第3話:ステラの英雄
……うん。
これなら、できると思う。
私は頭の中で、必要な魔法の形を組み立てていた。
目の前には、各国の王様たち。
みんな、私の返事を待っている。
……いやぁ。
全世界に向けて何かを伝えるなんて、なかなか壮大な話だよね。
でも、やりたいことは分かりやすい。
この謁見の間で話している姿を、遠く離れた場所でも見られるようにすればいいんだ。
声も一緒に届けて。
あとは、全員が同じものを見られるようにする。
……うん。
日本にいた頃の、テレビ中継みたいなものかな。
もちろん、この世界にテレビ局なんてないけどね。
「リアリス殿。何か、気になることがあるのか?」
カバディ王が声をかけてきた。
「あっ、いえ。ちょっと、どういう魔法にしようかなって考えてました」
「……もう、具体的に考えておるのか」
「はい!」
王様が、少し驚いた顔をした。
……あれ?
そういう話じゃなかったの?
「ええっと。今ある《映像通話》とは違って、皆さんの姿と声を一方的に届ける感じにしようと思ってます」
「一方的に、か」
「はい。見る側から話しかけられると、収拾がつかなくなりそうですし」
……だって。
世界中の人が同時に「こんにちはー!」って話しかけてきたら、大変なことになるよね。
王様たちの話が、誰にも聞こえなくなっちゃう。
……うん。
それは、困る。
「指定した場所に大きな画面を出して、ここで話している人を映します。音声も一緒に流しますけど、向こうからはこちらへ話しかけられないようにします」
「なるほど。確かに、それならば民も落ち着いて聞けるだろう」
「それから、画面を出していい場所は、各国で確認していただきたいんです」
勝手に王様の部屋とか、誰かの家の中とかに出たら大変だからね。
……いや。
そもそも、そんなことをする必要がない。
人が集まれる広場とか、通りの邪魔にならない場所で十分だ。
「その点は、すでに各国で承認してある」
王様が、あっさり答えた。
「……おお!」
準備がいいねぇ。
「首都だけでなく、街や町、村についても、それぞれの国で表示する場所を定めてある」
「それなら安心です!」
……ああ。
さすが王様たちだね。
ちゃんと考えてくれてる。
私は、周囲を見渡した。
どの国の代表者も、静かに頷いている。
……うん。
これなら問題なさそうだ。
「分かりました。ステラの全ての人が安心できるのであれば、なんでも協力します!」
そう言った瞬間。
なぜか、王様たちの表情が一斉に明るくなった。
「はっはっはっ! それでこそステラの英雄だ!」
ヴァリロッサ皇帝が豪快に笑った。
……あれ?
また英雄って言われた。
そういえば、さっき町でも何度か呼ばれたんだよね。
……まあ。
邪神を倒したから、そういう呼び方になったのかな。
今は、別に気にしなくてもいいか。
「では、皆さん。少しだけ準備させてくださいね」
私は、両手を軽く広げた。
◇
まず、想像するのは大きな画面。
王城の謁見の間で行われていることを、遠くにいる人も同じように見られる。
話す人が変われば、映る人も変わる。
声も、はっきり聞こえるように。
人が見上げやすい位置に浮かべて、通行や建物の邪魔にはならない。
そして、見るだけ。
こちらへ声を返すことはできない。
……うん。
必要なのは、これくらいかな。
あとは、場所を指定して。
各国が許可したところにだけ、表示する。
放送を終えたら、私が消せるようにしておこう。
……そうだ。
名前はどうしようかな。
テレビだと、何か違う気がする。
映像を見るための魔法なんだから……。
……うん。
《モニター》。
これでいいね!
その瞬間。
『《想像魔法》にて《モニター》が完成しました。』
聞き慣れた女性の声が、頭の中に響いた。
……おお。
できた!
