第4話:二千年の戦争と真実
「……じゃあ、はっきりさせるために確認しましょうか」
私がそう言うと、会談室は静まり返った。
目の前には、シルク王国の国王さん。
ローズ帝国の皇帝。
フォーサイド魔法国のキリアさん。
オリミス聖国の教皇さん。
そして、ドルステン魔国の魔王。
ほかにも、それぞれの国の宰相さんたちと、オブザーバーのシルベスターさん、雪彦君。
みんなが、私を見ていた。
……うん。
何だか、すごい注目のされ方だね。
でも、さっきからずっと話し合いは平行線だった。
誰が悪いのか。
何に対して謝るべきなのか。
二千年前の争いが、なぜ始まったのか。
肝心なところを、誰も知らない。
……だったら、確認すればいい。
私には、できるかもしれないんだから。
「リアリス殿」
最初に口を開いたのは、キリアさんだった。
「今、二千年前の出来事を確かめると申されましたな」
「はい」
「ですが、当時の記録はほとんど残っておりません。残っているものも、後世に書かれたものばかりです」
「……そうなんですよね」
「どの資料を調べるおつもりですか?」
…………。
……あっ。
そうか。
普通なら、古い書物や記録を探すよね。
「いえ。資料を読むんじゃなくて、過去そのものを見ようと思って」
…………。
キリアさんの動きが止まった。
「……過去、そのものを?」
「はい。実際に何が起きたかを、映像で確認できればと思うんです」
…………。
…………。
会談室が、さらに静かになった。
……あれ。
さっきより静かになったね。
「……リアリス殿」
今度は、ミキサーさんが口を開く。
「それは、二千年前の出来事を直接見る魔法が存在する、という意味でしょうか」
「今から作ろうと思ってます」
…………。
ミキサーさんが、ゆっくり目を閉じた。
……あっ。
何だか、見覚えのある反応。
隣のシルベスターさんも、額に手を当てている。
……うん。
また何か、変なこと言っちゃったかな。
「リアリス」
皇帝が、低い声で言った。
「その魔法で、何が見える?」
「二千年前に起きたことです。私たちの想像した話じゃなくて、実際の出来事を」
私は、全員を見渡した。
「でも、映したものが事実だと分かるようにしたいので、映像はこちらで書き換えたりしないようにします。過去に干渉もしません」
……うん。
そこは大事だよね。
都合のいい場面を作れる魔法じゃ、意味がない。
見たいものを見るんじゃなくて。
起きたことを、そのまま見る。
「そのようなことが、本当に可能なのか……」
キリアさんが、呟いた。
モースさんも、真剣な顔になっている。
…………。
……うん。
驚くのは、もっともだと思う。
私自身、こんな使い方をするのは初めてなんだから。
ただ。
《想像魔法》なら、きっとできる。
私は、自分の力を信じている。
「魔王は、どう思います?」
ドルステン魔王は、しばらく黙っていた。
そして、低い声で答えた。
「……吾輩も、見たい」
…………。
「人と魔族が、なぜ争い始めたのか。それを知ることができるならば、見ぬ理由はない」
グリンヒルダさんも頷いた。
「……ただし、映像を見た結果だけで、すべての歴史的責任を決めることには慎重であるべきでしょう」
「はい。もちろんです」
……うん。
過去の原因が分かっても、そのあとに起きた出来事まで全部消えるわけじゃない。
私は、そこも分かっているつもりだ。
「まずは、全員で同じものを見ませんか」
国王さんが、ゆっくり頷いた。
「……よかろう」
皇帝も、腕を組んだまま頷いた。
「異存はない」
キリアさんも、教皇さんも。
そして魔王も。
みんなが、同意してくれた。
……よし。
それなら。
二千年前へ、行ってみよう。
……いや。
私たちが行くわけじゃないんだけどね。
◇
「では、ちょっと準備しますね」
私は立ち上がり、卓の横に空いている場所へ移動した。
桜花が、静かに隣へ来る。
「リアリス様」
「ん?」
「皆様が同じ映像をご覧になれるよう、位置を整えましょうか」
「……あっ。そうだね」
私は、会談室の壁際に大きな画面を作ることにした。
どこからでも見やすくて、声も聞こえる。
ただし、誰かの頭の中を覗いたり、勝手に感情を読み取ったりはしない。
必要なのは、歴史の事実だけだ。
「……よし」
私は、ゆっくり息を吸った。
思い浮かべるのは、時間を遡って出来事を探す魔法。
過去にあった場所。
その場にいた人たち。
実際に交わされた言葉。
起きた順番。
すべてを、変更せずに映し出す。
そして、探すのは――。
二千年前。
人間と魔族の間に、最初の争いが起きるきっかけ。
「《歴史閲覧》」
淡い光が、私の手のひらから広がった。
大きな画面が、卓の向こう側に浮かび上がる。
黒い画面の中央に、文字が現れた。
『対象:人間と魔族の対立の発端』
『時期:ステラ歴一〇〇〇年頃』
『記録を確認します』
……おお。
できた!
