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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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12/122

寿綾乃という女 第2部 12

「…諏訪野さん?…」


 おうむ返しに、繰り返した…


 「…諏訪野伸明さん?…」


 私が、言うと、ナオキが、無言で、首を縦に振って、頷いた…


 諏訪野伸明…


 現五井家当主…


 そして、なにより、諏訪野伸明は、私も、知っていた…


 私が、五井家の血を引く人間だと、疑い、私に接触してきたからだ…


 っていうか、詳細は、省くが、いつのまにか、私自身が、諏訪野伸明と親しくなり、つい、なりゆきで、伸明とキスまで、した…


 我ながら、大人げないというか(笑)…


 つい、なりゆきで、そういうことを、した(爆笑)…


 相変わらず、バカな女…


 伸明が、私を探っていたことに、露ほども、気付かなかった…


 実に、おめでたい…


 おめでたい女…


 まさに、バカの極みだ(苦笑)…


 が、


 私に言わせれば、諏訪野伸明は、この藤原ナオキ同様の長身のイケメンで、カッコよかった…


 いわゆる、モテ男…


 いっしょにいれば、自慢できる…


 おまけに、お金持ち…


 超がつく、お金持ち…


 嫌いになるはずが、なかった(笑)…


 女なら、誰でも、憧れる男…


 それが、諏訪野伸明だった…


 そして、伸明自身が、性格が、良かった…


 性格の良し悪しは、接すれば、誰でも、わかる…


 いかに、お金持ちで、ルックスが、良くても、性格が、良くない人間は、御免だ…


 そういう人間は、年がら年中、ひとの悪口を言っていたりして、いっしょにいると、気が滅入る…


 そして、おそらくそういう人間は、なにがしかの、コンプレックスを抱えている場合が、多い…


 会社で言えば、高卒で、出世が、難しいとか…


 男女共に、ルックスが、悪いとか…


 誰が、見ても、周囲から、劣っている場合だ…


 あるいは、家が貧乏だったり…


 とにかく、それが、コンプレックスになり、性格が、歪む…


 そして、当人が、思っている以上に、そのコンプレックスが、言動に出る…


 周りは呆れているが、自分は、気付かない…


 誰も、注意をしないからだ(笑)…


 だから、自分が嫌われていることが、わからない(笑)…


 また、そういう人間は、驚くほど、自分に甘い…


 だから、年がら年中、ひとの悪口を言っていても、自分の性格が悪いとは、露ほども、思わない…


 そして、そういう人間は、すべからく敵を作る…


 自分が、思っている以上に、周囲の人間から嫌われているから、例えば、


 「…この課に、高卒の人間が、いるわけないだろ?…」


 と、わざと、その高卒の人間のいる前で、大卒の人間に言われる…


 いつも、悪口ばかり言っているから、その高卒の人間を心底嫌っている人間が、必ず、いるからだ…


 だから、言われる…


 だから、嫌われる…


 当たり前のことだ(笑)…


 そして、諏訪野伸明は、そんな人間では、

なかった…


 だから、私も好きになった…


 いや、


 私だけではない…


 明らかに、伸明自身も、私に好意を持っていた…


 だから、キスをした…


 実は、伸明は、前当主、諏訪野建造の実子ではなかった…


 伸明の母、昭子が、別の男との間に、できた子供だった…


 が、


 建造は、それを、知っても、伸明を可愛がった…


 伸明の弟の秀樹は、建造の実子だったが、血が繋がらない伸明に、五井家の当主の座を譲った…


 だから、伸明にとって、建造は、恩人…


 まぎれもなく、恩人だった…


 そして、そんな環境で、育ったからだろう…


 伸明には、どこか、陰があった…


 いわゆる、陰キャラ…


