして、話の流れから、彼女が、五井長井家に、情報を流したのだろう…


 おそらく、FK興産の保有する伊勢原周辺の土地が、価値があると、五井長井家に情報を流したのも、彼女だろう…


 彼女、菊池リンだろう…


 が、


 なぜ、菊池リンが、そこまで、五井長井家に、味方するのか、わからなかった…


 皆目、わからなかった…


 が、


 突然、菊池リンが、


 「…パパは、おとうさまは、半端にされてた…」


 と、怒った口調で、言った…


 そして、


 「…おばあさまのせいよ…」


 と、怒った目で、和子を、睨みつけた…


 私は、意味がわからなかった…


 なぜ、和子が、責められるのか、意味がわからなかった…


 すると、ナオキが、


 「…どうして、おばあさまのせいなんですか?…」


 と、菊池リンに聞いた…


 菊池リンは、FK興産に勤務していた…


 私を見張るために、勤務していた…


 だから、社長のナオキと面識がある…


 それゆえ、ナオキは、彼女に質問したのだろう…


 「…それは、おとうさまを、おあばさまが、五井東家に、招いたからです…」


 「…どういう意味ですか?…」


 ナオキが、聞く…


 「…おかあさまの婿にして、五井東家に招いたからです…」


 菊池リンが、物凄い形相で、和子を睨んだ…


 「…正直、おかあさまと、おとうさまは、合わなかった…娘の私から、見ても、合わなかった…」


 菊池リンが、激白する…


 「…それでも、二人は、結婚した…おばあさまのせいよ…」


 菊池リンが、容赦なく、和子を攻撃した…


 正直、見ていて、決して、気持ちのよいものでは、なかった…


 なにより、和子が、疲れ切っていた…


 だから、余計に、和子が、可哀そうに、思えた…


 すると、


 「…そう…たしかに、私のせいかもしれない…」


 と、和子が、疲れ切った声で、言った…


 「…そうよ…おばあさまのせいよ…」


 菊池リンが、激しい口調で、言う…


 「…おとうさまも、おかあさまと結婚さえ、しなければ…」


 「…でも、それは、仕方ないのよ…リン…」


 「…なにが、仕方ないの?…」


 「…五井は、一族内で、結婚するのが、掟…私の力で、どうにか、なるものじゃ、なかった…」


 「…ウソ!…」


 「…ホントよ…リン…それに…」


 「…それに、なに?…」


 「…リンのおとうさまは、優秀だった…だから、リンのおかあさんと、結婚させて、東家を守ってもらうつもりだった…」


 「…でも、二人は、合わなかったじゃない!…」


 菊池リンが、怒鳴った…


 「…オマエのおかあさんが、強すぎたのよ…」


 「…」


 「…リン…今のオマエを見ても、そう…外見は、可愛く、おとなしく見えても、中身は、違う…」


 「…」


 「…見た目からは、想像もできないほど、激しく荒々しい気性…そして、それが、五井…それこそが、五井…五井の歴史は、女の歴史…強い女が、五井の男たちを支えたゆえに、五井は、400年の長きに渡り、繫栄した…そして、それは、苗字に現れている…」


 「…苗字に?…」


 思わず、私は、呟いた…


 すると、和子が、私を見た…


 そして、笑いながら、


 「…だって、本家の苗字は、諏訪野だし、東家は、菊池…誰も、五井を名乗ってないでしょ?…」


 と、私に言った…


 「…これは、五井の婿取りを現している…本来、五井を束ねるのは、女…五井の女たち…女たちが、それぞれ、優秀な男たちを、婿にして、五井の会社を、任せた…だから、五井は、繁栄した…」


 「…だから、繁栄した…」


 と、私。


 「…そして、その繁栄は、明治になってから…明治になってから、娘たちが、結婚して、独立した…その結果、各分家が、それぞれの裁量で、会社を経営して、繁栄した…それゆえ、本家、分家とも、苗字が、異なる…」