私は、にっこり笑った。
「皆さん、新しい魔法ができました!」
「……もうできたのか!?」
王様が目を丸くした。
「はい。《モニター》っていう魔法です」
「もにたー……」
王様が、少し不思議そうに繰り返す。
……あっ。
日本語の名前にしちゃった。
でも、まあ。
今までもそんな感じだったし、問題ないよね。
「一度、ここで試してみますね」
私は、謁見の間の端に何もない場所を選んだ。
「《モニター》」
目の前の空間に、薄い光が広がった。
縦にも横にも伸びていき、やがて大きな長方形になる。
そこに映ったのは、謁見の間だった。
……おお。
ちゃんと映ってるね。
カバディ王が立っている。
その後ろには、各国の代表者たち。
少し離れた場所にいる桜花の銀色の髪まで、はっきり見える。
「おお……!」
「これは……」
周囲から、驚いた声が上がった。
……うん。
よさそうだね!
私は画面を見ながら、少しだけ向きを変えた。
すると、映っている範囲が変わった。
国王様を中心にした映像。
次は、ヴァリロッサ皇帝。
その隣には、ドルステン魔王。
……うん。
これなら、話す人に合わせて映せそうだ。
「王様、何か話してみてください」
「……ああ。こほん」
カバディ王が軽く咳払いをした。
「……聞こえるだろうか」
次の瞬間、画面の方からも同じ声が聞こえた。
「……おお!」
王様が、思わず自分の口元を押さえる。
……いや。
自分の声が聞こえてくるの、ちょっと不思議だよね。
分かる分かる。
「音声も問題なさそうですね!」
「うむ。見事なものだ」
王様が、満足そうに頷いた。
私は、画面をいったん消した。
「では、あとは各国が指定した場所に出すだけです。向こうの様子を見るための魔法ではないので、こちらから人々の顔を見ることはできませんけど」
「構わぬ。こちらの言葉が届けばよい」
「分かりました!」
……うん。
役に立てそうで、よかった。
ここまでできれば、あとは王様たちの出番だね。
私は、少し後ろへ下がろうとした。
「リアリス殿。できれば、そのまま近くで見守っていてほしい」
「……えっ?」
カバディ王が、穏やかに言った。
「初めて使う魔法であろう。何かあったとき、すぐに対応できるようにしておきたい」
「……ああ。そういうことですね!」
それなら、もちろんだ。
途中で画面が消えちゃったりしたら困るもんね。
「分かりました。ここにいます!」
「うむ。頼む」
私は、桜花の隣に立った。
……さて。
いよいよ始まるんだね。
◇
放送を始める前に、王様たちがそれぞれ位置を確かめた。
誰が先に話すのか。
次はどの国なのか。
立つ場所まで、きちんと決まっているらしい。
……おお。
さすが、全大陸の会議。
段取りがしっかりしてるね。
王城の人たちも、慣れた様子で準備を進めている。
「リアリス殿。準備はよろしいだろうか」
「はい! いつでも大丈夫ですよ!」
「では、お願いする」
……うん。
行こうか。
私は、各国から届けられた表示場所を思い浮かべた。
シルク王国。
ローズ帝国。
フォーサイド魔法国。
オリミス聖国。
エルフ国。
ドワーフ国。
ジーラット国。
ドルステン魔国。
それぞれの首都や街、町や村。
人が集まるために選ばれた場所の上へ、安全な高さで大きな画面を浮かべる。
映るのは、この謁見の間。
話す人の姿と、その声だけ。
……うん。
これでよし。
「《モニター》」
魔法が発動した。
視界の中に、たくさんの場所へ画面が展開された感覚が広がる。
でも、私がそれぞれの町を見ているわけじゃない。
画面を出したことが分かるだけだ。
……なるほど。
こんな感じなんだね。
「王様、準備できました!」
「うむ。ありがとう、リアリス殿」
カバディ王が、一歩前へ出た。
私は少し離れた場所で、映像に王様が映っていることを確かめる。
……うん。
よさそうだ。
王様が、ゆっくりと口を開いた。
「――ステラに暮らす、すべての民へ」
謁見の間に、落ち着いた声が響いた。
