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02フルマラがどれほど心を痛めているか、知っているのか!彼は本気で言っている

 あるいは、フルマラが婚約を解消させようと動くことを許さなかったのかもしれない。


 いつも「お姉様とライナルト様がお幸せなら、私の一番の喜びです」と痛々しいほど健気に言っていた。婚約から逃れたいと願ったことは一度もない。


 なぜなら、侯爵家から抜け出す唯一の道でも可能ならば、ライナルトとフルマラが結ばれるところを見てみたいとすら思っていたし、その方がよほど彼らは幸せだろうし。


 叶わないから、関係を壊すためにひねくれた態度をとり続けた。罵るたび、フルマラが心配するふりをするたび、心は奇妙な満足感に満たされたれていく。

 呆れ、失望、軽蔑こそが彼らが抱く真の感情。


 自分達も同じ気持ちで見られていると、かけらも思わず感情が表に出れば出るほど彼らの偽善的な態度を打ち破っているような気がしてふと、薄暗い喜びを感じる。

 愛されないことを知っているからこそ、嫌われることを恐れない、ひねくれた態度は周囲には理解されない。


 冷たく当たっていると解釈され、フルマラへの同情は深まるばかり。


「エンリアス様は、本当に可哀そう。フルマラ様を虐めてる」


「あんな冷たい人がライナルト様のような素晴らしい方と結婚するなんて。お可哀想」


 陰口は、日常茶飯事。自室の窓辺に立ち、月を見上げ、冷たい月の光が青白く照らす。

 今夜もまた、不適切な二人はは庭園で密やかに語らっているのだろうな。


 遠くから聞こえてくる、フルマラの鈴のような笑い声。耳に届いた続く、ライナルトの甘く優しい声。静かに、それらを聞いていた心には何の感情も湧いてこなかった。


 あるいは、感情が麻痺してしまったのかもしれないと薄く笑う。明日もまた同じような一日が始まるのだろう。

 醜聞を巻き起こし、詰り、フルマラは健気に悲しむ婚約は鎖のように足首に絡みつく。


 鎖はいつか必ず断ち切ってみせる。

 窓辺から離れ、冷たいシーツのベッドに身を横たえ、目覚めれば新しい一日が退屈な芝居の舞台として現れる。


 舞台で、今日もひねくれた道化を演じ続けていく道の先には、自由があるはずと薄暗い希望を胸に静かに瞳を閉じた。


 剣を取ると冷たい鋼の感触が手のひらに馴染む。唯一、心から信頼できるものは身一つで磨き上げてきた剣の腕。魔法の知識だ。


 翌朝、騎士団の訓練場、朝靄の中、剣を振るう音だけが響く早朝の訓練は日課。身体を極限まで追い込むことで心の澱を洗い流す。いつも以上に集中できなかった。

 詰られた時のライナルトの言葉が脳裏にまとわりつく。


「フルマラがどれほど心を痛めているか、知っているのか!」


 馬鹿げているが、彼は本気でそう思っているのだろうか。あざ笑っているのがわからないのかなと、思う。


 フルマラは、危険な目に遭うたびに、心配するフリをして同情を誘い、無事に帰還すれば安堵したように微笑んでみせる。

 悲劇の舞台装置であるかのように。


 剣を払い、汗を拭っていると背後から馴れ馴れしいような優しい声が聞こえた。


「お姉様、またそんなに無理をして。お身体を壊してしまいますわ」


 振り返ると立っていたのはフルマラ。いつもながら完璧な朝の装い。淡いピンクのドレスに身を包み、まるで咲きかけの花のよう。手には湯気の立つカップが二つ。


 一つはライナルトのお気に入りである紅茶。もう一つは姉が好む、苦めのハーブティー。彼女はいつも好みを完璧に把握している。


「フルマラ。このような時間に何の用?」


 声は剣の訓練で嗄れていた。フルマラは少し悲しそうな顔で見上げた。


「ライナルト様がお姉様を心配なさっていたので私、少しでもお姉様のお力になれればと……それに、最近よく無理をなさっているようですから、体を冷やさないように温かい飲み物をお持ちしました」


 ハーブティーを差し出した。その瞳は心底私を気遣っているように見える。

 一瞬、そのカップを受け取るのを躊躇した。視線が純粋であればあるほど心はざわつく。


「必要ない」


 カップから目を逸らした。フルマラの顔からみるみるうちに血の気が引いていく。


「ご、ごめんなさい、お姉様。また、ご迷惑でしたか」


 今にも泣き出しそうで。姿を見れば誰もが冷酷な姉だと思う。実際、周囲の使用人たちが、遠巻きにこちらを窺っているのが見えた視線が非難している。


「迷惑だ。私は一人でいることを好む。わざわざ気を遣う必要はない」


 敢えて、冷たく言い放った。フルマラの瞳に涙が滲む涙がこぼれ落ちる寸前、背後から聞き慣れた声が響く。


「フルマラ!こんなところで何をしているんだ!エンリアス、お前という奴は一体いつまでフルマラを泣かせれば気が済むんだ!」


 ライナルトだ。彼は訓練場に到着し、冷たい態度とフルマラの涙を見て、瞬時に状況を判断したのだろう。

 それよりも、我が家に朝からいるのか。相手の怒りがはっきりと浮かんでいた。


 フルマラはライナルトの声を聞くと、堰を切ったように涙を流し始めた。


「ライナルト様……っ、わ、私、ただお姉様を心配して、温かい飲み物を」


 手にしたカップをライナルトに見せた。カップからはまだ湯気が立っている。

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