……いや。
今は、喜ぶところじゃないね。
私は、画面を見つめた。
光が、ゆっくり集まっていく。
雪彦君が、小さく息を呑んだ。
「……こんな魔法まで……」
……あっ。
雪彦君。
今は、静かに見ようね。
でも、驚く気持ちは分かるよ。
私だって、二千年前の世界がどんなものなのか、ちょっと気になる。
グリンヒルダさんが、静かに言った。
「……魔王様」
「うむ」
魔王の声は、低かった。
「見届けよう」
…………。
……うん。
みんな、真剣だ。
この場で、二千年前の真実が分かる。
それだけで、会談室の空気が変わった。
◇
画面が、ゆっくり明るくなった。
最初に映ったのは、古い城の外観だった。
今のシルク王国の王城とも、ローズ帝国の宮殿とも違う。
白い石の壁。
大きな門。
広い庭には、見慣れない紋章の旗が揺れている。
「……これは」
カバディ王が、声を落とした。
キリアさんが、画面を凝視している。
「……人間の古い王国様式ですな」
「そうなんですね」
私は、映像の端に出ている説明を読んだ。
そこに書かれていたのは、まだ人間の諸国が分かれていなかった時代の記録。
今のシルク王国も、ローズ帝国も、フォーサイド魔法国も、オリミス聖国も。
その前身となる一つの大きな人間王国が存在していた時代だった。
……ああ。
今とは、国の形も違ったんだね。
グリンヒルダさんが、低い声で言った。
「……人間が、まだ一つの王国だった頃か」
ミキサーさんが、静かに頷く。
「各国の古い王統が分かれる以前の時代ですな」
……うん。
歴史の話になってきた。
私は、画面へ視線を戻した。
場所が、城の内部へ移動する。
長い廊下。
高い天井。
赤い絨毯。
そして、大きな扉。
……おお。
何だか、昔の王城を見学している気分だね。
でも。
今は、何を探しているのか忘れちゃいけない。
二千年前の戦争の原因。
……うん。
きっと、この先にあるんだ。
◇
扉の向こうには、広い食堂があった。
長い卓に、豪華な料理が並んでいる。
人間の貴族らしい人たち。
角を持つ魔族の人たち。
それぞれが、少し距離を置いて座っていた。
…………。
……あれ?
「……魔族が、同じ食卓に?」
教皇さんが、驚いたように言った。
グリンヒルダさんも、三つの目を細めた。
「……互いに顔を合わせる場が、あったということか」
……おお。
そうなんだ。
二千年前からずっと争っていたわけじゃないのかな。
映像の中では、人間の国王らしい男性が笑っている。
立派な冠をかぶり、大きな椅子に座っていた。
その向かいには、体の大きな魔族の男性。
角があり、背中には翼がある。
……あっ。
何だか、今の魔王に似てる。
「……これは」
ドルステン魔王が、身を乗り出した。
「初代ではないが、かつてのドルステンの姿に似ておる」
……ああ。
魔王も、歴史の中で代替わりしてるんだね。
グリンヒルダさんが、静かに頷く。
「王の名と力は受け継がれます。しかし、この時代の出来事を、今の我々が直接知っているわけではありません」
……うん。
だから、今日こうして確かめているんだ。
映像の中では、二人の王が挨拶を交わしていた。
『我が国へようこそ』
『うむ。招きに感謝しよう』
…………。
……おお。
ちゃんと、仲良く話してる!
私は、少しだけ嬉しくなった。
「……こういう時代もあったんですね」
カバディ王が、静かに頷いた。
「……そうらしいな」
誰もが、画面から目を離さなかった。
このあと、何が起きるのか。
……うん。
私も、気になる。
◇
映像の中では、食事が進んでいった。
人間と魔族の代表たちが、料理を口に運び、何かを話している。
もちろん、最初からみんな打ち解けていたわけじゃない。
少し緊張した表情の人もいる。
でも、少なくとも、武器を向け合ってはいなかった。
……ああ。
今日の会談と、ちょっと似てるね。
今の私たちも、同じ卓についている。
しかも、全員が自分の国を守るために来てる。
……うん。
何だか、不思議な気持ちだ。
しばらくすると、給仕の人たちが料理を下げ始めた。
代わりに運ばれてきたのは、小さな皿。
そして。
白いものが乗っていた。
……ん?
私は、少し目を細めた。
ふわふわした生地。
白いクリーム。
赤い果物。
…………。
……あれ。
何だか、見覚えがあるような。
いや。
昨日、魔王城で食べたものに似てるなぁ。
「……ケーキ、ですか?」
雪彦君が、小さく呟いた。
……うん。
そうだね。
ケーキだ。
しかも。
…………。
……イチゴのショートケーキじゃない!?