 背が、高く、顔もイケメン…


 おまけに、超がつくお金持ち…


 にもかかわらず、偉ぶるところも、なにもなく、態度も控えめだった…


 私は、そんな伸明に惹かれた…


 同類相哀れむではないが、もしかしたら、伸明もまた、私自身に、自分と同じものが、あると、私のことを、考えたのかも、しれない…


 矢代綾子が、寿綾乃を名乗る…


 いわゆる、なりすましだ(笑)…


 だから、私の行動は、どこかしら、陰が帯びる…


 自分では、気付かないが、控え目になるというか…


 秘書という立場にふさわしく、目立たないように、振る舞う…


 が、


 自分でいうのも、おかしいが、美人の私が、常に、控えめの態度になるのが、諏訪野伸明には、新鮮だったのかも、しれない…


 なまじ、美人やイケメンに生まれると、それが、態度に出る場合が多いからだ…


 「…私なんて、とても…」


 とか、


 「…オレなんて、とても…」


 と、言いながらも、言葉とは、裏腹に、自分のルックスに自信があるから、それが、態度に出る…


 が、


 私には、それがない…


 だから、そんな私に伸明は、惹かれたのかも、しれない…


 そして、それは、伸明も、同じ…


 生粋の生まれつきのお坊ちゃまにも、かかわらず、偉ぶるところが、まったくない…


 後で、わかったことだが、伸明自身が、前当主、建造の実子でないことが、わかって、それが、伸明を苦しめ、それが、態度に出たのだろう…


 いわゆる、陰キャラ…


 生粋のお金持ちの家に生まれたにも、かかわらず、調子に乗ることが、一切ない…


 そんな諏訪野伸明の態度に、私は、惹かれた…


 事実上、眼前の藤原ナオキとは、夫婦だったにも、かかわらず、惹かれた…


 正直、ナオキとは、関係が長すぎた…


 すでに、知り合って、十年超…


 夫婦といっても、すでに倦怠期をとうに、迎えている…


 だから、私が、例えば、諏訪野伸明と、男女の関係になったと知っても、ナオキは、別段、咎めることもない…


 なぜなら、自分自身、あっちの女、こっちの女と、女の間を、渡り歩いてきたからだ…


 だから、私にアレコレ指図する資格はないのだが、それ以上に、私とナオキの間は、同士…


 いわば、無名時代の藤原ナオキと共に、会社をいっしょに、大きくした同志だった…


 同士=仲間だった…


 藤原ナオキが、会社を立ち上げて、すぐに、私が、その会社で、アルバイトを始めたからだ…


 いわば、創業当時から、ナオキを知る同士=仲間だった…

 

 つまり、私自身、ナオキの無名時代から、いっしょに、会社で、働いてきた仲間だった…


 だから、ナオキは、私が諏訪野伸明に惹かれると、わかると、むしろ応援してくれた…


 私の恋が、うまくいくように、応援してくれた…


 ぶっちゃけ、ナオキにとって、私は、家族…


 姉でもあり、妹でも、あり、妻でもあり、母でもあった…


 そんな関係だから、私の恋を応援してくれた…


 が、


 それだけでは、なかった…


 実は、このナオキは、私の知らないところで、五井家から、援助を受けていた…


 五井家=諏訪野伸明から、援助を受けていた…


 会社に融資をしてもらっていたのだ…


 私は、それを、癌の治療のために、オーストラリアに行く、前に、知った…


 私が、疲れて、寝ていると、思っていたのだろう…


 ナオキと諏訪野伸明が、電話で、話している声が、聞こえてきたのだ…


 私は、それを、聞いて、仰天した…


 まさか、私の知らないところで、二人が、繋がっているとは、思わなかったからだ…


 もしかしたら、ずっと、前から、ナオキは、諏訪野伸明と繋がっていたのだろうか?


 五井から融資を受ける見返りに、ナオキは、私の動静を、伸明に伝えていたのだろうか?


 そんな考えが、脳裏に浮かんだ…


 そして、それゆえ、ナオキは、私の恋を応援してくれていたのだろうか?


 私が、諏訪野伸明と結婚を夢見ていたことを、応援したのだろうか?


