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異世界筋トレ健康生活、スタート!

 大女の説明を要約すると、まず紙とペンとインクがあれば護符術は使えるらしかった。

 紙に、ペンとインクを通して魔力(こちらの世界では彩気(さいき)という)を閉じ込める。術者は護符となった紙に、さらに自分の彩気を乗せて術を使う。難しい術ほど護符作成者と術者両方の彩気を扱う技術が要求される。良い護符があっても、術者のレベルが伴わなければ術は満足に発生せず、逆もまた然りということらしい。

「後もう一つ大事なことは、得意属性が人によって違うってこったな――早速得意属性見ていこうか!」

 大女はひょいと扇子を振ると、空いた皿を自身の周りに浮かせた。そして、キラキラとした目でみことの方を見る。はやくはやく、と急かす様子はまるで楽しみなものを待ちきれない子どものようで、みことは思わず笑みをこぼした。


「そうだ、まだ名前も教えてなかったね。アタシはスティラ。アンタは?」

「私は白野みことです」

「シロノミコト? どっからどこまで名前? それとも全部?」

「あ、みことが名前です」

「よし、ついてきな、ミコト!」


 スティラは台所のシンクに浮かせていた皿たちを置きながら、“研究室”と札のかかったドアの前に歩いていく。スティラがドアを開けて研究室に入り、みこともそれに続いた。

「すっ……ごい……!」

 研究室には何種類あるかもわからない紙がうず高く積まれており、ところ狭しと置かれた棚には様々な色の液体が入った様々な形のビンが並べられている。

 みことはビンの中身に見覚えがあるような気がした――そう、万年筆のインクだ。つまりは、ビンに入っている液体たちが、スティラから説明のあった、紙に彩気を通すためのインクということのようだ。書き味は? 発色は? にじみ方は? みことのテンションはうなぎ上りに上がっていく。

「あれー……えーと、あ、あったあった」

 スティラは部屋に入るなり、一角にあった戸棚の中ををガチャガチャといじくり回していたが、どうやら目当ての物を見つけたらしかった。彼女の手には透き通ったガラスのペンと、水のような、色のついていない液体が入ったビンがあった。


「ペン先にこのインクをつけて、この紙に名前を書く。そうすると、書いた文字に三色、色がつくんだけど、その色が何色かで得意属性がわかるってわけ」


 護符術には属性があり、火、水、土、風、光、闇の六種類が存在する。個人は必ず三種類の得意属性を持つ。そして、護符上で火は赤、水は青、土は橙、風は緑、光は黄、闇は紫で表される。火と水、風と土、光と闇はそれぞれ対になっており、例えば火属性が得意ならば水属性は苦手となる。よって、表れる三色について、赤と青は同時には出てこない。というスティラの説明だったのだが。

「あの、これって何色になるんですか」

 みことの名前が書かれた紙に現れたものは、しゃぼん玉をそのまま写し取ったようなマーブル模様。うっすらと六色が散らばっており、みことが聞いた話とはまったく異なっていた。


「全部の色が出てくるなんておとぎ話の中だけだと思ってたよ。でも……これは……」


 スティラはうーんと唸りながら紙をのぞき込んだり、紙を光に透かしてみたりしている。

 もしかして、チート能力が手に入ってしまったか。みことは淡い期待を胸に抱くが、次のスティラのひと言で、そんな期待は吹き飛んでしまった。


「い、色が薄すぎる……わ、わかんないや。得意属性」


 たはは、と笑うスティラに、みことの「えー!!」という叫び声が部屋中に響き渡った。


「そんな! 得意属性は誰でも三種類あるって!!」

「そのはずなんだけど。とりあえずうまく色が出ない原因は他にもあるから、ゆっくり原因探してこ」


 得意属性があるかどうかももちろんだが、護符に表れた色があまりにも薄いという現象について、原因は様々なようだった。

 まずはペンとインク。素材により術者との相性があり、彩気がうまく通らない場合があるとのことだった。しかしながら、この属性判定用のペンとインクは彩気の通りを極力遮断しない素材でできており、可能性はなくもないが、あまり考えられないとの話だ。

 続いて、彩気の扱いにみこと自身が慣れていない。スティラとしてはこちらの可能性が高いと考えているようだった。


「とはいえ、この素材はミコトの体の一部分みたいな挙動をするはずなんだけど……彩気の巡りが悪いのか、絶対量が少ないのか――そうだ、ミコトは前いた世界でちゃんと食って寝てた?」

「え、ええっと」


 そう訊かれると、みことは自信がなかった。毎日仕事に忙しくしていたみことは、自炊などほとんど出来ておらず、コンビニ弁当や、閉店間際のスーパーの半額のお惣菜に頼る毎日。終電間際の電車で帰ることもしばしばだった。そのことを告げると、スティラはやっぱり、と納得した表情になった。


「体が! 彩気を生み出せてない!!!」


 ビシィッ!! とスティラはみことに人差し指を突きつけた。


「良い彩気は健康な肉体と精神に宿るってもんだ。これからみことがやるべきことは飯! 風呂! 寝る! そんでもって筋トレだぁーーーー!!!!」

「えぇーーーーっ!!!!!」


 そんなこんなで、みことは「彩気を養う! 三食寝床付き! 異世界筋トレ健康生活」を送ることになってしまったのであった。


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