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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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寿綾乃という女 第3部 67

伸明も、また、ナオキと一緒だった…


 「…そんなこと、どうでも、いいじゃないですか?…」


 と、笑って言った…


 「…それとも、長谷川センセイは、失礼ながら、お医者様だから、例えば、看護師の方たちが、自分より、威張っていれば、許せませんか?…」


 「…それは…」


 「…寿さんが、ボクに対して、どんな態度を取るにせよ、寿さんに、悪気はないのは、わかってます…長谷川センセイも、それは、ご承知でしょ?…」


 「…それは、もちろん…」


 「…だったら、いいじゃ、ないですか?…」


 伸明が、明るく言った…


 伸明が、あっけらかんと、言った…


 そして、私は、これこそが、お坊ちゃま…


 お坊ちゃまゆえの性格の良さだと、思った…


 が、実際には、違うのかも、しれない…


 ただ、生まれつき性格が、良いだけなのかも、しれない…


 だが、どうしても、伸明が、金持ちのお坊ちゃまゆえに、金持ちと性格を、結びつけてしまう…


 金持ちゆえに、苦労していない…


 だから、性格がいい…


 そう思い込んで、しまう…


 そして、そんなことを、考えると、


 …だったら、自分は、どうだ?…


 と、思った…


 自分、矢代綾子は、どうだ?


 と、思った…


 寿綾乃では、ない…


 まだ、寿綾乃と名乗る前の、矢代綾子と名乗っていた時代は、どうだ?


 と、思った…


 すでに、何度も言ったように、私は、母と二人暮らしだった…


 いわゆる、母子家庭だった…


 ゆえに、生活は、楽ではなかった…


 が、


 だから、私は、性格がねじ曲がっている?


 と、人から、指摘されれば、全力で、反論するが、本当のところは、わからない…


 自分で、自分の性格は、決して、悪くないと、思っているが、それは、自分の評価…


 あくまで、自分の評価に過ぎない…


 他人の評価では、ないからだ…


 そして、評価というのは、常に、他人が、するものだからだ…


 自分が、自分にする、自己評価は、常に、得点が高い…


 誰もが、自分のことを、悪く言う人間は、いないからだ…


 だから、得点が高い…


 そういうことだ(爆笑)…


 だから、わからない…


 自分のことは、わからない…


 が、


 だとすれば、どうしたら、自分のことが、わかるか?


 考えた…


 友達だ…


 あるいは、付き合っている異性…


 過去、現在、付き合っていた異性…


 男なら、女…


 女なら、男…


 いずれにしろ、自分の周りにいる人物…


 その人間が、どんな人間と付き合っているかで、その人間の性格が、見えてくる…


 学校でも、会社でも、同じ…


 おとなしい人間は、おとなしい人間とつるむ…


 つるむ=いっしょにいる…


 真逆に、ヤンキーは、ヤンキーとつるむ…


 その方が、気が合うからだ…


 その方が、楽しいからだ…


 だから、いっしょにいる…


 当たり前のことだ…


 それゆえ、その人間の性格が見えてくる…


 その人間が、どんな人間か、見えてくる…


 そして、これは、友人同士でなく、男女の間も同じ…


 いっしょだ…


 だから、一見、おとなしそうに見えても、選んだ異性が、ヤンキーだったりする場合は、ホントは、おとなしくないのだろう…


 そういうことだ…


 また、一見、おとなしく見えても、いろいろなタイプがある…


 おとなしく見えても、学校や会社で、つるまないのは、タイプが、微妙に違うから…


 これは、ヤンキーもまた、同じ…


 同じだ…


 例えば、色でいえば、赤…


 同じ赤でも、真紅なのか、桃色に近いのか、あるいは、オレンジに近い赤なのか?


 いろいろある…


 それと同じだ…


 性格が、微妙に違う…


 だから、一見似ていても、合わないのだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、そんなさまざまなことを、私、矢代綾子に当てはめれば、どうか?


 考えた…


 すると、一番、わかりやすいのは、目の前の伸明とナオキ…


 二人とも、真面目で、おとなしい…


 だから、私も真面目…


 真面目で、おとなしいキャラで、間違いが、ない(爆笑)…


 いや、


 そもそもだが、五井の当主や、ナオキのように、IT企業を創業した社長が、真面目で、おとなしくないはずがない…


 おおげさに言えば、少年院や刑務所に行きかねないような、バリバリのヤンキーが、名門の企業グループの御曹司や、IT企業の社長のはずは、ないからだ…


 とりわけ、名門の企業グループの御曹司というのは、ありえない…


 あるいは、百歩譲って、名門の企業グループの御曹司が、バリバリのヤンキーだったとする…


 そうなれば、どうするか?


 真っ先に、後継者の座から、外すだろう…


 対外的に、その企業を象徴する座につけることはできないからだ…


 例えば、わかりやすい話、天皇陛下を思い浮かべれば、いい…


 天皇陛下は、日本を代表する人物…


 その天皇陛下が、ヤンキー上がりでは、たまったものではない…


 とてもではないが、他国に、紹介することは、できない…


 なぜなら、ヤンキー上がりは、すぐにバレるからだ…


 それと同じだ…


 伸明のように、五井家の当主は、天皇陛下と、同じ…


 天皇陛下が、日本を象徴する人物のように、伸明は、五井を象徴する人物…


 だから、仮に伸明のような立場の人間になるので、あれば、ヤンキーでは、なれない…


 一族が、排除するだろう…


 それと、同じだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、そんなことを、考えていると、伸明が、


 「…たぶん、藤原さんは、今、和子叔母さまの元にいると、思います…」


 と、言った…


 私は、一瞬、


 …エッ?…


 と、思った…


 まさか、伸明が、和子の元にいるとは、思わなかった…


 が、


 しかし、だ…


 さっき、この伸明は、和子が、ナオキの会社、FK興産の買収の買収を仕組んだと、言ったではないか?


