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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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13/122

寿綾乃という女 第3部 13

あのしたたかなユリコが、五井に目をつけたのは、五井が、一枚岩でないことを、知ったからだ…


 私が、ユリコの息子のジュン君の運転するクルマにはねられ、五井記念病院に運ばれ、治療を受けた…


 そして、そのまま、入院…


 ジュン君の母親である、ユリコは、私に詫びるため、五井記念病院を訪れた…


 これも、すでに何度も説明したように、被害者である、私が、加害者である、ジュン君を許すと言えば、裁判で、ジュン君の罪が軽くなるからだ…


 ユリコは、それを狙って、何度も、入院している、私の元にやって来た…


 ジュン君の刑を軽くするためだ…


 そして、私が、入院したところに、諏訪野伸明の母、和子が、やって来た…


 現五井家当主の実母がやって来た…


 目ざといユリコは、それを、どこかから、聞いたに違いない…


 なにより、私が、入院した病院は、五井記念病院…


 そこに、五井家現当主の母親が、やって来たのだから、話題にならないはずが、なかったに違いない…


 あのユリコのことだ…


 その噂を耳にして、すぐに、アレコレ、考えたに違いない…


 その結果、五井の一部の分家から、五井系列の株を買い占め、五井本家に、購入した数倍の株で、買わせようとした…


 が、


 頓挫した…


 五井の女帝、諏訪野和子が、それを、阻止したのだ…


 諏訪野和子は、あらかじめ、ユリコが、五井の株を買い占めた資金の出所を探した…


 それが、高尾組であることを、掴んだ…


 高尾組は、金融ヤクザ…


 広域武力団、山田会の有力組織だ…


 そこから、資金を得て、五井系列の会社の株を買い占めた…


 それを、調べた…


 だから、それを逆手に取った…


 ユリコは、自分が、購入した額の3倍で、引き取れと、迫ったが、和子は、2倍で、買い取ると、断言した…


 おまけに、


 「…高尾さんは、金融ヤクザとして、知られているけれど、ヤクザは、ヤクザ…万が一にも、期限までに、お金を返せなければ、どうなるか? わかっているのでしょうね?…」


 と、ユリコを脅した…


 あらかじめ、ユリコが、借りた資金の返済期限を調べ上げていたのだ…


 だから、ユリコには、時間がない…


 いついつまでに、高尾組から借りた金を返さなければ、ならない…


 そんなユリコの足元を見た…


 その結果、ユリコは、和子の提案を飲まざるを得なかった…


 和子が、買った株を、2倍で、買い取ると宣言した、その提案を飲まざるを得なかった…


 ユリコにとっては、屈辱…


 思い出したくない屈辱に、違いなかった…


 私は、今、それを、思い出した…


 そして、つい、


 「…ユリコさん…」


 と、呟いた…


 いや、


 呟かずには、いられなかった…


 藤原ユリコ…


 実に、したたかな女だった…


 が、


 同時に、プライドの高い、やり手の女…


 そのプライドの高いユリコが、諏訪野和子に、屈したのは、屈辱に違いない…


 だから、再び、五井を舞台に、なにやら、やらかそうとしているのは、理解できる…


 そして、あの長谷川センセイに、接触しようとしているのは、やはり、五井家に食い込もうとしているのだろうか?


 長谷川センセイの出身である、五井西家に食い込もうとしているのだろうか?


 考えた…


 前回、ユリコが、接触したのは、五井の分家…


 五井の本家と東西南北の分家を、除いた分家だった…


 五井は、連合体…


 五井一族は、五井の持ち株会社の株を持って、五井系の企業を支配している…


 その五井の持ち株会社の株の持つ、配分比率は、五井本家が、30%、東西南北の分家が、それぞれ、10%…


 つまり、本家と東西南北の分家だけで、五井の持ち株会社の株の70%を、持っていることになる…


 残りの30%を、他の8家が、分けて持つ…


 だから、その8家は、五井の中で、力は、あまりない…


 それゆえ、目立たない…


 前回、ユリコは、そこに目をつけて、本家と、東西南北以外の分家から、株を買い取った…


 五井の東西南北の分家から、株を買い取ろうとするのは、無理筋だし、残りの8家なら、目立たないから、好都合だと、思ったのだろう…


 が、


 その見通しは、甘かった…


 現当主、諏訪野伸明の叔母である、諏訪野和子が、ユリコの動きを見逃さなかった…


 だから、ユリコの動きは、あらかじめ、和子に読まれ、ユリコの企ては、和子の手により、頓挫した…


 五井の女帝、諏訪野和子…


 五井家現当主、諏訪野伸明の実母、昭子の双子の妹…


 実は、誰もが、五井の女帝は、昭子だと、世間に、思われていた…


 当たり前だが、五井現当主の実母にして、前当主、建造の妻…


 それゆえ、昭子こそ、五井家の女帝と、世間で、思われていた…


 が、


 違った…


 それは、なぜか?


