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第12話:番外編:移動とマジックアイテム

 ローズ帝国の奴隷売買事件が終わって、少し経った。


 ……うん。


 あれから、本当にいろいろあったね。


 クオシンさんと協力して、ゴゾーラ子爵の悪事を追いかけたこと。


 捕まっていた人たちを助けたこと。


 それから、桜花のこと。


 ……ああ。


 最後のことは、思い出すたびに胸の奥が痛くなる。


 でも、今は桜花が隣で笑ってくれている。


 今度こそ、大切な人たちを守ろう。


 そう思いながら、私は今日もいつもの食堂で朝ご飯を食べていた。


「リアリスちゃん、おかわりは?」


「うん! もう少しお願いします!」


「はいはい」


 巴さんが、温かなスープを注いでくれる。


 向かいではカトレアが、昨日描いた花の絵を桜花へ見せていた。


「桜花お姉ちゃん、こっちが帝国のお花だよ!」


「とても綺麗でございますね、カトレア」


「えへへ!」


 ……ああ。


 平和だなぁ。


 こういう朝を、これからも大事にしよう。


 そんなことを考えていたとき、ふと、別のことを思い出した。


 ……あれ?


 そういえば、各国の王様たちって。


 別の国へ行くとき、ものすごく大変なんじゃないかな?


 私は、スープの器を置いた。


 ……王族の移動。


 考えてみると、なかなか面倒な話だ。


 馬車で何日も走って。


 港へ行けば船に乗り換えて。


 国境では書類を確認して。


 おまけに護衛も必要だ。


 相手が他国の王様ともなれば、訪問を受ける側だって準備をしなくちゃいけない。


 ……うん。


 普通に考えて、大仕事だよね。


 でも、私の場合は違う。


 シルク王国へ帰るのも、ローズ帝国へ行くのも、《転移》を使えば一瞬だ。


 それに、各国には私の屋敷がある。


 シルク王国。


 ローズ帝国。


 フォーサイド魔法国。


 オリミス聖国。


 ドルステン魔国。


 エルフ国。


 ジーラット国。


 そしてシギラ国。


 全部で八つ。


 ……おお。


 こうして並べると、やっぱり多いね!


 いや、家を作るのが好きというわけじゃないんだけど。


 訪ねる国が増えるたび、帰ってこられる場所が欲しくなったんだよね。


 しかも、その屋敷同士は、巴さんが使える《簡易転移》でつながっている。


 ……あれ。


 ということは。


 王様たちも、私の屋敷を経由すれば遠い国へ簡単に行けるんじゃない?


 …………。


 ……おお。


 今さら気づいた!


「……リアリスちゃん?」


 巴さんが、首を傾げる。


「どうしたの? 急に黙って」


「ちょっと思いついたことがあって!」


「……まあ」


 …………。


 あっ。


 今、巴さんの笑顔が少しだけ変わった気がする。


 ……気のせいかな。


「そのお顔は、また何かするつもりね?」


「いやいや、そんな大げさなことじゃないですよ!」


 私は、慌てて手を振った。


「各国の王族の人たちに、私の屋敷を通ってもらったら便利かなって思っただけで」


 巴さんが、カップを置いた。


 桜花も、静かにこちらを見た。


「……屋敷を通る、でございますか」


「うん。別の国へ行くとき、うちを経由すれば長旅をしなくて済むでしょ?」


 …………。


 巴さんと桜花が、顔を見合わせる。


 ……あれ?


 何か変なこと言った?


「リアリスちゃん」


「はい!」


「発想はいいと思うわ。でも、それって各国の王族の方が、うちへいらっしゃるということよね?」


「そうですね」


「そして、別の国のお屋敷から出ていかれるのね?」


「はい!」


 …………。


 巴さんは、にっこり微笑んだ。


「じゃあ、誰がいつ、どのお屋敷を通るのか、決めておかないといけないわね」


 ……あ。


 …………。


 ……そうだね。


 私、通れることしか考えてなかった!


     ◇


「ちょっと待ってね、巴さん」


 私は、頭の中で想像してみた。


 ある日、シルク王国の屋敷でお茶を飲んでいると、隣の国の王様が突然現れる。


『こんにちは、通ります!』


 その向こうから、別の国の王様も現れる。


『ちょうどよかった、私も!』


 ……うん。


 何だか、駅みたいだね!


 …………。


 ……いやいや!


 ここ、私の家なんだけど!?


「……リアリス様」


 桜花が、いつもの穏やかな声で言った。


「ご許可を得ていない方は、そもそも《簡易転移》の扉を通れないはずでございます」


「……あっ」


 そうだった!


 もともと《簡易転移》は、各屋敷の決まった扉をつなぐために私が作った魔法だ。


 巴さんにも使えるよう、特別に永続付与してある。


 住人や許可された人しか通れない。


 ただのドアなら、誰でも開けられるというわけじゃない。


 ……うん。


 ちゃんと考えて作ったんだった。


 ……ちょっとだけ、自分を褒めたい。


「なら、王族の人に通行の許可を出せばいいんだね!」


「はい。ただし、その都度、お迎えの準備も必要かと存じます」


「……その都度?」


「王族の方が何時にお越しになるか、どちらへ向かわれるか。少なくとも、その確認は欠かせません」


 ……ああ。


 当然だよね。


 何でも勝手に決めて通していいわけじゃない。


 私は、ゆっくり頷いた。


「じゃあ、使いたいときに連絡してもらうようにしよう!」


「それなら、まだ現実的かしら」


 巴さんは、少し安心したようだった。


「でも、ひとつだけ確認してもいい?」


「もちろん!」


「お屋敷を経由できるのは、誰でもいいわけじゃないのよね?」


「うん。今回は王族の人たちだけにしようと思ってるよ」


「……そう」


「一般の人まで使えるようにすると、大変なことになりそうだから」


 …………。


 ……いや。


 今でも十分、大変なことになる可能性はあるけどね!


