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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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14/122

寿綾乃という女 第3部 14

ユリコの空白の期間…


 ずばり、その間、ユリコは、一体なにをしていたのだろうか?


 投資ファンドの代表に、いきなり、なって、現れたのも、謎だ…


 が、


 考えてみれば、それ以上の謎は、高尾組…


 いわゆる、ヤクザと、どう知り合ったか?


 前回、ユリコは、五井系列の会社の株を買い占めるに当たり、高尾組から、金を借りたと、諏訪野和子は、喝破(かっぱ)した…


 そして、それを、聞いた、ユリコは、否定しなかった…


 つまりは、その通りだったに違いない…


 高尾組から、資金を得て、五井系列の企業の株を買い占めたに違いない…


 なら、どうして、ユリコは、高尾組と、知り合ったのか?


 それが、重要だ…


 私が、そんなことを、考えていると、ナオキが、


 「…ユリコは、やり手だ…人脈も広い…」


 と、意味深なことを、言った…


 私は、それまで、ユリコの人脈について、考えたことなど、一度もなかった…


 だから、突然、ナオキが、ユリコの人脈について、語るから、驚いた…


 驚いたのだ…


 だから、


 「…ユリコさんの人脈って?…」


 と、わざと、聞いた…


 すると、ナオキが、間髪入れずに、


 「…ユリコが、やり手なのは、綾乃さんも、知っているだろ?…」


 と、聞いてきた…


 「…ええ…」


 と、相槌を打つ…


 事実、その通りだったからだ…


 「…ユリコは、勉強も出来、有能だが、おそらく、それ以上に、優れているのは、人脈が、広いことだ…」


 「…人脈が、広い?…」


 「…ボクが、会社を立ち上げたときが、そうだった…ユリコが、あっちのひと、こっちのひとから、聞いてきたと言って、書類を作ったり、会社の回し方を、ボクに、話してくれた…ボクは、驚いたし、一体、どこから、そんなことを、聞いたんだと、聞いたけど、知り合いが、多いのよ、と、笑って、それ以上は、言わなかった…それに、ボクも、当時は、目が回るほど、忙しいし、ユリコのことを、アレコレ、詮索する時間もなかった…」


 「…」


 「…でも、今考えれば、ユリコは、変わっていたというか…」


 「…変わっていた? …どう、変わっていたの?…」


 「…常に遠くを見ていたというか…ボクの数歩先を見ていた…」


 「…数歩先って?…」


 「…会社が、何年ぐらいで、軌道に乗るか? とか、そのとき、社員は、何人ぐらいの規模になっているか? など、数年先の未来とでも、言うのかな? …それを、よく口にしていた…」


 と、いうことは、どうだ?


 やはり、ユリコは、当時、自分がいなくても、会社が、回ると確信したから、失踪したのか?


 私は、考えた…


 「…ちょうど、ユリコが、失踪したのは、今、考えれば、ITバブルが、始まった頃だ…あの頃、急激に会社が、忙しくなってきた…だから、正直、猫の手も借りたいぐらいだったのに、ユリコが、突然、いなくなった…正直、こっちは、泣きたいぐらいだった…ジュンも、まだ幼稚園に通っていた頃だ…男のボク一人では、ジュンの面倒は、みれなかった…綾乃さんが、いたから、なんとか、やって、これた…」


 ナオキが、しみじみとした口調で、言った…


 「…よく世間では、バブルだ…ITバブルだ…とか、言うけれども、その時代に生きていた者から、すれば、その感覚は、わからない…ただ、今、景気がいいな、とか、その程度の感覚に過ぎない…後で、専門家が、統計を取って、いついつから、景気が、爆発的によくなったとか、言われて、その通りだったと、誰もが、思うものだ…」