 そんな考えが、次々と脳裏をよぎった…


 疑えば、切りがない…


 が、


 私が、ナオキに疑いの目を持ったのは、事実…


 事実だった…


 そして、それは、今も同じ…


 眼前のナオキが、言いにくそうに、諏訪野伸明の名前を口にしたことで、やはりというか…


 疑念が、生じた…


 もしかしたら、融資の見返りに、私をうまく、伸明と結婚させようと仕向けて、いたのだろうか?


 そう疑念が、生じた…


 が、


 疑えば、切りがない…


 だから、忘れることにした…


 いや、


 本当は、忘れることは、できない…


 が、


 とりあえず、思い出さないことにした…


 考えれば、切りがないからだ…


 で、そんなことを、考えながら、


 「…諏訪野さんから、頼まれたって?…」


 と、ナオキに聞いた…


 が、


 ナオキは、すぐには、反応しなかった…


 やはり、反応が鈍かった…


 口が、重たかった…


 だから、私は、


 「…要するに、諏訪野さんは、ユリコさんが、気になったわけ?…」


 と、聞いた…


 ナオキは、無言で、頷いた…


 私は、それを、聞いて、かつて、ユリコが、五井系列の会社の株を買い占め、五井本家に、その会社の株を、取得額の数倍の金で、買い取りを迫ったことを、あらためて、思い出した…


 そして、それを、知る伸明は、当然のことながら、ユリコを警戒する…


 当たり前のことだった…


 だから、ことによると、伸明は、ユリコが、なにか、動き出せば、伝えるように、周囲に、依頼している可能性が、高い…


 なにより、このナオキは、ユリコの元の夫…


 真っ先に、伸明は、ナオキに依頼した可能性が、高い…


 また、伸明とナオキは、互いに気が合った…


 それは、傍から見ていても、わかった…


 二人とも、長身のイケメン…


 歳も同じくらい…


 そして、なにより、二人とも、陰キャラだった(笑)…


 ナオキは、オタク…


 伸明も、また、先代の五井家当主、建造の実子だと、世間には、思われていたが、違った…


 実際には、建造の妻、昭子が、別の男との間に作った子供だった…


 それを知った伸明は、苦しみ、それが、伸明の性格に反映された…


 それゆえ、ナオキと伸明は、似た者同士…


 二人とも、長身のイケメンにも、かかわらず、陰キャラ…


 だから、互いに、気が合ったのかも、しれない…


 そして、そんなことを、考えていると、ふと、思い出したことがあった…


 長谷川センセイのことだ…


 あの五井記念病院の私の担当医の長谷川センセイのことだ…


 あの長谷川センセイ…


 実は、五井西家の人間だった…


 私は、それを、うっかり忘れていた…


 というのも、長谷川センセイ自身の口から、それを、聞いたわけではないからだ…


 だから、すっかり、忘れていた…


 が、


 それを、考えれば、意味深…


 実に、意味深だった…


 なにが、意味深かと問われれば、あのユリコが、長谷川センセイの名前を口にしたことだ…


 何度も言うように、ユリコは、以前、五井系列の企業の株を、五井の本家と東西南北の4家を除いた、いわば、傍流の一族から、株を買い占めて、高値で、五井本家に、株を買い戻させようとした…


 が、


 あっさり、返り討ちにあった…


 五井の女帝である、諏訪野伸明の叔母の和子に、あらかじめ、ユリコの動きが、見透かされていたのだ…


 ユリコは、投資ファンドの代表…


 要するに、他人から、資金を提供してもらい、それを、元手に会社を買い取ったりして、その会社の業績をいかに、挙げるか、提案して、業績が、上向いたら、他社に売る…


 そんな商売だ

…


 そんな商売をするユリコが、五井に目をつけた…


 五井は、連合体…


 十三家の連合体だ…


 いわば、十三の寄り合い所帯…


 一枚岩では、決してない…


 抜け目のない、ユリコは、そこに、目をつけたわけだ…


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