寿綾乃という女 第3部 1
…因果応報という言葉がある…
私の場合は、まさにそれ(笑)…
その言葉通りだった…
矢代綾子が、寿綾乃を名乗る…
死んだ従妹になりすます…
そして、故郷を離れ、ただひとり、東京で、生きた…
頼れるものは、皆無…
なにもない…
両親は、すでになく、兄弟姉妹もいない…
いるのは、この私だけ…
私、矢代綾子=寿綾乃だけだ…
天涯孤独(笑)…
母は、死ぬ間際、ただ一つのことを、言った…
「…亡くなった綾乃ちゃんに、なりすましなさい…綾乃ちゃんは、大金持ちの血を引く娘…綾乃ちゃんの父親は…」
と、何度も繰り返した…
死ぬ寸前まで、何度となく、繰り返した…
母は、美人だが、平凡な人生を歩んだ…
正直、お金とは、無縁とまでは、いかないが、ただただ、平々凡々の人生を歩んだ…
だから、私が、心配だったに違いない…
ただ一人、残された私が、心配だったに違いない…
その当時も、思ったが、今は、それ以上に、より、母の気持ちがわかる…
要するに、私が、歳を取ったからだ(苦笑)…
まもなく33歳になろうとしているにも、かかわらず、いまだ、結婚もしていないし、当然、子供もいない…
いや、
今の時代、結婚をしていても、すぐに、離婚して、シングルマザーになる女は、数知れず…
別段、驚く話でも、ない…
だから、まもなく33歳になる、私が、結婚もしてなく、子供もいないことは、驚く話でも、なんでも、ないかも、しれない…
とにかく、今の世の中、男女とも、結婚が、遅すぎる…
それは、間違いなく、社会が不安定だからだろう…
昔は、男なら、勉強ができ、良い大学に進学し、良い会社に入れば、誰もが、一生、安定した人生を送れると信じていた…
そして、女もまた、世間に知られた大企業に入り、そこで、結婚相手を探せば、自分の人生も安泰と信じていた…
もちろん、当時とて、実際は、違うだろう…
大企業に入っても、その会社に、なじめず、その会社を退職する人間は、どこの大企業でも、少なからず、いたに違いない…
が、
それが、世間では、話題にならない…
あるいは、話題にしない…
が、
たぶん、その通りだったのだろう…
しかし、今の時代は、違う…
一生懸命、勉強をして、良い会社に入っても、会社が倒産したり、リストラされたりで、誰もが、安定した人生を送れるわけではないと、知った…
なにより、いくら、頭が良く、勉強ができても、仕事が合うか否か?…
配属された職場に、自分が馴染めるか否か?
など、これまで、あまり話題にならかったことが、話題に上るようになった…
これは、間違いなく、インターネットのおかげだろう…
ネットの普及で、誰もが、自分の意見を発信できるようになった…
そのおかげだろう…
すると、いくら会社が、大きくて、立派な会社でも、入社すれば、自分に合わないことがあると、誰もが、わかるようになった…
これは、昭和の時代では、ありえなかった…
ネットが、発達した平成の時代だから、わかるようになった…
そういうことだろう…
話が、若干、それた…
いつものことだ(笑)…
私が、冒頭で、因果応報といったのは、私が、今、癌にかかっているから…
だから、言った…
私が、従妹の寿綾乃になりすまし、過ごした…
その報いだったのだろう…
神様は、見ている…
神様は、見ていないようで、実は、見ている…
私の行いを見ている…
それが、わかった…
身に染みて、分かった(苦笑)…
あるいは、ただ、自分が、癌になっただけなのだが、どうしても、自分を責める…
なぜ、自分が、癌になったのか?
わからないから、自分を責める…
そして、おそらく、理由など、なにも、ないだろう、と、思う…
ただ、癌になった…
それだけのことだ…
しかし、どうしても、なぜ、自分が、こんな目に?
