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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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70/122

寿綾乃という女 第3部 70

目が覚めたのは、それから、かなりの時間が経ってからだった…


 気が付くと、私は、ベッドに横たわったままだった…


 私は、独りぼっち…


 周囲には、誰もいなかった…


 それから、すぐに、自分の置かれた状況を思い出した…


 長谷川センセイに、言われ、伸明に、会いに来たことを、思い出した…


 それを、思い出すと、私は、慌てて、ベッドから、飛び起きた…


 むろん、飛び起きるというのは、おおげさな表現…


急いで、ベッドから降りたというのが、正しい…


 途端に、少し、フラフラしたが、問題は、ない…


 それから、窓に目をやると、辺りは、まだ暗くなってなかった…


 だから、まだ、それほど、時間が経ってないことが、わかった…


 自宅では、この五井記念病院から、帰ってきて、ベッドに横になった途端、寝込んでしまい、起きたら、夜になっていたことがあった(苦笑)…


 だから、それを、思えば、今日は、まだ、マシ…


 辺りは、まだ暗くなっていないからだ…


 まだ、昼間のままだからだ…


 だから、マシだった(苦笑)…


 そして、私は、ベッドから起き上がると、真っ先に、伸明の姿を探した…


 当然、同じ部屋にいると、思っているからだ…


 なにしろ、この病室は、伸明が、隠れ場所に使っている場所…


 今のオーナーというか、部屋の主は、伸明だからだ…


 だから、すぐに、伸明を探した…


 長谷川センセイでは、ない…


 伸明を探した…


 私が眠って、すでに何時間も経っている…


 だから、当たり前だが、長谷川センセイは、すでにいないと、思っているからだ…


 伸明の元には、いない…


 すでに、この部屋を去ったと、思ったからだ…


 私は、急いで、部屋の中を探したが、伸明は、いなかった…


 影も形もなかった…


 だから、混乱した…


 一瞬だが、混乱した…


 まるで、夢?


 白昼夢を見ているようだった…


 なぜなら、さっきまで、たしかに、ここにいた、伸明も、長谷川センセイも、いたからだ…


 それが、二人とも、いない…


 だから、まるで、夢を見ているようだった…


 いや、


 夢ではない…


 周囲を見て、そう、思った…


 たしかに、ここは、五井記念病院の一室…


 病室だ…


 部屋を見れば、わかる…


 だから、夢ではない…


 ただ、伸明と、長谷川センセイの姿がないだけ…


 ただ、それだけだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 が、


 途方に暮れた…


 この病室に、一人だけ、取り残されて、途方に暮れた…


 私は、ここで、なにをすれば、いいのか、わからない…


 だから、途方に暮れた…


 そして、考えた…


 私にできること…


 このまま、伸明が、戻ってくるまで、待つか?


 それとも、ここから帰るか?


 その二択…


 その二択しかない…


 だったら、どうする?


 帰る?


 帰らない?


 それを悩んだ…


 どっちにすれば、いいのか?


 悩んだ…


 そして、どっちにすれば、いいのか、悩んでいると、


 「…寿さん?…」


 と、いう声が聞こえた…


 私は、慌てて、声のする方を振り返った…


 と、そこには、マミさんの姿があった…


 伸明の義理の妹のマミさんの姿があった…


 「…やっぱり、来たのね…」


 マミさんが、告げる…


 その口調は、諦めというか…


 いや、


 諦めではない…


 やっぱりというのは、ずばり予想通りということ…


 「…来ては、ダメ!…」


 「…これ以上、五井と関わってはダメ!…」


 「…寿さんが不幸になる…」


 と、以前、マミさんは、私に警告した…


 その警告を無視して、やって来た…


 その


「…やっぱり…」


だった…


 私は、マミさんに、そう言われると、なんと、答えていいか、わからなかった…


 だから、黙った…


 すぐには、答えなかった…


 いや、


 答えられなかったと、いってもよい…


 ただ、黙って、マミさんを見た…


 マミさんも、私を見た…


 互いに、無言で、見つめ合った…


 それは、まるで、恋人同士?


 いや、


 宿敵同士?


 いや、


 それとも、違う…


 ただ、互いに、いたたまれなかった…


 一方は、警告をし、もう一方は、警告を無視した者…


 そんな関係が、嫌だった…


 だから、互いに、無言で、見つめ合った…


 長い沈黙の時間だった…


 が、


 さすがに、いつまでも、互いに無言のままでは、いられない…


 マミさんが、再び、口を開いた…


 が、


 なにを言っているのか、わからない…


 そして、私もまたマミさんに、呼応するように、なにか、言った…


 が、


 自分でも、なにを、言っているのか、わからなかった…


 こんなバカなと、思った…


 自分で、自分が、なにを言っているのか?


