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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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114/122

寿綾乃という女 第3部 114

伸明に会うべきか、否か、何度も、自答した…


 いや、


 何度も、何度も、自答した…


 自分でも、嫌になるくらい、繰り返し、自問自答した…


 諏訪野伸明…


 五井家当主…


 たしかに、会いたい…


 正直、結婚したい…


 それが、偽らざる本音…


 ナオキのことは、好きだが、ナオキは、すでに、私の家族…


 例えれば、私にとって、父や兄や弟のような存在…


 私にとって、この上なく、大事なひとでは、あるが、もはや、ときめかない…


 長くいっしょに、いすぎたからだ…


 だから、ナオキのことは、すべて、知っている…


 いや、


 知り過ぎている(笑)…


 だから、いっしょに、いるのは、この上なく、楽だし、居心地も、いいのだが、いかんせん、ときめかない…


 ときめいたのは、出会って、最初のうちだけ…


 だから、もはや、刺激がなくなった(笑)

…


 一方、伸明は、違う…


 出会って、まだ、一年と経っていないし、正直、まだ、キスだけの関係…


 カラダの関係も、ない(苦笑)…


 だから、新鮮というか…


 正直、いっしょに暮せば、伸明と同じ…


 そのうちに同じになるのは、わかっている…


 もちろん、伸明とナオキでは、人間が違うから、同じではないが、いっしょに、暮らせば、こんなものかと、思う…


 そういうことだ(笑)…


 つまるところ、これは、食事と似ている…


 どんなものか、食べてみなければ、わからない…


 そして、食べてみて、初めて、これは、おいしいと、気づく…


 が、


 同時に、いくら、おいしいものでも、毎日食べれば、誰でも、飽きる…


 それと、似ている…


 要するに、結婚して、最初のうちは、誰でも、新鮮だが、それになれると、それが、普通になり、新鮮さが、なくなるということだ(笑)…


 だから、これは、何度、結婚しても、同じ…


 誰でも、同じだろう…


 食事と同じく、最初は、新鮮だが、そのうちに、その味に慣れて、それが、普通になり、最初、感じたおいしさは、感じなくなる…


 ただ、違うのは、それが、おいしいか、否か?


 あるいは、別の言い方をすれば、どれだけ、おいしいか、否か?


 その違いだ…


 そして、それは、結婚相手の年収によって、ぶっちゃけ、生活レベルが変わる…


 単純に比べれば、年収五百万のひとと、年収一千万のひとと、結婚するのでは、生活レベルが、違うだろう…


 誰でも、わかることだ…


 それが、結婚する相手の違いによって出る…


 そして、もう一つ…


 相性というか…


 いっしょに暮して、ハッキリ言って、楽しいか、否か?


 その違いだ…


 自分は、以前、付き合った男は、いっしょにいて、普通だったが、今度の男は、いっしょにいて、いつも楽しいとか…


 要するに、互いの相性なのだろう…


 これも、また、いっしょに、暮らしてみなければ、わからない…


 当たり前のことだ…


 そして、実は、これが、一番大事…


 いっしょにいて、楽しいか否かが、一番大事だ…


 いくら、お金持ちと、結婚しても、楽しくなければ、大変だ…


 正直、つまらないから、そのはけ口を不倫に求めたり、趣味に求めたりする…


 つまりは、自分自身の楽しみを、夫以外に探すということだ…


 だから、そういう意味では、ナオキのことは、わかっている…


 今では、空気のような存在…


 私を包む空気のように、安心して、心地よい…


 しかしながら、伸明のことは、わかっていない…


 だから、試してみなければ、わからない…


 いっしょに暮してみなければ、わからない…


 そういうことだ…


 そして…


 そして、やはりというか…


 憧れがある…


 天下に名の知れた五井家の当主に憧れがある…


 五井というブランドに憧れがある…


 それが、正直なところ…


 いわゆる、ミーハー…


 私は、つくづくミーハーなのだと、思う…


 正直、これまで、そんなことは、考えたことは、なかった…


 なぜ、考えたことが、なかったのか?


 それは、私の周りにいなかったからだ…


 伸明のようなお金持ちは、見たこともなかったからだ…


 だから、考えることが、なかった…


 当たり前のことだ…


 これは、例えれば、芸能人やスポーツ選手…


 テレビやネットで見て、


 …スゴイ!…


 とか、


 …カッコイイ!…


 と、憧れるのは、誰にもあることだが、それで、その芸能人やスポーツ選手と、本気で、結婚したいと、思う女は、普通は、いない…


 いるとすれば、それは、接点があるから…


 たまたま、自分の働く飲食店の常連だったり、自分の兄弟が、その芸能人やスポーツ選手の中学や高校の同級生で、知っていたり…


 要するに、身近に知っているから、もしかしたら、私も、結婚できるかも…


 と、考える…


 それが、普通だ…


 だから、私も、それと同じ…


 同じだ…


 それまで、伸明のような大金持ちとは、会ったことも、なかった…


 接点もなかった…


 それが、接点ができた…


 だから、憧れる…


 まるで、少女のように、憧れる…


 そういうことだ…


 そして、これは、笑える…


 実に、笑える…


 なぜなら、すでに、32歳になり、いっぱしの恋愛経験もあり、事実上、結婚していた女が、相手が、大金持ちの御曹司と聞けば、目の色を変えて、憧れる…


 だから、笑える…


 実に、笑える…


 結婚というものが、どういうものだか、わかっている女が、中高生のように、憧れる…


 ある意味、バカの極み…


 それまでの人生経験が、まるで、役に立っていない(爆笑)…


 32歳にもなっても、まだ思考レベルは、中高生と、変わらない…


 変わらないどころか、まったく同じ…


 なにも、変わらない…


 だから、笑えるのだ…


 あらためて、思った…


 

 そして、その夜は、ずっと、そんなことを、考え込んでいた…


 考え続けていた…


 伸明のこと…


 ナオキのことを、考え続けていた…


 同時に、自分の立場を思った…


 これでは、まるで、私が、主導権を握っているよう…


 まるで、私が、伸明か、ナオキか、どっちの男と結婚するのか?