 そして、おそらく、それは、事実に違いない…


 そして、事実なら、ナオキが、和子の元にいるのも、頷ける…


 和子が、拘置所から、出た、ナオキの面倒を、見るのも、わかる…


 ナオキが、和子にFK興産の株を売却した見返りに、ナオキの面倒を見たのだろう…


 そういうことだ…


 私を含め、FK興産の中で、すぐに、拘置所の中にいるナオキに対して、弁護士を派遣したり、拘置所から出たナオキに対して、クルマの用意をしたり、その先の手配をしたり…


 具体的には、ナオキが、当面、身を隠す場所をすぐに手配できるような、やり手の人間は、思いつかない…


 ハッキリ言えば、FK興産内で、すぐに、そんなことのできる人間は、思い浮かばない…


 それは、別に、FK興産内の人間が、使えない人間が、揃っていると言っているわけでは、断じてない…


 要するに、門外漢というか…


 そんなことを、する人間がいないのだ…


 従業員を千人も擁する会社だ…


 当然、顧問弁護士もいる…


 が、


 今回のように、ナオキが、脱税の疑いで、逮捕され、マスコミの餌食になっている…


 この状況で、うまく、マスコミを懐柔したり、なるべく、ことを荒立たせずに、穏便に済ますというか…


 そんなことのできる人間は、一人もいないということだ…


 顧問弁護士にしても、FK興産と契約している顧問弁護士は、当然、会社関係の業務を主として、契約している…


 それが、今回のように、脱税の疑いで、逮捕されたのは、想定外…


 いわば、畑違いの分野だからだ…


 畑違いというのは、通常、弁護士にしても、専門業務がある…


 いわゆる、刑事事件を主に担当しているか?


 あるいは、民事事件を主に担当しているか?


 さらに言えば、民事事件でも、離婚のような件を、主に扱っているか?

 

 大きな会社と契約して、会社の運営に対して、意見を述べているか?


 など、千差万別だ…


 だから、今回のように、ナオキが、思わぬ形で、マスコミの餌食になった…


 その窮地を救うことのできる弁護士は、FK興産内では、誰も、いないということだ…


 そして、そんなことを、私は、考えていると、伸明が、


 「…和子叔母さまは、藤原さんに、すまないと、思っているんだと、思う…」


 と、伸明が、言った…


 「…すまない? …どうして、すまないと、思っているんですか?…」


 「…FK興産の買収の件です…」


 「…それが、どうして、すまないと、思っているんですか?…」


 「…寿さんは、知っているか、どうかは、わかりませんが、FK興産は、だいぶ前から、経営が、うまくいってなかった…」


 「…」


 「…それで、藤原さんから、個人的に、相談されたのが、きっかけです…」


 伸明が、言う…


 私に対して、申し訳ないというような態度だった…


 なにやら、私に対して、下手に出ている感じだった…


 私に対して、隠しごとをしていたのが、心苦しいのかも、しれなかった…


 いや、


 私に対してでは、ない…


 おそらく、ナオキが、私に対して、言ってないことを、伸明が、自分の口から、告げるのが、マズいと、思ったのだ…


 この伸明は、私とナオキが、公私共に、パートナーであったことを、知っている…


 にもかかわらず、ナオキが、私に言ってないことを、自分の口から、告げるのは、マズいと、思ったのだろう…


 普通は、まず、結婚していれば、夫が、妻に言うべきこと…


 それを、妻に第三者が、言うのは、まるで、告げ口をしているような…


 とにかく、夫を差し置いて、第三者の自分が、言うべきではないと、伸明は、思ったに違いなかった…


 だから、遠慮がちというか…


 言いづらそうに、私に言ったに、違いない…


 私は、そう、見た…


 私は、そう、睨んだ…


 すると、だ…


 「…そんなに、FK興産の業績は、悪かったんですか?…」


 と、これも、遠慮がちに、長谷川センセイが、口を挟んだ…


 黙って聞いているのが、嫌だったに違いない…


 が、


 本当は、ここで、門外漢の長谷川センセイが、口を挟むのは、おかしい…


 が、


 しかしながら、ここにいるのは、三人だけ…


 私と伸明と長谷川センセイの三人だけだ…


 だから、つい、口を挟んだのかも、しれない…


 伸明は、長谷川センセイの質問に、曖昧に、


 「…ええ…」


 と、短く、答えた…


 すると、長谷川センセイが、


 「…そんなに、ひどかったんですか?…」


 と、さらに、突っ込んだ…


 すると、今度は、伸明が、


 「…藤原さんは、資金繰りに苦慮していたが、それでも、会社が、傾くとか、今すぐ、どうこうなる話じゃなかった…」


 「…では、どうして?…」


 と、長谷川センセイ…


 「…会社経営に疲れたんだと、思う…」


 伸明が、言った…


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