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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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36/122

寿綾乃という女 第3部 36

「…私が好きだから…それは、どういう意味ですか?…」


 私は聞いた…


 聞かずには、いられなかった…


 「…いえ、寿さんだけじゃない…」


 マミが、答える…


 「…私だけじゃない?…」


 「…藤原さんのことも、伸明さんは、好きなのよ…」


 「…」


 「…だから、援助した…だから、融資した…それが、伸明さんが、藤原さんを援助した理由…」


 「…」


 「…でも、ビジネスに私情を持ち込んだら、ダメ…」


 「…どうして、ダメなんですか?…」


 「…目が曇る…」


 「…目が曇る? …どういう意味ですか?…」


 「…普通は、会社の決算書や業績を、見て、判断するでしょ?…」


 「…ハイ…」


 「…でも、それに、私情を挟むと、どうなると、思う?…」


 「…どうなるんですか?…」


 「…つい、良く考えてしまう…良い未来ばかり、思い描いてしまう…」


 「…」


 「…今は、業績が低いけれども、少し経てば、劇的に改善するとか…今度、出る新商品は、必ず、当たって、会社の業績も、右肩上がりに、急回復するとか…そんな未来を、つい、見てしまう…つまりは、目が曇ってしまう…」


 「…」


 「…それは、会社でいえば、リストラもそう…」


 「…リストラ?…ですか?…」


 「…そうよ…リストラ…つまり、首切り…ほら、誰をリストラするか、考えるとするでしょ?…」


 「…ハイ…」


 「…そのときに、私情を持ち込むのと同じ…」


 「…どういう意味ですか?…」


 「…変な話、純粋に仕事の能力だけで、決めた方が、いい…それと、同じ…」


 「…どういう意味ですか?…」


 「…純粋に、仕事の能力だけで、決めれば、悩まない…でも、普通は、そのひとの人柄とか、あるいは、このひと、今、うちの会社を首になれば、大変だろうな? と、考えちゃうでしょ?…」


 「…それは…」


 「…でしょ?…」


 「…ハイ…」


 「…だから、私情を持ち込まない…会社ならば、仕事の能力だけ、見る…学校ならば、テストの成績だけ、見る…他は、見ない…そうでないと、ブレる…」


 「…ブレる? …ですか?…」


 「…そうよ…ブレる…それと、伸明さんが、藤原さんの会社を助けようとしたのは、同じ…」


 「…同じ…」


 「…たぶん、寿さんや、藤原さんを好きだから、私情を挟んだ…そして、自分でも、それが、わかっているから、会見ができない…正々堂々と、どうして、藤原さんの会社に、融資したか、説明できないから、雲隠れした…そういうことだと、思う…」