「突然の呼びかけに驚いておる者もいるであろう。だが、どうか落ち着いて聞いてほしい」
……ああ。
そうだよね。
突然、町の広場に大きな画面が現れたら、誰だって驚く。
……うん。
ちゃんと説明してもらわないとね。
「我々は本日、すべての国の代表者が集まり、ひとつの報告をすることにした」
王様の声は、よく通っていた。
「数か月前、我々の世界は、かつて経験したことのない大厄災に襲われた」
……。
私は、少しだけ姿勢を正した。
邪神イオデグランゾーラ。
あのときのことは、今でもはっきり覚えている。
北の海で見た、あの白い光。
次々と届いた、助けを求める声。
世界中で魔獣が暴れて、たくさんの人が逃げ惑っていた。
……うん。
思い出したくないことも、たくさんある。
「その災厄によって、町は壊され、多くの命が奪われた。家族と離れ離れになった者も、暮らしを失った者もいた」
カバディ王が、一度だけ言葉を切った。
「だが、いま我々は、こうして再びこの世界で生きている」
……ああ。
うん。
そうだね。
「失われた命は戻り、崩れた町も、荒れた土地も、再び人々の暮らす場所となった。あの災厄は、すでに終わっている」
私は、王様の背中を見つめていた。
……うん。
ちゃんと、終わったんだ。
「シルク王国では、今日も人々が働き、子供たちが学び、家族が食卓を囲んでいる。すべてが元どおりとはいかぬ心もあるであろう。だが、我々が守るべき日常は、ここに戻ってきた」
……。
ああ。
いい言葉だね。
私も、今日の朝はカトレアと庭を歩いた。
お花を見て。
モフ太と話して。
そのあと、いつものように仕事をした。
……うん。
そういうことだよね。
「民よ、安心してほしい。我々はこれからも、皆の暮らしを守るために力を尽くす」
カバディ王が、深く頷いた。
……おお。
王様、かっこいいねぇ。
私は、思わず小さく拍手しそうになった。
……いや。
まだ話の途中だった。
危ない危ない。
◇
次に進み出たのは、ヴァリロッサ皇帝だった。
私は、映像の中心を皇帝へ移す。
……うん。
ちゃんと映ってる。
「ローズ帝国の民よ! 皇帝ヴァリロッサである!」
……おお。
声が大きい。
画面から聞こえる声も、やっぱり大きい。
……まあ、そうだよね。
「我が帝国も、あの災厄で甚大な被害を受けた! だが、いま帝都にも各地の町にも、民の営みが戻っておる!」
皇帝は、大きく胸を張った。
「恐ろしい出来事であったことは否定せぬ! しかし、我々は生きている! 家族と再び顔を合わせ、明日へ進むことができるのだ!」
……うん。
皇帝らしいなぁ。
何というか。
声を聞いてるだけで、元気になりそう。
「これからも帝国は、民の暮らしを守る! 安心して、日々を生きるがよい!」
最後に、皇帝が大きく頷いた。
私は、心の中で拍手した。
……ああ。
これは、いいねぇ。
続いて、フォーサイド魔法国の代表者が前へ出た。
「魔法国の民へ。各地の魔法施設も、学び舎も、いまは再び日々の営みを取り戻しています」
落ち着いた声が、謁見の間に響く。
「魔法は、本来、人々の暮らしを豊かにするためのものです。あの災厄を忘れる必要はありません。けれど、恐れの中だけで生き続ける必要もありません」
……おお。
魔法国らしい話だね。
私は、画面がきちんと切り替わっていることを確認した。
……うん。
問題なし。
その次は、オリミス聖国。
パーシー教皇が、穏やかな表情で前へ出た。
「聖国の民よ。長く不安な日々を過ごした者も、少なくないでしょう」
教皇さんは、静かに続けた。
「いま、家族と再び手を取り合えること。隣にいる人と笑い合えること。そのひとつひとつを大切にしていただきたい」
……ああ。
うん。
いい話だなぁ。
「神殿も、民の暮らしを支えるため、これからも務めを果たしてまいります。どうか、安心して明日を迎えてください」
教皇さんが、深く頭を下げた。
……。
…………。
そういえば、神様。
今頃、何してるんだろう。
