寿綾乃という女 第3部 35
スタバに入って、マミさんの姿を探した…
すると、すぐに、見つかった…
それは、スタバが、予想外に小さかったからだ…
さすがに、ショッピングセンターや、ショッピングモールに出店している店と同じ広さでは、なかったからだ…
その大きさは、半分程度…
いや、
半分よりは、大きいかも、しれない…
が、
お世辞にも、大きくなかった…
だから、簡単にマミさんが、見つかった…
そういうことだ…
私は、マミさんの姿を見つけると、急いで、マミさんのいる席に駆け寄った…
いや、
歩いて行った…
私の心の中では、駆け寄ったつもりだったが、現実は、違う…
まさか、スタバの中を駆けるひとは、いないからだ(笑)…
「…マミさん…お待たせしました…」
私が、言って、マミさんの前に立つと、マミさんもまた、嬉しそうだった…
「…やっと、来たわね…」
マミさんが笑いながら、言う…
「…やっと…ですか?…」
「…そうよ…待つのは、案外、つらいものよ…」
マミさんが、笑う…
「…ちょうど、恋愛と同じね…好きになった男が、いつ来るか、いつ来るか、と、首を長くして、待っている…それと、同じ…」
マミさんが言う…
私はそれを、聞いて、思わず、笑った…
笑わずには、いられなかった…
なぜって、私が、ここにやって来るのと、恋愛をいっしょに、するなんて?
と、思ったからだ…
すると、すかさず、
「…なにが、おかしいの? …寿さん?…」
と、マミさんが、聞いた…
私は、躊躇うことなく、
「…それは、おかしいですよ…私と、恋愛をいっしょにするなんて…私は、男のひとじゃ、ありませんよ…」
と、笑いながら、言った…
それを、聞いて、マミさんは、驚いた顔をしたが、すぐに、
「…それは、そうね…」
と、言って、自分も笑った…
「…たしかに、変な例えよね…寿さんと、恋愛をいっしょにするなんて…たしかに、寿さんは、男のひとじゃ、ないんだから…」
「…そうですよ…」
私は、応じた…
「…それとも、マミさんが、今、そんなことを言ったのは、好きなひとでも、出来たんですか?…」
私は、笑いながら、言った…
もちろん、冗談だ…
が、
マミさんは、冗談とは、受け取らなかった…
「…それは、ない…」
と、真剣な表情で、言った…
「…それは、ないわ…寿さん…」
私は、マミさんが、あまりにも、真剣な表情で、言うから、驚いた…
こちらが、軽い冗談のつもりで、言ったにも、かかわらず、そう受け取らなかったことに、驚いた…
だから、私は、慌てて、
「…冗談ですよ…マミさん…冗談…」
と、言った…
言わずには、いられなかった…
軽い冗談を言ったつもりが、こんなにも、マミさんが、真剣に受け取るとは、思わなかったからだ…
「…冗談?…」
「…そうですよ…冗談です…」
そう言いながら、マミさんの反応を見た…
同時に、もしかしたら、マミさんの痛いところを突いた?
とも、気付いた…
恋愛を持ちだして、相手が、怒った場合は、その理由は、限られる…
恋愛に縁遠いか、あるいは、その真逆に、現在、恋愛しているかの、二択…
そして、怒り出したのは、恋愛をしていた場合は、おそらく、その恋愛を、秘密にしたいから…
あるいは、大っぴらに世間にできないから…
いわゆる不倫…
マミさんは、独身だから、相手は、妻子持ちの可能性が高い…
私は、そう、見た…
私は、そう、睨んだ…
そして、それに気づいたときに、もう一つのことに、気付いた…
このマミさん…
諏訪野マミさんは、兄の伸明と血が繋がってないことに、気付いたのだ…
おそらく、このマミさんは、その事実を知らない…
が、
それは、事実…
紛れもない事実だ…
伸明は、五井家、前当主、建造の子供ではない…
伸明の母、昭子が、建造と結婚したときに、すでに、昭子の母は、伸明を身籠っていた…
つまりは、伸明の父親は、別にいるということだ…
建造は、五井家当主にも、かかわらず、同じ一族のすでに、子供を身籠っている昭子と結婚した…
いや、
結婚せざるを得なかった…
本家の力が、弱かったからだ…
だから、分家の力に屈した…
本家に対して、分家が、束になって、かかってきたから、本家が、分家の圧力に屈した…
それが、後年、建造が、本家の力を増そうとした原点だった…
本当は、建造には、結婚を考えた女性がいた…
が、分家の圧力に抗しきれず、昭子と結婚せざるを得なかった…
そして、建造が結婚したかった女性こそ、本物の寿綾乃の母親だった…
私の叔母だった…
いや、建造のみならず、建造の弟の義春もまた、寿綾乃の母親に憧れていた…
それほどの美人だったのだ…
私は、それを、思い出した…
同時に、もしかしたら?
もしかしたら、建造は、すでに身籠っていた昭子との結婚が、嫌だったのでは?
と、思った…
これは、当たり前のことだ…
同じ一族だから、その方が、丸く収まるから、仕方なく、結婚した…
それが、とてつもなく、嫌だった可能性がある…
私が、これまで、それに気づかなかったのは、建造が、伸明を好いていたから…
自分と血が繋がった息子の秀樹ではなく、伸明を後継者とした…
それほど、伸明を好いていた…
だから、その可能性に、気付かなかった…
そういうことだ…
だが、普通は、誰が、考えても嫌に決まっている…
自分の子供でもない男の子供を身籠った女と結婚するのは、嫌に、決まっている…
が、
結婚せざるを得なかった…
だから、それが、原点で、建造が、本家の力を増そうとしたのも、納得できる…
が、
おそらくは、他の分家は、昭子が身籠っているのを知らなかったのではないか?
