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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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寿綾乃という女 第3部 69

そして、そんなことに、気付くと、落胆したというか…


 あらためて、役者が違うと、思った…


 私とは、役者が、違う…


 私と、和子では、役者が違う…


 一枚どころか、想像もできないほど、上…


 おそらく、くぐってきた修羅場の数も、段違いに、多いに違いない…


 だから、五井の女帝と、周りから、言われているのだ…


 ただのお嬢様ではない…


 ただの五井東家出身のお嬢様ではない…


 あらためて、思った…


 すでに、半年ちょっと前に、私が、オーストラリアに癌の治療に行く前に、今回の件を、すべて、見抜いていたということになる…


 これは、恐れ入った…


 実に、恐れ入った…


 同時に、気付いた…


 それほどのやり手だからこそ、伸明が、心配なのだと…


 おそらく、和子から見れば、伸明が、どうにも、危なっかしいのでは、ないか?


 伸明は、誰が見ても、お坊ちゃま…


 良家のお坊ちゃまだ…


 苦労知らずの良家のお坊ちゃまだ…


 だから、騙されるのでは?


 いや、


 騙されるとは、言わないまでも、五井の舵取りを、このまま、伸明に任せて、大丈夫なのか?


 と、心配になるのでは、ないか?


 そう、思った…


 だから、和子が、動く…


 伸明が、頼りないから、動く…


 そういうことだろう…


 そして、そして、だ…


 なぜ、和子が、私に肩入れするのか?


 私、寿綾乃に肩入れするのか?


 それは、たぶん、私が、伸明のお嫁さん候補だから(笑)…


 自分で、自分のことを、こんなふうに言うのは、おかしいが、事実…


 まぎれもない、事実だ…


 お坊ちゃまの伸明には、しっかり者のお嫁さんが、必要だからだ…


 この世知辛い、世の中…


 ひとのいい、良家のお坊ちゃまと、同じく、ひとのいい、良家のお嬢様が、結婚して、無事、生きてゆけるのか?


 甚だ、心もとないからだ(苦笑)…


 たしかに、財産はある…


 腐るほど、ある…


 が、


 たとえ、百億、千億、あるいは、それ以上、あっても、誰かに、騙されでもしたら、終わり…


 一巻の終わりだ…


 大金持ちは、庶民とは、違う…


 なにが、違うかと、言えば、金を持っているから、違う…


 だから、例えば、詐欺師のような人間が、周囲に、集まりかねない…


 そして、詐欺師というのは、大抵は、投資詐欺…


 つまりは、何十億、何百臆という大金を投資名義で、大金持ちから、引き出させる…


 だから、そんな人間に狙われて、引っかかると、一巻の終わり…


 瞬く間に、身ぐるみはがされて、一文無しになりかねない…


 おそらく、和子は、そんな未来を恐れているに、違いない…


 だから、伸明には、しっかり者の嫁を取らせる…


 そして、伸明を護らせる…


 そういうことだろう…


 そして、そのためには、良家の子女よりも、普通の家庭出身の女の方が、いい…


 その方が、人並みに、苦労をしているからだ…


 良家の子女は、性格が、良いのが、大半だが、あまりに、ひとが良く、世間知らずだと、簡単に、騙されやすいからだ…


 だから、敬遠する…


 たとえ、ルックス、人柄、家柄が、申し分なくても、二人が、世間知らずでいては、困る…


 それでは、簡単に騙されかねないからだ…


 だから、私を選んだ…


 和子は、私を選んだ…


 そういうことだろう…


 夫が、頼りなければ、しっかり者の嫁をもらえばいい…


 そういうことだろう…


 そして、そんなことを、考えていると、以前、和子が、言った言葉を思い出した…


 「…この五井は、代々、女が、支えていると…」


 「…五井の強い女たちが、五井を支えていると…」


 たしか、以前、そう言った…


 そして、それは、マミさんに、関して、言った…


 なぜなら、マミさんは、五井家で、嫌われ者…


 マミさんは、五井の前当主、諏訪野建造の娘だが、愛人の子供…


 いわゆる、庶子だ…


 正妻の子供ではない…


 正式な五井家の血を引く者ではない…


 だから、嫌われている…


 それが、わかっているから、父の建造は、マミさんを、五井のグループ企業に雇わなかった…


 代わりに、金を与え、自分で、会社を作らせた…


 その方が、マミさんに合っていると思ったからだ…


 なにより、五井の企業に入れて、五井家当主が愛人に産ませた子供だと、周囲にバレるのは、困る…


 当主の建造の立場もあるし、また、マミさんも、会社に居づらくなるだろう…


 そして、そんなことは、案外バレるものだ…


 隠したいことほど、あっけなくバレるものだ…


 どこからか、情報が、洩れるものだ…


 だからこそ、建造は、マミさんを五井の企業に入れなかったのだろう…


 そんな未来を見抜いていたのだろう…


 が、


 その認識は、違った…


 なにが、違ったか?