私は、一瞬だけ画面から魔王を見た。
魔王は、まだ真剣な表情で映像を見ている。
……うん。
この人も、好きなんだよね。
でも、二千年前の戦争とケーキって、何か関係があるのかな。
……いやいや。
そんなはずないか。
……うん。
きっと、このあとに大事件が起こるんだ。
◇
映像の中で、給仕が二人の王へケーキを運んだ。
人間の国王の前に、一皿。
魔王の前にも、一皿。
どちらにも、赤いイチゴが一粒乗っている。
……おお。
同じケーキなんだね。
人間の国王が、嬉しそうに笑った。
『これは、うまそうだ』
魔王も、重々しく頷く。
『うむ。楽しみにしておった』
…………。
……あっ。
何だか、今の魔王と反応が似てる。
まあ、好きなものが同じなら、そういうこともあるよね。
人間の国王が、フォークを取った。
そして、ケーキを一口。
続いて、もう一口。
……うん。
普通に食べてる。
そのまま、上に乗っていたイチゴも口へ運んだ。
…………。
……おお。
おいしそうだねぇ。
私は、何となく見入ってしまった。
魔王の方は、ケーキをまだ食べていなかった。
先に飲み物を一口飲んでから、ゆっくり皿へ目を落としている。
……あっ。
最後にイチゴを食べる派なのかな。
…………。
……いや。
今、そんなこと考えてる場合じゃないんだけど。
でも、何となく気になっちゃう。
映像の中で、人間の国王が自分の空になった皿を見つめた。
そして。
魔王の皿へ視線を向けた。
…………。
……ん?
何だろう。
……いや。
まさかね。
国王が、ゆっくり手を伸ばした。
向かった先は、自分の皿ではない。
向かい側に置かれた、魔王の皿。
…………。
……えっ。
その指先が、赤いイチゴへ触れた。
…………。
……えっ!?
次の瞬間。
人間の国王は、魔王のケーキに乗っていたイチゴをつまみ上げた。
そして。
何のためらいもなく、自分の口へ放り込んだ。
…………。
…………。
…………。
……えええええ!?
◇
会談室は、静まり返っていた。
……いや。
さっきまでの重々しい静けさとは、何だか違う。
誰も、瞬きをしていない気がする。
私も、画面を見たまま固まっていた。
……えっ。
ちょっと待って。
今の、見間違い?
私は、もう一度画面を見た。
人間の国王は、満足そうな顔でイチゴを飲み込んでいる。
そして、魔王の皿には。
ケーキは残っているのに。
イチゴだけが、ない。
…………。
……あっ。
確かに、食べた。
……しかも、人のケーキの!
そんなことを考えていると、映像の中で魔王が、ようやく自分の皿を見た。
『……む?』
…………。
魔王の手が、ぴたりと止まる。
『……イチゴは?』
…………。
……ああ。
探してる。
魔王、イチゴを探してるよ!
人間の国王は、何事もなかったように笑っていた。
『うまいイチゴだったぞ!』
…………。
…………。
……いやいやいや!
それ、人のイチゴだから!
映像の中の魔王が、ゆっくり立ち上がった。
『……吾輩の、イチゴを?』
……あっ。
やっぱり、怒るよね。
『食べた』
人間の国王が、さらっと答える。
…………。
……ああ。
何で、そんなに堂々としてるの!?
『……それは、吾輩のケーキの上にあったイチゴだぞ』
『そうだったか! いや、実にうまかった!』
…………。
……ひどい。
すごく、ひどい。
私は、思わず頭を抱えそうになった。
でも、まだ。
まだ、こんなことで二千年の戦争が始まるわけじゃ……。
『……返せ』
映像の中の魔王が、低い声で言った。
『もう食べてしまったぞ』
『……吾輩のイチゴを、返せ!』
…………。
…………。
……あっ。
何だか、嫌な予感がする。
◇
映像の中で、魔王が卓を叩いた。
大きな音に、周囲の人たちが立ち上がる。
人間の護衛が剣の柄に手をかけた。
魔族の護衛も、魔王の方へ駆け寄る。
『陛下!』
『魔王様!』
…………。
……ああ。
周りの人たち、何が起きたか分かってないんだね。
でも、王様同士が怒鳴り合ってる。
しかも、護衛まで動いてる。
……そりゃ、大騒ぎになるよね。
人間の国王が、椅子から立ち上がった。
『イチゴ一粒ではないか!』
…………。
……あっ。
それは、言っちゃいけない言葉かも。
映像の中の魔王の顔が、真っ赤になった。
『……一粒、だと?』
…………。
……うん。
そこは、怒る。
私だって、カトレアのお菓子を勝手に食べた人が「一つだけじゃないか」って言ったら、ちゃんと注意すると思う。
……いや。
こんな場面で、カトレアを例に出すのもどうかと思うけど。
でも、悪いのは勝手に食べた方だよね。
『吾輩が楽しみにしておった、最後の一粒だぞ!』
魔王が、怒鳴った。
すると、人間側の護衛が一斉に前へ出る。
『王をお守りしろ!』
魔族側の護衛も、剣を抜いた。
『魔王様をお守りしろ!』
…………。
……ああ。
まずい。
護衛の人たちは、イチゴを見てない。
ただ、王様を守ろうとしているんだ。
剣が、ぶつかった。
一人が転ぶ。
別の人が、相手を押し返す。
食卓の皿が床へ落ちた。
ケーキが、崩れた。
…………。
……うん。
そこから先は、もう。
誰も、イチゴの話をしていなかった。
画面の中では、人間も魔族も互いに「攻撃された」と叫んでいる。
王同士の口論が、護衛同士の衝突に変わり。
その衝突が、国への報告になる。
……ああ。
そんなふうに、話が大きくなっていったんだね。
◇
映像が、しばらくの間、早送りのように進んだ。
城の廊下で報告する兵士。
書類を書く役人。
国王へ進言する貴族。
魔王へ状況を伝える側近。
次々に、場面が変わる。
ある報告では、魔王が国王を侮辱したことになっていた。
別の報告では、人間側が先に剣を抜いたことになっていた。
さらに別の場所では、相手が王の暗殺を企てた、という話にまで変わっていた。
…………。
……いやいや。
話が大きくなりすぎじゃない!?
