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キカイな物語  作者: クンスト
2章 卒業試験トーナメント
26/106

4-6 二回戦 -かの者達の窮地-

 足元で炸裂した自走地雷。内部からクルミの実大のベアリング弾が四方八方に飛び出す。

 装甲にベアリング弾が当たって、バチバチとうるさく音がかなでる。

 マケシス社は妙なところでっていた。演習用に安全な地雷を用意したようで、ベアリングが装甲を貫通し、賢兎ワイズ・ラビットが穴だらけになる事はないようだ。

 爆煙の中から一歩踏み出し、バランスを失ってよろける。

 関節の動きが制限されている。損傷判定は受けたようだが、まだ撃墜はされていない。

『九郎、生きているか!』

「右脚七割制限。右腕は全損判定。まだ戦えるっ」

『九郎、英児。オレの近くに集まれ、掃討してやる!』

 自走地雷の被害は、賢兎の右側面に集中していた。

 至近距離で地雷が炸裂したのに右脚がまだ動く理由は、Runner《走行》オプションが駆動系強化型で、こういった地雷対策がほどこされているからである。

 一方で右腕が全損して完全に動かなくなり、だらりと伸びたままになっている理由は、頭部を守ろうと盾にしたためだ。一般的な地雷なら上半身まで被害はおよばなかっただろうが、散弾式の地雷だったため被害範囲が広い。

『自走地雷の位置をデータリンクで知らせろッ。であああァ!』

 転がってくる自走地雷を、ルカは二挺のサブマシンガンで撃ち抜き爆発させていく。煙幕でほとんど視界が利かない中、うまく命中させるものだ。

 俺と英児機が採取した音紋から位置を予測し、ルカは弾をばら撒いて接近される前に破壊していく。

『だらしないな、九郎。あんな地雷避けろよ』

「いや、この地形で無理だろ。エージが普通じゃないから」

 自走地雷を使った奇襲でダメージを負ったのは、なんと俺だけだ。

 英児機は爆発する前にサッカーボールがごとく、黒い球体の地雷を遠くに蹴り飛ばしたとか言っている。信管付きのボールを蹴ったとか嘘だと思いたい。

 ルカのお陰で接近してくる自走地雷の音はすべて消え去った。やはりというか、サブマシンガンの弾をすべて消費してしまったらしいが、相応に活躍しているので文句は言えない。

「エージ。自走地雷の次に何がくると思う?」

『さあな。煙幕の所為で敵も俺達の状況を確認できない。だが、地雷を使うような奴等に、接近してくる勇気があるとは思えないな』

 歩き辛くなった賢兎で煙幕の中を移動する。場所を移動しておかないと、今度は何が襲ってくるか分かったものではない。煙幕が晴れる前に敵チームにできるだけ近づいておきたい、という思惑もある。

 煙幕が晴れてからが反撃だと気を引き締めていたのだが……、チーム・アベレージャーズの攻勢は止まらなかった。

 煙幕が薄くなってきたなという瞬間を狙って、次なる刺客が俺達に襲い掛かってきたのだ。


『蛇だァッ!?』


 最初に襲われたのはルカ機だった。歩行中に、地面の下から細長い何かが跳び出して、首に巻き付かれてしまう。

『クソ、この――ッ』

 引き離そうと苦闘している間に、細長い何かにルカ機は噛み付かれてしまった。

 生物ではない石鎧が噛み付かれても何も問題ないように思えるが、噛み付いてきた細長い何かが対石鎧用の小型無人機だとすれば、状況はすこぶる悪い。

『ウィルス警告ッ! この蛇、毒持――』


『チーム・月野製作所。ソフトウェア汚染により機能停止。戦線復帰不能と判定』


 煙幕が完全に霧散した時、赤い砂地の上に、ルカ機の賢兎が前のめりになって倒れていた。

 賢兎の首には金属の鱗を持った蛇が一匹取り付いている。鱗は周囲の環境に合わせて色を変化させており、砂の色から賢兎の塗装へと変化している最中だ。

 蛇は、視線カメラを向けた俺へとコンピューター・ウィルス入りの牙を向けて威嚇いかくしてくる。

「こんな無人機まで使うかッ」

 蛇の製品名はサンド・バイパー。マケシス社の得意とする無人機の一つである。小型な体に似合わない猛毒ウィルス・ソフトを牙に仕込んでおり、石鎧に噛み付いて物理的に石鎧のOSと接続し、ソフトウェア的な防御壁を無視してウィルスを流し込んでくる。