……いや。
考えるのはやめよう。
今は、せっかくいい雰囲気なんだから。
私は、何事もなかったように次の代表者へ映像を移した。
◇
エルフ国の代表として立ったのは、森王ライノーラさんだった。
「森に住まう民たちよ。あの災厄によって、傷ついた木々も、失われた命も、いまは戻っている」
……うん。
森も、ちゃんと元どおりになった。
私も、あの魔法を使ったあとで確認できたからね。
「我々が長く守り続けてきた森は、再び息づいている。これからも、森とともに暮らし、互いを思いやる日々を続けていこう」
静かな言葉だった。
でも、森王さんが話すと、何だか不思議と落ち着くんだよね。
……うん。
エルフ国らしいなぁ。
続いて、ドワーフ国。
ミゲイルさんが、丁寧に一礼した。
「ドワーフの皆様。壊れた工房や町も、いまは元の姿を取り戻しています」
……おお。
ミゲイルさん、相変わらず落ち着いてるね。
「ギーラとシーラが手を取り合ったあの日から、私たちは互いの力を合わせてきました。これからも、暮らしとものづくりの火を絶やさぬよう、ともに歩んでいきたいと思います」
……ああ。
いいねぇ。
あの二つの国が争っていた頃を思い出すと、何だか感慨深い。
今では、こうして同じ未来の話ができるんだもんね。
……うん。
平和って素晴らしい。
次に前へ出たのは、獣王ライオネスさんだった。
「ジーラットの民よ! 聞こえているか!」
……あっ。
また声が大きい。
皇帝とは違う方向で、すごくよく通る声だね。
「我が国も災厄を乗り越えた! 獣都も、各地の町も、いまは再び賑わいを取り戻している!」
ライオネスさんは、立派なたてがみを揺らした。
「我々は強い! だが、強さとは一人で何もかも抱え込むことではない! 家族を守り、仲間と支え合い、明日も笑って飯を食えることだ!」
……おお!
いいこと言うじゃない!
いや、ほんと。
あの巨大猫じゃらしで遊んでた獣王さんと同じ人とは思えないね。
……。
…………。
ごめんなさい。
今のは、考えちゃいけないことだった。
「民よ! 顔を上げよ! 我らの日常は戻ってきたのだ!」
ライオネスさんが力強く宣言する。
……うん。
ああ。
どの国の話も、いいなぁ。
私は、なんだか嬉しくなっていた。
これなら、きっと世界中の人たちも安心してくれるはずだ。
……よかった。
魔法を作って、本当によかったね。
◇
そして、最後に進み出たのはドルステン魔王だった。
……おっ。
魔王、最後なんだね。
まあ、順番は王様たちで決めたんだろうし、私が口を出すことじゃない。
私は、画面を魔王へ合わせた。
大きな翼。
堂々とした体格。
落ち着いた表情。
……ああ。
こうして見ると、やっぱり魔王って迫力があるなぁ。
普段、一緒にお茶を飲んでいると忘れそうになるけど。
「ドルステン魔国の民よ。我は魔王ドルステンである」
低い声が響いた。
「先の災厄によって、我が国もまた多くの苦難を味わった。だが、恐れることはない。失われた町も命も戻り、魔国の地には再び暮らしが根づいている」
……うん。
魔国でも、みんな元気にしてるといいな。
この前、ヴァルちゃんと一緒に行ったときは、いつもどおりだったけどね。
「かつて、我々はほかの種族と長く争ってきた。しかし、いまは違う。人間も、エルフも、ドワーフも、獣人も、そして魔族も、ともにこの世界で暮らしている」
……ああ。
そのとおりだね。
昔の争いも、今では終わっている。
……原因が、ケーキのイチゴだったことは。
……うん。
ここでは、考えないでおこう。
私は、そっと目を逸らした。
「この平和を守ることこそ、我々の務めである。民よ、安心して暮らしてほしい」
魔王は、ゆっくりと頭を下げた。
……おお。
きれいに締まったねぇ。
私は、ひとりで小さく頷いた。
……うん。
これで全国家の報告が終わった。
そろそろ画面を消してもいいのかな。
そう思ってカバディ王へ視線を向けると、王様が軽く首を振った。
……ん?
