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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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寿綾乃という女 第3部 7

…まさか、ここで、ナオキの名前が出るとは、夢にも思わなかった…


 まさに、まさか、だ…


 藤原ナオキは、イケメン…


 眼前の長谷川センセイより、歳は、数歳上だが、同じように、長身のイケメン…


 どちらも、甲乙つけがたいイケメンだ…


 が、


 そんな見た目は、ともかく、この長谷川センセイの口から、ナオキの名前が出てくるとは、思わなかったのだ…


 私が、驚きで、言葉を失っていると、


 「…たしか、以前、ボクも、お会いしているかも、しれない…」


 と、長谷川センセイが、呟いた…


 私は、驚いた…


 …以前、長谷川センセイが、ナオキに会った?…


 …そんなバカな?…


 私が、思っていると、


 「…寿さんが、以前、この五井記念病院に入院しているときに、お見舞いに来て、そのときに、会っているような…」


 長谷川センセイが、続ける…


 これは、当たり前のことだった…


 実に、当たり前のことだった…


 私が、入院していたときに、ナオキが、見舞いにやって来た…


 これは、わかりきったことだった…


 が、


 いきなり、長谷川センセイの口から、ユリコの名前が出て、そのユリコの口から、今度は、ナオキの名前が出た…


 だから、私は、気が動転して、あまりにも、簡単なことに、気付かなかった…


 …相変わらず、とろい…


 自分自身を、振り返って、思う…


 これでは、とてもではないが、ユリコに太刀打ちできない…


 あのユリコに勝てない…


 我ながら、そう思った…


 そして、そう思っていると、


 「…いや、ボクも、藤原ナオキさんに、会っているのかも、しれないけれども、この五井記念病院は、他にも、有名な方が、多数、入院したり、治療に来たりするから、すっかり、忘れていて…」


 と、長谷川センセイが、続ける…


 「…有名な方…ですか?…」


 「…テレビで見る、政治家や芸能人や、その他、経済界の有名人たちも、大勢、いらっしゃっているんです…なにしろ、五井記念病院ですから…」


 長谷川センセイが、説明する…


 私は、なるほどと、思った…


 言われてみれば、当たり前のことだ…


 この日本で、五井の名前を知らないものは、いない…


 老若男女問わず、知らないものは、いない…

 

 その五井の名前を冠した病院だ…


 五井の系列の病院だ…


 有名人が、大勢やってくるのは、少し、考えれば、わかる…


 五井の名前を冠した病院だから、名医も、おおいに、違いないからだ…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…もっとも、ボクが、藤原さんのことを、忘れていたのは、ボクが、男だからかも、しれない…」


 と、長谷川センセイが、告白した…


 「…センセイが、男だから? どういう意味ですか?…」


 「…女性なら、藤原ナオキが、この病院にやって来たら、簡単には、忘れませんよ…なにしろ、長身のイケメンですし、テレビで、キャスターも、やられている…若い女性から、見れば、憧れの男性でしょ?…」


 長谷川センセイが、笑いながら、言った…


 私は、それを、聞いて、あらためて、藤原ナオキが、有名人だと、気付いた…


 ナオキは、テレビのキャスターも、週一で、している…


 本業は、IT企業の社長だが、ナオキは、ルックスが、いい…


 そのルックスの良さを買われて、テレビのキャスターを週一で、やっていた…


 その方が、ナオキの経営するFK興産の知名度も上がる…


 だから、それを、見越して、テレビのキャスターを、引き受けたのだ…


 それゆえ、藤原ナオキは、有名人…


 世間に知られた有名人だ…


 が、


 私に言わせれば、ずっと以前…


 ナオキが、有名になる、ずっと以前から、ナオキを知っている…


 さらには、ナオキと男女の関係もある…


 だから、もっとも、身近な存在だ…


 ゆえに、身近過ぎて、ナオキが、有名人だなんて、すっかり、忘れていた…


 誰もが、同じだろう…


 例えば、父親が、大企業で。取締役とか、お偉いさんだとする…


 自分の父親が、偉いのは、わかっているが、息子や娘は、それほど、偉いとは、思わないものだ…


 なにしろ、自分の父親だ…


 身近に、接している…


 いや、


 あまりにも、身近過ぎて、父親の偉さが、実感できない…


 それが、息子や娘が、父親と同じ会社に入社して、


 「…○○取締役は、ボク(アタシ)のお父さんで…」


 と、なにかのきっかけで、周囲に打ち明けて、驚かれる…


 そして、そんな周囲の反応を見て、あらためて、父親の凄さを実感する…


 そういうことだ…


 それが、私とナオキにも、当てはまる…


 要するに、あまりにも、身近過ぎて、ナオキが、有名人だということを、実感できていないのだ…


 私が、そんなことを、考えていると、長谷川センセイの背後にいた、看護師の女性二人が、興味ありげに、目を輝かせながら、私と長谷川センセイの話を、夢中で聞いていることに、気付いた…