と、誰もが、考える…
なにか、悪いことをしただろうか?
自分のこれまでしたことを、考える…
自問自答する…
すると、真っ先に思いつくのは、私が、寿綾乃になりすましたこと…
それが、一番だった…
そして、二番目は…
二番目は、ユリコのこと…
私の実質的なパートナーだった藤原ナオキの先妻である、藤原ユリコのことだった…
私は、ユリコから、すべてを奪った…
ユリコの夫であるナオキも、そして、息子である、ジュン君も…
あのユリコから、すべてを奪った…
だから、ユリコにしてみれば、私は、不俱戴天の仇…
憎んでも、憎み足りない相手…
そして、殺しても、許せない相手に違いない…
ユリコの立場に立ってみれば、当たり前のことだ…
が、
別段、私は、ユリコに同情しなかった…
当然、私が、悪いのは、わかっている…
誰の目にも、明らかだ…
しかし、開き直るのではなく、ユリコにすまないとは、思わなかった…
それは、単純にユリコが、嫌いだったからだ…
これに、理由はない…
生理的に無理なのだ…
そして、それは、ユリコもまた同じだろう…
ユリコもまた、私が、嫌い…
別に、自分の夫や息子が、私に盗られたとう事実を抜きにしても、私を嫌い…
生理的に受け付けない…
そういうことだろう…
私とユリコが、例えば、エレベーターで、二人きりになれば、互いに、息もできない…
互いに、相手と同じ空気を吸いたくない…
それほど、互いに、互いを、忌み嫌っている…
だから、もはや、私が、ユリコから、夫や息子を奪ったことなど、なにも、関係がない…
嫌いだから、嫌い…
それが、答えだからだ…
つい、最近、ネットで、矢田トモコ冒険譚という小説を読んだ…
そして、あの小説を読んで、思ったのは、おそらく、あの矢田トモコという主人公には、モデルが、存在するのでは?
と、いうことだった…
たぶん、作者が、見知った身近な人間をモデルにしたに違いない…
この世の中に、あれほどの愛されキャラは、存在しないから、きっと、モデルの女性を何十倍にも、増して、作り上げたのだろう…
そして、私は、病院の待合室で、スマホで、あの小説を読みながら、
…こんなふうに、生きられたら、どんなに、楽か?…
あるいは、
…こんなふうに、生きられたら、どんなに、人生が、楽しいか?…
と、考えさせられた…
なぜなら、あの矢田トモコには、敵がいないからだ…
あの矢田トモコは、誰からも愛され、周囲の人間を、魅了する…
その結果、周囲の人間は、皆、矢田トモコを助ける…
実に羨ましい…
私もあんなふうに、生きたい…
偽らざる本音だった…
私は、平凡…
平凡な人間だ…
ルックスは、美人といわれ、他人様よりは、よいが、それだけ…
それだけの人間だ…
あの矢田トモコのような非凡な人間ではない…
なぜ、あの矢田トモコを非凡な人間といったのか?
それは、彼女が敵を作らないからだ…
普通、生きていれば、誰もが、敵を作るものだ(笑)…
敵=嫌いな人間を作るものだ…
もちろん、周囲にあまりにも、敵を作りすぎれば、普通に、考えれば、本人に、なにがしかの問題があると考えるのが、普通だ(笑)…
が、
大抵の人間は、学校のクラスや、会社の職場に、一人や二人は、嫌いな人間は、老若男女問わずに、いるものだ…
むろん、私も、同じ…
例外ではない…
思えば、私には、学生時代から、私を憎むものが、複数いた…
もちろん、私が、なにか、したわけではない…
私が、他人様より、ルックスが、良く生まれたことが、悔しくて、仕方がないのだ…
羨ましくて、仕方がないのだ…
人間は、嫉妬の生き物…
自分より、優れた人間を、嫉妬し、憎む人間が、少なからず、いる…
要するに、自分より、優れているのが、許せないのだ…
だから、憎む…
だから、嫉妬する…
そして、そんなことを、経験した私から見れば、あの矢田トモコという人物は、実に、不思議…
摩訶不思議な存在だった…
同時に、この世の中に、絶対、存在しないとも、言いきれない存在だった…
この世の中には、敵を作らない人間も、ごくわずかだが、存在する…
別に、お釈迦様でも、なんでもなく、ただ、性格が、いいのだ…
そして、その性格は、生まれつきのもの…
ルックスと、同じく、生まれつきのものだ…
そして、なぜ、私が、ここまで、矢田トモコを例に出して、敵を作らないことの重要性を説くか?