まだ何かあるの?
私は、魔法を維持したまま待つことにした。
◇
カバディ王が、再び前へ出た。
私は、映像を王様へ戻した。
「ステラに暮らす、すべての民よ」
王様の声が、もう一度響く。
「いま、各国の代表者から聞いたとおり、我々の国には再び平穏が戻った」
……うんうん。
いい締めくくりだね。
「だが、この平和を語るうえで、忘れてはならぬことがある」
……ん?
何だろう。
王様が、少し間を置いた。
「この世界を襲った大厄災を終わらせ、失われたものを取り戻してくれた者がいる」
……ああ。
……そっか。
それは、そうだね。
誰のことだろう。
……。
…………。
……いや。
待てよ?
もしかして。
「このステラを救ってくれた、ひとりの英雄がいるのだ!」
……あっ。
えっ。
英雄?
……。
…………。
なんか、嫌な予感がする。
私が、そっと桜花へ視線を向けた、そのときだった。
ぬっ。
背後に、大きな影が落ちた。
……えっ?
何?
何か、ものすごく大きなものが近づいてくる気配がするんだけど。
振り返ろうとした瞬間。
ひょいっ。
「……ええっ!?」
身体が、ふわっと浮いた。
……いや。
待って待って待って!
足が床から離れてる!
私は、思わず両腕を広げた。
視線が、どんどん高くなる。
……何!?
何が起きてるの!?
見下ろすと、筋肉だらけの大きな腕が、私の身体をしっかり支えていた。
……。
…………。
あっ。
この腕、見覚えがある。
いや。
腕だけで分かるって、どうなの?
私は、ぎこちなく横を向いた。
そこには。
額に一本角を生やした、大きな顔があった。
……ゴリアテさん!?
「ゴ、ゴリアテさん!?」
返事はない。
ゴリアテさんは、真剣な表情をしていた。
……いや、真剣すぎません?
何か、すごく大事な仕事をしている人の顔だよ?
でも。
何で私を抱えてるの!?
「ちょ、ちょっと! 私、歩けますよ!?」
ゴリアテさんは、何も言わない。
そのまま、ゆっくりと歩き出した。
……えっ。
待って。
どこへ連れていくの!?
私は、ちらりと周囲を見た。
王様たちは……。
……あれ?
誰も止めない。
ヴァリロッサ皇帝は、何だか楽しそうに笑っている。
ドルステン魔王は、重々しく頷いている。
ほかの代表者たちも、妙に落ち着いている。
……ええっ!?
ちょっと!
誰か助けて!?
……いや。
別に危ないわけじゃないんだけど。
ゴリアテさんは、私を抱えたまま、謁見の間の中央へ進んでいった。
そこは、ちょうど《モニター》に映る位置だった。
……。
…………。
……あ。
これ、もしかして。
非常にまずいことになってない?
私は、王様の顔を見た。
カバディ王が、にっこり微笑んでいる。
……。
…………。
王様!?
何で、そんなにいい笑顔なの!?
「皆の者、聞いてほしい!」
カバディ王が、力強く声を上げた。
……いや。
聞いてほしいのは、私の方なんだけど!?
「こたび、ステラの危機を救ってくれた――リアリス殿である!」
…………。
……。
……えっ?
私は、ぴたりと動きを止めた。
……リアリス殿?
……。
…………。
私?
……私のこと!?
映像には、カバディ王の隣でゴリアテさんに抱えられた私が、ばっちり映っている。
……ちょっ。
ちょっと待って!
今、これ。
世界中に流れてるんだよね!?
全国家の首都と、街と、町と、村に!
……。
…………。
ああああああっ!!
私は、とんでもないことに気づいてしまった。
そうだ。
そもそも、私が作った魔法だ!
映像を映す場所も、音声を届ける仕組みも、全部私が用意したんだった!
……なんで!?
なんで、私を映してるの!?
