寿綾乃という女 第3部 27
いや、
思い出さずには、いられなかった…
私が、ナオキと正式に結婚さえ、していれば、ナオキに会いに行ける…
あらためて、そう、思った…
思わずには、いられなかった…
が、
そんなことを、いつまでも、思っていても、仕方がない…
そんなことを、いつまでも、考えていても、仕方がない…
問題は、これから、どうするか?
だ…
問題は、これから、どう行動するか?
だ…
そして、考えたのは、やはり、五井家…
諏訪野伸明しか、いなかった…
頼れる人間は、伸明しか、いなかった…
が、
その伸明は、雲隠れしていると、諏訪野マミが、言っていた…
伸明の腹違いの妹のマミさんが、言っていた…
今回の融資の件で、警察や、マスコミに、批判にさらされるかも、しれないと、考えて、いち早く雲隠れしたと、言っていた…
ならば、どうする?
頼れる者は、伸明以外、見つからない…
いや、
もしかしたら?
もしかしたら、それ以外の当てがある!
それは、五井家…
五井の女帝、諏訪野和子だ…
伸明の叔母の和子だ…
あの女傑なら、なんとか、してくれるかも、しれない…
もっと、言えば、私が、これから、どう動けば、いいのか?
教えてくれるかも、しれない…
が、
さすがに、和子に連絡を取ることは、できなかった…
和子は、おそらく、私とナオキの関係を知っているだろう…
私とナオキが、長年、男女の関係にあったことを、知っているだろう…
そんな女が、自分の事実上のパートナーだった男を、助けてくれ! と、泣きを入れても、なんとも、調子のいい女としか、私を見ないだろう…
なんといっても、伸明が、私を好きだから、私は、五井家の人間と知り合ったのだ…
厳密には、従妹の本物の寿綾乃が、五井家の血を引いていたから、それで、五井家の人間と知り合ったのだが、それが、間違いであったことが、わかっても、五井家の人間と、関係が、途切れなかったのは、伸明が、私を好きだから…
こんなことを、口にするのは、恥ずかしいが、五井家当主が、私に好意を持ってくれているから、今も五井家の人間と、関係が、続いている…
それが、答えだからだ…
その五井家当主が、好意を持っている女が、自分の好きな男が、危機に陥っているから、助けてくれと、頼むのは、なんとも、虫が、良すぎるというか…
五井家の人間の立場で、いえば、開いた口が塞がらないに、違いない…
それは、あまりにも、自分勝手…
自分のことしか、考えないからだ…
少なくても、私が、和子の立場なら、そんな女は、御免…
いかに、五井家当主である、伸明が、好意を持っているとしても、そんな女は、御免だ…
とてもではないが、五井家の当主の妻にふさわしいとは、思えない…
いや、
そもそも、私が、伸明と結婚できるはずがない…
私は、平民…
平民=普通の人間だ…
大学も出ていない…
学歴もない…
頭も良くない…
おまけに、なりすましだ…
従妹の寿綾乃のなりすましだ…
そんな女が、天下の五井家当主と、結婚できるはずがない…
さすがに、そんなバカな話はない…
当たり前のことだ…
が、
それを、置いておいても、やはりいうか…
すでに、何度も言うように、私の立場で、五井家に、助けを求めることは、できなかった…
いかに、五井家当主が、私に好意を寄せていても、できなかった…
私が、好きだった男を、お願いだから、助けてくれと、自分に、好意を持つ男の一族に頼むのは、あまりにも、虫が良すぎるからだ…
だから、できなかった…
できなかったのだ(涙)…
三日が経った…
世間では、ナオキが、逮捕された、ニュースが、かまびすしかった…
これは、ある意味、当たり前だった…
藤原ナオキは、有名人…
週に一度、ニュース番組のコメンテーターをしていて、テレビに出ていたからだ…
だから、有名人…
その有名人が、逮捕されたのだ…
話題にならないはずが、なかった…
まして、藤原ナオキは、長身のイケメン…
これもあって、話題にならないはずが、なかった…
ひとは、どうしても、ルックスにこだわる(笑)…
藤原ナオキが、IT企業の創業社長で、お金持ちといっても、たかだか、従業員は、千人程度…
ソフトバンクの孫や、楽天の三木谷から比べれば、比較にならない…
孫や三木谷から見れば、吹けば飛ぶような小さな会社…
小さな=チンケな会社と言い直しても、いい(苦笑)…
が、
ナオキには、孫や、三木谷には、ないものが、ある…
それは、若さとルックス…
この二つは、孫や、三木谷には、悪いが、どう頑張っても、手に入れることが、できないものだからだ…
藤原ナオキは、ルックスが、いいから、コメンテーターの仕事が、舞い込み、それゆえ、知名度が、抜群になって、それを、武器に、自分の会社が、有名になり、売り上げも上がり、会社の規模が、大きくなった…
まさに、好循環だった…
好循環の極みだった…
いわば、ナオキは、自分のルックスを武器に、会社を大きくしたのだ…
が、
それも、今回の逮捕をきっかけに、暗転…
頓挫した…
その結果、会社の将来に暗雲が、立ち込めてきたと、言わざるを得ないかも、しれない…
この先、会社が、どうなるか?