それは、今も、言ったように、私が、敵を作る人間だからだ(笑)…
そして、私の目下の敵が、ユリコ…
私のパートナーである、藤原ナオキの元の妻である、藤原ユリコだった…
私にとって、あのユリコは、難敵…
実に、厄介な相手だった…
正直、二度とお目にかかりたくない相手だった…
が、
それは、ユリコも同じだったに違いない…
私とユリコの関係といえば、寺沢武一のマンガの中の主人公のコブラと、コブラの宿敵のクリスタルボーイのようなもの…
会えば、互いに忌み嫌う仲…
それは、互いに、嫌というほど、分かっている…
そして、私が、今、なぜ、彼女のことを、言うのか?
それは、またも、彼女と私が、関係することが、わかったからだ…
あのユリコと関わることが、わかったからだ…
だから、ユリコのことに、言及したのだ…
ユリコは、平凡…
ルックスは、実に平凡な女だった…
十把ひとからげと言ってしまえば、それまでだが、どこにでもいる、平凡なルックスの女…
歳は、四十代前半…
まだ、大学生のジュン君の母親…
そして、実は、彼女は、ビジネスでは、したたかなやり手だ…
投資ファンドの代表でもある…
要するに、ルックスが、イマイチだが、頭が、いいというやつだ…
そして、その頭の良さを生かして、社会で、成功している…
そういう女だ…
同時に、彼女を解くカギがある…
それは、稀に見る、イケメン好き(笑)…
彼女の元の夫である、藤原ナオキも、イケメンだった…
だから、ナオキに惚れた…
そして、ジュン君を身ごもった…
と、信じていたが、さにあらず…
ジュン君は、ナオキの子供では、なかった(笑)…
ナオキと、同時期に、ユリコが、付き合ったナオキとは、別の男の子供だった…
そして、その男に捨てられた…
だから、ナオキの子供だと、言い張った…
当たり前のことだ(笑)…
二股をかけていて、一方の男に振られた…
が、
すでに、妊娠している…
だから、振られていない、もう一人の男の子供だと、言い張った…
そういうことだ…
ズルいし、人間性を疑うが、この世の中には、そういう事例は、枚挙にいとまがない…
って、いうか、ありふれている(笑)…
私は、たまたま、ユリコのことを、知って、ここで、言及したが、世の中には、いくらでも、あることだろう…
いや、
いくらでもは、ないか(笑)…
が、
皆無では、ない…
そういうことだ…
そして、ユリコが、ナオキとは、別人の男の子供を身ごもったにも、かかわらず、ナオキの子供と、言い張ったのは、その男が、ナオキと、ルックスが、似ていたから…
だから、ジュン君の本当の父親が、ナオキと違っても、バレないと、ユリコは、思ったと、かつて、私に語った…
私が、
「…ジュン君の父親は、誰ですか?…」
と、いきなり、言ったから、ユリコは、面食らったが、私が、
「…DNA鑑定しましょう…」
と、提案すると、あっさりと、白旗を挙げた…
言い訳することが、できなくなったからだ…
が、
私と、そんなやりとりをするぐらいだから、余計に、ユリコは、私を憎んだ…
殺しても、殺したりなりないくらい、憎んだ…
が、
そのユリコは、先日までは、私に優しかった…
原因は、ジュン君だった…