 亡くなった昭子の両親が、昭子に、五井での活動の場を与えなかったからだ…


 昭子は、やり手…


 頭もよく、行動力もある…


 が、


 男関係に奔放であり、五井のお嬢様に、ふさわしくない人間だった…


 それゆえ、五井本家に嫁ぐにあたり、同時に、当主の建造の実弟の義春に、妹の和子を嫁がせた…


 いわば、奔放な姉の昭子を、妹の和子に監視させたのだ…


 また、すでに、何度も説明したように、現当主、伸明は、先代当主、建造の子供ではない…


 が、


 建造は、伸明を可愛がり、血が繋がった、伸明の弟の実子の秀樹が、いるにも、かかわらず、当主の座を伸明に譲った…


 それを、恩にきり、昭子は、表に出なかった…


 いや、


 それ以前に、血が繋がってない、伸明を建造が、溺愛したのが、嬉しかったのだろう…


 また、余談になるが、昭子は、五井本家に嫁ぐにあたり、両親から、これ以上、勝手なことを、するな、と、釘を刺された…


 それもあり、昭子は、当主の妻でありながら、公の場には、あまり出なかった…


 公の場に出たのは、妹の和子だった…


 和子もまた、姉の昭子同様やり手だったからだ…


 そして、二人は、双子の姉妹…


 外見は、瓜二つだった…


 だから、事情をよく知らない、世間の人は、昭子を、五井の女帝と、勘違いしていた…


 当たり前のことだった…


 私は、今、そんなことを、思い出していた…


 眼前の藤原ナオキが、諏訪野伸明の名前を出したことで、そんな以前の騒動を思い出していた…


 正直、思い出したくもない(苦笑)…


 関わりたくもない、過去の出来事だった(爆笑)…


 日本を代表する名家だが、その内情は、複雑…


 思った以上に、複雑怪奇だった(苦笑)…


 やはり、名門ゆえに、金があり、歴史がある…


 それゆえ、ドロドロしている…


 そういうものかも、しれない…


 金があるところには、必ず争いが、起こる…


 金=欲望だからだ…


 金が、ひとの欲望を駆り立てる…


 だから、きっと、五井の歴史は、欲望の歴史に他ならないだろう…


 きっと、血にまみれた欲望の歴史に他ならないだろう…


 五井の歴史は、300年…


 その間、血みどろの一族の間の争いがあり、それが、今の五井十三家という形になっているのだろう…


 私は、思った…


 そして、そんなことを、考えていると、ナオキが、

 

 「…困った…」


 と、一言、呟いた…


 だから、


 「…困った? …なにが、困ったの?…」


 と、聞いた…


 「…ユリコのことだ…」


 ナオキが、呟く…


 当たり前のことだった…


 それゆえ、私は、口を出さなかった…


 ナオキが、元の妻である、ユリコに翻弄されているのは、わかったからだ…


 ユリコは、やり手…


 ナオキの会社の土台を築いたのは、間違いなく、ユリコの手腕だった…


 私も、高校時代から、ナオキの会社を手伝っていたが、会社の事実上の社長は、ユリコだった…


 ユリコが、ナオキを支えているからこそ、会社を立ち上げることが、できたに違いない…


 ナオキは、ただのコンピュータオタクに過ぎなかったからだ…


 いわば、ナオキの才能を生かし、社会で成功する道筋をつけたのが、ユリコ…


 ユリコなくして、ナオキは、成功することは、なかった…


 そして、今になって、思えば、ユリコが、失踪したのは、会社が、軌道に乗ってから…


 小さいながらも、会社が軌道に乗り出した…


 おそらく、それを、見届けた上で、失踪したに違いない…


 自分が、突然いなくなっても、ナオキが十分やっていけると、判断したから、失踪したに違いない…


 が、


 なぜ、突然、失踪したのか?


 それが、わからない…


 それが、今もって、謎だ…


 当時は、ユリコが、突然、失踪したことで、ナオキが、ジュン君の面倒を見なければ、いけなくなり、ナオキと、すでに、男女の関係にあった、当時、高校生の私が、ジュン君の面倒を見ることになった…


 ジュン君が、私になついていたことが、大きい…


 まだ幼いジュン君は、頻繁に会社にやってきて、それを、私が、面倒を見た…


 アルバイトの私では、大した仕事は、できない…


 だから、ジュン君の面倒を見た…


 それゆえ、ジュン君は、私になついた…


 だから、もしかしたら、それを、見て、ユリコは、私が、いれば、自分が、失踪しても。大丈夫と、考えたのかも、しれない…


 勘のいいユリコのことだ…


 私とナオキが、すでに男女の関係にあったことなど、とっくに見抜いていたに違いない…


 だから、安心して、失踪した…


 今、思えば、そういうことかも、しれない…


 あらためて、思った…


 当時は、そんなことなど、考えも、しなかった…


 突然、ユリコが、いなくなったことで、会社は、混乱を極めた…


 社長の妻が、失踪したのだ…


 なにより、社長の息子のジュン君の面倒を見るのを、どうするか? が、大事だった…


 子供の面倒を見るものが、いなければ、ナオキが、仕事に集中できないからだ…


 そして、ジュン君の面倒をみるのが、私になった…


 よく、会社に顔を見せていた、ジュン君が、高校生の私になついていたからだ…


 だから、それを、考えれば、当然の結果だったと、いえるかも、しれない…


 が、


 今、振り返れば、あのとき、どうして、ユリコが、失踪したのか?


 それが、謎だった…


 まだ小学校にも、上がっていないジュン君を置いて、なぜ、失踪したのか?


 今、考えれば、大きな謎だった…


 そして、もしかしたら?


 もしかしたら、ユリコが、その間、なにをしていたのか?


 どんな生活をしていたのか?


 それが、今現在、現れたユリコの謎を解く、鍵になるかも、しれない…


 ユリコは、投資ファンドの代表になって、突然、戻ってきた…


 つまりは、失踪した後に、なにをやっていたのか?


 ユリコの空白の期間が、ずばり、気になった…


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