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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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66/122

寿綾乃という女 第3部 66

…主導権争い?…」


 「…ボクは、今、五井家の当主です…対外的には、五井家の顔…五井家を代表する存在です…」


 「…」


 「…ですが、それは、表向き…実権は、寿さんも、ご存じのように、和子叔母さまが、握ってます…」


 「…」


 「…だから、ボクは、お飾りというか…自分で、自分のことを、こう言うのは、変ですが、五井一族の中で、取り立てて、力はありません…とりわけ、ボクは、若い…一族の七十代、八十代の方々の前で、息子か、それ以上、若いボクが、なにか、偉そうなことを、言うことは、できない…」


 伸明が苦笑する…


 「…だからでしょう…ボクを当主の座から、追い落そうとしたり、追い落とすまで、しなくても、ボクの当主の力を削ごうとする、輩(やから)が、一族の中にいる…」


 「…」


 「…和子叔母さまは、それを、危惧なさっている…」


 「…和子さんが…」


 「…その結果、和子叔母さまが、先走って、藤原さんの会社、FK興産を、手に入れようとした…それが、真相です…」


 伸明が、説明する…


 私は、驚いた…


 文字通り、驚いた…


 まさか、この場で、和子の名前が出て来るとは、思わなかった…


 五井の女帝の名前が出て来るとは、思わなかった…


 だから、驚いた…


 そして、


 「…和子さんは、なぜ?…」


 と、私は、呟いた…


 呟かずには、いられなかった…


 なぜ、ナオキの会社を買収するのか?


 聞かずには、いられなかった…


 すると、即座に、伸明が、


 「…ボクの箔付けです…」


 と、答えた…


 「…伸明さんの箔付け?…」


 「…ボクが、五井家の当主に就任したのは、わずか、半年前…ですが、とりたてて、ボクに目立った功績はありません…ですから、和子叔母さまは、ボクに箔をつけようとした…」


 「…それが、FK興産の買収?…」


 「…そういうことになります…」


 伸明が、言いづらそうに、言う…


 私は、それを、聞いて、途端に、ユリコの言葉を思い出した…


 ナオキの元の妻である、ユリコの言葉を思い出していた…


 ユリコは、五井が、ナオキの会社、FK興産の買収を、試みるのは、伸明の五井家当主への就任祝いだと、私に語った…


 私は、まさか?


 と、思った…


 たしかに、そう言われれば、わからないでもない…


 理解はできる…


 が、


 なにしろ、その話をしたのが、ユリコだ…


 他ならぬ私の天敵のユリコだ…


 あのユリコだ…


 だから、どうしても、信じることが、できなかった…


 たしかに、そう言われれば、その可能性はある…


 否定は、できない…


 が、


 なにしろ、あのユリコの言う言葉だ…


 信用できない…


 信じることができない…


 ハッキリ言って、眉唾物というか…


 いや、


 むしろ、私にウソの情報を教えて、私を混乱させる…


 あるいは、私を罠にかける…


 そんな気がした…


 だから、信じなかった…


 ユリコの言葉を信じなかった…


 これは、誰もが、いっしょだろう…


 誰もが、同じだろう…


 誰もが、信用できる…


 あるいは、信頼できると、思う、友人や知人の話だから、信じる…


 ところが、ユリコのように、信を置けない知人が、どんなことを、言っても、信じるわけがない…


 それが、たしかに、あり得る話だと思っても、眉唾物だと、思ってしまう…


 なぜなら、それを、教えた人間を、そもそも信用していないから…


 それに、尽きる(笑)…


 自分が、信用しない人間が、なにを言おうと、全然、心に響かない…


 だから、信じない…


 当たり前のことだ…


 だから、あのとき、ユリコは、


 「…これで、貸しを返した…」


 と、言った…


 貸しとは、ジュン君のこと…


 私をクルマで、轢き殺しとしたジュン君を私は、裁判所で、擁護した…


 なにしろ、子供の頃から、私が、面倒を見てきたジュン君だ…


 いかに、私をクルマで、轢き殺そうとしたとしても、見捨てることが、できない…


 だから、擁護した…


 法廷で、擁護した…


 その結果、明らかに、ジュン君の刑が軽くなった…


 だから、ユリコは、それを、恩にきた…


 私を大嫌いなユリコが、それを、恩にきた…


 それゆえ、ユリコは、


 「…借りは、返した…」


 と、言った…


 ジュン君を、裁判所で、擁護した借りは、返した、と、言った…


 今回のFK興産の買収の内訳を私に告げることで、私に借りを返したと、言った…


 が、


 私は、それを、信じなかった…


 たしかに、その可能性はある…


 その可能性は、否定できない…


 が、


 それを、鵜呑みにすることは、できない…


 何度も言うように、それを、教えたのが、ユリコだから、鵜呑みにできない…


 うっかり、それを信じて、私が行動した結果、とんでもないことになるかも、しれない…


 ハッキリ言えば、ユリコの仕掛けた罠にはまるかも、しれない…


 その可能性が、ある…


 その可能性が、高い…


 だから、私は、信じなかった…


 ユリコの言葉を信じなかった…


 そういうことだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、そんなことを、考えていると、当たり前だが、ナオキのことを、思い出した…


 ナオキは、拘置所から、釈放されて、どこかに、身をくらました…


 そして、今、現在、連絡が取れない…


 果たして、伸明は、ナオキの行方を知っているのか?


