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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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寿綾乃という女 第3部 6

これまで、考えたことのない可能性に気づいた…


 これまで、一度も考えたことのない可能性に、気付いた…


 ジュン君の裁判でも、一切、話題にならなったことだ…


 だから、もしかしたら、それは、私の妄想…


 寿綾乃の妄想に、過ぎないのかも、しれない…


 だが、その可能性はある…


 ジュン君が、裁判でも、一切、黙秘していた可能性はある…


 元々、ジュン君は、気が弱い…


 だから、あの菊池リンに、口留めでも、されていれば、なにも、しゃべらなかった可能性も高い…


 なにより、あのジュン君の裁判でも、私は、法廷で、一度たりとも、菊池リンの姿を見たことが、なかった…


 だから、もしかしたら、菊池リンが、私が、いる場所をジュン君に話したとしても、ジュン君は、なにも、言わなかった可能性が高い…


 また、もし、ジュン君が、菊池リンに対して、私が、気付いていること以上のことを、言及したとしたら、菊池リンも、気になって、ジュン君の裁判を見に来た可能性が、高い…


 裁判で、自分の名前が出る可能性が高いからだ…


 だから、ジュン君の裁判で、彼女、菊池リンの姿を見なかったということは、とりも直さず、菊池リンは、彼女に不利な証言を、ジュン君はしなかったと、考えたと思っていいだろう…


 私は、考えなおした…


 いずれにしろ、私には、関係がなかった…


 もはや、菊池リンも、ジュン君も、なにも、関係がなかった…


 私は、私…


 今は、会社も、勤務していない…


 ハッキリ言えば、失業中…


 これまでに、蓄えた貯金と、失業保険で、生き延びている…


 そう、たしかに、生き延びている…


 カラダに巣くう癌と共に、生き延びている(苦笑)…


 私は、そんなことを、思った…


 そして、そんなことを、思いながら、久しぶりに、長谷川センセイに、会った…


 「…寿さん…お久しぶりです…」


 長谷川センセイが、挨拶する…


 「…こちらこそ、ご無沙汰しております…」


 私は、答えた…


 そして、あらためて、眼前の長谷川センセイを見た…


 長身のイケメン…


 たしかに、あのユリコが、狙うのは、わかる…


 あのユリコが、目をつけるのは、わかる…


 私が、内心、そんなことを、考えているのが、表情に出たのだろう…


 「…寿さん…どうしました?…」


 と、長谷川センセイが、不思議そうに、聞いた…


 「…どうしたと、おっしゃいますと?…」


 「…なにか、今、寿さんが、笑ったような感じがして…ボクの顔になにかついてますか?…」


 長谷川センセイが、戸惑ったように、言う…


 …マズい…


 私は、とっさに、思った…


 思いながら、どう、言い訳しようか、考えた…


 まさか、ここで、ユリコの名前を出すわけには、いかない…


 だとすれば、どうすれば?


 「…センセイの思い過ごしじゃないですか?…」


 と、でも、言えば、良いだろうか?