 噛まれてしまえば、賢兎とてOSがフリーズして動けなくなってしまうのは必定だ。

 サンド・バイパーは体を縮めてから空中に跳びだし、毒殺したルカ機から離れていく。毒牙の先には、次の獲物である俺が立っている。

姑息こそくな攻撃、だ!」

 ルカ機の撃墜判定に焦らず、無事な左手を鋭く構えて横一文字に振るう。

 サンド・バイパーの毒は恐ろしいが、不意討ち以外で通じる品物ではない。蛇の頭部と胴体を研磨されたマニュピレーターで分断する。念のため、頭の方は慎重に踏み潰しておいた。

「ルカ、かたきは取っておいた。安らかに眠れ」

『……し、ん……ない』

『九郎。前方八十メートル先に敵が見えるが、何か構えてやがるぜ!』

 英児が通信機で指摘した先に、三機の缶詰のような石鎧が横一列に並んでいる。

 ようやく円柱な顔をおがめたと喜んではいられない。敵の石鎧、薪助は三機とも肩に円筒形の武器を構えており、照準を八十メートル先にいる俺達へと合わせているからだ。

「なんだ。今度はそこまで姑息じゃない。ただの無反動砲だな」

 どうして煙幕の中にいた俺達の移動先に回りこめたのかは、そんなに難しい謎ではない。先程破壊したサンド・バイパーにケーブルでも繋いでおき、偵察機として活用していたのだろう。

 偵察の役目が終わった最後に、嫌がらせて噛み付かせようと地面から跳び出させた。成功率は悪かったと思われるが、ルカは運悪く撃墜されてしまったというのがあらましだ。

 今回の試合。チーム・月野製作所は後手に回り過ぎた。一回戦が出来過ぎだった事で、無意識にトーナメントをあなどっていたのかもしれない。

 格下だろうと、知恵を絞ればこうやって相手を窮地に追い込む事ができる。そんな当たり前の事を、どうでも良い相手から教えられるなんて恥ずかしい。

 放たれた三発の無反動砲を眺めつつ、俺は英児に話し掛ける。

「英児……」

『ピンチだが、どうする』

「どうするも、こうするも――」

 着弾と同時に、三原色の爆炎が賢兎を包み込む。




 演習爆煙が晴れぬ内から、チーム・アベンジャーズの短距離通信は喝采かっさいあふれ返っていた。

『やったぜッ! あの厄介者を倒した!』

 用意していた作戦が思い描いた通りに推移した。一度人目にさらしてしまえば簡単に対策を立てられてしまうオプション装備を、しむ事なく使い果たしたからこその勝利である。三回戦以降の戦いなど、知った事ではないのだろう。

 壊したはずの石鎧で出場してきた時には、チーム・アベンジャーズのメンバーは冷や汗をかいた。が、試合が終わった瞬間も体中が汗でびっしょりとれていた。

 薪助の最大火力である無反動砲を撃ち込んだ。これで終わらなければ嘘である。

『手間を掛けさせやがって。負けるなら、最初から出てくるなっていうんだ』

 成績順位一五〇位の筋肉質な男子予科生は、勝利そのものに喜んではいない。成績下位に負けなかった事で、己の立ち位置を守れた事に心底喜んでいた。

 口悪くチーム・月野製作所を卑下ひげする事でしか、男子予科生は己の心を安定させる方法を知らない。

 ……そんな人間だから、想像の埒外らちがいの出来事に対しては酷く弱い。


「――お前達な。姑息な手段については、個人的には悪くないと思うぜ。戦闘で敵を罠にめるのは当たり前だ。……だが、卑劣な手段だけは肯定できない」


 いや、そもそも審判からは一機も撃墜判定が下されていなかったのだ。現実を見ずに浮かれていたチーム・アベンジャーズを表現するなら、ただの愚かな人間だ。


「だから、俺も少し卑怯ひきょうだとは思うが……魔的・・な手段を使わせもらおう。人間に対して使うのは抵抗感があるが、なに、戦場ではあらゆる手段が肯定されるさ」


 未だにただよう爆炎の向こう側から、片方の耳が折れた賢き兎が歩み出てくる。


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