 桜花が、静かに口を開いた。


「お付きの方や、護衛の方はいかがなさいますか」


「……あっ」


 また忘れてた!


 王様が移動するときって、普通は護衛や付き人も一緒だ。


 でも、何も考えず通行できる人を増やすのは危険だよね。


「まずは王族ご本人だけかな。ほかの人が必要なら、そのときに改めて相談してほしい」


「承知いたしました」


「それと、相手の国が受け入れを認めてるかも確認しないとね」


 ……うん。


 ここは大事だ。


 私の屋敷に出られるからといって、勝手に国を訪ねていいことにはならない。


 正式な謁見なら、ちゃんと王城や国の手続きも必要になる。


 そういうのを全部飛ばしてしまうつもりはないんだ。


「連絡が来たら、私と巴さんで確認して、案内できる日だけ許可する。それでどうかな?」


「いいと思うわ」


 巴さんが、優しく笑った。


「それなら、まずは各国へお話してみましょうね」


「うん!」


 ……よし。


 何だか、できそうな気がしてきた!


 そのとき、カトレアが顔を上げた。


「お父さん、お客さんがいっぱい来るの?」


「うーん。いっぱい来るかどうかは、まだ分からないかな」


「王様も?」


「うん。たまに来るかもしれないね」


「じゃあ、お花、見せてあげてもいい?」


 …………。


 ……ああ。


 カトレアらしい発想だなぁ。


「もちろん。でも、王様もお仕事で来ることがあるから、そのときは邪魔しないようにしようね」


「はーい!」


 カトレアが、元気よく頷く。


 ……ふふ。


 この子なら、王様が何人来ても、まず花の話をするんだろうなぁ。


 楓が、食堂の隅で小さく頷いた。


「……お茶、いる」


 …………。


 ……おお。


 楓はお茶の心配か!


「そうだね。みんなでお茶を飲む時間があればいいね」


 楓は、また小さく頷く。


 ……うん。


 平和だ!


 そんな私たちを見ながら、巴さんが少しだけ遠い目をしていたことには、このとき気づかなかった。


 ……いや。


 今思えば、気づいてあげるべきだったかもしれない。


     ◇


 話を伝える方法は、もう決まっている。


 《映像通話》。


 以前、各国へ渡したマジックアイテムがあるから、それを使えば遠くの相手とも顔を見ながら話せる。


 便利だよねぇ。


 昔なら国をまたぐ連絡は、使者を送るだけでも大仕事だっただろう。


 でも、今は相手が通話を受けてくれればすぐ話せる。


 もちろん、相手が忙しい時間に突然呼び出すのは迷惑だ。


 まずは窓口へ連絡して、話せる時間を聞いておく。


 ……うん。


 私だって、そこはちゃんと考えますよ!


 ……前よりは!


「リアリスちゃん。今日はどちらから?」


 巴さんが、各国の名前を書いた紙を持ってきた。


 ……あっ。


 もう準備してくれてる!


「まずはシルク王国かな。やっぱり、ここが一番近いし」


「そうね。王都の邸が中心になりそうだもの」


 ……うん。


 カバディ王には、先に話しておきたい。


 シルク王国に私の家があるからこそ、あの扉も安心して使える。


 何か起きてから『聞いてないぞ!』って言われたら困るからね。


 ……いや。


 普通に考えて、絶対に先に話すべきことだよね。


 私は、《映像通話》の準備をした。


 桜花が隣で見守ってくれる。


 巴さんは少し離れた席に座って、必要なことを紙に書いてくれていた。


 ……うん。


 それじゃあ、始めようか!


 最初に話した相手は、カバディ王だった。


 画面には、見慣れた王様の顔が映っている。


『おお、リアリス殿。今日はどうした?』


「こんにちは、カバディ王!」


『うむ。何か困りごとでもあったか?』


「困りごとではないんですけど、ちょっと相談があって」


 王様の隣には、ミキサーさんもいる。


 ……あっ。


 ちょうどよかった!


「各国の王族の人たちが、別の国へ行くとき、私の屋敷を経由できるようにしたいんです」


 …………。


 画面の向こうが、静かになった。


『……どういうことだ?』


「ほら、各国の私の屋敷は《簡易転移》の扉でつながってるでしょう? あれを、連絡してくれた王族の人たちにも使ってもらおうかと思いまして」


 カバディ王が、ぱちぱちと目を瞬かせる。


『……つまり、ここから帝国へ行くのに、馬車で何日も移動しなくて済むということか?』


「はい。準備ができていれば、あっという間です!」


『…………』


 王様が、ミキサーさんを見る。


 ミキサーさんも、王様を見る。


 ……あれ。


 また、変なこと言っちゃった?