最初は、イチゴだったんだよ!?
私は、画面を見つめた。
でも、次の場面で笑う気持ちは消えた。
国境へ向かう兵士。
見送る家族。
燃えた荷車。
戻らない人を待つ子ども。
……ああ。
そうだよね。
始まりがどんなにくだらなくても。
そのあとに起きたことは、くだらないなんて言えない。
誰かが命を落とした。
誰かが家族を失った。
誰かが、相手を憎むようになった。
そうやって、争いが長く続いてきたんだ。
私は、小さく息をついた。
……うん。
真相は分かった。
でも、これを見たからって、今までの悲しみが消えるわけじゃない。
それだけは、忘れないようにしよう。
私は、映像を静かに止めた。
画面には、最初の食卓がもう一度映っていた。
イチゴが、まだ二つともケーキの上に乗っている場面。
……ああ。
ここで、一言謝れていたら。
こんなことにならなかったかもしれないね。
◇
「……以上、です」
私は、小さく言った。
会談室には、誰の声も響かなかった。
……うん。
みんな、何を言えばいいのか分からないんだと思う。
私も、分からない。
二千年続いた争いの始まりが。
……イチゴ。
しかも。
……人のケーキの上に乗っていた、イチゴ。
…………。
……うん。
予想してなかった。
全然、予想してなかったよ!
「……キリア殿」
最初に声を出したのは、ミキサーさんだった。
「……はい」
「今の映像は……」
「……歴史を映したものであるならば……」
キリアさんは、しばらく言葉を探していた。
でも、結局、何も続かなかった。
皇帝が、机に肘をついた。
「…………イチゴ?」
…………。
……うん。
その気持ち、すごく分かる。
「……たった、一粒の?」
ガラントさんが、静かに頷いた。
「……そのように見えました」
…………。
皇帝は、ゆっくり額を押さえた。
「……何なんだ、これは」
……ああ。
皇帝でも、そうなるんだね。
雪彦君は、まっすぐ前を見たまま動かない。
……大丈夫かな。
あの子、さっきまで本当に真剣だったのに。
「……リオンさん」
小さな声が聞こえた。
「……ん?」
「……俺たち、何を見せられたんですか」
…………。
……あっ。
そこは、私にも分からない!
……いや。
何を見たかは、分かるんだけどね。
イチゴだよ。
イチゴが、戦争の原因だったんだよ!
私は、何とも言えない気持ちで画面を見つめた。
◇
そのとき。
「……待て」
低い声が、会談室へ響いた。
ドルステン魔王だった。
みんなの視線が、一斉に向く。
魔王は、画面をじっと見ている。
二本の角。
大きな翼。
いつもどおり、すごい迫力だ。
でも。
何だか、様子が変だった。
「……吾輩の」
…………。
……ん?
「……吾輩の、イチゴ……」
…………。
……あっ。
ちょっと待って。
魔王。
まさか、感情移入してる!?
「魔王様」
グリンヒルダさんが、静かに声をかけた。
「……お分かりでしょう。映像の魔王は、二千年前の王でございます」
「……分かっておる」
魔王は、重々しく頷いた。
「吾輩は、あの場におらぬ」
「……はい」
「……だが」
…………。
魔王の目が、少し細くなった。
「……気持ちは、よく分かる」
…………。
…………。
……あああ。
やっぱり!
魔王、イチゴショートケーキが大好きなんだよね!