 マミさんが、一気呵成に言った…


 私は、


 …そういうことか!…


 と、思った…


 マミさんの説明で、初めて、なぜ、伸明が、雲隠れしたか、わかった…


 要するに、伸明は、後ろめたいのだ…


 仕事に私情を挟んで、ナオキに、金を融資したのが、後ろめたいのだ…


 だから、堂々と説明できない…


 だから、記者会見が、できない…


 そして、おそらく、それは、身内に対しても、そう…


 身内に対しても、同じ…


 おそらく、伸明は、叔母の和子に、堂々と説明できないから、和子からも、逃げた…


 五井家当主にも、かかわらず、叔母の和子に、説明できない…


 五井の事実上の最高権力者…


 五井の女帝の和子に、堂々と、説明できないから、和子からも、逃げ出した…


 そういうことだと、思った…


 そして、逃げ出して、今は、ひっそりと、この五井記念病院に身を隠している…


 そういうことだと、思った…


 思ったのだ…


 そして、それが、わかると、たしかに、マミが、言うことも、わかると、思った…


 ビジネスに私情を挟むなど、言語道断…


 それを続ければ、会社が、おかしくなる…


 いずれ、会社が立ち行かなくなる…


 当然、伸明も、バカではないのだから、それが、わかっているだろう…


 が、


 それにも、かかわらず、私情を優先した…


 だから、伸明自身、後ろめたい気持ちがあるに違いない…


 だから、身を隠した…


 そう、考えれば、伸明が、身を隠した理由も、頷ける…


 私は、思った…


 思ったのだ…


 が、


 目の前のマミさんは、違った…


 明らかに、怒っていた…


 誰が、見ても、怒っていた…


 だから、私が、聞くまでもなく、


 「…でも、それじゃ、ダメなのよ!…」


 と、すごい剣幕で、怒った…


 「…それじゃ、五井家当主として、失格…」


 マミさんが、言う…


 「…失格…」


 と、つい、私も口にしてしまった…


 「…そうよ…失格…それでは、五井の当主として、失格…」


 マミさんが、声を荒げて言った…


 あまりにも、マミさんが、声を荒げるものだから、何事かと、近くの席の客が、マミさんを見た…


 その様子に、気付いたマミさんが、慌てて、口に手をやった…


 私は、その様子がおかしくて、つい、


 「…プッ!…」


 と、吹き出した…


 それを見たマミさんが、


 「…なにが、おかしいの? …寿さん?…」


 と、怒った表情で聞いた…


 「…だって、マミさん…まるで、子供のように…」


 私は、マミさんを、真似て、手で口を塞いで、見せた…


 そして、私も、子供のように、マミさんと同じ仕草を見せてから、実は、このマミさんが、極めて、子供っぽいことに、あらためて、気付いた…


 身長は、150㎝半ば…


 歳は、たしか、35歳になるが、実に若々しい…


 以前、ミニスカで、現れたのを、見たことがあるが、それも、まったく違和感がない…


 ルックスも悪くない…


 が、


 全体的に、子供っぽいのだ…


 今までは、そこまでは、気付かなかったが、今の口に手をやる動作を、間近に、見て、あらためて、思った…


 だから、35歳で、ミニスカをはいても、おかしくない…


 それは、若いというより、子供っぽいから(苦笑)…


 昔、AKBにいたリーダーの高橋みなみさんを、思い浮かべれば、いい…


 小柄だが、エネルギッシュで、愛らしい…


 また、小柄だから、実年齢よりも、若く、見える…


 それと、同じだ…


 そして、そんなことを、考えながら、ふと、気付いた…


 もしかしたら、これは、陽動作戦…


 もしかしたら、さっき、このマミさんが、伸明さんと歩いているところを、私に見られたことに、気付いた?…


 だから、わざと、伸明さんのことを、悪く言った?


 ホントは、仲がいいのを、隠すために、わざと、悪口を、言った?…


 私は、ふと、そう、思った…


 そう、思ったのだ…


 これは、よくあること…


 実に、どこにでも、ありがちなことだ…


 ホントは、仲がいいのに、いつも、いがみ合っているように、見せかける…


 仲がいいのが、バレるのを、恐れるからだ…


 とりわけ、この手の話は、小説によくある…


 推理小説に、ありがちなネタだ(笑)…


 が、


 現実でも、よくある…


 それは、会社での恋愛…


 忌み嫌っているとまでは、いわないが、誰が見ても、付き合っているようには、見えない男女が、突然、結婚を発表するのは、よくあること…


 そして、その結婚する男女に、よく、相手の悪口を言っていて、バツの悪い思いをする会社の同僚もいることが、あるのも、よくあること(苦笑)…


 具体的には、結婚する女に、その女と結婚する男の悪口をよくいう、女の同僚が、いるとする…


 そして、その女の同僚が、その男の悪口を言っていることは、当然、男は、気付いていない…


 態度に出していないからだ…


 その男の前では、態度に出していないからだ…


 だが、陰では、ボロクソに、悪口を言っている…


 その男と、結婚する女に、悪口を言っている…


 まさか、二人が、結婚するとは、思ってもいないからだ…


 だから、男の悪口を言っている…


 そして、二人が結婚するのを、知って、驚愕する…


 つまりは、その女の同僚を通じて、その男の悪口を言っていたのは、バレバレだと、わかるからだ…


 だから、驚く…


 だが、今さら、なかったことにも、できない…


 後戻りできないから、余計に困るのだ(笑)…


 そして、それは、女の同僚でなく、男の場合もある…


 結婚する、男に、同僚の男が、結婚する女の悪口を言っている場合もあるし、あるいは、その男に別の同僚の女が、悪口を言っている場合もある…


 まさか、その男と女が、結婚するとは、思わないからだ…


 だから、そんなことが、起こる…


 そういうことだ…


 話が、若干、長くなったが、いつものことだ(笑)…


 要するに、マミさんは、伸明さんと、仲がいいから、わざと、今、伸明さんの悪口を、言った…


 そこまで、仲がいいのを、私に悟られないためだ…


 さっき、自分が、伸明さんといっしょにいたところを、私に見られたと思って、わざと、今、悪口を言った…


 あるいは、わざと、今、伸明の悪口を私に言って、私の反応を見た?


 私が、どういう反応を見せるか、見定めようとした?…


 そんな思いが、次々と脳裏に浮かんだ…


 浮かんだのだ…


 そして、そんなことばかり、考えると、行動が、できなくなった…


 あまりにも、さまざまな考えが浮かんで、しまうと、自分が、どう行動していいか、わからなくなった…


 だから、こんなときは、強行突破!…


 むしろ、なにも考えないで、思ったことを、ずばり、言いたくなる…


 後はどうなろうと、構わないから、口にしたくなる…


 そして、私は、その通りにした…


 後が、どうなろうと、構わないから、自分の聞きたいことを、聞くことにした…


 だから、直球で、


 「…そういえば、マミさん?…」


 と、いきなり、マミさんに問いかけた…


 「…なに? …寿さん?…」


 「…さっき、伸明さんが、雲隠れしていると、おっしゃいましたね…」


 「…ええ…」


 「…だったら、マミさんは、今、伸明さんが、どこにいるか、知っていますか?…」


 単刀直入に聞いた…


 忖度なく、聞いた…


 途端に、マミさんの顔色が変わった…


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