『リアリス殿』


 ミキサーさんが、静かに口を開いた。


『お話は理解いたしました。ただ、何点か確認させていただいてもよろしいでしょうか』


「もちろんです!」


 ……うん。


 こういうときは、ミキサーさんが頼りになるね。


『まず、許可なく他国へ出入りできるわけではありませんね?』


「はい! 事前に連絡してもらって、行き先の国からも了解を得て、私が許可した場合だけです」


『通行される方の身元については?』


「その都度、確認します。勝手に別の人が使えるようにはしません」


『護衛や使用人は?』


「王族ご本人だけを基本に考えてます。それ以外は、必要なら別に相談してください」


『なるほど』


 ミキサーさんは、何かを書き留めているようだった。


 ……おお。


 質問が的確だ!


『最後に、通常の外交手続きはどうなるのでしょう』


「そこは今までどおりです。正式な謁見なら、相手の王城へちゃんと申し込んでもらいます」


『……そうですか』


 ミキサーさんが、少しだけ微笑んだ。


『それなら、検討の余地がございますね』


 …………。


 ……おっ。


 よかった!


 カバディ王も、ゆっくり頷いた。


『わしとしても、王族の移動が安全になるのはありがたい話だ。ただし、王城の仕事と屋敷の往来は別だぞ』


「はい。そこはちゃんと分けます!」


『うむ。ミキサー、必要な確認を進めておいてくれ』


『承知いたしました』


 ……ああ。


 よかった。


 どうやら、最初の相談は無事に終わったみたい。


 私は、思わず胸を撫で下ろした。


 ……うん。


 これで、第一歩だね。


 通話を終えると、巴さんが一枚の紙を見せてくれた。


「リアリスちゃん、今のお話はこんな感じでいいかしら?」


 そこには、短くまとめられた条件が書かれていた。


 事前連絡をすること。


 行き先と訪問の目的を伝えること。


 相手国の許可を確認すること。


 屋敷で案内された場所を通ること。


 使えるのは、許可された王族ご本人だけであること。


 ……おお。


 分かりやすい!


「すごい、巴さん! もうまとまってる!」


「ふふ。難しい話ではないわよ」


「いやいや、私なら絶対、あとで思い出すところでした!」


 …………。


 巴さんが、少しだけ目を細めた。


「……そうでしょうね」


 ……あっ。


 そこは否定してくれないんだ!


 桜花が、穏やかに微笑んでいる。


「リアリス様。各屋敷の担当者にも、同じ内容をお伝えしておく必要がございますね」


「そうだね。勝手に王様が現れたら、みんなびっくりするもんね」


「はい。玄関や応接室など、お通しする場所も決めておきたいと存じます」


 ……ああ。


 それも大事だ。


 私の寝室に突然王様が立ってたら、絶対にびっくりする!


 いや。


 そもそも、そういう使い方はできないようにしよう。


 私たちの暮らしを守るための家でもあるんだからね。


「じゃあ、扉を通った人には、まず屋敷の応接室で待ってもらうことにしようか」


「承知いたしました」


 ……うん。


 これなら、何とかなりそうだ。


     ◇


 次は、ローズ帝国。


 皇帝ヴァリロッサさんと話す時間を取ってもらった。


 画面がつながった途端、聞き慣れた大きな声がした。


『おお、リアリス! 今日は何だ!』


「こんにちは、皇帝!」


『うむ! また妙なことを思いついたんじゃあるまいな!』


 …………。


 ……えっ。


 何で分かったの!?


 私は、慌てて首を振った。


「妙なことじゃないですよ! 便利な話です!」


『ほう?』


 ……うん。


 それなら聞いてくれそうだ。


 私は、各国のリアリス邸を経由して王族が移動できるようにしたいと伝えた。


 皇帝は、しばらく黙っていた。


 ……おっ。


 真剣に考えてる?


『……つまり』


「はい!」


『余がシルク王国へ行きたいと言えば、何日も馬車に揺られずに済むのか?』


「お互いに都合がついて、許可が出れば、ですけどね!」


『……面白い!』


 …………。


 ……おお。


 予想どおりの反応!


『それなら、余の時間がずいぶん浮くではないか!』


 皇帝が、豪快に笑った。


 ……うん。


 この人、こういうの好きそうだね。


 でも、その横から聞き覚えのある声がした。


『陛下。正式な訪問には、先方との調整が必要でございます』


 ……あっ。


 ガラントさん!


 画面の横から、片眼鏡の宰相ガラントさんが顔を出した。


『リアリス殿。詳細をお聞きしてもよろしいでしょうか』


「もちろんです!」


 私は、巴さんのまとめた条件を読み上げた。


 ……いや。


 こういうときは、ちゃんと読んだ方が間違えないからね!


 ガラントさんは、最後まで静かに聞いていた。


『なるほど。王族の安全な移動手段としては、大変魅力的なお話です』


「よかった!」


『ただ、相手国へ無断で立ち入れるわけではなく、外交上の取り決めは従来どおりという理解でよろしいですね』


「はい!」


『でしたら、帝国としても検討いたしましょう』


 ……おお。


 何だか、すごく真面目な話になってきた!