しかも、その好みまで代々受け継がれてるんだっけ。
……いや。
好きなものを取られたら、そりゃ悲しいよね。
でも。
それで二千年も戦争しちゃうのは、やっぱり違うと思うんだ。
「……魔王」
私は、そっと声をかけた。
「……何だ、リアリス殿」
「……ちょっと、怒ってます?」
…………。
魔王は、しばらく黙っていた。
そして。
「……少しだけな」
…………。
…………。
……あっ。
認めちゃった!
グリンヒルダさんが、ゆっくりと両手で顔を覆った。
……うん。
この人、今、何を考えてるんだろう。
……いや。
だいたい、分かる気がする。
◇
「……皆さん」
その場の空気を変えたのは、カバディ王だった。
国王さんは、ゆっくり立ち上がった。
その顔には、さっきまでとは違う、はっきりした覚悟があった。
「……どうやら、我々はひとつ、大きな勘違いをしていたようだ」
誰も、口を挟まなかった。
国王さんは、魔王をまっすぐ見た。
「争いが始まった時代、人間の国はまだ一つだった。今の四か国は、そこから歴史を経て分かれた国々だ」
魔王が、静かに頷く。
「……そうであろうな」
「だから、我が国だけの問題として片づけるわけにはいかぬ」
国王さんは、皇帝へ視線を向けた。
皇帝も、ゆっくり立ち上がった。
キリアさんが続く。
そして、教皇さんも。
……おお。
四人とも、立った。
私は、何も言わずに見守った。
「ドルステン魔王」
国王さんが、低い声で言った。
「二千年前の人間の国王が行った、礼を欠く行為について」
皇帝が、言葉を継ぐ。
「我々は、現在の国々を治める者として、無関係だとは申せぬ」
キリアさんも、頭を下げる。
「当時の出来事を、今ここで確認いたしました」
教皇さんが、静かに続いた。
「その始まりに人間側の非があったことを、認めます」
そして。
四人は、同時に深く頭を下げた。
「「「「申し訳ありませんでした」」」」
…………。
……おお。
本当に、四人そろって謝った。
今まで、各国の代表が自分の立場を守るために、どれだけ慎重に話していたか。
私は、ずっと聞いていた。
だからこそ、この謝罪の重みが分かる気がした。
もちろん、今の四人がイチゴを食べたわけじゃない。
今の国民が、全員その責任を負うわけでもない。
でも。
自分たちの国につながる過去の過ちを、ちゃんと認めたんだ。
……うん。
それって、すごいことだと思う。
◇
魔王は、四人をじっと見ていた。
さっきまでの「イチゴ……」という顔ではない。
今度は、本当に国を治める王の顔だった。
「……顔を上げるがよい」
四人が、ゆっくり頭を上げる。
魔王は、低い声で続けた。
「今のそなたらが、あのイチゴを食べたわけではない」
…………。
……うん。
そのとおり。
「吾輩も、映像の魔王本人ではない。イチゴを奪われた怒りまで、国の民すべてに背負わせるつもりはない」
グリンヒルダさんも、静かに頷いた。
「……魔国にも、過去の争いの中で行き過ぎたことはあったはずです」
…………。
魔王が、まっすぐ人間側を見た。
「ただ、謝罪は受け取ろう」
……ああ。
よかった。
「……そして、こちらも認めねばなるまい」
…………。
「一粒のイチゴを奪われたからといって、二千年も戦う理由にはならぬ」
…………。
……おお。
ちゃんと言ってくれた。
私が、何より聞きたかった言葉だ。
魔王は、拳をゆっくり開いた。
「吾輩の民も、人間の民も、争いの始まりを知らぬまま戦ってきた。失ったものを軽く扱うつもりはない」
国王さんが、静かに頷く。
「……同感だ」
「しかし」
魔王が、卓を見渡した。
「これから先も、同じ理由で戦い続ける必要はない」
…………。
……ああ。
その言葉。
何だか、胸に響いた。
私は、少しだけ目を伏せた。
……うん。
きっと、ここからなんだね。
◇
「……リアリス殿」
グリンヒルダさんが、私へ声をかけた。
「はい?」
「今の映像は、本当に起きたことを、そのまま示したものなのだな」
「はい。途中で私が内容を変えたりはしていません」
「……承知した」
グリンヒルダさんは、少し考え込んだ。
「では、我々が抱えていた『最初の責任』については、少なくとも事実が明らかになった」
……うん。
そうだね。
あのイチゴ事件を見たあとだと、何とも言えないけど。
「しかし、二千年の間に起きた被害の問題が、消えたわけではない」
「……はい」
私は、ゆっくり頷いた。
……そこは、ちゃんと区別しないとね。
ガラントさんが、真剣な顔で口を開いた。
「過去の被害については、これからも資料の確認が必要でしょう。ですが、始まりの理由を知らずに争いを続けることは、もうできません」
モースさんも続く。
「正式な和平の条件は、ここから改めて整理する必要がありますね」
キリアさんが、眼鏡の位置を直した。
