4-5 二回戦 -接敵-
『両チーム、レギュレーションチェックの証明証を提示せよ』
二回戦のフィールドは砂地だ。
ドーム外ではそう珍しくない赤く細かい砂が堆積した地形で、歩行兵器たる石鎧には不向きな場所である。踏み込むべき地面が脆い。石鎧の重量に押されて砂が移動してしまうため、歩行が鈍る。
Runner《走行》オプションの賢兎でも機動性は削減される。もっとも、賢兎だけではなく、敵チームの石鎧も同様なので深刻に考える必要はない。
『互いに礼!』
教官が試合前の定型句を言い終える。最後に互いに礼を行うよう宣告されるが……チーム・月野製作所は誰も石鎧の頭を下げる操作を行わなかった。
『どうした、何をしている。チーム・月野製作所』
「この外装を見てもらえれば分かると思いますが、壊れているんです」
賢兎の三対ある内のカメラの内、正常稼働する右三つ、左一つのレンズを紫色に発光させながら、俺は敵チームを睨んだ。
今朝発覚した賢兎の損傷に対して、試合前の僅かな時間で可能な限りの応急処置が施された。
ただし破損といっても、骨格フレームや装甲板は壊れていなかったので、本当は頭を下げるぐらい造作もない。
……賢兎を破壊したのが目前に並ぶ敵チームだからといって、大人気ない態度を取る必要はない。
傷の具合を確かめた月野は、部品交換を行わず、無事な装置の動作チェックを集中して行うよう連れてきた社員達に告げていた。石鎧の装甲を剥がしている間に試合時間が来る事を恐れたのだろう。
俺の賢兎は頭部に傷が集中しており、左の耳型環境センサーは使用不能だ。カメラも二つ不調に陥っている。
傍目にも分かり易い部位が壊れてしまっていて痛々しいが、実際のところ、索敵性能はほとんど低下していなかった。
そもそも、賢兎のカメラが三対もあるのは、戦闘で一つ壊れても他で補えるようにするためだ。最悪、カメラが一つになってしまったとしても、デジタル補正により曲面スクリーンの映像は綺麗に映る。耳型の環境センサーだって同様。
賢兎は装着者の生存に重きを置かれて開発された石鎧だ。外装が少し壊れたぐらいで動かなくなるような設計思想で作られていない。予備機能はいくつも備わっている。
この事実も盛り込んで、月野は無茶なオーバーホールを諦めたのだ。
戦場で壊れる事が基本の石鎧が、予科生に少し悪戯されたぐらいで試合を辞退しなければならなくなる程に破壊されるはずがない。
『馬鹿を言っていないで、礼をしろ』
試合の審判を務める教官に命じられては駄々を捏ねられない。
三十度ぐらい曲げるべき上半身を、十五度ぐらいに留めて礼を終わらせる。
敵チームの腕や脚、胴が円柱形状で不恰好な石鎧、薪助も同じぐらいの角度でしか礼を行わない。
薪助は一回戦の時にはなかった兵装を背負っていた。腕と同じぐらいの大きさの円柱物体が複数本、薪助のオプション装備だろう。まるで薪を束ねているかのようだ。
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“石鎧名称:薪助
製造元:マケシス社
スペック:
半径一メートル、高さ二・六メートル。関節部以外が円柱形状の装甲で覆われている。
機体の基本性能は凡庸であるため、武装面で何らかの特殊性があると予想されているが現時点では不明”
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『九郎。あの“缶詰”の中身が、オレのDオプションを滅茶苦茶にした犯人で間違いないのか?』
「装着科の予科生の靴って、他のと違うって知っているか。SAを着る事を考えて、靴底は独特の形をしている」
犯行現場には、犯人の特定に繋がる物証である足跡が残されていた。
サイズを特定し、月野が所持していた予科生一覧のデータと照合したところ、チーム・アベレージャーズのリーダーの足サイズと一致している。
アベレージャーズのリーダー、イゴー君は筋肉質で大柄な男で、足のサイズも相応に大きい。装着科の予科生の中に、同一のサイズの人間は五人とおらず、トーナメントでまだ残っているのは二人だけ。
次の対戦相手と同じサイズの足跡が、破壊された賢兎の傍に残されていた。偶然であるはずがない。
『ほとんど、であって百パーセントではないのか』
穿った見方をすれば、チーム・月野製作所に恨みある別グループが、イゴー君に罪を被せようと偽装工作を行った。こう考えられなくもない。
一回戦で俺達に敗れたチーム・コイオスなんかには恨みという動機も存在する。
「まぁ、ワイズのカメラに犯人の顔がばっちり映り込んでいたから、確実に目の前の奴等が犯人だけどな。殴られた衝撃にオートで反応する機能があったのだと」
