寿綾乃という女 第3部 2
ジュン君は、かつて、私を殺そうとした…
自分の運転するクルマで、私をはねて、ひき殺そうとした…
原因は、ユリコにある…
かつて、私は、FK興産の社長室で、ユリコと言い争いになった…
FK興産というのは、ユリコの夫だった藤原ナオキが、創業した会社…
社員千人のIT企業だ…
Fは、藤原ナオキのF…
Kは、私、寿綾乃のK…
これは、二人だけの秘密…
が、
当然、ユリコは、それに、気付いた…
ナオキは、社長…
私、寿綾乃は、社長秘書…
それが、会社での二人の立ち位置だった…
しかし、それも、長く続かなかった…
FK興産の社長室で、私は、ユリコに、私の正体をバラされた…
社長である、藤原ナオキの前で、バラされた…
私が、寿綾乃ではなく、矢代綾子だと、バラされた…
そして、その結果、今度は、私が、ユリコに反撃した…
「…ジュン君は、誰の子供ですか?…」
と、言って、ユリコに反撃した…
ユリコは、動揺した…
まさか、私から、いきなり、そんなことを言われるとは、思っても、みなかったからだ…
ユリコは、最初、否定した…
「…ナオキの子供に決まっているでしょ!…」
と、強く言い張った…
が、
「…私が、おかしいんですよ…」
と、言うと、
「…なにが、おかしいの?…」
と、聞いてきた…
これは、当たり前だった…
「…だって、ユリコさん…およそ十年振りに、ジュン君や、ナオキと、再会したわけですよね…だったら、ジュン君や、ナオキと、食事をしたり、3人で、どこかに、出かけるはずです…でも、全然、それがない…だから、おかしいと、思ったんです…」
私が、言うと、彼女の顔色が変わった…
「…だから、もしかしたら、ジュン君は、ナオキの息子じゃないんじゃないか? と、思ったんです…」
と、言った…
そして、それを、同僚の菊池さんが、陰で、聞いていた…
菊池リンが、陰で、聞いていた…
そして、彼女こそ、五井家が、私に放ったスパイだった…
本物の寿綾乃は、五井一族の血を引く娘…
あの日本の頂点に立つ、五井一族の血を引く娘だった…
だから、母は、私に、
「…従妹の綾乃ちゃんになりすませ…」
と、言ったのだ…
そして、今、なぜ、長々と、こんな話を続けているのか?
それは、ユリコの私に対する態度を言いたかったからだ…
すでに、説明したように、ユリコの息子のジュン君は、私をクルマで、ひき殺そうとした…
その原因は、ユリコにある…
私が、
「…ジュン君は、誰の子供ですか?…」
と、社長室で、ユリコに聞いたのを、陰で、聞いていた菊池リンが、当のジュン君に、告げたのだ…
ジュン君と菊池リンは、一時だが、付き合った…
そして、それは、おそらく、菊池リンが、私を探るため…
私は、ジュン君の母親代わりだし、ジュン君といっしょに、暮らしていた…
ユリコが、突然、ナオキとジュン君の元から、姿を消したからだ…
だから、私が、ナオキの家庭に入り、小学生のジュン君の母親代わりになった…
そして、大人になったジュン君と、何度か、男女の関係になったこともある(苦笑)…
とにかく、菊池リンは、ジュン君の連絡先を知っていた…
そして、菊池リンから、自分が、ナオキの息子ではないと、知ったジュン君は、パニックになった…
気の弱いジュン君は、どうしていいか、わからず、ナオキが経営する会社である、FK興産まで、クルマで、やって来た…
そこで、偶然、正体を暴露された私が、会社を辞めると、ナオキに告げて、呆然と、街中を、歩いている姿に出くわした…
それで、衝動的に、私をひき殺そうとしたのだ…
結果、私は、入院したが、事故で、死ぬほどの大けがではなかった…
むしろ、それ以前に発病した癌の方が、問題だった…
そして、癌は、オーストラリアまで、行き、日本では、認められていない、最先端の医療で、治療までしたが、完治することは、なかった…
だから、今もって、癌持ちの患者…
いつ、死ぬか、わからぬ身だ…
と、話は、私について、つい、語ったが、本題は、ジュン君のことだ…
ジュン君は、警察に逮捕され、それを、知ったユリコは、一転して、私に優しくなった…
ジュン君は、私を殺そうとしたのだから、事件は、当然、刑事事件となる…
そして、裁判所で、刑を軽くしてもらうためには、被害者である、私から、一言、
「…許す…」
と、言ってもらいたかったのだ…
法律用語で、
「…宥恕する…」
と、被害者から、言われたと、ジュン君の担当する弁護士に、言って、もらいたかったのだ…
被害者が、加害者に、
「…許す=宥恕する…」
と、言えば、裁判官も刑を軽くする…
刑を軽く=減免する…
それを、狙ったのだ…
母親として、当然のことだった…
そして、それが、終わった…
ジュン君の裁判が、結審して、ジュン君は、刑務所に送られた…
だから、今は、ユリコは、私に負い目がなくなったというか…
私の力を必要としなくなった…
ということは?