 皇帝は、楽しそうに笑っていた。


『ガラントよ! これで久しぶりに遠くの国へも顔を出しやすくなるな!』


『陛下。まずはご公務の調整からでございます』


『分かっておる!』


 …………。


 ……あはは。


 ガラントさん、大変そうだね。


 それにしても、ちょっと気になったことがある。


「皇帝、そんなに遠くへ行く用事があるんですか?」


『今すぐではない! だが、必要なときに行けるというのはよいものだ!』


「そうですね!」


 ……うん。


 そういうことなんだよね。


 今すぐ全員が移動するわけじゃない。


 でも、選べる方法がひとつ増える。


 それだけでも、役に立つと思うんだ。


 通話の終わり際、ガラントさんが、もう一度頭を下げた。


『リアリス殿。この件、改めて必要な書類を整理いたします』


「はい! よろしくお願いします!」


『……なお、陛下が突然「今から行く」と言い出された場合でも、事前の確認をお願いいたします』


 …………。


 ……えっ。


 私、皇帝が突然来る前提で話されてる!?


『ガラント! 余はそんなこと言わんぞ!』


 皇帝が、ちょっとだけ不満そうに言った。


 ……いや。


 この前の様子を思い出すと、言いそうな気がするけど!


「はい。突然の場合は、ちゃんと相談してからにします!」


『助かります』


 ガラントさんが、深く頭を下げた。


 ……おお。


 何だろう。


 私も、誰かの仕事を増やしそうになってる気がする。


 …………。


 ……まあ。


 便利になるなら、いいよね!


 ……たぶん。


 通話が終わると、巴さんが何かを書き足していた。


「巴さん、何を書いてるの?」


「『急なご希望でも、すぐに通れるとは限りません』よ」


「……なるほど!」


 ……うん。


 その一文、大切だね。


     ◇


 続いて連絡したのは、ドルステン魔国だった。


 画面に現れたのは、見慣れた大きな魔王様。


『吾輩に何か用か、リアリス殿』


「こんにちは、ドルステンさん!」


『うむ。平和のことなら、いつでも聞こう』


 ……おお。


 頼もしいね!


 私は、王族の移動に屋敷の扉を使ってもらえるようにしたい、と説明した。


 魔王様は、しばらく黙った。


 それから。


『……何と』


 ……あれ。


 驚いてる?


『吾輩たちが、別の大陸へ行くにも、長い航海をせずに済むというのか』


「はい。お互いの国の許可があって、日程が合えばですけど」


『……ほう』


 魔王様が、腕を組んだ。


 ……おっ。


 これは、どうだろう。


『それは、和平を進める上でも、大きな助けになるな』


「そう思ってもらえます?」


『もちろんだ』


 魔王様が、ゆっくり頷いた。


『かつて吾輩たちは、顔を合わせるだけでも困難であった。今は《映像通話》があるとはいえ、実際に同じ場所に立つことには意味がある』


 ……ああ。


 そうだよね。


 画面越しに伝わることもあるけど、直接会ってこそ伝わることもある。


『だが、吾輩ほどの者が突然訪ねれば、先方はさぞ驚くだろうな』


 …………。


 ……おお。


 それは、間違いないです!


 私は、思わず笑ってしまった。


「なので、ちゃんと先に連絡しましょう!」


『うむ。そうしよう』


 ……ふふ。


 何だか、いい感じだね。


 魔王様は、少しだけ声を落とした。


『リアリス殿。ひとつ確認したい』


「はい!」


『その扉は、誰でも通れるものではないのだな?』


「はい。私が許可した人だけです」


『そうか。それならよい』


 魔王様は、ゆっくり頷く。


『便利な道具ほど、使い方には気を配らねばならぬ』


 ……ああ。


 さすがだなぁ。


 そういうところ、ちゃんと考えてるんだね。


「王族でも、使うときは毎回知らせてもらいますよ」


『当然だ。吾輩も、城を離れるなら家臣へ知らせねばならぬ』


「そうですよね」


『……ところで』


「はい?」


『シルク王国の邸を経由した際、巴殿の菓子をいただくことはできるのか?』


 …………。


 ……えっ。


 そっち!?


 巴さんが、隣でくすっと笑った。


「もちろん、事前に教えていただければご用意しますよ」


『おお! それはありがたい!』


 …………。


 ……あはは。


 魔王様、すごく嬉しそう!


 ……うん。


 和平の話より、お菓子の話で盛り上がってる気がするんだけど。


 ……まあ、いいか!


 私は、笑いながら通話を終えた。


     ◇


 エルフ国の森王ライノーラさんにも、連絡した。


『リアリス殿。久しぶりだな』


「こんにちは、ライノーラさん!」


『今日は、どのような相談だ?』


 私は、同じように条件を説明した。


 ライノーラさんは、すぐに頷いた。


『なるほど。遠方の国へ向かうための移動を、屋敷同士で短縮できるというわけか』


「はい!」


『それは、便利だな』


 ……おお。


 反応が早い!


 私は、少し嬉しくなった。


『ただし、相手国との取り決めは守るのだな?』


「もちろんです!」


『それなら、話を進めやすい』


 ライノーラさんが、穏やかに微笑む。


『エルフ国は、ほかの大陸との交流を広げているところだ。顔を合わせる機会が増えるのは、よいことだろう』


「そうですね!」


 ……うん。


 開国してから、いろいろな国と話せるようになってきたもんね。


『それに、今後、ライラがそちらへ行く際にも……』


 そこで、ライノーラさんが少し考える。


『いや。あの子なら、きっと花の話で一日が終わってしまうな』


 …………。


 ……あっ。


 それは、あり得る!