けだし、見物だ…
言葉は、悪いが、見物だ…
ホントは、こんな言葉は、使うのは、おかしい…
なぜなら、私は、藤原ナオキに寄り添う立場の人間だからだ…
藤原ナオキの側の人間だからだ…
それが、まるで、他人事のように、会社の将来を語る…
が、
それで、いい…
なぜなら、他人事のように、語ることが、できなければ、客観的に、物を見ることが、できないからだ…
だから、いい…
ひとは、どうしても、自分に都合よく、考える…
例えば、会社で言えば、高卒の新入社員が、周りの人間より、飲み込みが早く、手が早く、早く仕事を終えることが、できれば、将来、出世できると、簡単に考える…
それは、末端の仕事で、単純な作業だから、飲み込みが早く、手が早ければ、できる仕事だとは、本人は、全然、思わない…
これを、単純に、ステップアップの一つだと、考える…
つまりは、これが、できれば、次に、もう一段上の仕事を、任され、さらに、その次には、さらに、もう一段上の仕事を任されると、考える…
究極のところ、単純に、自分が、優れていると、考える…
だから、簡単に、将来、主任になり、課長になり、部長になりと、ステップアップする自分の将来を夢見る…
そして、なにより、問題なのが、単純に、その仕事が、できたから、自分は、優れていると、考えること…
周囲の人間の能力など、考えもしない(笑)…
普通ならば、自分の学歴は、どうで、相手の学歴は、どうでと、考えるが、そんなことは、考えもしない…
命じられたことが、できるから、自分は、優れている…
基準は、それだけ…
ただ、それだけだ(笑)…
要するに、それだけの人間だ…
出世とは、無縁の人間…
そして、そういう人間ほど、出世に強い憧れを抱いている…
私は、それを、見て、
「…なぜ、そんなことを、考えるのだろう?…」
と、当時、疑問だった…
正直、わけがわからなかった…
が、
その後、時間が経って、わかった…
要するに、自分の能力も、他人の能力も、わからないのだ…
命じられた仕事が、完璧にできる…
だから、
…オレ=アタシは、優れている…
と、考える…
周囲の人間の能力は、見ない…
あるいは、
見れない…
だから、わからない…
そういうことだ…
そして、おそらく、その根底には、コンプレックスがある…
自分は、高卒だから、勉強では、大卒に負けたが、仕事では、負けないと、考える…
が、
そもそも、単純な、仕事だから、自分でも、簡単にできたとは、微塵も考えない…
難しい論文やリポートを書くのでは、ないだから、自分でも、できたとは、全く、考えない(笑)…
それが、問題だ(爆笑)…
これは、以前も書いたかも、しれないが、私には、驚きだった…
そんな人間は、それまで、会ったことがないからだ…
私は、いつも、なにかを、考えるときに、そのことを、思い出す…
なぜなら、その前も、その後も、そんな人間は、見たことが、なかったからだ…
だから、思い出す…
そして、もし、そんな人間が、今の私の立場ならば、どうだろう?
と、考える…
きっと、藤原ナオキは、お金持ちだし、簡単に、保釈されて、その後も、何事もなかったように、仕事を続けて、いけると、簡単に考えるだろう…
あるいは、そこまで、簡単に考えずとも、数年経てば、今回の件は、なかったことに、なるかも、しれないと、楽観的に考えるだろう…
つまりは、どこまでも、甘く見る…
どこまでも、自分に都合の良い未来を考える…
そういうことだろう…
そして、それを、思えば、その人間たちは、私にとって、反面教師だった…
彼ら=彼女らのように、なっては、ならないと、いう反面教師だった…
そして、彼ら=彼女らならば、今の私の立場ならば、どう考えるだろう…
今の私の立場といったのは、藤原ナオキの件での、諏訪野伸明のことだ…
つまりは、伸明に連絡をとって、
「…ナオキを、どうにか、して!…」
と、言えば、なんとか、してくれると、簡単に考えるだろう…
諏訪野伸明に頼めば、きっと、有力な弁護士を紹介して、もらったり、警察や検察のОBに頼んで、動いて、もらったり、できると、簡単に考えるだろう…
なにしろ、伸明は、五井家当主…
日本で知らない者は、いない、お金持ちだからだ…
だから、簡単にできると、考える…
物事を、物凄く、単純に考える…
物事を、自分有利に考える…
そういうことだろう…
そもそも、私が、長年、ナオキと男女の関係にあったことは、伸明も、気付いている…
いかに、ナオキと、伸明が、仲が良くても、ナオキと、そんな関係のあった女に頼まれたからと、いって、伸明は、簡単に動いてくれるだろうか?
とは、考えない…
むしろ、伸明は、私が、好きだから、私の頼みならば、なんでも、聞いてくれるに、違いないと、考えるだろう…
どこまでも、自分有利に考えるだろう…
そして、そんなことを、考えるたびに、ある意味、彼ら=彼女らに感謝した…
決して、自分は、彼ら=彼女らのようには、ならないと、肝に銘じたからだ…
だから、彼ら=彼女らとは、真逆に、最悪の事態を考える…
最悪、今回の藤原ナオキの逮捕を、きっかけに、FK興産が、倒産…
そして、私もナオキも、路頭に迷う…
そんな未来を考える…
考えたくもない、未来を、思い浮かべる…
そういうことだった…
どこまでも、自分の見たくない未来を見る…
そういうことだった…