『それを早く言えよ。これで何の疑念もなく、試合で敵をくず鉄にできる』
満足気な乾いた笑い声を残し、ルカは通信を終えた。戦意が向上するのは良い事だ。
横に並ぶ三機の薪助は、ぎこちない仕草で俺達を覗っている。壊したはずの石鎧で出場してきた俺達を忌々《いまいま》しく思いながらも、戦々恐々としている様子だ。
チーム・アベレージャーズは試合前に鉄パイプで破壊しようとしたぐらいに、俺達を恐れていたのである。それなのに俺達は試合に現れた。装甲に隠れた内心では、ビクリと震えているに違いない。
愚かな連中だ。震えるのは戦闘が始まってからだというのに、先走りすぎだろう。
『三分後に試合開始となる。両チーム、さっさと並べ』
試合開始のサイレンが聞こえてから七分。
チーム・月野製作所は一回戦のように中央突破を行わず、フィールドを大きく迂回しながら敵チームの予測現在位置に向かっていた。タイムアタックをしている訳ではないので、今回は普通に歩いている。
チーム・アベレージャーズの破壊活動によるチーム・月野製作所の被害は、俺の賢兎と英児機が索敵能力一割減である。そしてルカ機は、Dオプションの目玉である機関銃四門およびグレネードランチャーが使用不能。
つまり、ルカ機の被害が最も大きい。今回はルカが悪い訳ではないのだが、いつも壊してばかりな女である。
比較的軽症の俺と英児も、残っているセンサーやカメラにダメージを受ければ次がない。憎い敵と戦えるとはいえ、感情に任せて突撃はできない。
フィールドが砂地でなければ猪突猛進も考えられたが、ランダムで選ばれる戦場に嘆いても仕方がないだろう。
赤い砂の大地に三機分の足跡を残しながら進軍する。
一本線の隊列となって、俺、ルカ、英児の順に歩く。使用不能の機関銃を下ろしているとはいえ、ルカ機の機動性はDオプションのものなので一番歩みが遅い。そのため、真ん中に配置して俺と英児で護衛を努めていた。
賢兎のAIが正しければ、そろそろ敵チームとの会敵予想時刻だ。
緊張を高めて歩んでいると、一本しかない環境センサーが動体を察知する。
「――ッ、飛翔体捕捉。敵の先制攻撃! 散開しろッ」
先頭を進んでいた俺が、真っ先に攻撃をセンサーで捕らえた。
敵の石鎧はまだ捕捉できていないが、砂丘の向こう側から放たれた物体が曲面スクリーン内で強調されている。
弧を描いて飛んでいるので榴弾のようであった。賢兎の賢いAIは、飛んできた弾の種類をコンマ五秒で照合し終える。
「爆薬じゃない。スモーク・グレネードか!」
飛翔体は地面に到達するよりも早く炸裂した。
だが、中から現れたのは演習用の爆煙代わりの原色の煙ではない。もっと広範囲に拡散する煙幕で、大地と同じ赤褐色の煙が見通しを悪化させ、光学的な観測を阻害する。
更に、煙幕は電子的なジャミング効果も発揮した。こうなると、最も有効な索敵手段は音しか残されていない。
追加で飛んできた数発も炸裂したため、百メートル単位の領域で視界が悪化する。石鎧の性能を売り出す事がメーカーの目的のはずなのに、まさか観客泣かせな煙幕を予科生に提供しているなんて、マケシスは馬鹿なのだろうか。
奇襲で煙幕を使用するからには、次の手段は広域面制圧か突撃接近か。
あるいは――。
「駆動音感知! 英児の後ろだ、分かっているのかッ」
『SAにしては小さいな。動きは早いが……見えた。黒い球体が転がってくるぞ』
「自走地雷かよッ!」
別方向から俺の方にも転がってきたので、煙幕に紛れて襲ってくる物の正体が判明した。
内部に仕込んだボールベアリングで地面を動き回る球状の地雷だ。一定距離に石鎧が入り込んだ途端に信管を作動させて爆発する。地上兵器である石鎧にとっては厄介者である。
「煙幕に自走地雷。搦め手ばかりか、マケシス製!」
砂地では転がる自走地雷の方に分がある。
黒いの球体は俺の賢兎を捕らえ、瞬時に爆発して外装を周囲に撒き散らした。
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“石鎧名称:薪助
製造元:マケシス社
スペック:
半径一メートル、高さ二・六メートル。関節部以外が円柱形状の装甲で覆われている。
機体の基本性能は凡庸であるが、その分オプション装備は特殊な物ばかりで構成されている。
オプションの外観はすべて一メートル未満の円柱だが、中身の分からないビックリ箱のようなものでまだまだ詳細は不明”
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