私は、必死にカバディ王へ視線を送った。
王様は、何事もなかったように続ける。
「この者こそ、先の大厄災を終わらせ、世界を元の姿へ戻してくれた英雄である!」
……あっ。
だめだ。
もう止まらない。
王城の外から、遠く歓声のようなものが聞こえてきた。
……えっ。
まさか。
町の人たちが、画面を見てるの?
……いや、見てるに決まってる!
そのための魔法なんだから!
私は、そっと桜花へ助けを求めるように目を向けた。
桜花は、静かに微笑んでいた。
……桜花ぁぁぁ!
何で、そんなに落ち着いてるのぉぉぉ!?
◇
「――リアリス殿!」
王様が、私へ顔を向けた。
……は、はい?
私は、ゴリアテさんに抱えられたまま、ぎこちなく頷いた。
「……はい?」
カバディ王が、少しだけ顔を近づけてきた。
「ほら、リアリス殿。何か一言」
……えっ。
何か、一言?
……いや。
ちょっと待ってよ。
そんなの、聞いてないんだけど!
「えっ、ちょっと……王様!?」
私は、小声で訴えた。
でも、王様は変わらず笑顔だ。
……あっ。
これ。
逃げ道がないやつだ。
私は、周囲を見回した。
ヴァリロッサ皇帝。
ドルステン魔王。
ライオネスさん。
ほかの王様や宰相さんたち。
……みんな、私を見てる。
しかも。
なぜか、誰も驚いていない。
……。
…………。
……あれ?
もしかして。
みんな、知ってた?
私は、もう一度ゴリアテさんを見た。
ゴリアテさんは、相変わらず無言だ。
私を支える腕は安定している。
……いや。
仕事が丁寧なのは、とてもありがたいんだけど。
いったい、何の仕事なの!?
……。
…………。
あっ。
もしかして、今日の会議って……。
そこまで考えて。
私は、ようやく気づいた。
……これ。
最初から、こうするつもりだったんじゃない!?
私は、天井を見上げた。
……ああ。
やられた。
完全に、やられた。
今さら《モニター》を消すわけにもいかない。
だって、世界中の人たちが見ているんだから。
……うん。
この状況で突然消したら、余計に大騒ぎになるよね。
私は、ゆっくり息を吸った。
……さて。
どうしよう。
何を話せばいいんだろう。
英雄らしい言葉?
……いや。
そんなもの、用意してないよ。
そもそも私、英雄になりたくて異世界へ来たわけじゃないんだから。
のんびり暮らしたかっただけなのに。
……うん。
そうだ。
それでいいじゃないか。
私は、少しだけ顔を上げた。
「……ええっと」
自分の声が、《モニター》を通じて各国へ届いている。
……うわぁ。
緊張するなぁ。
私は、思い切って話し始めた。
「皆さん、こんにちは。リアリスです」
……うん。
とりあえず、挨拶。
大事だよね。
「ええっと……いきなり紹介されたので、何を話せばいいのか分からないんですけど」
周囲から、小さな笑い声が漏れた。
……あれ?
何か、おかしいこと言ったかな。
いや、今のは本当のことだからね!?
「邪神との戦いは、もう終わりました。あの災厄を起こした邪神は、いまはステラにいません」
私は、ゆっくりと言葉を選んだ。
「壊れてしまった町や、亡くなった人たちも、元のように戻せたと思います」
……うん。
ただ。
ひとつだけ、伝えておきたいことがある。
「でも、怖い思いをしたことまで、簡単に忘れられるわけじゃないと思います」
……。
…………。
私は、少しだけカトレアのことを思い出した。
帰ってきたとき、あの子がどれだけ喜んでくれたか。
桜花が、どんな顔をしていたか。
巴さんが、どれだけ心配してくれたか。
……うん。
あのときの気持ちは、みんなそれぞれ違うんだろうね。
「だから、少しずつでいいと思うんです。今日も明日も、家族や友達と笑って過ごせるようになれば、それで十分じゃないかなって」
私は、少し笑った。
「私も、皆さんと同じです。毎日おいしいご飯を食べて、仕事をして、家族と過ごして……そんな日々が大好きです」
……ああ。
やっぱり、これだね。
「もう邪神はいません。これからも、皆さんと一緒に、のんびり暮らしていきたいです!」
私は、できるだけ明るく笑った。
「だから、よろしくお願いします!」
……。
…………。
言い終わった。
……よし。
これで、いいかな。
そう思った瞬間。
王城の外から、大きな歓声が聞こえてきた。
今度は、はっきりと。
大勢の人が、何かを叫んでいる。
……えっ。
ちょっと。
そんなに喜んでもらえるようなこと、言ったかな!?