 私は、思わず笑ってしまった。


「カトレアが喜びそうです!」


『ははは。そうだろうな』


 ……うん。


 外交も大切だけど、花の話をするために訪ねる王女様がいてもいいよね。


 ……ただし。


 事前連絡は、忘れずに!


 ジーラット国にも連絡した。


 画面がつながると、ライオネス王が大きく手を振ってくれた。


『おお、リアリス殿! 久しいな!』


「こんにちは、ライオネスさん!」


『今日は、何の用件だ?』


 私は、王族の移動について説明した。


 ライオネスさんは、しばらく真面目に聞いていた。


『……なるほど。それはよい』


「本当ですか?」


『うむ。別の国へ行くために何日も移動するのは、なかなか骨が折れるからな』


 ……ああ。


 そうだよね。


 王様なら、国を離れるときの仕事の調整も必要だ。


「でも、事前に知らせてもらって、相手の国が受け入れてくれるときだけですよ」


『分かっておる。王だからといって、勝手に他国の庭へ入ってよいわけではない』


「はい!」


 ……おお。


 話が早い!


 そのとき、ライオネスさんが、少し笑った。


『ところで、シルク王国の屋敷へ立ち寄ったら、例の巨大な猫じゃらしを見せてもらえるか?』


 …………。


 ……えっ。


 また、その話!?


「……あれ、まだ気に入ってるんですか?」


『もちろんだ!』


 ……あはは。


 まさか、王族専用の移動ルートの話から、猫じゃらしの話になるとは!


 でも、元気そうで何よりだね。


「機会があったら、またお話しましょう!」


『うむ! 楽しみにしておるぞ!』


 ……ふふ。


 こうして、またひとつ話が進んだ。


     ◇


 最後に、シギラ国へ連絡した。


 ドワーフの国は、ギーラ国とシーラ国がひとつになったばかり。


 今はシギラ国として、王族の人たちが力を合わせている。


 画面に映ったのは、ミゲイルさんだった。


『リアリス殿。ご連絡ありがとうございます』


「こんにちは、ミゲイルさん!」


『本日は、どのようなご用件でしょうか』


 ……うん。


 相変わらず、落ち着いた人だね。


 私は、各国の王族がリアリス邸を経由できるようにしたい、と説明した。


 ミゲイルさんは、最後まで静かに聞いてくれた。


『……なるほど。それは大変ありがたいお話ですね』


「そう言ってもらえると嬉しいです!」


『私たちも、今後は各国との交流が増えると思います。移動の負担が減るのは助かります』


「はい!」


『ただ、国内での予定との調整も必要になりますので、ご利用をお願いする際は事前にご相談いたします』


 ……おお。


 完璧な返事!


 ……いや。


 これが普通なのかもしれないけど!


「もちろんです。無理に使わなくても大丈夫ですよ」


『ありがとうございます』


 ミゲイルさんが、穏やかに微笑んだ。


『イリーナにも伝えておきます。きっと喜ぶと思います』


「よろしくお願いします!」


 ……うん。


 この国でも、ちゃんと役に立ちそうだね。


 私は、笑顔で通話を終えた。


 これで、王族がいる国への大きな連絡はひととおり終わった。


 ……あれ。


 まだ、ほかにも国があるよね。


 フォーサイド魔法国と、オリミス聖国。


 でも、あちらの統治者は法師長と教皇さんだ。


 王族というわけではない。


 今回の話は、まず王族限定で始めるつもりだ。


 だから、そこを勝手に『統治者なら誰でも通れます』とはしない。


 それと、魔法国や聖国へ王族が訪問したいときは、当然、その国の了承も必要になる。


 屋敷があるからと言って、突然入国できるわけじゃないからね。


 ……うん。


 ここは、はっきりしておこう。


 私は、以前渡した《映像通話》の連絡先を確かめた。


 法師長さんや教皇さんにも、必要なときは今までどおり映像で話せる。


 今回の仕組みで、誰かが困るようなことにはしたくないな。


「巴さん、行き先が魔法国や聖国の場合も、その都度確認するって書いておいてもらえます?」


「もちろんよ」


 ……ふふ。


 これで安心だね。


 魔法国には魔法国の決まりがある。


 聖国には聖国の決まりがある。


 そんなの、当たり前の話だ。


 ……というか。


 私、昔だったら勢いで忘れてたかもしれない。


 ……うん。


 ちょっとずつ成長してる……はず!


     ◇


 各国への連絡が終わった頃には、だいぶ時間が経っていた。


 ……いやぁ。


 《映像通話》って便利だけど、話す内容が多いと、やっぱり時間はかかるね。


 私は、大きく伸びをした。


「ふぅ……!」


「お疲れさま、リアリスちゃん」


 巴さんが、温かい紅茶を持ってきてくれる。


「ありがとうございます!」


 私は、ひと口飲んだ。


 ……ああ。


 美味しい。


 ……うん。


 これで各国の移動が、少し楽になればいいな。


 まだ、誰かが実際に使う予定があるわけじゃない。


 ただ、『そういう方法もありますよ』と知らせただけ。


 でも、必要になったときに知っていれば、選択肢が増えるよね。


「リアリス様」


 桜花が、静かに声をかけた。


「はい!」


「各屋敷への連絡も、進めてよろしいでしょうか」


「もちろん!」


 ……あっ。


 そっか。


 国の偉い人に話して終わりじゃないんだった。


 各屋敷のメイドたちにも、通行する人の確認や応接室への案内をお願いしないと。


「桜花、手伝ってもらっていい?」


「喜んで」


 ……ああ。


 いつもありがとう!