 私が、考えていると、


 「…寿さんのような美人に笑われると、つい、ボクも、余計なことを、考えてしまって…」


 と、長谷川センセイが、笑いながら、言い訳した…


 「…余計なこと?…」


 「…ボクも、男ですから、美人に目の前で、笑われると、自分が、なにか、したのかなと、つい思ってしまって…男の性(さが)というか…」


 この言葉を聞いて、私は、思わず、笑いそうになった…


 が、


 笑うことは、できない…


 だから、とっさに、


 「…お上手ですね…」


 と、返した…


 この言葉が、一番無難だからだ…


 が、


 違った…


 長谷川センセイは、真顔で、


 「…いえ、冗談じゃ、ありません…」


 と、言ってから、


 「…ボクが、寿さんの担当医だから、実は、この病院内でも、同僚に、羨ましがられているんです…」


 「…センセイが、羨ましがられている? …どうして、ですか?…」


 「…ぶっちゃけ、あんな美人の裸を見られて、役得だって!…」


 長谷川センセイが、顔を赤らめて、言う…


 そんな長谷川センセイの赤らんだ顔を見て、私まで、顔が赤らんだ…


 まるで、女子中学生や女子高生に戻った感じだった…


 隣にいた、若い女性の看護師が、二人、クスクス笑い出した…


 ホントは、大声で、笑いたいのを、無理やり、こらえている感じだった…


 そして、その二人の女性の看護師を見ると、思わず、自分が、恥ずかしくなった…


 なぜなら、この二人の女性看護師は、二十代前半…


 まもなく、33歳になろうとする、私より、十歳近く、若い…


 たしかに、私の方が、美人かもしれないが、若さでは、負ける…


 若さでは、勝てない…


 だから、長谷川センセイが、言った、


 「…美人…」


 という言葉が、ある意味、皮肉に聞こえた…


 なにより、


 「…裸…」


 という言葉が、引っかかった…


 裸なら、明らかに、私より、この若い女性看護師たちの方が、上…


 正直、顔を隠して、裸だけ見れば、若い子の方が、いい…


 私のみならず、女は、皆、それが、わかっている…


 だから、それを、考えると、自分が、恥ずかしくなった…


 長谷川センセイに、


 「…美人…」


 と、言われて、一瞬でも、気持ちが舞いあがった自分が、恥ずかしくなった…


 だから、慌てて、言い訳するというか…


 「…こんなオバサンのカラダを見て、そんなに、嬉しがって、頂けるなんて、光栄です…」


 と、返答した…


 自分より、十歳は、若い、女性看護師たちの前で、一瞬でも、調子に乗った自分が、恥ずかしくて、仕方がなかった…


 だから、慌てて、言い訳した…


 眼前の二人の女性看護師に、


 「…このオバサン…調子に乗って…」


 と、思われるのが、なにより、嫌だった…


 女の敵は、女…


 女の敵は、男ではない…


 女の敵は、同性…


 これは、古来より、言われている…


 現実に、会社に勤めていて、例えば、年上の先輩女性が、後輩の若い女性を可愛がっているとする…


 が、


その先輩女性が、トイレの個室に入っていて、姿が見えないと、その後輩女性が、トイレの個室の外で、


 「…あの女には、適当に、ハイハイと、言ってれば、いいのよ…」


 と、同僚に言うのを、聞いて、愕然とすることがある…


 が、


 世の中、そんなことは、ありふれている…


 世の中、そんなものだ…


 かくいう、この私も例外ではない…


 以前、同じ手で、菊池リンに騙された…


 だから、それを、思い出すと、苦い思い出が、蘇る…


 たった今、自分より、十歳は若い女性看護師二人の目を、異常に、気にするのも、また、菊池リンの経験があるから、かもしれない…


 要するに、私が、年下の同僚に、騙された経験があるからかも、しれなかった…


 だから、警戒する…


 そういうことだったのかも、しれない…


 私は、思った…


 すると、だ…


 長谷川センセイが、いきなり、


 「…そう言えば、寿さん…」


 と、私に声をかけてきた…


 「…ハイ…なんでしょうか?…」


 「…藤原ユリコさんと、言う女性は、ご存じですか?…」


 「…ハイ…存じ上げております…」


 反射的に言った…


 同時に、


 …やはり、来た!…


 …ユリコの名前が出た!…


 と、思った…


 これは、想定内…


 あまりにも、想定内で、驚かなかった…


 問題は、ユリコがなにをしに、来たかということだ…


 …やはり、ユリコの婚活だろうか?…


 ふと、思った…


 一度でも、狙った獲物は、逃がさない…


 それが、ユリコだ…


 ハンターではないが、ユリコが、狙った男は、簡単には、逃さないだろう…


 元々、ユリコは、ルックスが、平凡…


 とりたてて、他人様の目を引く、ルックスでは、お世辞にもない…


 だから、しつこいと、いうか…


 すぐに、アタックして、どうにかなるルックスではないと、自分が、よくわかっている…


 だから、しつこい…


 そして、相手は、ユリコのしつこさに負けるというか…


 音を上げる(笑)…


 が、


 もちろん、そればかりではない…


 きっと、自分のために、ユリコが、全力で、動いてくれるのが、男は、嬉しいのだ…


 これは、女もまた同じ…


 どんな美男美女に生まれても、異性が、全力で、口説いてくれることは、あまりない…


 何度か、接触して、それで、ダメなら、諦める…


 それが、大半だ…


 が、


 ユリコは、違うのだろう…


 きっと、相手が、


 …この女は、本気だ!…


 …本気で、オレのことを、好きなんだ!…


 と、思わせることが、できるのだろう…


 そして、ユリコは、ルックスは、イマイチだが、頭は、抜群…


 実に、切れる…


 それが、ユリコと接しているうちに、相手の男も、わかってくる…


 おそらく、それが、ユリコの武器…


 ルックスではない、ユリコの武器に他ならない…


 ルックスは、重要だが、それだけでは、相手の心をいつまでも、繋ぎとめてゆくのは、難しい…


 ただの美人や、イケメンでは、いずれ、相手が、飽きる可能性が、高いからだ…


 それは、例えば、ブランドの高級車を買ったのと、似ている…


 最初は、誰もが、嬉しい…


 が、


 数か月もすれば、それが、当たり前になる…


 結婚も、また同じ…


 最初は、誰もが、美人やイケメンに憧れるが、いっしょに暮せば、中身が、見えてくる…


 どんなに美人やイケメンでも、いっしょに、暮らせば、それまで、わからなかったことが、わかってくる…


 例えば、思ったより、だらしがなかったり…


 あるいは、いつも、誰かの悪口を言ってばかりいたり…


 これまで、付き合ったときには、わからなかったことが、わかってくる…


 つまり、素(す)の部分が、わかってくる(笑)…


 これは、例えば、二十歳では、気付くのが、遅いかも、しれないが、誰もが、三十歳、四十歳と歳を取るごとに、早くわかってくる…


 誰もが、若い頃は、わからない…


 あるいは、わかっても、わかるまでが、時間がかかる…


 どうしても、相手に夢中になるからだ…


 これは、男女ともに、アイドルに夢中になるのを、見れば、わかる…


 アイドルに夢中になるのは、若い頃が、一番だ…


 若いから、アイドルに夢中になれる…


 少し歳を取れば、そこまで、夢中になれない場合が、多い…


 なぜなら、自分のモノにならないからだ…


 所詮、アイドルは、幻…


 幻=自分の手に入れられるものではないということだ…


 だから、歳をとれば、とるほど、そんなアイドルに夢中になる愚かさに気づく…


 それと、同じだ…


 そして、そんなことを、考えたとき、すでに、説明したが、ユリコの凄さが、わかってくる…


 何度も言うように、ユリコは、男相手に、常に、自分から仕掛ける…


 それは、自分が、ルックスでは、勝てないことが、よくわかっているから…


 若ければ、若いほど、それは、認めたくない事実だ…


 が、


 ユリコは、それを、あっさりと、認めた…


 自分のルックスが、たいしたことがないことを、あっさりと、認めた…


 なかなか、できることではない…


 若ければ、若いほど、できることではない…


 それゆえ、私は、ユリコを警戒するのだ…


 そして、私が、そんなことを、思っていると、


 「…あの藤原さん…以前は、あのテレビで、出ている、FK興産の藤原ナオキさんの元の奥さんなんですって…」


 と、長谷川センセイが、いきなり、言った…


 私が、考えてもいないことを、言った…


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