「……そうですな。少なくとも『昔から敵だったから』という説明だけでは、今後の戦争を正当化できません」
…………。
……うん。
みんな、少しずつ考えが変わってきた。
いや。
変わったというより。
確認すべき事実が、ひとつ明らかになったんだ。
それなら、これからの話も進みそうだね。
私は、魔王を見る。
「魔王。ここから、またちゃんと話し合えそうですか?」
魔王は、ゆっくり頷いた。
「……うむ。吾輩も、そう思う」
…………。
……よかったぁ。
◇
「……ただし」
ミキサーさんが、静かに声を上げた。
……おっ。
まだ何かあるのかな。
「今の真相を、そのまま各国へ公表するかどうかは、慎重に考える必要があります」
…………。
……ああ。
そうだね。
二千年もの争いの始まりが、イチゴ一粒だった。
それをいきなり国中へ知らせたら……。
…………。
……うん。
ちょっと、想像したくない。
「過去の戦いで家族を失った者たちに、どう説明するかという問題もある」
シルベスターさんが、低い声で言った。
「自分たちの苦しみの原因が、そんなものだったと聞かされたら……」
…………。
……ああ。
そうだよね。
笑えるのは、今ここにいる私たちだけかもしれない。
失った家族は、戻ってこない。
それを、軽い話として広めるのは違うと思う。
「……私は、秘密にした方がいいと思います」
私は、そう答えた。
カバディ王が、静かに頷いた。
「……同感だ」
教皇さんも、真剣な顔だった。
「人々が積み重ねてきた悲しみを、愚かな出来事の一言で片づけるべきではありません」
魔王が、ゆっくり目を閉じた。
「……吾輩も、そう考える」
グリンヒルダさんが、書類を広げる。
「では、今の映像で確認した具体的な発端は、この場にいる者だけの秘密とする」
…………。
全員が、頷いた。
もちろん、雪彦君もシルベスターさんも。
桜花も。
私も。
……うん。
ここは、ちゃんと約束しよう。
「外へ説明する場合は、どうしましょう」
私が聞くと、ガラントさんが答えた。
「少なくとも、『これ以上戦争を続ける正当な理由はない』と示すことはできるでしょう」
キリアさんも頷く。
「具体的な発端を公表しなくても、各国が過去の対立を再検討し、和平の必要性を認めたと説明できます」
……うん。
それなら、いいと思う。
過去を嘘で塗り替えるわけじゃない。
でも、必要以上に人を傷つける話を広めない。
……ああ。
そういう判断も、政治なんだね。
私は、少しだけ勉強になった気がした。
◇
こうして、真相についての話は、ひとまず整理された。
……いや。
整理された、って言っていいのかな。
何しろ、イチゴだもんね。
でも、さっきまでの重苦しい空気は、少しだけ和らいでいた。
カバディ王も、皇帝も、キリアさんも、教皇さんも。
まだ真剣な顔ではあるけれど、さっきほど険しくはない。
……うん。
よかった。
「リアリス殿」
魔王が、私へ声をかけた。
「はい?」
「今の魔法は……便利だな」
…………。
……おお。
魔王も興味を持ってくれたみたい。
「そうですね。過去のことを確かめたいときには、役立つと思います」
「……うむ」
魔王は、少しだけ考えた。
「もし、もっと早くその魔法があれば……」
…………。
……ああ。
それは、私も思った。
でも。
「……過去のことは、変えられませんからね」
私は、静かに答えた。
「それに、私がいなくても、これからは皆さんで話し合っていけると思います」
魔王が、少しだけ笑った。
「……うむ。そうであってほしいものだ」
…………。
……うん。
今なら、そんな未来も想像できるね。
◇
そのときだった。
こんこん。
会談室の扉が、静かに叩かれた。
……おっ。
誰か来たみたい。
桜花が、私へ小さく頷いた。
「リアリス様。巴様でございます」
「……ああ。どうぞ!」
扉が開き、巴さんが入ってきた。
その後ろには、一般メイドたち。
……おお。
何だろう。
みんなでお盆を持ってる。
「皆様、お疲れ様でございます」
巴さんが、丁寧に頭を下げた。
「お話が長くなっているようでしたので、少しお茶の時間はいかがかと思いまして」
…………。
……ああ。
ありがたい!
「巴さん、ありがとうございます!」
「ふふ。リアリスちゃんも、ずっと座りっぱなしだったでしょう?」
……うん。
そうなんだよね。
いくら話し合いが大事でも、ちょっと休憩は必要だ。
国王さんが、穏やかに頷いた。
「ありがたい。少し休ませてもらおう」
魔王も、重々しく頷いた。
「うむ。感謝する」
……よし。
それなら、みんなで休憩しよう。
メイドたちが、静かにお茶を置いていく。
そのあとに運ばれてきたのは。
…………。
……あれ?
白いクリーム。
ふわふわの生地。
赤い果物。
…………。
……あっ。
あああああっ!?
