↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
116/122

寿綾乃という女 第3部 116

まさか、この私が、非常勤の取締役として、FK興産に出社するとは?


考えれば、考えるほど、笑える…


自分でも、爆笑してしまう…


私は、ただの秘書…


社長である、ナオキの秘書に過ぎない…


そんな社長秘書に過ぎない私が、臨時の取締役会に、取締役として、出席するなんて(苦笑)…


まさに、夢…


悪夢かも、しれない夢…


なぜ、悪夢かも、しれないのか?


それは、一見、いいことのように、思えるが、実は、なにが、あるか、わからないからだ…


人間万事塞翁が馬…


いいことも、悪いことも、長くは、続かない…


私は、それを、この一年で、学んだ…


嫌というほど、実感した(苦笑)…


癌にかかり、内心、どうしていいか、悩んだ…


誰にも、打ち明けずに、悩んだ…


なぜ、誰にも、打ち明けなかったのか?


それは、ちょうど、その時期に、私が、五井家の人間と接したから…


五井家の当主、諏訪野建造や、その息子、伸明と接して、母が、遺言した、本物の寿綾乃と勘違いした、大金持ちの人間と接したからだ…


だから、誰にも、打ち明けることは、できなかった…


なにより、ナオキ自身、私が、寿綾乃だと、信じていた…


だから、私にそんな裏があるとは、夢にも、思っていなかったに違いない…


寿綾乃を名乗る偽者だとは、考えもしなかったに違いない…


また、私自身、気持ちが昂っていた…


…来た!…


…いよいよ、来た!…


と、内心、ドキドキした…


母の遺言した、来るべきものが、来たのだ…


だから、癌で、悩んでは、いられなかった…


また、癌では、あったが、最初は、それほどとは、思わなかった…


それほど、悪いとは、思わなかった…


それも、大きい…


現実に、日常生活で、支障がなかった…


不便がなかった…


だから、周囲の人間にバレることは、なかった…


正直、痛みが、激しければ、それどころではない…


五井家と知り合ったからと、いって、どうのこうの言っていられない…


痛くて、仕方がないからだ…


でも、私は、そうではなかった…


幸運にも、違った…


痛みは、それほどでも、なかった…


だから、自分の病状を甘く見ていた…


だから、旗から見れば、普段通り、行動していた…


だから、これは、幸運…


実に、幸運だった…


それが、一転して、ジュン君の運転するクルマにはねられてた…


これは、不幸…


不幸に、決まっている…


しかしながら、奇跡的に、助かった…


五井記念病院に入院して、回復した…


だから、幸運…


幸運だ…


そして、オーストラリアに癌の治療に行った…


日本では、まだ認可されていない、放射線治療を行うためだ…


カラダの中に、放射能を取り込んで、その放射能で、癌を撲滅する…


しかしながら、それは、癌の種類による…


癌の種類によって、効果がある場合と、ない場合がある…


私の場合は、微妙…


実に、微妙だった…


 だから、幸運かと、言われれば、幸運ではない…


 癌が、完治しなかったからだ…


 ならば、不幸なのかと、問われれば、それも、違う…


 オーストラリアに治療に行った結果、以前と比べれば、大分良くなったからだ…


 だから、不幸でもない…


 要するに中途半端…


 良くも、悪くもない…


 言ってみれば、微妙…


 実に、微妙だった…


 そして、そんなことを、考えれば、考えるほど、人間万事塞翁が馬という言葉を実感する…


 良いことは、長く続かないし、悪いことも、また、長くは、続かない…


 普通は、そういうものだ…


 ごく稀に、生まれたときから、死ぬまで、一生たいした苦労もしない、人間もいるし、また真逆に、生まれたときから、死ぬときまで、苦労の連続の人生を歩むものもいる…


 しかしながら、それは、少数…


 ごく少数の人間だ…


 生まれたときから、お金持ちの家に生まれ、本人もまた、能力もあり、会社で出世したり、あるいは、実家の会社を継いで、結婚し、子供にも恵まれ、人並み以上の生活を一生続ける…


 そんな人間が、この世の中にいるだろうことは、誰にも、想像が、つくが、普通はそんな人間に、滅多にお目にかかったことはない…


 それぐらい、稀だ…


 ただ、以前、そんな事例をネットで見た…


 そのひとは、物腰も丁寧で、穏やかな紳士だったという…


 いわゆる、深夜のホテルの受付をバイトでしていて、いかにも、そんな仕事には、不釣り合いな人間だったという…


 なぜなら、ホテルといっても、そのホテルは、男女が、セックスをするために利用するいかがわしいホテルだったからだ…


 そして、そのネットの記事を書いたひとは、同じバイトをしていて、偶然、その紳士の履歴書を見て、驚いたそうだ…


 いわゆる有名大学を出て、誰もが、憧れる立派な経歴を持っていたそうだ…


 だから、二人きりになったとき、


 「…なぜ、こんなことをしているんですか?…」


 と、直球で、聞いたそうだ…


 すると、その紳士は、


 「…自分は、生まれてこのかた、たいした苦労はしていない…生まれた家は、お金持ちだったし、大学も、いい大学に入れ、今は、実家の家業を継いで、子供にも恵まれ、誰もが、羨む人生を歩んでいる…だから、生涯一度くらい、こんな仕事をしてみたかった…人の裏といっては、なんだけれど、見てみたかった…」