 私は、紅茶のカップを置いた。


 ……もうひと仕事だね。


 まずは、屋敷の入口について考えた。


 王族の人が《簡易転移》で移動するなら、必ず決まった扉を通る。


 その扉の近くには、案内する人が必要だ。


 通り抜けるだけでも、いきなり知らない場所へ出たら戸惑うと思う。


 ……それに。


 どの国のリアリス邸にも、そこで暮らすみんながいる。


 普通にお茶を飲んでいたり、お風呂へ行ったり、仕事をしていたりする。


 そこへ突然、王様が歩いてきたら……。


 …………。


 ……うん。


 絶対にびっくりするよね!


「巴さん、通行するときは、住んでいる子たちに先に知らせておいた方がいいよね」


「そうね。それと、案内役も決めておきたいわ」


「じゃあ、事前の連絡は必須だね!」


「最初からそう言っていたでしょう?」


「……はい」


 …………。


 ……おお。


 ちょっとだけ怒られた!


 桜花が、穏やかに微笑んだ。


「リアリス様。ご利用される方には、必要な区画以外へ立ち入らないようお伝えするのもよろしいかと」


「うん。屋敷って、家でもあるからね」


 ……そう。


 王族だからといって、好きな部屋を見て回れるわけじゃない。


 ここは私たちの暮らす場所でもある。


「じゃあ、使うのは連絡用の扉と、お迎えする場所だけ。ほかの場所へは、案内がない限り入らない。これでどう?」


「よろしいかと存じます」


 ……うん。


 これなら、家族も安心できるね。


「それからね、リアリスちゃん」


 巴さんが、また紙を一枚差し出した。


「今度は何ですか?」


「予約の確認表よ」


「……予約!?」


 …………。


 ……おお。


 そうなるのか!


 紙には、日付と名前、それから出発する国と到着する国を書く欄がある。


 ……うん。


 確かに必要だね。


「ほら、同じ時間に別々の国の王様が来たら、どうするの?」


「……あっ」


 ……いや。


 よく考えたら、どうするんだろう。


 王様が二人、うちの玄関で鉢合わせ。


『おや、そちらも?』


『奇遇ですな!』


 …………。


 ……うん。


 外交会談が始まっちゃう!


 ……いや、始まるならいいけど。


 そこに私も巻き込まれるのは、ちょっと困る!


「巴さん、同じ時間に重ならないようにしよう!」


「ええ。そのつもりよ」


「……さすが!」


 巴さんが、少し笑った。


「もう、リアリスちゃんは。便利なことを思いつくのはいいけれど、その後のことも考えましょうね」


「……はい」


 ……うん。


 反論できません。


 でも、こうして考えてくれる人がいて助かるなぁ。


 私は、予約表の一番上に、試しに線を引いてみた。


 ……おお。


 これ、もしかして本当に仕事になるんじゃない?


     ◇


 準備が整ったところで、私は一度、実際の移動経路を確かめることにした。


 ……いや。


 王様をいきなり呼んで試すわけじゃないよ?


 まずは私たちだけで確認する。


 シルク王国邸の管理用の扉。


 ここから、各国の屋敷へつながっている。


「巴さん、帝国邸を選んでもらえますか?」


「いいわよ」


 巴さんが、指定された扉に《簡易転移》を使った。


 扉を開く。


 向こうには、見慣れたローズ帝国邸の廊下があった。


 ……うん。


 いつもどおりだね。


「じゃあ、行ってくるね」


 私は、桜花と一緒に扉をくぐった。


 振り返れば、向こう側に巴さんが立っている。


 ……おお。


 本当に一歩で国を越えた!


 ……いや。


 私たちは、普段から使ってるんだけどね。


 改めて考えると、なかなかすごいことをしてる。


「桜花、これなら問題なさそうだね」


「はい。移動の仕組みそのものに変更はございませんので」


「そうだった!」


 ……うん。


 そもそも、今まで毎日みんなが使ってきた扉だ。


 壊れてないか確認するのは大切だけど、新しい実験をするわけじゃない。


 ……あはは。


 私、ちょっと張り切りすぎたかな。


 帝国邸の廊下では、担当のメイドが待っていた。


「お帰りなさいませ、リアリス様」


「ただいま!」


「巴様より、確認のためのお越しと伺っております」


 ……おお。


 もう連絡が届いてる!


「そうなんだ。ありがとう!」


 メイドは、穏やかに頭を下げた。


「王族の方をご案内する場合は、こちらの廊下から応接室へお通しいたします」


 ……うん。


 ちゃんと考えてくれてるんだね。


 私は、案内された道を歩いてみた。


 扉から応接室まで、迷うような場所もない。


 その先へは、案内なしで入れないようにしておく。


 ……よし。


 これなら、大丈夫そう!


