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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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113/122

寿綾乃という女 第3部 113

そして、それを、聞いた私は、思わず、


 「…助けて、やらないんですか?…」


 と、聞いた…


 つい、口に出してしまった…


 すると、ユリコが、


 「…額によるんじゃない…金額によるんじゃない…」


 と、言った…


 当たり前だった…


 「…どこの家庭も、そうでしょ? …兄や、妹の家計が、火の車だと、知って、助けてやりたくても、それは、金額による…」


 「…」


 「…まして、五井長井家の当主は、評判が悪かった…だから、本家を含め、誰も、力を貸して、くれなかった…自業自得よね…」


 「…」


 「…でも、娘は、父親をそう見ていなかった…父親が好きだった…だから、許せなかったんだと、思う…」


 「…」


 「…だから、お嬢ちゃん…生粋のお嬢ちゃんなのよ…もっとも、あのお嬢ちゃんだって、歳を取り、四十、五十になれば、違うでしょうけれど…」


 ユリコが、笑う…


 私は、それを、聞いて、ユリコの言う通りだと、思った…


 たしかに、若ければ、若いほど、視野が、狭くなる…


 そして、自分勝手になる…


 だから、あの長井さんは、自分の父親の危機を五井本家が、救ってくれるはずと、単純に思い込んでいたのだろう…


 同じ五井一族だから、救ってくれると、思ったのだろう…


 私が、そう考えていると、


 「…だから、利用しやすかった…」


 と、ユリコが、突然、言った…


 「…だから、あの長井のお嬢ちゃんを通じて、あの菊池リンに、あることないこと、告げた…あの菊池リンは、五井の女帝の孫…あの女帝を、困らせるには、うってつけ…まさに、うってつけの相手だった…」


 「…」


 「…で、それを、知った和子は、激怒した…私は、和子の怒りを増幅させた…」


 ユリコが、告白する…


 「…だから、正直、このままでは、私の身が、危うい…」


 ユリコが、一転して、切羽詰まった声で、言う…


 「…だから、お願い、寿さん…伸明さん…五井の当主に頼んでくれないかな…」


 「…エッ?…」


 思わず、声に出した…


 まさか、ここで、伸明の名前が出るとは、思わなかった…


 五井家の当主の名前が出るとは、思わなかった…


 「…伸明さんに、頼んで、五井の女帝の怒りを鎮めて、もらえないかな…」


 ユリコが、懇願する…


 そして、そのことで、ようやく、なぜ、ユリコが、こんな時間に、私に電話をくれたのか?


 わかった…


 ようやく、ユリコの目的がわかった…


 夜の十一時に電話をかけてきた目的が、わかった…


 たしかに、ユリコの言う通り…


 ユリコの怒りを鎮めることが、できる人物と言えば、伸明…


 五井家の当主しか、思い浮かばない…


 和子は、五井の女帝と呼ばれているが、名目上は、伸明の下…


 明らかに、下だ…


 だから、伸明が、和子に頼み込めば、なんとか、なるかも、しれない…


 いや、


 なんとかは、ならないかも、しれないが、少しは、怒りを和らげることが、できるかも、しれない…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、それを、思えば、誰もが、考えることは、同じ…


 同じだと、思った…


 私が、もし、ユリコの立場なら、きっと、同じことを、したかも、しれない…


 なぜなら、ほかに、選択肢が見つからない…


 和子の怒りを鎮める選択肢が、見つからなかった…


 が、


 正直、躊躇した…


 なぜなら、そんなことを、すれば、下手をすれば、私が、和子の怒りを買いかねないからだ…


 当たり前だ…


 だから、躊躇した…


 また、なにより、頼んできた相手がユリコだ…


 私の天敵のユリコだ…


 その天敵のユリコが、私に頼み込んでくるなんて、あまりにも、虫がいいというか…


 虫が、良すぎる(爆笑)…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 だから、私は、答えなかった…


 すぐには、答えなかった…


 が、


 いつまでも、答えないわけには、いかない…


 数十秒…


 あるいは、一分を過ぎてから、


 「…申し訳ありませんが…」


 と、断ろうとした…


 当然だ…


 ユリコのために、動いて、和子を敵に回したくはない…


 当たり前だ…


 すると、ユリコが、


 「…菊池リン…」


 と、いきなり、言った…


 「…彼女が、どうしたんですか?…」


 と、つい、聞いてしまった…


 反射的に、聞いてしまった…


 「…あのコ、以前、ジュンと婚約したでしょ?…」


 思いがけないことを、言った…


 すっかり、忘れていたことを、言った…


 「…私、あのときに、色々、五井のことを調べたのよ…」


 「…五井のこと?…」


 「…正直、ドロドロ…ドロドロの人間関係…」


 「…ドロドロって?…」


 「…人間関係の恨みつらみが、激しい…」


 「…」


 「…現に、あの菊池リンだって、父親は、五井長井家の出身で、あの五井の女帝と、ソリが合わなくて、五井東家を出て行ったでしょ?…」


 「…エッ?…」


 思わず、声に出した…


 だからか?