 「…」


 「…でも、それが、良かったけれども、弱点ができた…」


 「…弱点?…」


 「…血が薄まること…元々、ご先祖様は、400年前…でも、五井が、繁栄したのは、明治期で、今も言ったように、五井の女たちが、それぞれ、優秀な婿を取ったから、繁栄した…しかも、それぞれが、独立経営というか…各分家で、自由に会社を経営できた…それが、五井の繁栄の理由…でも、その結果、血が薄れた…それゆえ、五井としての団結心がなくなった…」


 「…」


 「…だから、戦後は、その反省で、一族内での結婚を奨励することになった…これ以上、血が薄まれば、ますます、他人に近くなり、団結心がなくなる…私と姉が、五井本家に嫁いだのも、同じ理由…そして、娘も、同じ…」


 「…同じ…」


 「…要するに、一族内で、結婚相手を見つける…」


 「…」


 「…その結果、五井長井家から、婿を取ることになった…」


 「…」


 「…でも、これが、うまくいかなかった…二人の相性が悪かった…」


 「…」


 「…それで、最終的に、リンの父嫌は、東家を出て行ってしまって…」


 和子が、落ち込んだ様子で、語る…


 そして、それを、聞いた菊池リンが、


 「…おばあさまのせいよ…そして、おかあさまのせい…」


 と、言って、涙ぐんだ…


 「…そう、たしかに、私のせい…」


 和子が、力なく言った…


 「…でも、リン…アナタのおとうさまは…」


 「…言い訳は、聞きたくないわ…」


 「…リン…」


 「…おとうさまとおかあさまの間に、なにが、あったか、知らないけれども、おとうさまが、家を出て行ったのは、事実…まぎれもない事実よ…」


 「…」


 「…私は、おとうさまが、好き…大好きだった…」


 菊池リンが、激白する…


 「…そのおとうさまを、追い出した、おかあさまと、おばあさまは、許せない!…絶対、許せない!…」


 菊池リンが、物凄い形相で、和子を睨んだ…


 まさに、菊池リンの本性が現れた瞬間だった…


 その愛くるしい顔に隠された本性が、現れた瞬間だった…


 実に、激しく荒々しい気性の素顔…


 外見と内面が、まるで、違う…


 ビックリするほど、違う…


 たしかに、この菊池リンの母親も、菊池リンに似ていれば、夫も逃げ出したのも、頷ける…


 逃げ出したのも、納得できる…


 誰もが、外見から、入る…


 男でも女でも、まずは、外見を見て、相手を判断する…


 つまりは、外見が、良ければ、有利…


 男は、イケメン…


 女は、美人…


 なら、有利…


 あるいは、外見が、おとなしそうだったり、いわゆる、ヤンチャに見えたり…


 それで、判断する…


 が、


 実際は、違う…


 中身は、違うということだ…


 見るからに、おとなしそうな人間が、おとなしいとは、限らない…


 また、ヤンチャに見える人間が、全員、性格が悪いわけでもない…


 つまりは、見た目と中身は、違うということだ…


 そして、それは、ハッキリ言えば、いっしょに、暮らしてみなければ、わからない…


 それは、なぜか?


 それは、やはり、会社や学校では、見せない姿を見せるからだ…


 いわゆる、プライベートと、パブリックの差というか…


 プライベート=家庭…


 と、


 パブリック=会社、学校…


 の違い…


 会社や学校では、いいひとを演じていて、家では、我がまま放題とか…


 あるいは、会社や学校では、テキパキ動くのに、家では、おおげさに言えば、左のものを、右に動かすことも、しない面倒くさがり屋ということもある…


 要するに、家では、しないことを、学校や会社では、する…


 よく見られたいからだ…


 恰好をつけたいからだ…


 周囲からの評価を上げたいからだ…


 つまりは、そういうことだ…


 だから、おそらく、この和子は、菊池リンの母親の婿を選ぶにあたって、一族の評判だけを信じたのだろう…


 あるいは、元々、選択肢がなかったのだろう…


 一族内で、結婚相手を見つけるとなると、どうしても、選択肢が、限られる…


 例えば、十人の男から、一人を選ぶ選択肢もないかも、しれない…


 それは、なぜか?