 でも。


 ふと、あることに気づいた。


 ……あれ。


 シルク王国の屋敷へ帰るとき、王様が来ていたらどうなるんだろう?


 玄関へ行ったら王様がいて。


 私は、いつもどおり『ただいま!』って言う。


 王様は『お邪魔しているぞ』って笑う。


 ……うん。


 普通に考えると、すごく不思議な光景だよね!


「リアリス様?」


 桜花が、首を傾げた。


「……ううん。何でもない!」


 私は、慌てて笑った。


 ……いや。


 私が思いついたことなんだけどね!


 確認を終えてシルク王国邸へ戻ると、巴さんが紅茶を用意して待っていた。


「どうだった?」


「問題なさそうです!」


「それはよかったわ」


「でも、通行する王族の人には、やっぱり事前に連絡してもらわないとね」


「ふふ。やっと実感が湧いた?」


「……はい」


 ……うん。


 身をもって学びました。


 桜花が、静かに笑っている。


「リアリス様。ほかに気になる点はございますか」


「そうだね……」


 私は、少し考えた。


「使う人が増えたとしても、一般の人まで使えるようにするのは、まだやめておこうかな」


「よろしいかと存じます」


「王族の人でも、必要になったらその都度相談。もし大人数で来たいと言われたら、別の方法も考える」


「承知いたしました」


 ……うん。


 そのくらいが、ちょうどいいよね。


 それに、私には《転移》もある。


 本当に急いで助けなきゃいけないときには、それを使えばいい。


 ただ、全部を私が引き受ける必要はないと思う。


 今回の仕組みなら、私が毎回遠くへ迎えに行かなくても済む。


 それって、少し便利だよね。


 ……まあ。


 受け入れの確認は必要だけど。


 それくらいは、ちゃんとしよう!


     ◇


 その日の夕方。


 私は、今回のことをもう一度整理していた。


 各国の王族へ、移動の選択肢が増えることを伝えた。


 屋敷の管理用の扉は、今までどおり。


 使えるのは許可された人だけ。


 各国の手続きは、ちゃんと守る。


 ……うん。


 これなら、問題なさそうだ。


 それに、王様たちが実際に遠い国まで行くことなんて、そう何度もないと思う。


 大抵の相談は、もう《映像通話》のマジックアイテムで済むからね。


 顔を見て話せるし、離れていても意見を聞ける。


 資料の確認だって、工夫すればできる。


 ……本当に便利になったなぁ。


 ただ。


 やっぱり、実際に行かないと分からないこともある。


 クオシンさんと一緒に帝国の事件を追ったときだって、そうだった。


 画面越しに話すだけでは、地下で何が行われているのか分からなかっただろう。


 自分の目で見て。


 その場にいる人の声を聞いて。


 初めて、分かることもある。


 もちろん、あんな事件は二度と起きてほしくない。


 でも、もしまた何かあったなら。


 動きたい人が動けるように、少しだけ手助けできたらいいなと思う。


 ……うん。


 そういうことだね。


 私は、窓の外へ目を向けた。


 庭では、カトレアが花を眺めている。


 楓が少し離れた場所で、静かに付き添っていた。


 ……ああ。


 今日も平和だなぁ。


 国と国の距離が近くなっても。


 王様たちが以前より簡単に会えるようになっても。


 私は、こんな日常が続いてくれたら嬉しい。


 それに、誰かと直接会って話すことが増えれば、誤解も減るかもしれない。


 前みたいな争いは、もう嫌だからね。


 ……うん。


 これからの世界が、少しずつ良くなるといいな。


 ……あれ。


 何だか、すごく大きなことを考えてる?


 私は、ただ屋敷の扉を使ってもらおうと思っただけなんだけど。


 ……まあ、いいか!


 役に立つなら、それでいいよね。


「リアリスちゃん」


 巴さんが、カップを片付けながら声をかけた。


「今回のお話、各国の方は喜んでくださった?」


「うん! みんな、便利そうだって言ってくれたよ」


「それはよかったわね」


「うん。でも、実際に使うのは、きっとたまにだと思う!」


 …………。


 巴さんが、少しだけ目を細めた。


「……そうかしら?」


「えっ?」


「ふふ。何でもないわ」


 …………。


 ……あれ?


 その笑顔、何だか気になるんだけど!


「だって、普段は映像で話せるでしょう?」


「そうね」


「わざわざ屋敷を通って別の国へ行く必要なんて、そんなにないと思うんだよね」


「ええ。そうだといいわね」


 …………。


 ……あっ。


 巴さん、また意味深なこと言った!


 私は、少し考えた。


 王様が遠くへ行く用事。


 正式な謁見。


 直接現地を確かめたいとき。


 ……あとは。


 ……うん。


 あんまり思いつかないなぁ。


「だから、大丈夫!」


 私が胸を張ると、巴さんは優しく微笑んだ。


「それなら、急いで新しいお茶の用意を増やす必要もないかしら」


 …………。


 ……えっ。


 何でお茶の話!?


 私が首を傾げると、桜花も穏やかに笑った。


「リアリス様。王族の方々が行き先のご相談にいらした場合、応接室でお待ちいただくこともございます」


「……うん」


「その際、お飲み物をお出しすることも考えられます」


「……あっ」


 …………。


 ……そうか!