私は、思わず巴さんを見た。
巴さんは、何も知らない顔で微笑んでいる。
「今日は、イチゴのショートケーキを用意したの」
…………。
…………。
……なんてタイミング!
◇
会談室に、再び沈黙が落ちた。
…………。
でも。
今度の沈黙は、ちょっと違う。
国王さんが、ケーキを見ている。
皇帝も、見ている。
キリアさんも。
教皇さんも。
そして。
魔王が、じっとケーキを見つめていた。
…………。
……あっ。
これは、まずい。
すごく、まずい!
巴さんは、もちろん何も知らない。
「皆様のお口に合えばよいのですが」
…………。
魔王が、ゆっくり顔を上げた。
「……リアリス殿」
「……はい」
「……吾輩のケーキにも、イチゴは乗っておるな?」
…………。
…………。
……あああ。
そこ、確認する!?
「……はい。ちゃんと乗ってます」
「……うむ」
魔王が、深く頷いた。
……いや。
それで安心するんだね。
でも、考えてみれば当然か。
今さっき、二千年前の魔王がイチゴを取られる映像を見たばかりなんだから。
「……魔王」
皇帝が、低い声で言った。
「……何だ」
「……そのイチゴは、誰も取らん」
…………。
…………。
……ぶっ。
あっ。
危ない!
私は、笑いそうになった口を押さえた。
でも、魔王はいたって真面目だった。
「……そうであろうな」
…………。
……いやいや。
真面目に答えないで!
シルベスターさんが、肩を震わせている。
……あっ。
シルベスターさんも、笑いをこらえてる!
雪彦君は、両手で口元を押さえていた。
…………。
……うん。
みんな、限界が近いみたいだね。
◇
「……あの、皆様?」
巴さんが、不思議そうに首を傾げた。
「イチゴがお嫌いでしたら、別のお菓子もございますが……」
「い、いえ!」
私は、慌てて答えた。
「大丈夫です! みんな、イチゴが大好きなんです!」
…………。
……あっ。
魔王だけじゃなく、全員のことにしちゃった。
まあ、いいか。
「そう? それならよかったわ」
巴さんが、にっこり笑った。
「では、ごゆっくり」
そう言って、メイドたちと一緒に部屋を出ていく。
……うん。
巴さん。
今日も、いい仕事をしましたね。
……いや。
何も知らないからこその、最高のタイミングだったんだけど。
私は、卓の上のケーキを見た。
全員の皿に、ちゃんとイチゴが一粒ずつ乗っている。
……うん。
これなら、問題ないよね。
……たぶん。
魔王は、じっと自分のケーキを見ている。
そして。
フォークを手に取った。
…………。
……おお。
食べるんだ。
でも、まず食べたのはスポンジの部分。
次に、クリーム。
……うん。
イチゴは、最後に取っておく派なんだね。
その横で、グリンヒルダさんが小さく息を吐いた。
「……魔王様」
「……何だ」
「イチゴは、今度こそ誰も取りません」
…………。
…………。
……あっ。
宰相さんまで言っちゃった!
魔王が、ゆっくり頷く。
「……分かっておる」
…………。
……いや。
分かってるなら、そんなに守るように見なくても!
◇
ついに、皇帝が耐えきれなくなった。
「……くっ」
…………。
……あっ。
「……はっ、ははは!」
皇帝が、肩を揺らした。
「……す、すまん! いや、これは……!」
…………。
……おお。
笑っちゃった!
でも。
それを見た国王さんも、口元を押さえている。
キリアさんは、眼鏡を外して目を閉じた。
教皇さんは、何とも言えない顔で天井を見上げていた。
……ああ。
みんな、限界なんだね。
「……皇帝」
魔王が、低い声で言った。
「……何だ、魔王」
「……何が、そんなに面白い」
…………。
…………。
……いやいやいや!
聞いちゃう!?
「……お前、今……」
皇帝は、笑いをこらえながら答えた。
「……二千年の原因が、目の前にあるんだぞ……!」
…………。
…………。
……ああああ。
言っちゃった!
魔王は、しばらく自分のケーキを見た。
そして。
「……うむ。確かにな」
…………。
…………。
……あっ。
納得した!
その瞬間。
シルベスターさんが、とうとう声を上げた。
「……っ、ははは!」
……おお。
あのシルベスターさんが、笑ってる!
いつも胃を痛めてるのに!
雪彦君も、とうとう我慢できなくなった。
「……す、すみませんっ! はははっ!」
…………。
……ああ。
もう、駄目だね。
これは、止められない。
私も、笑ってしまった。
「……あはははっ!」
…………。
……だって。
二千年だよ?
二千年も、みんな真剣に争ってきたのに。
始まりは、イチゴ。
しかも、そのイチゴが、今みんなの前にあるんだもん。
……うん。
笑うしかないよね。
◇
魔王は、しばらく私たちを見ていた。
その顔は、相変わらず迫力がある。
でも。
少しずつ、口元が緩んでいった。
「……がっはっはっは!」
…………。
……おお!