私は、目を丸くした。
王様たちの表情も、なんだか嬉しそうだった。
……ああ。
もう。
どうして、こうなるんだろうねぇ。
◇
カバディ王が、私の隣へ進み出た。
……うん。
そろそろ、終わるのかな。
お願いしますよ、王様。
私、もう十分頑張ったからね!?
「すべての民よ!」
王様が、力強い声を響かせた。
「この英雄へ、心からの感謝を!」
……えっ。
まだ、その話が続くの!?
「そして、すべての国民が平和に暮らしていけることを、ここに集まったすべての王が望んでいる!」
カバディ王が、周囲の代表者たちへ視線を向ける。
王様たちも、一斉に頷いた。
「我々は、この平和を守り続けることを誓おう!」
……おお。
……うん。
それは、本当にいいことだね。
私も、そうあってほしいと思う。
……ただし。
私を映したままなのは、そろそろ何とかしてほしいんだけど。
私は、ゴリアテさんへ目を向けた。
「……ゴリアテさん」
小さく呼んでみる。
返事はない。
……あれ?
もしかして、まだ役目が終わってないの?
すると、カバディ王が、ゆっくりと頭を下げた。
それに合わせて、各国の代表者たちも頭を下げる。
……おお。
最後まで、きれいに揃ってる。
……いや。
待って。
私に向かって頭を下げてるわけじゃないよね?
……。
…………。
あっ。
考えるのはやめよう。
私は、慌てて映像を王様へ戻した。
そして、放送を終える合図を待つ。
カバディ王が、ゆっくり顔を上げた。
私へ向かって、小さく頷く。
……よし!
終わりだね!
「《モニター》、解除」
私は、魔法の効果を消した。
世界各地に出していた画面が、一斉に消えた感覚がある。
……うん。
これで、全部終わった。
私は、大きく息を吐いた。
「……はぁぁぁ」
……疲れた。
魔法を使うこと自体は、全然疲れなかったんだけど。
……うん。
精神的な方が、ね。
「ゴリアテさん。そろそろ下ろしてもらってもいいですか?」
私が言うと、ゴリアテさんは初めて大きく頷いた。
そして、そっと床へ下ろしてくれた。
……ああ。
地面だ。
足がつくって、こんなにありがたいことだったんだね。
……いや。
普段から《フライ》で飛んでるんだけど。
それとこれとは、話が違う。
私は、ゴリアテさんを見上げた。
「……あの。どうして私を抱えたんですか?」
ゴリアテさんは、何も言わなかった。
代わりに、まっすぐ姿勢を正した。
……おお。
ものすごく、やり遂げた顔をしてる。
……。
…………。
いや。
そんな顔をされても、困るんだけど!?
ヴァリロッサ皇帝が、我慢できなくなったように笑い出した。
「はっはっはっはっ! 見事だったぞ、ゴリアテ!」
……えっ。
今、見事って言った?
私は、皇帝へ顔を向けた。
「……皇帝?」
「ん? どうした、リアリス!」
「……もしかして、皆さんで何か相談してました?」
「はっはっはっ!」
……。
…………。
笑ってる。
答えてくれない。
……ああ。
これは、確定だね。
今朝の会議。
あれ、私に内緒でこういうことを決めてたんだ!
私は、がっくりと肩を落とした。
……ひどい。
みんな、ひどいよぉ。
私は、ただ平和のお知らせに協力したかっただけなのに。
……うん。
確かに。
なんでも協力しますって言ったけどさぁ!
