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寿綾乃という女 第3部  作者: トモサン


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112/122

寿綾乃という女 第3部 112

私は仰天した…


 ユリコの言葉に仰天した…


 なぜ、私が、伸明のお気に入りだから、和子に気をつけなければ、ならないのか?


 わけがわからなかったからだ…


 だから、


 「…どうしてですか?…」


 と、聞いた…


 「…どうして、私が、伸明さんのお気に入りだから、目をつけられているんですか?…」


 と、聞いた…


 すると、


 「…答えは、簡単…」


 と、ユリコが、言った…


 「…簡単…」


 「…そう、簡単…答えは、あの五井の女帝は、あの伸明を寿さんと、結婚させたくないからよ…」


 「…エッ?…」


 思わず声に出した…


 だって、そうだろう…


 あの和子は、私と伸明の結婚を後押しする言葉をかけた…


 いわば、私の味方…


 にもかかわらず、このユリコは、真逆…


 真逆=敵のように、言うからだ…


 私が、考えていると、


 「…だって、寿さん、考えてみて…」


 と、ユリコが、言ってきた…


 「…なにを、考えるんですか?…」


 「…天下に知られた五井の御曹司が、どこの馬の骨とも、わからない女と結婚したら、五井の恥よ…世間の笑いものよ…」


 ユリコが、言う…


 「…まさか、五井の恥を天下に晒すわけには、いかないでしょ?…」


 言われてみれば、その通り…


 ぐうの音も出なかった…


 まさに、その通りだからだ…


 それに、気づかない私は、バカ…


 大バカだった…


 表面上は、ともかく、和子が、認めるわけがない…


 私を伸明の嫁として、認めるわけはない…


 なにしろ、あれほど、五井の序列を気にする和子だ…


 序列が、変われば、五井が、崩壊しかねない…


 そんな危惧を抱く和子が、私と伸明の結婚を認めるわけはない…


 そんなことを、すれば、それが、引き金になり、最悪、五井が、崩壊しかねない…


 五井が、バラバラになりかねないからだ…


 五井は、五井の一族との結婚が、決まり…


 決まり=原則だ…


 その原則を、当主自らが、破るわけには、いかない…


 その掟を破るわけには、いかない…


 そんなことをすれば、それが、前例になり、次々と、五井の掟が、破られかねない…


 そして、その結果、五井の結束が、弱まり、最悪バラバラになる…


 それを、和子は、恐れている…


 異常なくらい、恐れている…


 そして、そんなに恐れている和子が、私と伸明の結婚を認めるわけはない…


 絶対にない!


 あらためて、思った…


 あらためて、考えた…


 しかしながら、そんなことも、気づかないとは?…


 今、このユリコに指摘されるまで、気づかないとは?…


 我ながら、愚かという言葉では、言い表せない…


 それほど、愚かだと、思った…


 それほど、愚か=バカだと、気づいた…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、


 「…ようやく、寿さんも、自分の立場が、わかったようね…」


 と、電話の向こう側から、ユリコが、楽しそうに笑った…


 実に、楽しそうに、笑った…


 が、


 当たり前だが、私は、全然、楽しくない…


 むしろ、不愉快だった…


 私は、騙されていた…


 あの和子に騙されていた…


 それに、気づいたから、不愉快だった…


 いや、


 必ずしも、ユリコの言葉が、本当か、どうかは、わからない…


 真実か、どうかは、わからない…


 が、


 普通に、考えれば、真実…


 ユリコの言うことが、正しい…


 そう、思う…


 が、


 その一方で、それは、本当か?


 ユリコが、ウソを言っているのではないか?


 ユリコが、私を騙さそうとしているのではないか?


 そういう気持ちもある…


 正直、ある…


 が、


 しかしながら、ユリコの言葉には、説得力がある…


 なにより、説得力がある…


 それは、否定できない…


 また、こんなとき、思うのは、


 …自分は、特別…

 

 …自分は、例外…


 と、思うこと…


 それが、危険…


 なにより、危険だ…


 誰でも、そうだが、自分の評価は、他人が、自分を評価する、数倍は、高い(苦笑)…


 もちろん、この私も例外ではない…


 この寿綾乃も、例外ではない…


 一番、よくわかる例は、リストラ…


 会社で、早期退職=リストラが、実施され、誰もが、アイツは、切られても、仕方がないと、思っていても、それに該当する当人は、


 …なんで、オレが?…


 …ウソだろ?…


 と、内心、ビックリしている者も、多い…


 自分の実力と、周囲の評価が、まるで、違うからだ…


 もっと、身近な例で言えば、モテ具合…


 例えば、会社で、モテる女がいるとする…


 が、


 巷(ちまた)では、それほど、モテる女ではない…


 美人でも、かわいくもない…


 ただ、若いだけ…


 では、どうして、会社では、モテるのか?