 独身の男女の数は、限られるからだ…


 おまけに、年齢がある…


 普通に考えれば、例えば、この菊池リンは、今、23歳…


 彼女の夫選びを考えたとき、せいぜい35歳ぐらいまでが、限度だろう…


 また、真逆に、菊池リンが、35歳で、あれば、23歳の男と結婚するのは、難しい…


 男が、嫌がるからだ…


 今の時代、多少は、女が上でも、構わないが、男が、23歳で、あれば、5歳ぐらい年上が、限度だろう…


 そう考えると、ますます選択肢が、狭められる…


 だから、もしかしたら、菊池リンの母親が、結婚するにあたって、一族内で、菊池リンの母親と、結婚できる男が、驚くほど、少なかった…


 そんな可能性がある…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、そんなことを、私が、考えていると、ナオキが、突然、


 「…失礼ですが、ちょっと、お聞きしたいことがあるんですが…」


 と、口を挟んだ…


 そのナオキの一言で、その場の全員が、ナオキに視線を向けた…


 「…なんですか? …藤原さん?…」


 和子が、聞いた…


 「…FK興産の持つ土地…伊勢原に持つ土地ですが、そんなに、価値があるんですか?…」


 「…」


 「…いえ、うちのような従業員千人程度の会社が、手に入れた土地です…それが、手に入るか否かで、五井の序列が崩れるような…そんな大事になるのか? 疑問があって…」


 ナオキが、言う…


 考えてみれば、当たり前だった…


 FK興産は、たしかに、それなりに、世間に知られているが、それは、主に、ナオキが、テレビのキャスターをしているから…


 週一に過ぎないが、テレビに出ている…


 そのおかげで、世間に知られている…


 もっとも、それは、ナオキが、長身のイケメンであることが、大きいが(笑)…


 とにかく、そのおかげで、世間に知られている…


 が、

 

 それは、ともかく、そんなに大きな会社ではない…


 五井から見れば、吹けば飛ぶようなチンケな会社(笑)…


 そんな、小さな会社が、持つ、土地が、いかに値上がりしようと、その土地を持つか否かで、五井の序列が、崩れるような、大事になるのだろうか?


 疑問だった…


 だから、和子を見た…


 なんと、答えるのか、知りたかったからだ…


 すると、


 「…たしかに、そうね…」


 と、和子が呟いた…


 「…五井長井家が、FK興産を手に入れて、伊勢原周辺の土地を手に入れる…それが、伊勢原に小田急の車両基地ができるからと、いって、その土地が、値上がりしても、正直、五井の序列を崩すほどの力はない…」


 「…だったら、どうして?…」


 と、ナオキ…


 「…今は、いい…将来のため…」


 「…将来のため?…」


 と、私。


 「…今回のことが、契機になって、五井の序列が、崩れるのが、困る…正直、五井長井家が、あの土地を手に入れようと、手に入れまいと本家や東西南北の4家の序列は、変わらない…でも、その他の分家の序列が、変わりかねない…」


 「…その他の分家の序列?…」


 と、私。


 「…他の8家もまた、序列がある…皆、平等ではない…五井長井家が、伊勢原の土地を手に入れることで、他の8家の序列が、崩れたら、困る…」


 和子が、FK興産の株を半分、手に入れた真意を説明する…


 が、


 和子の説明に異を唱えた者が、いた…


 他ならぬ菊池リンだった…


 「…ウソ!…」


 菊池リンが、大声を出した…


 「…なにが、ウソなの? …リン…」


 和子が、彼女をたしなめるように、言う…


 「…FK興産の株を半分、手に入れた理由は、五井長井家は、関係ない…五井の序列は関係ない…」


 「…関係ない? …どうして、関係がないの?…」


 「…本当の目的は、寿さん…綾乃さん…」


 「…エッ? …私?…」


 「…綾乃さんと伸明さんを結婚させるためでしょ?…」


 彼女が、言った…


 菊池リンが、言った…


 仰天の言葉を、言った…


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