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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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26/122

寿綾乃という女 第3部 26

「…男心が、わかってない? …それ、どういう意味?…」


 「…ボクは、綾乃さんが、好きだよ…」


 「…だったら、なぜ?…」


 「…諏訪野さんの方が、ボクより、綾乃さんを幸せにできるからだよ…」


 「…幸せに?…」


 「…そう…」


 「…」


 「…だって、考えてみて…綾乃さん?…」


 「…なにを、考えるの?…」


 「…諏訪野さんは、五井家当主だよ…ボクなんて、比べ物にならない…この日本でも、有数のお金持ちだ…綾乃さんに、とって、これ以上の相手は、巡り会えないよ…」


 「…それだから、ナオキ…アナタは、身を引くというの…」


 「…そうだ…」


 「…バカバカしい…」


 私は、吐き捨てた…


 「…なにが、バカバカしいの?…」


 「…ナオキ…アナタに、私の結婚を世話してもらうつもりは、ないわ…私は、私…私が、誰と結婚しようが、誰からの指図も、受けない!…」


 私は勢い込んで言った…


 力を込めて、言った…


 すると、ナオキは、


 「…」


 と、黙った…


 言葉が、見つからなかったのかも、しれない…


 いや、


 ナオキの気持ちは、わかる…


 よく、わかる…


 痛いほど、わかる…


 が、


 それと、これとは、別…


 別だ…


 私は、私以外の人間に、私の結婚うんぬんを、持ちだされるのは、嫌だった…


 堪らなく、嫌だった…


 これは、誰もが、いっしょだろう…


 例えば、都会で、働く、若い男や女が、年末や夏休みに、田舎に帰省するたびに、


 「…いいひと、いないの?…」


 とか、


 「…結婚はまだ?…」


 とか、両親に言われ続ければ、気が滅入る(苦笑)…


 それと、同じだ…


 まして、ナオキのように、結婚をしていなくても、事実上のパートナーの男性に、今回のようなことを、言われれば、頭に来る…


 そういうことだ…


 私は、思った…


 そして、そんなことを、考えていると、


 「…やっぱり、綾乃さんだ…」


 と、電話の向こう側から、苦笑する声が、聞こえてきた…


 「…エッ? …なに? …どういうこと?…」


 「…綾乃さんは、綾乃さん…病気になっても、なにも、変わらない…」


 苦笑する声が、聞こえてきた…


 「…これで、安心した…」


 「…安心って?…」


 「…ボクが、余計な世話をしなくても、綾乃さんは、大丈夫だってこと…」


 「…余計な世話?…」


 「…結婚も、そう…諏訪野さんに、限らず、誰も、綾乃さんに、紹介できない…」


 「…どういう意味?…」


 「…綾乃さんは、自分の足で、歩く…」


 「…自分の足?…」


 「…他人は、関係ない…」


 「…関係ない?…」


 「…すべて、自分で、決め…自分で、動く…他人は、一切、頼らない…」


 「…」


 「…正直、頼りになるが、男としては、少々、残念というか…」


 「…どうして、残念なの?…」


 「…それは、やっぱり、男だから、女のひとに、頼られたい…」


 「…」


 「…でも、綾乃さんは、男に頼る女じゃない…」


 「…」


 「…でも、それがいい…」


 「…どうして、いいの?…」


 「…それが、綾乃さん、らしくて、いい…」


 「…私らしくて、いい?…」


 「…寿綾乃さんらしくて、いい…」


 ナオキが、しんみりとした口調で、言った…


 そして、それを、最後に、電話が、切れた…


 私は、どうして、ナオキが、電話を、かけてきたのか、わからなかった…


 いや、


 それ以上に、今、ナオキが、どこに、いるか、聞くべきだった…


 が、


 聞けなかった…


 ナオキが、一方的に、私の心配をしていたからだ…


 だから、聞けなかった…


 いや、


 たとえ、聞いたとしても、答えなかったに、違いない…


 ナオキは、長身のイケメンだが、一見、ひ弱そうに、見える…


 が、


 芯は、強い…


 当たり前だ…


 一見、ひ弱そうに、見えても、実は、強くなければ、経営者として、成功は、できない…


 当たり前のことだ…


 だから、いかに、私が、


 「…ナオキ…アナタ、今、どこにいるの?…」


 と、聞いても、決して、答えなかったに違いない…


 私が聞いても、答えるのは、答えていいものだから…


 答えては、いけないと、思えば、答えない…


 当たり前のことだ…


 そんな当たり前のことが、できなければ、経営者として、成功できるわけがない…


 いかに、好きな女から、聞かれても、簡単に、ベラベラ、しゃべっては、経営者として、成功できるわけがない…


 私は、思った…


 そして、その電話が、ナオキと話した最後の電話になった…


 藤原ナオキが、突然、逮捕されたからだ…


 罪名は、業務上、横領…


 会社の金を、勝手に使い込んだと、言われた…


 私は、まさか?


 まさか、ナオキが、そんなことを?


 と、思った…


 が、


 たしかに、予兆は、あったというか…


 私を、FK興産の非常勤の取締役にしたのが、その予兆だったのかも、しれない…


 あるいは、


 その証拠だったのかも、しれない…


 なぜなら、公私混同というのか?


 それは、私をFK興産の非常勤の取締役にしたから…


 たかだか、長年、秘書をしてきたに、過ぎない私を非常勤の取締役にしたから…


 いくら、会社の創業時から、いっしょに、仕事をしていても、さすがに、それは、やりすぎだろ?