 それは、女が少ないから…


 男に、比べて、圧倒的に女が少ないから、若い女なら、おおげさに言えば、誰でも、モテる…


 例えば、男と女の割合が、九対一…


 いや、八対一と、言った割合…


 だから、誰でも、チヤホヤされる…


 誰でも、モテる…


 だから、誤解する…


 誰もが、勘違いする…


 自分のモテ具合を、勘違いする…


 本当は、私そんなモテない…


 この職場は、女が少ないから、私でも、チヤホヤされるんだ…


 と、内心、わかっている女でも、大抵は、自分のモテ具合を、誤解する…


 チヤホヤされるから、誤解する…


 自分を、他人が、評価する、2倍や3倍は、モテると、誤解する…


 そういうものだ(笑)…


 そして、それは、私も同じ…


 私、寿綾乃も、同じだ…


 なにが、同じなのか?


 それは、自分は、特別…


 特別だから、伸明のお嫁さんになれるかも、しれない…


 五井家当主の妻になれるかも、しれない…


 と、本気で、思い込む…


 それが、間違いなのに、まったく、気づかない…


 だから、同じ…


 同じだ…


 あらためて、思った…


 あらためて、気づいた…


 そして、私が、そんなことを、思っていると、


 「…だから、気をつけなさいと、言いたいわけ…」


 ユリコが、電話の向こう側から、力を込めて、言う…


 私は、ユリコの言葉に、納得した…


 全力で、同意した…


 そして、考えた…


 このユリコ…


 どうして、私に、連絡を寄こしたんだろ?


 なにしろ、犬猿の仲だ…


 ホントは、顔を見たくない仲だ…


 私は、このユリコから、夫のナオキも、息子のジャン君も奪った女だ…


 だから、憎んでも、憎み足りない…


 それほど、私を憎んでいる…


 あるいは、忌み嫌っている…


 にも、かかわらず、私に電話してきた…


 こんな夜中にも、かかわらず、電話をしてきた…


 これは、一体、どうして?


 これは、一体なぜ?


 わからない…


 いくら、考えても、わからない…


 だから、なぜ?


 どうして、私にこんな時間に電話をかけてきたのか?


 聞こうとすると、先に、電話の向こう側から、


 「…私、やりすぎちゃったのね…」


 と、またも、ユリコの声が漏れ聞こえてきた…


 「…あの五井長井家のお嬢様と、菊池リン…彼女をバッティングさせ、あることないこと、吹き込んだ…」


 「…エッ?…」


 あまりにも、意外…


 いや、


 意外ではない…


 やはりというか…


 やはり、ユリコが、絡んでいたのか?


 今さらながら、気付いた…


 「…そして、それも、また、あの五井の女帝の知るところとなった…当然、女帝は、激怒するわね…」


 「…」


 「…だから、私は、やばい…実に、やばい立場…」


 ユリコが、自嘲気味に、言う…


 私は、


 …それは、当たり前だ…


 …自業自得だ…


 と、言ってやりたかったが、さすがに、言えなかった…


 さすがに、このタイミングで、言えなかった…


 なにより、今は、ユリコの悪口を言う場面ではない…


 それより、なぜ、今、ユリコが、私に電話をかけてきたのか?


 それを、知るのが、大事…


 大事だ…


 私は、思った…


 私は、考えた…


 だから、ホントは、


 「…ユリコさん…今夜は、どうして、電話を、くれたんですか?…」


 と、聞きたかったが、聞けなかった…


 っていうか…


 そもそも、こちらから、わざわざ、訊ねずとも、きっと、ユリコから、切り出す…


 それが、わかっていた…


 それが、わかっているから、あえて、聞かなかった…


 そういうことだ(笑)…


 そして、私が、そんなことを、考えていると、


 「…あの長井のお嬢ちゃん…五井長井家のお嬢ちゃんの五井本家への恨みは、ハンパじゃなかった…」


 と、ユリコが、言い出した…


 私は、内心、


 …エッ?…


 と、思った…


 話が、そこへ、行くのか?


 と、思った…


 「…当然よね…五井長井家は、家計は、火の車…あのお嬢ちゃん、まだ、子供だから、五井本家に頼めば、簡単に、救って、もらえると、勘違いしていた…」


 …エッ?ッ…


 …勘違い?…


 …なにが、勘違いなんだろ?…


 「…五井は、基本、独立採算制…会社が、事業部制で、各自、独立しているのと、同じ…」


 「…エッ?…」


 思わず、声に出した…


 「…要するに、同じ五井の旗の下で、商売していても、各一族は、バラバラ…例えて、言えば、兄弟姉妹が、大人になって、それぞれ、結婚して、別の家庭を持っているのと、同じ…」


 「…」


 「…要するに、兄でも、弟でも、別々の家計になる…ただ、元の名字が、同じだけ…血がつながっているだけ…」


 「…」


 「…五井は、五井家として、五井グループ内の大きな会社は、基本、五井の持ち株会社が、管理していて、その持ち株会社の株を、五井一族が、一族の序列に従って、持っている…でも、それ以外は、自由…各分家が、自由に会社を作って、商売している…」


 「…」


 「…だから、基本、他の分家が、なにをしようと、その他の分家は、口を出さないし、金も出さない…おそらく、その原則をあの、長井のお嬢ちゃんは、理解していなかったんだと思う…」


 意外なことを、言った…


 実に、意外なことを、言った…


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