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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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27/122

寿綾乃という女 第3部 27

いや、


 思い出さずには、いられなかった…


 私が、ナオキと正式に結婚さえ、していれば、ナオキに会いに行ける…


 あらためて、そう、思った…


 思わずには、いられなかった…


 が、


 そんなことを、いつまでも、思っていても、仕方がない…


 そんなことを、いつまでも、考えていても、仕方がない…


 問題は、これから、どうするか?


 だ…


 問題は、これから、どう行動するか?


 だ…


 そして、考えたのは、やはり、五井家…


 諏訪野伸明しか、いなかった…


 頼れる人間は、伸明しか、いなかった…


 が、


 その伸明は、雲隠れしていると、諏訪野マミが、言っていた…


 伸明の腹違いの妹のマミさんが、言っていた…


 今回の融資の件で、警察や、マスコミに、批判にさらされるかも、しれないと、考えて、いち早く雲隠れしたと、言っていた…


 ならば、どうする?


 頼れる者は、伸明以外、見つからない…


 いや、


 もしかしたら?


 もしかしたら、それ以外の当てがある!


 それは、五井家…


 五井の女帝、諏訪野和子だ…


 伸明の叔母の和子だ…


 あの女傑なら、なんとか、してくれるかも、しれない…


 もっと、言えば、私が、これから、どう動けば、いいのか?


 教えてくれるかも、しれない…


 が、


 さすがに、和子に連絡を取ることは、できなかった…


 和子は、おそらく、私とナオキの関係を知っているだろう…


 私とナオキが、長年、男女の関係にあったことを、知っているだろう…


 そんな女が、自分の事実上のパートナーだった男を、助けてくれ! と、泣きを入れても、なんとも、調子のいい女としか、私を見ないだろう…


 なんといっても、伸明が、私を好きだから、私は、五井家の人間と知り合ったのだ…


 厳密には、従妹の本物の寿綾乃が、五井家の血を引いていたから、それで、五井家の人間と知り合ったのだが、それが、間違いであったことが、わかっても、五井家の人間と、関係が、途切れなかったのは、伸明が、私を好きだから…


 こんなことを、口にするのは、恥ずかしいが、五井家当主が、私に好意を持ってくれているから、今も五井家の人間と、関係が、続いている…


 それが、答えだからだ…


 その五井家当主が、好意を持っている女が、自分の好きな男が、危機に陥っているから、助けてくれと、頼むのは、なんとも、虫が、良すぎるというか…


 五井家の人間の立場で、いえば、開いた口が塞がらないに、違いない…


 それは、あまりにも、自分勝手…


 自分のことしか、考えないからだ…


 少なくても、私が、和子の立場なら、そんな女は、御免…


 いかに、五井家当主である、伸明が、好意を持っているとしても、そんな女は、御免だ…


 とてもではないが、五井家の当主の妻にふさわしいとは、思えない…


 いや、


 そもそも、私が、伸明と結婚できるはずがない…


 私は、平民…


 平民=普通の人間だ…


 大学も出ていない…


 学歴もない…


 頭も良くない…


 おまけに、なりすましだ…


 従妹の寿綾乃のなりすましだ…


 そんな女が、天下の五井家当主と、結婚できるはずがない…


 さすがに、そんなバカな話はない…


 当たり前のことだ…


 が、


 それを、置いておいても、やはりいうか…


 すでに、何度も言うように、私の立場で、五井家に、助けを求めることは、できなかった…


 いかに、五井家当主が、私に好意を寄せていても、できなかった…


 私が、好きだった男を、お願いだから、助けてくれと、自分に、好意を持つ男の一族に頼むのは、あまりにも、虫が良すぎるからだ…


 だから、できなかった…


 できなかったのだ(涙)…


 

 三日が経った…


 世間では、ナオキが、逮捕された、ニュースが、かまびすしかった…


 これは、ある意味、当たり前だった…


 藤原ナオキは、有名人…


 週に一度、ニュース番組のコメンテーターをしていて、テレビに出ていたからだ…


 だから、有名人…


 その有名人が、逮捕されたのだ…


 話題にならないはずが、なかった…


 まして、藤原ナオキは、長身のイケメン…


 これもあって、話題にならないはずが、なかった…


 ひとは、どうしても、ルックスにこだわる(笑)…


 藤原ナオキが、IT企業の創業社長で、お金持ちといっても、たかだか、従業員は、千人程度…


 ソフトバンクの孫や、楽天の三木谷から比べれば、比較にならない…


 孫や三木谷から見れば、吹けば飛ぶような小さな会社…


 小さな=チンケな会社と言い直しても、いい(苦笑)…


 が、


 ナオキには、孫や、三木谷には、ないものが、ある…


 それは、若さとルックス…


 この二つは、孫や、三木谷には、悪いが、どう頑張っても、手に入れることが、できないものだからだ…


 藤原ナオキは、ルックスが、いいから、コメンテーターの仕事が、舞い込み、それゆえ、知名度が、抜群になって、それを、武器に、自分の会社が、有名になり、売り上げも上がり、会社の規模が、大きくなった…


 まさに、好循環だった…


 好循環の極みだった…


 いわば、ナオキは、自分のルックスを武器に、会社を大きくしたのだ…


 が、


 それも、今回の逮捕をきっかけに、暗転…


 頓挫した…


 その結果、会社の将来に暗雲が、立ち込めてきたと、言わざるを得ないかも、しれない…


 この先、会社が、どうなるか?