 と、思われても、仕方がない…


 なにより、私とナオキが、長年、男女の関係にあることは、会社の中でも、知っている者は、知っている…


 そんな女を、非常勤の取締役にするのは、やはり、会社を私物化していると、思われても、仕方がない(笑)…


 まあ、これが、私が、正式に、ナオキの妻だったら、他人に、どうのこうの、言われることも、なかったかも、しれない…


 学歴がなかろうと、仕事のキャリアがなかろうと、社長の妻なら、正式に、取締役の一人として、会社にいても、おかしくはない…


 まして、FK興産は、藤原ナオキの創った会社…


 株式の大半は、ナオキが、持っている…


 いや、


 大半といったのは、残りは、ユリコが、持っているからだ…


 ナオキの別れた妻、藤原ユリコが、持っているからだ…


 私は、思った…


 そして、そんなことを、思いながら、これから、私は、どうすべきか、考えた…


 これから、私は、どう行動するべきか?


 悩んだ…


 ナオキは、警察にいる…


 だとしたら、今すぐにでも、ナオキに、面会に行くべきだろうか?


 考えた…


 今は、警察の留置場にいるだろう…


 だったら、今すぐにでも、会いに行くべきだろうか?


 悩んだ…


 が、


 行っては、藪蛇になるだけかも、しれない…


 ふと、気付いた…


 ナオキに会いに行けば、当たり前だが、ナオキと、どんな関係にあるか?


 調べられる…


 当たり前だ…


 そのときに、長年、ナオキの秘書をしていたと、名乗れば、面会はできるだろう…


 が、


 同時に、私の素性を調べるだろう…


 素性というのは、私が、寿綾乃ではなく、矢代綾子だと、いうことではない(苦笑)…


 私が、ナオキの事実上の内縁の妻だったということ…


 その事実だ…


 そして、その私が、今、会社の登記簿を、見れば、非常勤の取締役になっているのが、確認できる…


 半年ちょっと前に、FK興産を退職しているにも、かかわらず、だ…


 それが、わかれば、これは、異常と考えるだろう…


 一度は、退職した女を、少し間を置いてから、今度は、会社の非常勤の取締役にする…


 いかに、長年、いっしょに、仕事をしてきたとは、いえ、たかだか、秘書に過ぎない女を、だ…


 誰が、どう考えても、おかしい…


 これでは、世間に納得できる説明は、できない…


 そう、考える…


 ならば、ホントは、もっと前に、正式に、ナオキと籍を入れておくべきだったのでは、ないか?


 正式に、結婚するべきだったのではないか?


 今さらながら、思った…


 今さらながら、考えた…


 が、


 それは、できなかった…


 たしかに、会社では、ほぼ創業時から、私は、ナオキを、手伝ってきた…


 おまけに、数年経って、ナオキの妻である、ユリコさんが、失踪…


 突然、いなくなった…


 だから、私は、ユリコさんの後釜となり、ナオキの家庭に入った…


 私自身は、そのつもりがなかったが、幼いジュン君の面倒を見るものが、いなかったからだ…


 すでに、ナオキと男女の関係にあった私しか、ジュン君の面倒を見る者がいなかった…


 なにより、ジュン君は、よく会社に来て、近くで、遊んでいた…


 夫のナオキと妻のユリコさんが、いたからだ…


 会社もまだ小さく、社長である、ナオキの家が、自宅兼仕事場だった…


 だから、幼いジュン君が、仕事場にやって来るのは、当然と言えた…


 そして、私が、よくジュン君の面倒を見た…


 ハッキリ言えば、その当時の私は、総務全般というか…


 庶務全般というか…


 プログラミング一つできない私では、仕事とは、いえ、できることは、それぐらいだったからだ(笑)…


 だから、これまで、何度も説明したように、ユリコさんが失踪した当時、私が、ユリコさんの代わりに、ナオキの家庭に入り、ジュン君の面倒を見るのは、いわば規定路線だった(苦笑)…


 が、


 会社が、軌道に乗り、どんどん会社が、大きくなるにつれて、ナオキの女遊びも派手になった…


 使える金が増えたからだ…


 女は、金がある男が好き…


 これは、当たり前…


 おまけに、ナオキは、長身のイケメン…


 モテないはずが、なかった(笑)…


 だから、私は、ナオキと結婚できなかった…


 今さらながら、思う…


 結婚さえ、していれば、堂々とナオキに面会に行けたと、思う…


 結婚さえ、していれば、私が、非常勤の取締役になっても、誰も、怪しまなかったと、思う…


 が、


 できなかった…


 ナオキの女遊びが、激しかったからだ…


 今になって、思えば、それが、ナオキのストレス発散だったのだと、理解できる…


 仕事で抱えたストレスを、女で、発散していたのかも、しれない…


 が、


 女には、モテなかった…


 なぜなら、当時、ナオキが、相手したのは、玄人の女性ばかり…


 玄人の女性が、目当てなのは、お金だからだ(笑)…


 だから、金を取られて、捨てられた…

 

 すると、今度は、別の女に行く…


 そして、金を取られて、捨てられる…


 その繰り返しだった(苦笑)…


 それを、目の当たりにして、とてもではないが、ナオキとの結婚など、考えられなかった…


 そういうことだ…


 そして、今、ナオキが、逮捕されたニュースを見て、あらためて、当時のことを、思い出していた…


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