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05大スクープだ。だが、同時に危険な橋を渡ることになる。侯爵家と公爵家を敵に回すことになるのだぞ。本当にこれで良いのか?

 手に入れた証拠は日記とフルマラからの手紙、魔石。

 これらはフルマラがライナルトを利用し、陥れようとしていた決定的な証拠で、婚約者の彼もまた片棒を担いでいる証明だ。


 証拠をどのように使うか。直接彼らに突きつけても巧みに言いくるめられるか、揉み消される可能性が高い。

 侯爵家とグロース公爵家。二つの大貴族が関わる問題だから下手に動けば、あっという間に潰される。だからこそ、外部の力を利用しなければ。


 朝日が昇りきる頃には心は決まっていた。行き先は王都で最も影響力を持つ、王都日報社。

 彼らは貴族の醜聞を遠慮なく暴くことで知られている。普段着慣れない、地味な外套を羽織り顔が目立たないよう深くフードを被る。


 例の証拠品を厳重に包み、懐に忍ばせた。侯爵邸を出る際には裏口から抜け、人目を避けて馬車を拾う。辿り着き、息を整える。


「ここか」


 王都日報社の建物は古いが堅牢な石造りだった。


「失礼する」


 扉を開けるとインクと紙の匂いが混じり合った独特の香りが鼻腔をくすぐる。忙しなく行き交う記者たちの熱気が、ぶわっと包み込んだ。


「はーい」


 受付の女性はこちらの地味な格好を一瞥すると、露骨に嫌な顔をした。


「あー、何かご用件ですか?アポイントはお取りですか?はぁ。迷惑なんですよねぇ、全く」


「重要な情報を持ってきた。匿名で構わない。編集長に会わせてほしい」


 声は低く、感情を押し殺していた。女性は眉をひそめたが、纏う冷たい雰囲気に気圧されたのか渋々奥に通してくれた。


 ちょっと、受付に問題がありすぎる気がしなくもない。通された部屋は散らかった机と、山積みの書類で溢れていた。

 そこに座っていたのはいかにも叩き上げといった風貌の、初老の男。彼こそが王都日報社の編集長、バートラム。

 一瞥すると鋭い眼光で値踏みした。


「匿名で情報だと?一体、何の話だ。試すような真似はよせよ」


 彼の言葉には構わず、懐から証拠の品々を取り出し机の上に静かに置いた。

 愚妹の手紙。ライナルトの日記帳。最後に例の魔石。どっさり。

 バートラムは訝しげにそれらを手に取った。まず手紙を読み、次に日記帳を開いて目を通す。

 彼の顔から徐々に余裕が消えていく。


 面白いように変わるな。魔石を手に取った瞬間、彼の眉間の皺が深くなった。


「これは……確かに、妙な魔力を帯びているな。人の精神に影響を与える類のものか」


 言葉に、静かに頷いた。


「手紙と日記はグロース公爵家嫡男、ライナルト・グロース公爵令息と、ビュシリーズ侯爵家令嬢、フルマラ・ビュシリーズの婚約者である姉を陥れるための、謀略を示すもの」


 バートラムの目が大きく見開かれた。


「は?な、何だと……まさか、お前は……いや、まさか、エンリアス・ビュシリーズ侯爵令嬢か!?」


 声を荒げる男。本人が来たとは夢にも思わないので、当然の反応だろう。

 フードを少しだけ下げ、顔を晒した。彼の顔に驚愕の色が浮かぶ。


「ふっ。その通り。この証拠は彼らが私に対して精神的な操作を行い、婚約を破棄させようとしたことを示している。冷遇も」


 バートラムは言葉を聞くと、改めて証拠品を凝視した。何度かため息をついた後、顔をじっと見つめてくる。


「これは、大スクープだ。だが、同時に危険な橋を渡ることになる。侯爵家と公爵家を敵に回すことになるのだぞ。本当にこれで良いのか?」


「構わない。真実が世に知られるのであれば」


 返答にバートラムは満足げに頷く。


「ふむ……面白い。面白いな。貴族の醜い内情を暴くのは、我々新聞社の使命だ。ただし、これは貴方にとっても諸刃の剣となる。ご覚悟のほどは?」


「はは。とっくにできている」


 言い放った。失うものなど何もない。評判も他に落とされているのだから、嫁の貰い手もない。お互い固く握手を交わす。


 翌日、王都中に激震が走った。


「グロース公爵令息とビュシリーズ令嬢、侯爵令嬢への精神操作疑惑!」


 王都日報の一面には、匿名情報に基づいた大見出しが躍っていた。記事には馬鹿な男の日記の抜粋や、フルマラからの手紙の記述。肝心の魔石の存在が詳細に報じられていた。


 もちろん、匿名なので名前は伏せられ、某侯爵令嬢と記載されていたが状況からして唯一無二であることは明白。朝、侯爵邸は騒然となった。


「エンリアス!お前!一体何をしたのだ!?」


 ライナルトの怒鳴り声が侯爵邸中に響き渡る。彼は部屋に怒鳴り込んできた手には王都日報が握られている。

 だから、人の部屋にノックなしに入るのはいかがなものかと思う。彼の顔は真っ赤になり、目が血走っていた。


「何のことでしょう?私には何の心当たりもありませんが?はぁ。うるさいから、もっと声を小さくしてもらえます?」


 涼しい顔で見上げた。その態度にさらに激昂。


「とぼけるなっ!この記事は、お前が書かせたのだろう!日記とフルマラの手紙が、なぜ新聞社にあるのだ!?どうやって!」


「さあ、それは知りませんねえ。もしかしたら、善良な誰かが貴方様の悪事を世に知らしめるために、報じたのかもしれませんよ?悪い人は裁かれるのが世の常ですから」


 挑発的な言葉に凄い剣幕で詰め寄る。

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