魔王も、笑った!
「……まったく!」
魔王は、大きな声で続けた。
「吾輩たちは、何をしておったのだろうな!」
…………。
……ああ。
その言葉に、笑いながらも胸が温かくなった。
「……本当ですね」
カバディ王が、静かに笑った。
「二千年の争いの始まりが、こんな形で明らかになるとは」
皇帝も、まだ笑っている。
「……ははは! いや、参った!」
キリアさんは、眼鏡をかけ直した。
「……これほどの歴史的発見が、こんなに説明しづらいものだとは」
教皇さんが、小さく息を吐いた。
「……神の御業は、時に……いえ、これは人間の愚かさでしたな」
…………。
……あっ。
教皇さん。
今、神様のせいにしそうになった?
……いや。
今回は、完全に人間側の国王のせいだよね。
グリンヒルダさんは、とうとう小さく笑い始めた。
「……ふふ。まったく。二千年前の魔王様も、ずいぶん大切になさっていたのですな」
…………。
……おお。
三つ目の宰相さんまで笑った!
モースさんも、ガラントさんも、ミキサーさんも。
みんな、顔を見合わせて笑っている。
……ああ。
さっきまで、あんなに重苦しい会談だったのに。
今は、全員が同じ卓で笑ってる。
……何だか、不思議だね。
◇
笑いが少し落ち着いたころ。
魔王が、ふと真剣な顔になった。
……おっ。
何だろう。
「……リアリス殿」
「はい?」
「ひとつ、提案がある」
…………。
……おお。
まさか、ここで新しい外交条件?
「……何でしょうか」
魔王は、ゆっくり自分のケーキを見た。
そして、重々しく言った。
「……今後、他人のケーキのイチゴを勝手に食べることを、禁じてはどうだろうか」
…………。
…………。
…………。
……えええええ!?
私は、思わず口を開けた。
国王さんも、皇帝も、キリアさんも。
みんな、魔王を見ている。
…………。
……いや。
それ。
外交の取り決めにすること!?
「……魔王」
私は、恐る恐る聞いた。
「……それ、本気ですか?」
魔王は、少しだけ考えた。
そして。
「……半分ほどはな」
…………。
…………。
……あああ。
半分、本気なんだ!
次の瞬間。
皇帝が、また大きく笑い始めた。
「はっはっはっは!」
……あっ。
もう駄目だ。
国王さんも、口元を押さえきれない。
雪彦君は、机へ突っ伏しそうになっている。
シルベスターさんなんて、涙まで浮かべてる。
……いやぁ。
こういうシルベスターさん、初めて見たかもしれない。
魔王も、とうとう笑った。
「がっはっはっは! 冗談だ、冗談!」
…………。
……おお。
よかった。
……いや。
半分本気って言ってたけどね。
「……でも、気持ちは分かります」
私は、笑いながら答えた。
「自分の好きなものを勝手に取られたら、嫌ですもんね」
魔王が、満足そうに頷いた。
「うむ! そういうことだ!」
…………。
……ああ。
この人、本当にイチゴが好きなんだねぇ。
◇
私は、卓の上を見渡した。
人間の四か国の首脳。
魔王と宰相。
そして、オブザーバーの二人。
少し前までは、誰も笑っていなかった。
それぞれの国を背負って。
譲れないものを抱えて。
過去の責任を、どうするか真剣に話していた。
……うん。
その話が、なくなったわけじゃない。
これからも、正式な和平の条件を決めなきゃいけない。
過去の被害について、どう向き合うかも考えなきゃいけない。
……でも。
少なくとも、今ここにいる人たちは。
同じものを見て。
同じ真実を知って。
同じことで笑っている。
……ああ。
これって、すごいことじゃないかな。
「……魔王」
「何だ、リアリス殿」
「……次に会うときも、こんなふうに話せるといいですね」
魔王は、ゆっくり頷いた。
「……うむ。吾輩も、そう思う」
…………。
……ああ。
よかった。
私は、もう一度みんなを見た。
「それにしても……」
……うん。
どうしても、ひとつ言いたいことがある。
「……イチゴ一粒で二千年って、長すぎません?」
…………。
…………。
一瞬、静かになった。
そして。
「がっはっはっは!」
魔王が、大きく笑った。
皇帝も、国王さんも、キリアさんも、教皇さんも。
グリンヒルダさんも、シルベスターさんも、雪彦君も。
みんなが、声を上げて笑い始めた。
……あはは!
……うん。
やっぱり、こういう方がいいよね。
誰かが怒鳴る声じゃなくて。
武器がぶつかる音でもなくて。
同じ卓で、みんなが笑う声。
……ああ。
できれば、これからはずっと。
こんな時間が続いてほしいな。
――二千年の戦争の真実は、たった一粒のイチゴだった。