 わからないなんて…


 そんなバカな話は、ない…


 私は、混乱した…


 文字通り、混乱した…


 頭が、おかしくなった…


 …なにか、変!…


 …なにか、おかしい!…


 …絶対、おかしい!…


 私は、心の中で、思った…


 心の中で、叫んだ…


 が、


 そこまで…


 そこまでだった…


 途端に目が覚めた…


 目が覚めると、目の前に伸明の顔があった…


 実に、心配そうに、私を見ている伸明の顔があった…


 …夢?…


 …今のは、夢だった?…


 と、気付いた…


 そして、目の前の伸明を見た…


 私を心配そうに、見ている伸明を見た…


 が、


 なんて、言葉をかけて、いいのか、わからなかった…


 これまで、こんなシチュエーションはなかった…


 それが、大きい…


 だから、なんと、言っていいか、わからなかった…


 そして、それは、伸明も同じだったようだ…


 ジッと、私を見るだけで、なんとも、言わなかった…


 言葉が、見つからない様子だった…


 だから、私から、言った…


 「…スイマセン…」


 と、言った…


 そうすれば、伸明も、反応する…


 なにか、言うと、思ったからだ…


 案の定、伸明は、


 「…寿さんが、謝ることじゃない…」


 と、言った…


 「…むしろ、体調が、悪いにも、かかわらず、無理をさせて、すみませんでした…」


 と、私に詫びた…


 これでは、私は、どうして、いいか、わかなかった…


 なんと、返答して、いいか、わからなかった…


 私は、今、本来、伸明が寝る、であろうベッドに寝ている…


 いわば、伸明のものを、勝手に使っているのだ…


 本来、ここに寝るべきは、伸明にも、かかわらず、だ…


 にも、かかわらず、伸明のこの対応…


 ひとが、良すぎるというか…


 まさに、お坊ちゃま…


 生粋のお坊ちゃまだった…


 だから、それを、思うと、思わず、


 「…プッ!…」


 と、吹き出した…


 笑うところではないにも、かかわらず、つい、


 「…プッ!…」


 と、吹き出してしまった…


 「…なにが、おかしいんですか?…」


 と、伸明が、不思議そうに、聞く…


 「…だって、伸明さん…ここは、伸明さんの、病室ですよ…だから、ここに、寝るのは、伸明さんのはず…それを、私が、使っているにもかかわらず、スイマセンと、謝るなんて…」


 私が、笑って言うと、


 「…たしかに、その通りかも、しれない…」


 と、伸明が、苦笑する…


 「…でしょ?…」


 私は、言って、ベッドから、カラダを起こした…


 と、


 そのときに、危うく、伸明と顔がぶつかりそうに、なった…


 これは、想定外…


 実に、想定外だった…


 互いに、紙一重の差で、ぶつかるのを、避けた…


 それから、互いに、


 「…スイマセン…」


 と、詫びた…


 小さな声で、詫びた…


 詫びながらも、伸明と、こんな近い距離で、顔を合わせたのは、以前、伸明とキスをした以来だと、思った…


 以前、伸明とキスをしたのは、亡くなった建造の墓の前…


 前五井家当主、建造の墓の前だった…


 なぜ、墓の前で、伸明と、私が、キスをしたか?


 それは、伸明が、建造に、報告したかったからだ…


 私、寿綾乃と、キスをしているところを、亡くなった建造に見せたかったからだ…


 伸明は、建造を好いていた…


 伸明は、建造に、感謝していた…


 建造と、血が繋がってないにも、かかわらず、自分を次期当主に推してくれる建造に、心の底から、感謝していた…


 そして、そのときは、気付かなかったが、きっと、あのとき、伸明は、私、寿綾乃を、建造の娘だと、思っていたに違いない…


 本物の寿綾乃は、建造の娘…


 建造の血が繋がった実の娘だった…


 本物の寿綾乃の母である、私の叔母が、建造と、熱愛していたのだ…


 だから、伸明は、私を建造の娘だと、信じていた…


 それゆえ、あのとき、建造の墓の前で、私とキスをしたのは、建造に、娘の寿綾乃は、自分が、しっかりと、護るとでも、言いたかったのだ…


 自分が、建造の娘と、結婚することを、報告したかったのだ…


 そんなことに、今さらながら、気付いた…


 あのとき、伸明が、なにを、考えていたのか、今さらながら、気付いた…


 そして、そんなことに、気付くとは、我ながら、バカ…


 救いようのない、バカだと、気付いた(苦笑)…


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