 「…」


 「…でも、おおげさに言えば、ユリコは、それが、見えていたというか…それが、ある程度、わかっていたのかな? とも、今になって、思えば、わかる…」


 「…」


 「…正直、常人じゃない…」


 「…常人じゃない?…」


 「…綾乃さんだって、ユリコの凄さは、わかるでしょ?…」


 「…ええ…」


 「…だからこそ、不安だ…」


 「…どうして、不安なの?…」


 「…ユリコには、もう失うものが、なにもないからだ…」


 「…失うもの?…」


 「…ジュンのことだ…」


 「…ジュン君?…どうして、ジュン君なの?…」


 「…ジュンは、ユリコにとって、なにより大切なものだった…同時に、ユリコの弱点だった…」


 「…弱点って?…」


 「…ジュンは、あの通りだ…歳のわりに、幼く、頼りない…だから、成長をしたジュンを見て、ユリコは、戸惑ったに違いない…」


 「…戸惑った? …どうして、戸惑ったの?…」


 「…自分と真逆だから、戸惑ったに違いない…」


 ナオキが、しんみりと言う…


 が、


 たしかに、その通りだが、私には、その発想がなかった…


 やはり、それは、私がジュン君の母親では、ないからだと、いまさらながら、思い知った…


 たしかに、私は、ジュン君の母親代わり…


 幼稚園に通う、幼いジュン君の面倒を見てきた…


 が、


 血が繋がった実の母親ではない…


 だから、どこか、一本、線を引いているというか…


 そこまで、ジュン君のことを、考えたことが、なかった…


 それが、ジュン君にとっての他人の私と、血が繋がった実の母親のユリコとの違いなのかも、しれない…


 私が、そんなことを、考えていると、さらに、ナオキが、


 「…今、思えば、ジュンを菊池リンさんと、婚約させたのも、ユリコの母親としての思いからかも、しれない…」


 「…ユリコさんの母親としての思い?…」


 「…ジュンは、あの通り、頼りない…菊池さんは、五井一族の人間…菊池さんと、結婚すれば、五井の後ろ盾を得る…五井の一族になれる…だから、ジュンの一生は、安泰だ…」


 ナオキが、言った…


 私は、驚いた…


 私に、その発想もなかったからだ…


 なにより、そんな事実をすっかり忘れていた(苦笑)…


 あのとき、菊池リンが、ジュン君と婚約したのは、私に近づくため…


 私の息子に近い、ジュン君と婚約することで、私に近づこうとした…


 五井の一族の血を引く、本物の寿綾乃と、私を誤解していたからだ…


 従妹の綾乃と、誤解していたからだ…


 私は考えた…


 が、


 そんなことは、ともかく、あのとき、ユリコが、そんなことを、考えていたとは、予想も、しなかった…


 ジュン君が、菊池リンと婚約した…


 その出来事に、仰天したからだ…


 また、当時、明らかに、ユリコは、ジュン君の能力を過大評価していた…


 私が、思うジュン君の能力と、ユリコが、思う、ジュン君の能力とは、明確な差があった…


 それは、やはり親だからだろう…


 自分の血が繋がった息子ゆえに、正確に、自分の息子の能力を見抜けない…


 あの有能なユリコが、見抜けない(苦笑)…

 

 それを知った私は、愕然としたが、それが、親というものかも、しれない…


 つい血が繋がっているから、甘く見る…


 甘く=実力以上に、評価する…


 そういうものかも、しれない…


 なにより、あのとき、ユリコが、ジュン君の将来を考えていたとは、露ほども、思わなかった…


 考えてみれば、わかることだが、露ほども、気付かなかった…


 これは、やはり、育ての親である、私と、血の繋がった実の親である、ユリコとの違い?…


 その違いに他ならない…


 私は、思った…


 同時に、やはり、私は、ジュン君の母親には、なれない…


 と、今さらながら、気付いた…


 私とジュンのいた時間は、ユリコが、ジュン君のいた時間より、はるかに、長い…


 にもかかわらず、ユリコの方が、はるかにジュン君の身を心配していた…


 これは、叶わない…


 母親代わりの私では、叶わない…


 あらためて、気付いた…


 そして、そんなことを、考えていると、ナオキが、


 「…ジュンは、ユリコにとって、もろ刃の剣だった…」


 と、告げた…


 「…もろ刃の剣って?…」


 「…ジュンは、ユリコにとって、強みでもあり、弱みでも、あったに違いない…」


 …ジュン君が、強み?…


 ジュン君が、弱みなのは、わかる…


 が、


 強みって?