 

 マミさんは、意外にも、五井の女性たちに好かれていると、和子が、言った…


 五井の強い女たちに、好かれていると、告げた…


 私は、それを、聞いたときに、最初は、驚いたが、すぐに、納得した…


 さもありなんと、納得した…


 なぜなら、いかに当主の建造が、娘のマミさんに、金を与え、会社を作らせようとしても、五井家の全員を敵に回しては、難しいからだ…


 だから、きっと、それほど、嫌われていない…


 つまりは、マミさんを許すというか…


 陰ながら、応援する人間がいても、おかしくはない…


 そう、思った…


 でなければ、いかに、五井家当主といえども、自分の娘に多額の資金を与え、会社を経営させるなど、できるはずがないからだ…


 その事実を今さらながら、思い出した…


 思い出したのだ…


 そして、そんなことを、考えながら、あらためて、伸明を見た…


 あらためて、伸明を見て、一体、なぜ、伸明は、ここに隠れているのだろ?


 と、思った…


 当然、身を隠す理由は、わかっている…


 マスコミの追及から、逃れるためだ…


 金を借りたナオキは、脱税の疑いで、逮捕された…


 一方で、金を貸した伸明は、そのまま…


 これでは、誰が見ても、不公平…


 公平ではない…


 だから、世間で、さわがれるのは、マズいと、思って、身を隠した…


 もちろん、五井の力で、マスコミは、抑えてある…


 金を借りた藤原ナオキは、逮捕されても、金を貸した諏訪野伸明のことを、テレビや雑誌では、ほとんど触れない…


 誰が見ても、不自然なほど、触れない…


 が、


 今の世の中、ネットがある…


 だから、ネットで、この話題が沸騰しては、困る…


 だから、身を隠した…


 姿を見せた方が、どうしても、話題になりやすい…


 一方、姿を隠せば、どうしても、その話題は、下火になる…


 最初は、この話題が沸騰しても、当事者が、いないと、どうしても、話題が、続かない…


 そういうものだ…


 だから、それを、見越して、伸明は、この病院に身を隠したのではないか?


 私は、今さらながら、そう、思った…


 が、


 本当に、それだけだろうか?


 他に、目的がないのだろうか?


 ふと、思った…


 なにしろ、この伸明は、五井家当主だ…


 五井グループの頂点に立つ人物…


 いわば、五井の顔だ…


 そんな五井の顔が、身を隠している…


 なにか、別の理由があるのかも、しれない…


 ふと、思った…


 もちろん、ホントのところは、どうか、わからない…


 ただの勘だ…


 が、


 ふと、思った…


 が、


 さすがに、それを、口にすることは、できない…


 そんなことより、今は、ただ、伸明と再会したのが、嬉しかった…


 伸明と再会することで、なんとなく、事情が、呑み込めたからだ…


 ナオキの会社、FK興産を五井グループが、買収する事情が、呑み込めたからだ…


 薄々は、気付いていたが、やはり、伸明の口から、聞きたかった…


 五井が、FK興産を買収する裏事情を、知りたかった…


 そういうことだ…


 だから、それを、思うと、ホッとしたというか…


 途端に、肩の力が、抜けた…


 それゆえ、一気に疲れた…


 それまで、溜まっていた疲労が、一気に、やって来た…


 そんな感じだった…


 すると、途端に、立っているのも、辛くなった…


 疲労が、一気にやって来たのだ…


 これまで、気が張っていたから、大丈夫だった…


 が、


 所詮は、癌を、持つ身…


 健康には、ほど遠い…


 だから、その日の体調によって、良い時も、悪い時もある…


 が、


 今日のように、伸明と会うとなると、そんな体調の良し悪しは抜きにして、この場にやって来た…


 この五井記念病院にやって来た…


 だからだろう…


 伸明の顔を見て、伸明の説明を聞いて、安心したというか…


 正直、ホッとした…


 そしたら、まるで、緊張の糸が緩むように、途端に、体調が悪化した…


 立っているのも、難しいほど、体調が悪化した…


 だから、思わず、


 「…すいません…ちょっと、気分が…」


 と、言った…


 すると、すぐに、長谷川センセイが、


 「…どうしました?…」


 と、聞いてきた…


 なにしろ、長谷川センセイだ…


 この病院の勤務医だ…


 この五井記念病院の私の主治医だ…


 私は、長谷川センセイの顔を見て、安心しながら、


 「…いえ、伸明さんの説明を聞くと、なんだか、ホッとして…」


 と、言った…


 長谷川センセイに、言った…


 長谷川センセイは、医師の顔に戻っていた…


 私の様子を見て、すぐに、医者の顔に戻っていた…


 「…だったら、こちらに…」


 と、長谷川センセイが、促した…


 なにしろ、ここは、病室だ…


 長谷川センセイは、私のカラダに手をやり、私を支えた…


 伸明もまた、


 「…寿さん…大丈夫?…」


 と、心配そうな表情で、聞いてきた…


 そして、


 「…長谷川センセイ…ボクも手伝います…」


 と、伸明が、言ったが、


 「…いえ、たぶん、大丈夫です…」


 と、長谷川センセイが、私のカラダを支えながら、伸明に告げた…


 だから、伸明は、心配そうな表情で、私を見るだけだった…


 私は、長谷川センセイに支えられ、ベッドに横になった…


 なにしろ、ここは、病室…


 五井記念病院の病室だ…


 当然、ベッドもある…


 伸明には、悪いが、伸明が使うであろう、ベッドに、私が、横になった…


 「…センセイ…ありがとうございます…」


 「…どういたしまして…」


 長谷川センセイが返す…


 「…寿さん…ゆっくりして下さい…」


 「…ハイ…わかりました…」


 と、答えた…


 そして、ほどなく、私は、ウトウトした…


 カラダが、限界だったのだろう…


 知らない間に、寝ついた…


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