 決める主導権を握っているかのよう…


 そう、思った…


 が、


 事実は、違う…


 全然、違う(笑)…


 たしかに、伸明は、私を好きかも、しれないが、どれほど、私を好きなのか?


 それは、わからない…


 ずっと、以前、FK興産にいたとき、ある若い男の社員が、他の若い女の社員を好きなのでは?


 と、職場に話題になり、私も、職場は、違ったが、その職場に顔なじみの同僚がいて、その話に参加したことがある…


 要するに、恋バナで、盛り上がった経験がある(笑)…


 その職場の若い男が、いつも、その若い女を見ている…


 だから、当然、好きなんだろ?


 と、いうわけだ…


 そして、いつのまにか、なぜ、告白しないんだろ?


 という話になり、それで、話は、盛り上がって、終わったが、その後、偶然、その若い男と、仕事で、接点ができ、親しくなった…


 だから、直接、その男に、聞いた…


 「…以前、こんな噂を聞いたことがあるけど…」


 と、遠回しに言って、聞いた…


 すると、予想外の答えが、返ってきた…


 その若い男が、言うには、


 「…この会社の中だから、あのコが、好きなんですよ…」


 と、言ってきた…


 私は、最初、意味がわからなかった…


 が、


 よくよく聞いてみると、


 「…ただ、見ているのが、好き…付き合うつもりは、ない…」


 と、断言した…


 私は、仰天して、


 「…それは、どうして?…」


 と、聞くと、


 「…そこまで、好きじゃない…」


 と、返答する…


 要するに、会社にいる若い女の数は、限られている…


 だから、その中では、好きなんだけれども、付き合いたいと、思うほど、好きじゃない、ということだ…


 私は、それを、聞いて、唖然としたが、少し考えて、


 …そういうものかな…


 と、納得したものだ…


 誰もが、昨日今日、生まれたわけではない…


 なにを言いたいかと、言えば、会社に入るまで、高卒では、18年、大卒では、22年、生きている…


 だから、それまで、誰もが、それなりに、多くの人間を見ている…


 多くの人間=多くの男と女を見ている…


 つまりは、その若い男が、それまで、見てきた女の中で、もっと、良い女がいたということだ…


 ぶっちゃけ、もっと、キレイだったり、頭が、良かったり、性格が良かった女が、いたということだ…


 ただ、この会社の中では、その女のコが、好き…


 しかしながら、付き合いたいと、思うほど、好きではない…


 そういうことだ…


 私は、それを、聞いて、考え込んだ…


 実に、考え込んだ…


 なぜなら、その答えを聞いて、


 「…ウソを言うな!…」


 とか、


 「…あんなに見ているんだ! そんなわけ、ないだろ!…」


 と、怒鳴る者もいるだろうからだ…


 要するに、信じない者もいるだろうからだ…


 その一方、その言葉を信じる者もいる…


 現に、私は、その若い男の言葉を信じた…


 世の中、そういうこともあるだろうと、思うからだ…


 そして、それを、考えたとき、つくづく、ひとが、どう思っているか、わからないなと、思った…


 その若い男の言い分と、周囲の見方が、まったく、違う…


 で、答えを、聞いたところで、それを信じない者も、いるだろう…


 そう、思った…


 そして、私が、今、なぜ、そんなことを、思ったのか?


 それは、伸明のことを、考えたからだ…


 伸明が、私を好きだと、言っても、どれほど、好きなのか、わからないからだ…


 ホントは、私より、もっと、好きな女がいる…


 でも、手を出せないとか?


 例えば、相手がすでに、結婚しているとか?


 そんな可能性もある…


 だから、私を好き…


 そういう可能性もある…


 一方、ナオキは、どうか?


 ナオキは、たしかに、私を好き…


 しかしながら、私以外にあっちの女、こっちの女と、いろいろな女に見境なく手を出している…


 要するに、女好きなのだ…


 ただ、ナオキは、カラダはともかく、心は、繋がっている…


 そう、思っている…


 が、


 伸明は、わからない…


 なにを、考えているのか、わからない…


 まあ、いずれにしろ、どちらにしろ、完璧な人間はいない…


 当然、欠点はある…


 そして、その欠点を自分が、受け入れることが、できるか、否か…


 許容できるか、否か…


 が、大事だと、思った…


 そして、それを、どう考えても、二人より、劣る私が、考え続けていた…


 自分より、はるかに財産を持つ、二人を、二人より、はるかに能力の劣る私が、評価していた…


 上から、目線で、評価していた…


 本当なら、私は、選ばれる立場…


 にもかかわらず、選ぶ立場で、評価していた…


 これは、笑える…


 実に、笑える…


 まさに、バカの極み…


 バカの極み=本物のバカだ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、そんなことを、考えながら、いつのまにか、ウトウトして、目が覚めると、朝になっていた…


 我ながら、バカ…


 32歳になるにも、かかわらず、こんなことを、考えて続けるなんて…


 いかに、成長しないかの見本だった…


 そして、そんな成長のかけらもない女を、あの伸明は、ホントに好きなのだろうか?


 と、あらためて、自問自答した…


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