 意味が、わからない…


 だから、


 「…ナオキ…ジュン君が、強みって?…」


 と、聞いた…


 すると、


 「…ユリコにとって、ジュンは、生きがいだったんだと、思う…」


 意外なことを、言った…


 意味が、わからなかった…


 どうして、ユリコさんにとって、ジュン君が、生きがいなのだろう?


 わけが、わからない…


 なにより、ジュン君が、生きがいなら、なぜ、幼いジュン君を残して、突然、家を出て行ったのか?


 それが、わからない…


 私が、そんなことを、考えていると、


 「…綾乃さん…ジュンが、ユリコの生きがいと言ったのは、ジュンが、イケメンだからだよ…」


 と、ナオキが、私に諭すように、言った…


 「…イケメンだから?…」


 「…ユリコは、あの通りのルックスだ…ブスとまでは、言わないが、平凡…平凡すぎるほど、平凡なルックスだ…だからだろう…イケメンの男に弱かった…」


 「…」


 「…つまり、ユリコ自身気付いているか、どうか、わからないが、ユリコにとって、イケメンは、憧れなんだろう…ユリコは、優秀だが、ルックスは、平凡…だから、それが、コンプレックスなのか、どうか、わからないが、イケメンに病的なまでに、憧れる…」


 「…」


 「…だから、ユリコにとって、血が繋がった…自分が、産んだ…ジュンがイケメンに生まれたのは、おおげさに言えば、死ぬほど、嬉しかったに違いない…自分が、欲しくても、手に入らないものだからだ…」


 「…」


 「…それが、手に入った…だから、大切にした…そして、ジュンを守ろうとした…それが、ユリコの強み…」


 「…強み?…」


 「…誰かのために、生きようとするのは、自分のために、生きようとするよりも、強くなれると、いうか…おおげさに、言えば、生きがいになる…」


 「…」


 「…だから、強み…ジュンの存在は、ユリコにとって、生きる支えになって、いたと、思う…」


 私は、驚いた…


 今まで、そんなふうに、考えたことは、なかったからだ…


 まさか、ナオキが、ユリコとジュン君の関係をそんなふうに、見ていたなんて…


 恐れ入った…


 そして、そんな私の感情が、顔に現れていたのだろう…


 「…綾乃さん…どうしたの? …そんな驚いた顔をして?…」


 「…いえ、そんなふうに、ユリコさんが、ジュン君を思っていたなんて、考えたことも、なかったから…」


 「…それに、気付いたのは、最近さ…」


 「…最近?…」


 「…ボクも、歳を取って、これまで、さまざまな女のひとたちと、付き合ってきた…正直、その中には、ユリコのような女のひともいた…」


 「…ユリコさんのような?…」


 「…ルックスは、イマイチだけれども、話が、面白くて、機転が利くとか…つまり、ルックス以外の武器を持っている…」


 「…」


 「…でも、そんな彼女たちと、仲良くなってわかったことは、やはりというか…大抵の女は、美人に対して、コンプレックスを抱いている事実だった…」


 「…コンプレックス?…」


 「…ボクも綾乃さんも、自慢じゃないが、ルックスが良く生まれた…だから、正直、ルックスが、良くなく、生まれた人間の気持ちがわからない…」


 「…」


 「…それに、ボクは、男だ…」


 「…男? …なにが、言いたいの?…」


 「…男は、自分が、子供を産むわけじゃない…産むのは、女だ…」


 「…」


 「…だから、ユリコは、自分の産んだジュンが、イケメンに生まれたのが、ことのほか、嬉しかったに違いない…ジュンは、自分の産んだ子供だ…だから、自分の分身だ…その分身がイケメンに生まれたのは、ユリコが、欲しくても、手に入らなかったルックスを、自分の分身が、手に入れたことになるからだ…」


 「…」


 「…つまり、ユリコは、自分の分身を使って、ルックスを手に入れた…だから、ユリコは、ジュンが、愛おしい…そういうことだ…」


 ナオキが、言った…


 私が、これまで、考えたことのないことを、言った…



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