 女だからだろう…


 どうしても、有名人好き…


 有名人=芸能人好きだ(笑)…


 この若い看護師二人から、見れば、およそ20歳も年上のナオキは、早ければ、父親といっていい世代…


 だが、昨今は、昔と違い、四十代前半でも、若々しく、二十代の女性と結婚しても、おかしくない男性が、多い…


 とりわけ、芸能人は、そう…


 だから、もしかしたら、この若い看護師の女性二人も、ナオキを、オジサンでなく、男として、見ているのかも、しれない…


 男=自分の夫や恋人にしても、おかしくない人間として、見ているのかも、しれない…


 私は、思った…


 が、


 やはりというか、私には、その感覚がわからない…


 彼女たちと世代が、違うからだ…


 目の前の女性看護師二人は、私より、十歳は若い…


 だから、どうしても、なにを考えているか、わからないことが、多い…


 どうしても、自分と世代が違うと、考えていることが、わからないことが、多い…


 誰もが、そういうものだ…


 ハッキリ言えば、オバサンの私には、若い娘の考えていることは、わからない…


 そういうことだ…


 認めたくはないが、そういうことだ(苦笑)…


 私は、思った…


 すると、だ…


 思いがけなく、長谷川センセイが、二人の女性看護師に、向かって、


 「…二人とも、藤原ナオキに会いたいですよね?…」


 と、聞いた…


 すると、間髪入れずに、二人とも、


 「…会いたいです…」


 と、笑いながら、即答した…


 そして、二人とも、顔を見合わせて、笑った…


 さらに、長谷川センセイは、


 「…二人とも、藤原ナオキと、結婚したい?…」


 と、直球で、聞いた…


 すると、二人は、顔を見合わせて、


 「…ハイ…結婚したいです…」


 と、これも、笑いながら、即答した…


 「…でも、長谷川ナオキは、ボクより、年上だよ…」


 「…そんなこと、全然関係ないです…」


 と、一人の女性看護師が、口を尖らせて、言った…


 「…だって、すごいお金持ちですもの…」


 と、もう一人が、追加した…


 「…だから、年齢なんて、全然OK…」


 と、最初の女性看護師…


 すると、長谷川センセイが、


 「…でも、もしかしたら、藤原ナオキは、二人の両親より、年上かも、しれないよ…」


 と、面白そうに、聞く…


 が、


 二人は、動じなかった…


 「…そんなこと…全然、関係ないです…」


 と、声を揃えて、言った…


 「…あれだけの長身のイケメンで、お金持ちですから…」


 と、言って、笑った…


 そして、そんな二人を見て、長谷川センセイも、また、楽しそうに、笑いながら、


 「…だ、そうです…」


 と、私に告げた…


 私は、そんな二人を見て、つくづく、この二人が、羨ましくなった…


 なぜなら、そんなことを、言う、二人が、全然、いやらしくないからだ…


 いやらしいというのは、お金目当てといっているのにも、かかわらず、それが、全然嫌に感じないからだ…


 それが、やはり、若さなのだろう…


 眼前の女性看護師二人の若さなのだろう…


 これが、まもなく、33歳になる、私では、そうは、いかない…


 いかにも、狙っていると、いうように、見えるだろう…


 ガツガツとしているように、見えるだろう…


 金持ちの男を、狙っていると、思うだろう…


 若さが、失われたからだ…


 だから、この二人と、同じように、言っても、周囲の受け取り方が、違う…


 残念ながら、それが、現実…


 この私、寿綾乃の置かれた現実だ…


 私は、思った…


 そして、そんなことを、思っていると、長谷川センセイが、


 「…そういえば、寿さん…」


 と、聞いてきた…


 「…なんでしょうか?…」


 「…失礼ですが、藤原ナオキさんと、寿さんは、どういう関係なんですか? いえ、答えたくないなら、答えなくて、いいです…プライバシーの問題ですから…」


 長谷川センセイが、慌てて言い訳する…


 たしかに、昨今は、プライバシーの問題が、うるさい…


 会社で、若い二十代の男女に、軽く、


 「…付き合っているひとは、いるの?…」


 と、聞くのも、コンプライアンス違反だと、言われる…


 だから、この長谷川センセイも、それを、念頭に置いたのだろう…


 が、


 私に隠す気は、まったくなかった…


 「…会社で、藤原ナオキの秘書をしていました…」


 と、あっさりと告げた…


 「…藤原さんの秘書?…」


 長谷川センセイが、驚いた…


 「…ハイ…」


 私が、答えると、二人の女性看護師の私を見る目が、変わった気がした…


 明らかに、睨みつけるというか…


 羨望の目で、私を見る気がした…


 …これは、言わなければ、良かった!…


 とっさに、思った…


 女の敵は、女だということを、あらためて、思い知らされた…


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