 けだし、見物だ…


 言葉は、悪いが、見物だ…


 ホントは、こんな言葉は、使うのは、おかしい…


 なぜなら、私は、藤原ナオキに寄り添う立場の人間だからだ…


 藤原ナオキの側の人間だからだ…


 それが、まるで、他人事のように、会社の将来を語る…


 が、


 それで、いい…


 なぜなら、他人事のように、語ることが、できなければ、客観的に、物を見ることが、できないからだ…


 だから、いい…


 ひとは、どうしても、自分に都合よく、考える…


 例えば、会社で言えば、高卒の新入社員が、周りの人間より、飲み込みが早く、手が早く、早く仕事を終えることが、できれば、将来、出世できると、簡単に考える…


 それは、末端の仕事で、単純な作業だから、飲み込みが早く、手が早ければ、できる仕事だとは、本人は、全然、思わない…


 これを、単純に、ステップアップの一つだと、考える…


 つまりは、これが、できれば、次に、もう一段上の仕事を、任され、さらに、その次には、さらに、もう一段上の仕事を任されると、考える…


 究極のところ、単純に、自分が、優れていると、考える…


 だから、簡単に、将来、主任になり、課長になり、部長になりと、ステップアップする自分の将来を夢見る…


 そして、なにより、問題なのが、単純に、その仕事が、できたから、自分は、優れていると、考えること…


 周囲の人間の能力など、考えもしない(笑)…


 普通ならば、自分の学歴は、どうで、相手の学歴は、どうでと、考えるが、そんなことは、考えもしない…


 命じられたことが、できるから、自分は、優れている…


 基準は、それだけ…


 ただ、それだけだ(笑)…


 要するに、それだけの人間だ…


 出世とは、無縁の人間…


 そして、そういう人間ほど、出世に強い憧れを抱いている…


 私は、それを、見て、


 「…なぜ、そんなことを、考えるのだろう?…」


 と、当時、疑問だった…


 正直、わけがわからなかった…


 が、


 その後、時間が経って、わかった…


 要するに、自分の能力も、他人の能力も、わからないのだ…


 命じられた仕事が、完璧にできる…


 だから、


 …オレ=アタシは、優れている…


 と、考える…


 周囲の人間の能力は、見ない…


 あるいは、


 見れない…


 だから、わからない…


 そういうことだ…


 そして、おそらく、その根底には、コンプレックスがある…


 自分は、高卒だから、勉強では、大卒に負けたが、仕事では、負けないと、考える…


 が、


 そもそも、単純な、仕事だから、自分でも、簡単にできたとは、微塵も考えない…


 難しい論文やリポートを書くのでは、ないだから、自分でも、できたとは、全く、考えない(笑)…


 それが、問題だ(爆笑)…


 これは、以前も書いたかも、しれないが、私には、驚きだった…


 そんな人間は、それまで、会ったことがないからだ…


 私は、いつも、なにかを、考えるときに、そのことを、思い出す…


 なぜなら、その前も、その後も、そんな人間は、見たことが、なかったからだ…


 だから、思い出す…


 そして、もし、そんな人間が、今の私の立場ならば、どうだろう?


 と、考える…


 きっと、藤原ナオキは、お金持ちだし、簡単に、保釈されて、その後も、何事もなかったように、仕事を続けて、いけると、簡単に考えるだろう…


 あるいは、そこまで、簡単に考えずとも、数年経てば、今回の件は、なかったことに、なるかも、しれないと、楽観的に考えるだろう…


 つまりは、どこまでも、甘く見る…


 どこまでも、自分に都合の良い未来を考える…


 そういうことだろう…


 そして、それを、思えば、その人間たちは、私にとって、反面教師だった…


 彼ら=彼女らのように、なっては、ならないと、いう反面教師だった…


 そして、彼ら=彼女らならば、今の私の立場ならば、どう考えるだろう…


 今の私の立場といったのは、藤原ナオキの件での、諏訪野伸明のことだ…


 つまりは、伸明に連絡をとって、


「…ナオキを、どうにか、して!…」


と、言えば、なんとか、してくれると、簡単に考えるだろう…


諏訪野伸明に頼めば、きっと、有力な弁護士を紹介して、もらったり、警察や検察のОBに頼んで、動いて、もらったり、できると、簡単に考えるだろう…


なにしろ、伸明は、五井家当主…


日本で知らない者は、いない、お金持ちだからだ…


だから、簡単にできると、考える…


物事を、物凄く、単純に考える…


物事を、自分有利に考える…


そういうことだろう…


そもそも、私が、長年、ナオキと男女の関係にあったことは、伸明も、気付いている…


いかに、ナオキと、伸明が、仲が良くても、ナオキと、そんな関係のあった女に頼まれたからと、いって、伸明は、簡単に動いてくれるだろうか?


とは、考えない…


むしろ、伸明は、私が、好きだから、私の頼みならば、なんでも、聞いてくれるに、違いないと、考えるだろう…


どこまでも、自分有利に考えるだろう…


そして、そんなことを、考えるたびに、ある意味、彼ら=彼女らに感謝した…


決して、自分は、彼ら=彼女らのようには、ならないと、肝に銘じたからだ…


だから、彼ら=彼女らとは、真逆に、最悪の事態を考える…


最悪、今回の藤原ナオキの逮捕を、きっかけに、FK興産が、倒産…

 

そして、私もナオキも、路頭に迷う…


そんな未来を考える…


考えたくもない、未来を、思い浮かべる…


そういうことだった…


どこまでも、自分の見たくない未来を見る…


そういうことだった…


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