ということは、どうだろうか?
再び、私の前に立ちはだかるのだろうか?
私は、考える…
ユリコと私の接点…
それは、またも、男だった(爆笑)…
すでに、説明したように、ユリコは、イケメン好き…
とにかく、ルックスの良い男が好き…
これは、おそらく、ユリコが、意識する、意識しないにかかわらず、ユリコのコンプレックスなのだろう…
コンプレックス=劣等感なのだろう…
良い大学を出て、社会でも、良い地位に就く…
ずばり、やり手の女…
今は、投資ファンドの代表…
つまりは、生まれつき、頭が良く、その頭の良さを生かして、社会で、成功する典型的な例だ…
誰もが、羨ましいの一言だ…
が、
もしかしたら、本人は、不満なのかも、しれない…
変な話、頭が、良く生まれるよりも、美人に生まれたかったのかも、しれない…
よく、テレビで、見る、デビィ夫人が、そうだ…
彼女の若い時を見ると、当たり前だが、美人…
街で、会えば、思わず振り返って、みたくなるほどのパッと、華やかなオーラがある…
オーラ=雰囲気がある…
そして、彼女は、その美貌を生かして、成功した…
玉の輿に乗って、地位と大金を得た…
が、
テレビに出るデヴィ夫人の姿を見ると、私は、もしかしたら、彼女は、ホントは、例えば、吉永小百合のようなポジションを得たかったのではないか?
そう、思う…
要するに、どこかの玉の輿に乗るよりも、芸能人として、成功して、周囲から、チヤホヤされる…
その方が、デヴィ夫人にとって、憧れだったのでは、ないだろうか?
メディアに頻繁に出る、彼女を見ると、ふと、そう、考える…
あるいは、これは、ただの思い過ごしかも、しれない…
私、寿綾乃の思い過ごしかも、しれない…
要するに、十年前なら、AKBで、前田敦子のように、センターで、踊って、世間から、注目を集めたい…
それが、デヴィ夫人の願望だったのでは?
ふと、そう、思ってしまう…
もちろん、それは、この私が、思っているだけ…
寿綾乃が、思っているだけで、事実は、違うのかも、しれない…
が、
メディアに頻繁に登場する彼女を見るたびに、つい、そう考えてしまう…
そう、思ってしまうのだ…
そして、なぜ、ユリコの話から、長々と、デヴィ夫人の話をしたかと、いえば、要するに、自分のしたいことと、やりたいことが、違うということだ…
仮に、デヴィ夫人が、若い頃に、その美貌を生かして、日本で、芸能人として、成功したいのが、夢だったとしても、それは、果たせなかった…
が、
代わりに、その美貌を生かして、玉の輿に乗って、成功した…
だが、本人にとっては、それで、本当に満足だったか、どうかは、わからない…
やはり、本当は、日本の芸能界で、成功して、吉永小百合のように、なりたかったのかも、しれない…
それと、同じで、ユリコもまた、頭が良く生まれ、その頭の良さを生かして、社会で、成功した…
が、
本人は、それが、不満なのかも、しれない…
頭が良く生まれるよりも、佐々木希のように、美しく生まれて、周囲の男たちから、チヤホヤされたかった…
それが、望みだったかも、しれない…
ユリコのイケメン好きを、見れば、どうしても、そう思ってしまう…
そして、もし、
もし、だ…
ユリコが、もし、佐々木希のような長身の美人に生まれれば、どうだろう?
ユリコが、現在のように、頭が、良くもなく、その代わりに、美人に生まれる…
そうだとしたら、どうだろう?
きっと、今度は、真逆に、頭の良い人間に憧れるかも、しれない…
自分は、頭が良くないから、学歴が、ない…
それが、コンプレックスになり、ルックスが、良くなくても、頭が、良い、学歴の高い男に憧れるかも、しれない…
そして、それを、思えば、つくづく、ないものねだり…
ひとは、老若男女を問わず、自分にないものに、憧れると気づく…
貧乏人は、金持ちに憧れ、背の低い者は、背の高い者に憧れる…
自分にないものに、憧れる…
そういうものかも、しれない…
だから、ユリコは、イケメンに憧れた…
そういうことかも、しれない…
が、
何事にも、限度がある…
ユリコのイケメン好きは、病的なほどだった…
頭が、いいが、ルックスが、劣るユリコは、待つ女では、なかった…
常に自分から、仕掛ける…
そうしなければ、男の方から、自分に言い寄ってくることは、ないからだ…
頭の良い、ユリコは、それが、なにより、わかっている…
だから、常に自分から、仕掛ける…
そして、それは、今度も同じだった…
私の担当医である、五井記念病院の長谷川センセイに対しても、同じだった…