 と、言ったそうだ…


 真逆に、貧乏な家に生まれ、本人もまた、性格が悪く、どこに行っても、嫌われ、他人とうまく折り合えない…


 そんな人間もまた存在する…


 しかしながら、そんな人間も稀…


 ごく稀だ…


 が、


 そうはいいながらも、後者の方は、お目にかかったことがある…


 いや、


 誰でも、そうだが、後者の方が、会ったことがある人間の方が、多い…


 前者の方は、もっと少ない…


 だから、余計に会ったことがない…


 そういうことだ…


 しかしながら、こんな例は、稀…


 実に稀な例であって、大抵の人間は、人間万事塞翁が馬…


 良いことがあったり、次に、悪いことがあったり…


 そんな人生を歩んでゆく…


 そして、それは、私も例外ではない…


 私、寿綾乃もまた例外ではない…


 矢代綾子もまた例外ではないということだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…



 そして、そんなことを、考えながら、ほぼ一年振りに、FK興産に向かった…


 FK興産に出社した…


 臨時の取締役会が、行われるのは、FK興産の本社だからだ…


 そして、取締役会が、行われるのは、FK興産の会議室に決まっている…


 株主総会ではないのだから、FK興産の本社ではなく、どこか、別の大きな会場を借りて、開催する必要もないからだ…


 取締役会議なのだから、出席するのは、数名…


 おそらく、十人に満たない…


 いや、


 ひょっとすると、片手の指の数で、足りるかも、しれない…


 以前は、事実、5人だった…


 FK興産は、社員千人の企業…


 取締役の人数が、5人というのは、ちょうど、良いのかも、しれない…


 社長のナオキを筆頭に、5人…


 といっても、FK興産が、金を借りた銀行から、二人の人間が、社外取締役として、招かれていて、純粋に、FK興産の人間は、社長のナオキを除けば、二人だけ…


 つまりは、社員千人で、取締役の肩書を持つ者は、社員では、わずか3人に過ぎないということだ…


 私は、取締役会議が、行われるたびに、秘書として、接客したというか…


 ぶっちゃけ、お茶を出したり、食事の手配をしたりした…


 それが、取締役会議の思い出…


 正直、面倒臭いというか…


 疲れる(苦笑)…


 FK興産出身の取締役は、いい…


 しかしながら、外部の人間は、疲れる…


 正直、緊張する…


 一年に何度か、顔を会わせるに過ぎない関係だからだ…


 その点、FK興産出身の取締役は、楽…


 普段から、接しているから、楽だ…


 なにしろ、ナオキを含めて、FK興産出身の取締役は、入社以来の顔なじみ…


 歳も若い…


 四十代前半のナオキを筆頭に、皆、大差ない年齢だからだ…


 だから、取締役会議が、開かれ、社外の取締役が、やって来ると、緊張する…


 なにしろ、普段、お目にかかれない、顔なじみのない人間だし、おまけに、年齢も、50代になっている…


 だから、緊張する…


 FK興産出身の取締役は、取締役といっても、皆、入社以来の顔なじみ…


 だから、ハッキリ言えば、大学のサークルのノリというか…


 若いときからの顔なじみ…


 ずっと、いっしょにやって来た仲間だからだ…


 だから、取締役会議を開くといっても、正直、肩書だけ…


 メンバーは、皆、創業メンバーだからだ…


 しかしながら、社外の取締役は、銀行から派遣された者たち…


 ハッキリ言って、銀行からのお目付け役だ…


 金を貸した会社が、しっかりやっているのか?


 それを、調べるためにやって来た者たちだからだ…


 だから、私も緊張した…


 それが、わかっているから、緊張した…


 が、


 それが、今は、立場が、逆…


 まさか、接待する側の秘書だった私が、接待される側の取締役になるとは、思わなかった…


 夢にも、思わなかった…


 まさに、人生は、わからない…


 どうなるか、わからない…


 その典型だった(爆笑)…


 そして、それを、思うと、数年前に、日産で、レースクイーン出身の女性が、取締役になったと言って、世間の話題になったことを、思い出した…


 なにしろ、レースクイーンだ…


 正直、見た目は、派手…


 が、


 それは、若いときだけ…


 長身で、スタイルが良く、顔も良ければ、レースクイーンになれるだろう…


 しかしながら、それは、外見…


 見た目の優秀さに過ぎない…


 大企業の社外取締役になるには、中身…


 なにより、中身…


 頭の良さが、必要になるからだ…


 だから、驚いた…


 私のみならず、世間が驚いた…


 レースクイーンと大企業の取締役では、求められる能力が、真逆…


 真逆だからだ…


 だから、驚いた…


 そして、そんなことを、考えたとき、この私…


 私、寿綾乃が、取締役になったことは、たいしたことがないのでは?


 と、思った…


 なにしろ、かくゆう、私…


 私、寿綾乃もまたFK興産の古参社員の一人…


 創業メンバーに近い社歴を持っている…


 だから、社歴だけで、判断した場合は、私も十分取締役の資格がある(笑)…

 

 社歴=その会社に勤務してからの年数だからだ…


 それゆえ、古参社員の私は、資格がある…


 取締役になる資格がある…


 私は、そう思った…


 もはや、こじつけ…


 無理やり、こじつけたに過ぎない(爆笑)…


 だが、資格はある…


 そういうことだ…


 そして、そんなことを、考えながら、FK興産の入っている高層ビルに入った…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。