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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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59/122

寿綾乃という女 第3部 59

すべて、お見通し…


 見抜いていた…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、ふと、気付くと、長谷川センセイの背後に立っていた、長井さんが、ビックリした様子で、私と長谷川センセイを見ていた…


 まさに、驚愕した表情で、私と長谷川センセイを見ていた…


 当たり前だ…


 当たり前だった…


 長谷川センセイの背後に立つ、長井さんが、驚いた顔で、私と長谷川センセイを交互に見ていた…


 まさか…


 まさか、今、テレビやネットで、話題の諏訪野伸明や、藤原ナオキの話を、私や長谷川センセイがしているとは、思わなかったに違いない…


 まさか、脱税で逮捕された藤原ナオキや、ナオキに金を貸して、追徴課税で、済んだ、諏訪野伸明のことを、話しているとは、夢にも、思わなかったに違いない…


 だから、驚いた…


 だから、驚愕した…


 そういうことだった…


 そして、私が、長井さんを見る視線に、長谷川センセイも、気付いた…


 私が、ジッと、長井さんを見ていることに、気付いた…


 そして、それに、気付くと、長谷川センセイも、長井さんを、振り返って、


 「…長井さん…申し訳ないが、このことは、内密に…」


 と、苦笑いを、浮かべながら、頼んだ…


 長井さんは、ビックリしたままだ…


 「…頼むよ…」


 と、長谷川センセイが、両手で、長井さんを拝むような仕草をして、懇願した…


 だから、余計に、緊張したのか、


 「…ハイ…」


 と、長井さんが、ぎこちなく、返答した…


 まさか、勤務医の長谷川センセイが、研修中の看護師の自分に、そんな仕草をするとは、夢に、思わなかっただろう…


 動揺しているのは、明らかだった…


 まさか、今、世間で、話題になっている、五井家の当主と、テレビのキャスターの藤原ナオキのことを、私と長谷川センセイが、話題にしているとは、夢にも、思わなかったのだろう…


 当たり前のことだ…


 私が、長井さんの立場でも、驚愕する…


 まさか、自分の目の前で、当たり前のように、今、テレビやネットで、話題になっている人物のことを、身近に話しているとは、誰も思わないからだ…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、長谷川センセイが、長井さんを振り返って、見るのを、止めて、私に、向き直った…


 それから、真剣な表情で、


 「…それで、寿さん…ボクに、どうして、欲しいと…」


 と、直球で、聞いてきた…


 私は、それを、聞いて、一瞬、どう返答しようか、悩んだ…


 が、


 悩んでも、仕方が、ない…


 隠しても、仕方がない…


 ここは、正面突破…


 正攻法に限ると、考えた…


 だから、


 「…いえ、実は…」


 と、言って、言葉を切った…


 相手の関心を引くためだ…


 わざと、言葉を切った…


 「…実は、なんですか?…」


 長谷川センセイが、じれったそうに、私を促す。


 私は、内心、しめしめと、思った…


 思いながら、


 「…実は、その諏訪野さん…五井家当主の諏訪野伸明さん、なんですが、噂では、この五井記念病院に、身を隠していると聞いて…」


 と、言った…


 実に、意味深に言った…


 「…諏訪野さんが、この病院に?…」


 長谷川センセイが、驚愕した…


 「…ウソ?…」


 「…いえ、ホントです…」


 私は、断言した…


 すると、


 「…寿さん…どこから、その情報を…」


 と、聞いてきた…


 当たり前のことだ…


 が、


 さすがに、それに答えるわけには、いかなかった…


 だから、


 「…情報源は、秘密です…」


 と、笑って言った…


 「…秘密?…」


 「…これは、裁判でも、認められてます…マスコミが、誰から、その情報を得たか?

言わなくていい…情報源を開示しなくていいと…」


 と、言って、笑った…


 「…もっとも、それは、マスコミについて、言ったことです…私は、マスコミの人間でも、なんでも、ありませんが…」


 と、付け足して、笑った…


 わざと、笑いを取った…


 が、


 目の前の長谷川センセイは、笑わなかった…


 当たり前だが、笑わなかった…


 その代わりに、驚いていた…


 驚愕していた…


 「…諏訪野さんが、この病院に?…」


 と、呟いて、絶句していた…


 「…まさか…そんな…」


 と、言って、絶句していた…

 

 「…いや、たしかに、言われてみれば、わかる…いや、その可能性は、高い…政治家でも、なんでも、都合が悪くなると、病院に入院して、雲隠れする連中が多い…それに、ここは、五井記念病院…五井家の当主の諏訪野さんが、隠れるには、好都合…絶好の場所だ…たとえ、諏訪野さんが、この病院に隠れていても、これだけの大病院だから、どこに隠れているか、探すのも、容易じゃない…」