 別の国へ行くだけでも、屋敷に立ち寄るんだ。


 だったら、少し待つこともあるよね。


 その間、お茶を出すことになる。


 ……おお。


 私の家、本当に乗り継ぎ所みたいになってきた!


     ◇


 翌朝。


 ……いや。


 もちろん、すぐに誰かが来たわけじゃないよ?


 ただ、昨日の話を思い出して、私はちょっとだけ確認したくなった。


「巴さん、昨日の予約表って、今どうなってます?」


「ここにあるわよ」


 巴さんが、紙を見せてくれた。


 名前。


 行き先。


 日にち。


 案内する屋敷。


 全部、きちんと欄が分かれている。


 ……うん。


 何だか、それっぽい!


「……すごいですね」


「ふふ。まだ、誰も予定を書いていないけれどね」


「……そっか」


 ……あはは。


 そうだった!


 ただ、いずれ使う人が出てくるかもしれない。


 それは、それで嬉しい。


 でも……。


 あんまり頻繁に使われると、巴さんたちが大変になりそうだ。


 ……うん。


 そこは、ちゃんと考えよう。


「もし忙しくなりすぎたら、しばらく利用を止めてもいいからね」


「もちろんよ。ここは、リアリスちゃんたちのお家でもあるんですもの」


「うん!」


 ……ああ。


 そう言ってもらえると安心するなぁ。


 私は、温かい紅茶をひと口飲んだ。


 ……よし。


 これで、我が家の平和も守れそうだね。


 ……ところで。


 ひとつだけ、気になることがある。


 もし、王様同士がうちの屋敷で偶然会ったら、どうなるんだろう。


 ……いや。


 事前に予定を調整するから、普通は重ならないはずなんだけど。


 でも、もし。


 魔王様とライオネスさんが、同じ時間に来たら。


 魔王様は巴さんのお菓子を楽しみにして。


 ライオネスさんは猫じゃらしの話を始めて。


 そこへ皇帝まで来たら……。


 …………。


 ……おお。


 何だか、すごいことになりそう!


 私は、その光景を想像した。


 王様三人が、我が家のサロンでお茶を飲んでいる。


 魔王様がケーキを食べながら平和について語り。


 ライオネスさんが猫じゃらしを握り。


 皇帝が大声で笑っている。


 …………。


 ……うん。


 ちょっと見てみたい!


 ……いやいや。


 私、何を考えてるんだ!


 そんなことになったら、間違いなく仕事が増えるじゃん!


「リアリスちゃん?」


 巴さんが、首を傾げた。


「……何でもないです!」


 私は、慌ててカップを持ち直した。


 ……うん。


 やっぱり、予約表は大事だね!


 桜花が、静かに笑った。


「リアリス様。お考え事でしょうか」


「……うん。ちょっとだけ」


「どのようなことを?」


「いやぁ……うちが、王族専用の乗り継ぎ所になったらどうしようかなって」


 …………。


 桜花が、少し目を丸くした。


 それから、ふっと微笑む。


「リアリス様がお考えになったことですので」


「……えっ」


「皆様にとって、きっとよい方法になると存じます」


 …………。


 ……ああ。


 優しいなぁ。


「ありがとう、桜花」


「恐れ入ります」


 ……うん。


 便利なことを思いつくのはいい。


 でも、その分だけ大変になる人もいる。


 だから、そこはちゃんと考えたい。


 私は、桜花と巴さんを見た。


「もし困ったことがあったら、遠慮なく言ってね。必要なら、すぐに使い方を見直すから」


「ええ。頼りにしているわよ、リアリスちゃん」


「はい!」


 ……うん。


 そんなふうに話せる家族がいてくれて、本当によかった。


 こうして私たちの屋敷に、王族限定の新しい移動方法がひとつ加わった。


 まだ、誰がいつ使うのかは分からない。


 でも、いつか誰かの役に立つなら、それでいい。


 ……さて。


 今日は久しぶりに、庭でのんびりしようかな!


 そう思って立ち上がった、そのとき。


「リアリスちゃん」


 巴さんが、柔らかな声で呼び止めた。


「はい?」


「カバディ王から、また連絡があったわよ」


 …………。


 ……えっ。


「えっ!? もう誰か使うんですか!?」


「ふふ。まだよ」


 ……ああ。


 よかった!


「ただ、ミキサーさんが条件を文書にまとめて確認したいそうなの」


「……文書」


「ええ。ほかの国とも条件を揃えておいた方がいいでしょう、って」


 …………。


 ……おお。


 早速、書類が増えた!


「……巴さん」


「なあに?」


「これって、本当に簡単な提案だったよね?」


 巴さんが、にっこり微笑んだ。


「ええ。提案するだけなら、ね」


 …………。


 ……そ、そうですよね!


 私は、そっと椅子へ座り直した。


 桜花が、静かに紙と筆記具を用意してくれる。


 ……ああ。


 世界の国々が、少しずつ近くなる。


 それは、きっといいことだ。


 でも。


 ……私ののんびりした時間は、どうして近づいてこないんだろう!?


 窓の外では、カトレアが花を見ながら楽しそうに笑っていた。


 ……うん。


 とりあえず、あの笑顔を守るために。


 ……今日も、もう少しだけ頑張ろう!

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