まさか、他の男の子供を身籠っているのが、わかっていて、結婚を強要するのは、考えづらい…
だから、もしかしたら、昭子自身、建造と結婚した当初は、自分が、妊娠していたことに、気付かなかった可能性もある…
そう、気付いた…
さすがに、自分が、これから、結婚する男とは、違う男の子供を身籠っていて、結婚する女は、いない…
いや、
実際には、明らかに、この世の中に、存在するが、そんな女は、ごく稀…
世の中に、それほど、面の皮が厚い女は、多くはない(笑)…
だから、普通に、考えて、建造と、結婚したときは、昭子は、伸明を身籠っていることを、知らなかったのでは、ないか?
そう、思った…
そして、おそらくは、なんらかのきっかけで、建造は、伸明が、自分の子供ではないと、気付いた…
そういうことに、違いない…
私は、考えた…
そして、そんなことを、考えていると、
「…なにを、考えているの? …寿さん?…」
と、マミが、聞いてきた…
当たり前のことだ…
私は、とっさに、
「…伸明さんのことです…」
と、即答した…
ちょうど、伸明のことを、聞く、いい機会だと、思ったのだ…
案の定、マミさんの顔色が曇った…
なにしろ、つい、さっき、雲隠れした伸明といっしょに、歩いていたのだ…
動揺が、顔色に表れても、不思議でも、なんでも、なかった…
マミは、案の定、
「…伸明さんのこと…」
と、トーンを落として、私の言葉を繰り返した…
それから、
「…伸明さんのなにを、考えていたの?…」
と、私を睨むように、聞いた…
まるで、私に探りを入れるように、聞いた…
私は、それに、驚いたが、とにかく、口に出した以上、なにか、言おうとしたら、ちょうど、スタバの店員が、やって来て、私たちに、注文を聞いた…
だから、話が、中断した…
「…ご注文は?…」
と、スタバの店員が、聞き、私は、
「…コーヒー」
と、頼み、マミさんも、
「…私も、コーヒーで、いいわ…」
と、続けた…
それで、肩の力が抜けたというか…
マミさんの表情も、穏やかになった…
うまくタイミングが、外れたからだ…
肩透かしにあったように、タイミングが外れたからだ…
それまでは、まるで、私を敵のように、見た…
私を警戒するように、見た…
が、
それが、収まり、いつもの表情に、戻った…
それゆえ、
「…さっきの話の続きですが…」
と、私は、口を開いた…
すると、マミさんも、表情も変えず、
「…伸明さんのことね…」
と、応じた…
「…ハイ…そうです…」
私は、答えた…
すると、途端に、
「…伸明さんは、経営者として、失格ね…」
と、マミさんが、言った…
これには、驚いた…
まさか、マミさんの口から、そんな言葉が出てくるとは、思わなかったからだ…
だから、驚いた…
そして、それが、私の表情に出たのだろう…
「…どうしたの? …寿さん? …そんな顔をして?…」
と、面白そうに、聞く…
「…いえ、まさか、マミさんから、そんな言葉を聞くなんて…」
私は、答えた…
が、マミは、
「…だって、そうでしょ?…雲隠れするなんて…」
と、答えた…
「…雲隠れ…」
「…自分にやましいところが、なければ、堂々と、現れれば、いい…記者会見でも、なんでもすればいい…それができないのは、経営者として、失格…なにか、後ろめたいことでも、あるのかと、世間が邪推する…」
マミさんが、一気に言った…
そして、それは、いつものマミさんだった…
いつもの堂々と正論を述べるマミさんだった…
それを、見て、私は、安心した…
マミさんは、マミさん…
なにも、変わってないと、思ったからだ…
だから、安心した…
そして、そんなことを、考えていると、
「…とにかく、経営者として、失格…」
と、マミさんが、声を上げた…
それを、聞いて、あらためて、このマミさんも経営者だったと、気付いた…
五井から、資金を提供されて、自分の会社を興した経営者だと、気付いた…
このマミさんが、五井の人間にもかかわらず、五井系列の会社に入らなかったのは、彼女が、五井の正当な血筋ではないこと…
前五井家当主の建造の、外で、愛人との間にできた娘だからだ…
だから、五井系列の会社に勤め、それが、もしバレると、彼女が、肩身が狭い思いをするに、違いないと考えた建造が、資金を提供して、彼女に会社を興させた…
また、彼女の性格上、他人の下につくことが、苦手…
さらに、愛人の子供ということで、反骨精神が、盛んな女でもあった…
子供の頃に、その事実を知った学校で、苛めを受けた過去があると、以前、私に言っていた…
だから、弱いものいじめや、他人をバカにすることが嫌い…
常に正しいことを、言う…
そうすれば、誰も反論できないからだ…
だからだろう…
今、伸明さんを、非難した…
伸明に非があるからだ…
だから、非難した…
私は、そう、思った…
すると、マミさんが、
「…いくら、伸明さんが、寿さんを、好きだといっても、やりすぎ…」
と、言葉を続けた…