 長谷川センセイが、ブツブツと、独り言を呟く…


 「…そうか…そうだったんだ…


 長谷川センセイが、合点がいったようだ…


 私が言ったことを、咀嚼して、考えたのだろう…


 咀嚼して、ホントのことか、ウソか、考えたのだろう…


 そして、その結果、


 …あり得る!…


 と、判断した…


 …その可能性は高い!…


 と、判断した…


 そういうことだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、そう、考えていると、


 「…それで、ボクに、どうしろと?…」


 長谷川センセイが、聞いてきた…


 「…諏訪野さんが、この病院のどこに、いるか、探って欲しいとでも?…」


 ずばり、長谷川センセイが、私の思った通りのことを、口にした…


 ずばり、的を得た回答だった…


 が、


 やはりと、いうか…


 どう、返答して、いいか、わからない…


 だから、少し、考えて、黙って、頷いた…


 ただ、黙ったまま、首をコクンと、縦に振って頷いた…


 すぐに、


 「…その通りです…」


 と、いうのは、躊躇われたからだ…


 子供では、ないのだから、


 「…お嬢ちゃん…このチョコレート欲しい?…」


 と、大人に聞かれて、


 「…うん…欲しい…」


 と、すぐに、答えるわけには、いかない…


 それは、子供だから、できること…

 

 大人になれば、いかに、欲しくても、すぐに、


 「…欲しい…」


 とは、言えない…


 正直、メンツもある…


 メンツ=プライドもあるからだ…


 これは、子供だから、チョコレートをたとえに、挙げたが、大人では、たとえば、彼氏や彼女を例に挙げるとしよう…


 すると、どうだ?


 イケメンや美人の異性に、


 「…オマエ…オレと付き合いたいか?…」


 とか、


 「…アナタ…アタシと付き合いたいの?…」


 と、直球で、聞かれて、すぐに、


 「…ハイ…」


 とは、なかなか、言えない(苦笑)…


 メンツがあるからだ…


 メンツ=プライドがあるからだ…


 だから、すぐには、答えない…


 たとえ、心の底では、付き合いたくても、すぐには、返事をしない…


 それと、同じだ…


 今の私は、それと、同じだ…


 そして、そんな私の態度を見て、長谷川センセイは、


 「…そうですか?…」


 と、ゆっくりと、言った…


 それから、


 「…そうですよね?…」


 と、自分自身を納得させるように、繰り返した…


 「…寿さんの立場なら、そう…そう、考えるに決まっている…」


 長谷川センセイは、一人ブツブツ、呟く…


 私は、そんな長谷川センセイを、黙って、見ていた…


 「…」


 と、無言で、見ていた…


 すると、


 「…いいですよ…」


 と、あっさりと、言った…


 「…ボクにできることなら、力になりますよ…」


 長谷川センセイが、約束してくれた…


 私は、


 「…ホントに、よろしいのですか?…」


 と、聞いた…


 いや、


 聞かずには、いられなかった…


 が、


 その返答は、


 「…当たり前じゃないですか?…」


 と、あっさりしたものだった…


 「…当たり前? …どうして、当たり前なんですか?…」


 「…寿さんの頼みですよ…美人の寿さんの頼みですよ…断れるわけないじゃ、ないですか?…」


 長谷川センセイが、笑って言う…


 が、


 私は、それが、ジョークだと、わかった…


 ジョーク=本心から、言っていることでは、ないと、わかった…


 おそらく本音は、諏訪野伸明に会いたいのだろう…


 伸明に、接して、みたいのだろう…


 なんといっても、この長谷川センセイは、五井西家の血を引いている…


 五井西家の傍流の傍流だが、血を引いている…


 だから、伸明に興味がある…


 それに、尽きる…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…プッ!…」


 と、吹き出す声が聞こえた…


 私は、驚いて、声のした方を見た…


 長井さんだった…


 声の主は、長井さんだった…


 同時に、長谷川センセイも、振り返って、長井さんを見た…


 そして、私と長谷川センセイが、長井さんを見ているのが、わかると、当然のことながら、長井さんが、慌てた…


 だから、とっさに、言い訳するように、


 「…だって、長谷川センセイ…寿さんのファンだから、そんな安請け合いして…」


 と、笑って言った…


 「…安請け合い?…」


 「…だって、寿さんの言う通りだったら、そんなに簡単に、五井家の当主が、いる部屋が、どこか、わかるはず、ないでしょ? こんなに、大きな病院なんだから…」


 長井さんが、答える…


 言われてみれば、その通り…


 その通りだった…


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