 私は、思った…


 だから、このユリコは、あの菊池リンを使ったんだ!…


 あの菊池リンを利用したんだ!…


 あの菊池リンもまた、あの五井の女帝に、恨みを抱いていた…


 だから、その恨みを利用した…


 そして、あの長井のお嬢様も、また、あの五井の女帝に恨みを抱いている…


 だから、互いに、五井の女帝に恨みを抱いている者同士、利用しやすかった…


 そういうことだ…


 「…そして、その人間関係のドロドロは、他にも、いっぱいある…」


 「…どういうことですか?…」


 「…五井は、四百年の歴史がある…でも、四百年の歴史があるってことは、同じ五井と名乗っていても、血は薄い…もはや、他人に近いぐらい血が薄い…だから、今は、一族は、結婚は、一族内で、結婚する…結婚相手を、一族内で探す…」


 「…」


 「…で、その結果、どうなったと、思う?…」


 「…どうなったか? …わかりません…」


 「…簡単よ…今度は、一族内で、あの家の長男は、五井何々家の次女と、結婚して、その長女の方は、別々の五井の家に、嫁いでとなった…」


 「…それが、どうしたんですか?…」


 「…つまり、政略結婚ね…好きでも、ない相手と結婚する…その結果、双方に不満がたまる…そして、最悪、離婚する…一族内の結婚が、うまくいってない実例…」


 「…」


 「…まあ、だから、私もつけ入る隙があったんだけれども…」


 ユリコが、告白する…


 それを、聞いて、呆気に取られた…


 確かに、そうだろう…


 ユリコの言う通りだろう…


 五井は、血が薄くなりすぎたから、原則、結婚は、一族内で、する…


 一族内で、結婚相手を探す…


 つまり、政略結婚と同じだ…


 要するに、好きでもない相手と結婚する…


 だから、不満がたまる…


 互いに結婚相手に不満がたまる…


 そういうことだ…


 皮肉にも、一族の結束を高めるために、同じ一族内で、結婚を奨励しているにも、かかわらず、その結婚が、裏目に出ている…


 これは、皮肉…


 皮肉に他ならない…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 そして、それを、思ったとき、


 …だからか!…


 と、気づいた…


 なぜ、私を伸明が、好きなのか?


 気づいた…


 要するに、一族内の結婚の失敗例を見ているからだ…


 血の維持のために、無理やり一族内で、結婚をして、うまくいかなった実例を目の当たりにしているからだろう…


 だから、伸明は、私に目を向けた…


 あえて、一族外の私に目を向けた…


 そういうことだろう…


 私は、気づいた…


 そして、そんなことに、気づいた私に、


 「…とにかく、寿さん、お願い…」


 と、ユリコが、声をかけた…


 こちらが、引き受けるとも、なんとも、言わないにも、かかわらず、声をかけた…


 「…とにかく、寿さん、お願いね…」


 と、言うなり、電話を、切った…


 私は、唖然とした…


 同時に、うまいやり方だと、思った…


 引き受けるとも、引き受けないとも、こちらが、言わない間に、一方的に電話を切る…


 いくら、頼んでも、私が、引き受けない可能性が、高いからだ…


 だから、一方的に頼み込んで、電話を切る…


 頭には、きたが、これが、一番いいやり方かも、しれない…


 そう、思った…


 そして、そう思うと、


 …さすが、ユリコ…


 …ユリコだ…


 まさに、敵ながら、あっぱれ…


 実に、あっぱれだと、思った…


 頭には、きたが、同時に笑える…


 いかにも、やることが、ユリコらしい…


 実に、ユリコらしいと、思った…


 そして、この後、どうするか?


 考えた…


 ユリコの言う通り、伸明に会うか、否か、考えた…


 実のところ、伸明には、会いたい…


 結婚のこと…


 そして、FK興産のこと…


 これらのことを、どう思っているのか?


 伸明の心の内を知りたい…


 そう、思った…


 そして、そんなことを、考えていると、


 …結果的に、ユリコの言う通りになるかも、しれない…


 …伸明に会うことになるかも、しれない…


 と、思った…


 これは、癪…


 実に、癪だった…


 なぜなら、天敵のユリコの言う通りに、自分が、動くことになるからだ…


 実に癪だが、伸明に会いたい気持ちは、変わらない…


 これは、一体、どうすれば、いい…


 伸明に会うべきか?


 それとも、


 伸明に会わないべきか?


 自問自答した…


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