 それが、気になった…


 だから、伸明に、


 「…伸明さん、一つ、お聞きしていいですか?…」


 と、聞いた…


 「…なんですか?…」


 「…失礼ですが、伸明さんは、藤原ナオキの行き先を知っていますか?…」


 その質問に、伸明は、


 「…」


 と、答えなかった…


 無言だった…


 なぜ、答えないのか?


 わからなかった…


 知っているのならば、知っている…


 知らないのなら、知らないと、答えればいい…


 が、


 伸明は、なにも、言わない…


 どうしてだか、わからなかった…


 だから、もう一度、


 「…伸明さんは、藤原ナオキの居所を、ご存じですか?…」


 と、聞いた…


 聞かずには、いられなかったからだ…


 すると、伸明は、仕方なくといったように、


 「…たぶん…」


 と、言った…


 「…たぶん?…」


 「…そう、たぶん…」


 と、言いにくそうに、言った…

 

 それから、一呼吸置いて、


 「…見当は、ついてます…」


 と、続けた…


 「…どこですか? …そこは?…」


 伸明に、聞いた…


 当たり前のことだ…


 が、


 伸明が、答える前に、またしても、


 「…プッ!…」


 と、吹き出す声が、聞こえた…


 私は、声の主を見た…


 いや、


 見ずとも、わかっていた…


 なぜなら、この場には、三人しか、いないからだ…


 私と伸明、そして、長谷川センセイの三人しか、いないからだ…


 私と伸明が、吹き出さない以上、


 「…プッ!…」


 と、引き出したのは、長谷川センセイに決まっているからだ…


 だから、急いで、長谷川センセイを見た…


 もちろん、伸明も、見た…


 が、


 私たち二人に、視線を向けられた長谷川センセイは、悪びれることもなく、


 「…寿さん、気が強すぎ…」


 と、笑った…


 「…私が、気が強すぎって?…」


 「…だって、諏訪野さんは、五井家当主ですよ…五井グループの総帥です…それを、寿さんは、対等どころか、自分の方がが、偉いような態度で、諏訪野さんに、接している…」


 長谷川センセイが、笑いながら、言う…


 それを、聞いた途端、私は、顔から、火が出る思いだった…


 顔が、見る見る真っ赤になるほど、恥ずかしかった…


 言われてみれば、まさに、その通り…


 その通りだったからだ…


 諏訪野伸明は、おとなしい…


 いかにも、良家の子息…


 だから、つい、こちらが、主導権を握るというか…


 つい、上から、目線で、接してしまう…


 そういうことだ…


 これは、ナオキの場合と同じ…


 二人とも、おとなしい…


 だから、つい、勝気な自分が、リードしてしまうというか…


 自分でも、意識しない間に、いつのまにか、相手をリードしてしまう…


 いけないと思っていても、つい、自分の方が、相手をリードしてしまう…


 悪い癖だ(苦笑)…


 そして、自分が、そんなことを、考えていると、目の前の伸明が、苦笑しているのが、わかった…


 苦笑いを浮かべているのが、わかった…


 私は、どうして、いいか、わからなかった…


 すぐに、伸明に詫びれば、いいのだが、それも、格好悪いというか…


 みっともない…


 しかしながら、なにも、言わないのも、マズい…


 だから、


 「…スイマセン…」


 と、小さく詫びた…


 小さな声で、詫びた…


 「…調子に乗ってました…」


 と、続けた…


 「…つい、自分の立場も、わきまえず、調子に乗ってました…」


 と、詫びた…


 が、


 伸明は、私の言葉を、まるで、気にしていない様子だった…


 なにも、言わず、ただ苦笑するだけだった…


 これは、困った…


 かえって、困った…


 伸明が、なにも、言わないことが、かえって、困った…


 こちらが、どう対応していいか、わからなかったからだ…


 だから、私も、


 「…」


 と、沈黙した…


 すると、


 「…」


 と、誰も、しゃべらなくなった…


 だから、気まずい空気が、流れた…


 三人がいる、病室に、気まずい、空気が流れた…


 一時も早く、この場から、逃げ出したいような気まずい空気が流れた…


 が、


 それを、救ったのは、伸明だった…


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