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04私は偽善的な茶番劇を終わらせるための準備を頭に描き始める

 茶番な状況をただ受け入れるつもりはない。


「決まってる」


 真実を暴き茶番劇に終止符を打つことにした。そのためにまずは確固たる証拠が必要。


 夜。侯爵邸が深い眠りに落ちる頃、身を潜めて部屋を出た。足音は闇に吸い込まれるように消える。

 誰にも気づかれることなく、ライナルトの自室へと向かった。幼馴染だからと両家には専用の部屋が作られているのだ。呆れた規模だ。


 ライナルトの部屋は侯爵邸の中央棟、最も豪華な区画にある。彼の部屋の扉は堅く閉ざされ、中に光は漏れていない。夜遅くまで書類仕事をしているはずなのに。

 耳を澄ませた。部屋の中から、何も聞こえない。まさか、部屋にいないのか?


 静かにノブに手をかけた。不用心すぎるなと笑う。鍵はかかっていなかった。ライナルトはよほど自分の部屋が安全だと信じているのか。

 あるいは、警戒心が足りないのか。どちらにしてもこちらとしては幸運。ゆっくりと扉を開き、中の様子を窺う。


 部屋は真っ暗でカーテンが閉められている。月明かりすら差し込んでいなかった。慣れた手つきで部屋の中を探る。

 まず目を付けたのはライナルトの机。彼は几帳面な性格で、書類は全て整理されているはず。

 机の引き出しを開け、中の書類を一枚一枚確認していく。


「鍵くらい、かけとけと言いたい」


 騎士団の報告書、公爵家からの書簡。一枚の便箋が目に留まった。他の書類とは異なり、香油の甘い香りが微かに漂う。

 筆跡は紛れもなくフルマラのもの。便箋を開いた。

 そこには、女性らしい流麗な文字でライナルトへの感謝と、姉の悪口が記されていた。


「ライナルト様、いつもお姉様のことでご心労をおかけして申し訳ありません。ですが、ライナルト様が私を支えてくださるお陰で私はどんな困難にも立ち向かえますわ。どうか、お姉様のことは私にお任せください。私がきっとお姉様を良い方向へ導いてみせますから」


「良い方向へ導く、か。随分と気高いことを言うものだな。ふっ」


 思わず嘲笑を漏らした。だが、それだけではない。便箋の隅には小さな絵が描かれていた。

 フルマラとライナルトが手を取り合い、二人の影の間に醜い魔物が描かれている。魔物は自分を象徴しているのだろうか。

 単なる手紙ではない。


 ライナルトがフルマラからの手紙を、大切に保管しているという事実。内容が、悪者に仕立て上げフルマラの健気さを強調するものであること。

 これらは紛れもない証拠。動かぬ不貞の。手紙を元の場所に戻し、部屋の中をさらに物色。何か決定的なものは無いかな。


 書棚の奥に隠された小さな木箱を見つけた。鍵はかかっていない。


「鍵、かけなさすぎる」


 蓋を開けた。中には小さな魔道具がいくつか入っていた。中に、見たことのあるものがあった。

 魔道具店で調べてもらった、あの魔石と同じ種類。ただし、これはより大きくより強力な魔力を放っている。

 色は同じく灰色に濁っているが、かすかに脈動しているのが見て取れた。


「これは……うわぁ」


 魔石を手に取った。冷たい感触。精神を不穏にさせるような、悪意の魔力を感じる。なぜライナルトの部屋に魔石が?


 彼はこれの危険性を知らないのか?それとも、知っていて使っているのか?

 魔石を箱に戻し、他の魔道具も確認。すると、その中に小さな日記帳を見つけた。


 ライナルトの筆跡で日々の日記が綴られている。日記帳を開き、数ページを捲った。フルマラへの賛美。婚約者の不満が綴られていた。

 気にせず、捲る。あるページで、指が止まった。


「フルマラがエンリアスのことで悩んでいる。彼女はいつも、エンリアスの無謀な行動を心配し、その度に涙を流している。エンリアスのあのひねくれた性格は本当にどうにかならないものか。フルマラがいつも私に、エンリアスの心を正しい方向へ導くためだと言ってある魔石を渡してくれた。人の感情を静める効果があるらしい。それを使って、エンリアスの心の乱れを鎮めようと思う。フルマラは本当に優しい。ああ、好きだ」


 日記帳を閉じた。


「信じられない」


 全身に冷たいものが走る。やはりそうだった。

 フルマラがライナルトに魔石を渡した。ライナルトはひねくれているのは気質のせいだと信じ込み、魔石を使って感情を静めようとしていた。


 受けていた冷遇、ライナルトの異常なまでの嫌悪感は性格のせいだけではなかったのだ。フルマラが魔石を使って、ライナルトの感情を操り嫌悪感を増幅させていたというのか。

 ひねくれた性格ももしかしたら、魔石の影響でより悪化していたのかもしれない。


 これは、紛れもない浮気の証拠であり精神的な虐待の証拠。フルマラはライナルトを奪い、姉を精神的に追い詰めるために魔石を利用していたのだ。


 手早く日記帳と魔石の場所を記憶し、痕跡を残さないよう慎重に元に戻すと部屋を後にした。

 廊下を歩く足は先ほどよりも軽いが、心には漠然とした怒りだけではない明確な敵意。偽善的な茶番劇を終わらせるための準備を頭に描き始める。


 証拠を掴んだあとは次に、これをどう利用するか。夜が明けるのを待つ間、自室で静かに計画を練った。

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