◇
「リアリス殿」
カバディ王の声がした。
私は、顔を上げた。
「……はい」
王様は、先ほどまでの楽しそうな雰囲気とは違う、穏やかな表情をしていた。
「改めて、礼を言わせてほしい」
「……えっ。さっきもお礼はいただきましたよ?」
「それでも、だ」
カバディ王が、一歩前へ出る。
「我々は、そなたがいなければ、いまこうしてここに立つこともできなかったであろう」
……。
私は、何も言えなかった。
「そなたは、多くの命を救ってくれた。国も、町も、村も。人々が戻るべき場所まで、取り戻してくれた」
……ああ。
そうだったね。
私は、ただ。
もう一度、みんなで普通に暮らしたかっただけなんだけど。
「すべての国民を代表して、改めて礼を言う」
カバディ王が、深く頭を下げた。
「リアリス殿。ステラを守ってくれて、ありがとう」
……。
…………。
王様。
それは、ずるいよ。
そんなふうに言われたら。
何も言えなくなっちゃうじゃない。
周りを見ると、ほかの国の王様や宰相さんたちも、一斉に深く頭を下げていた。
ヴァリロッサ皇帝。
ドルステン魔王。
ライオネスさん。
ミゲイルさん。
森王さん。
教皇さん。
……みんな。
私は、慌てて両手を振った。
「えっ、いや、もう終わったことですから! 私はみんなが普通に暮らせれば、それで……」
……ああ。
なんて言えばいいんだろう。
こういうの、本当に苦手なんだよね。
みんなに頭を下げられると、落ち着かない。
……いや。
嬉しくないわけじゃないんだけど。
私は、桜花をちらりと見た。
すると。
桜花が、そっと私の近くへ寄ってきた。
「リアリス様」
「……うん?」
桜花は、私にだけ聞こえる声で囁いた。
「さすがに今回は、ちゃんと受け入れた方がよろしいかと」
……。
…………。
……ああ。
そっか。
そうだね。
王様たちだって、きっと本気で言ってくれている。
私がここで何度も遠慮したら、かえって失礼になっちゃうのかもしれない。
……うん。
桜花の言うとおりだ。
私は、ゆっくり息を吸った。
それから、みんなへ向かって頭を下げた。
「……はい!」
顔を上げる。
「皆さんが助かって、本当によかったです!」
……うん。
これが、私の気持ちだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
「これからも、皆さんが平和に暮らせることを願ってます!」
カバディ王が、にっこり笑った。
「うむ。ありがとう、リアリス殿」
ほかの王様たちも、ようやく顔を上げた。
……ああ。
よかった。
こうしてみんなが笑ってくれているなら、私も嬉しい。
……でも。
私は、もう一度周囲を見渡した。
……あのさ。
ここにいる全員が、今日の計画を知ってたんだよね?
私は、ヴァリロッサ皇帝を見た。
皇帝は、実に満足そうな顔をしている。
ドルステン魔王を見る。
魔王も、重々しく頷いている。
ゴリアテさんを見る。
……おお。
まだ、ものすごく真面目な顔だ。
……。
…………。
ああ。
これは。
完全に、してやられたなぁ。
私は、天井を見上げた。
……うん。
平和でのんびりした生活。
今日も、そのために頑張ったつもりだった。
まさか、世界中に顔と名前を知られることになるなんて。
……いや。
誰が想像できるの、こんなの。
……。
…………。
……あっ。
私、自分で《想像魔法》を作って協力したんだった。
……うん。
何だろう。
全部、自分でやってしまった気がする。
私は、深いため息をついた。
そして、隣の桜花を見た。
「……桜花」
「はい、リアリス様」
「……私、これからも普通に暮らせるかな?」
桜花は、少しだけ首を傾げた。
それから、いつものように微笑んだ。
「リアリス様がお望みになる暮らしを、これからもお続けになればよろしいかと存じます」
……ああ。
……うん。
そうだよね。
きっと、何も変わらない。
朝起きて。
家族とご飯を食べて。
雑貨屋とサロンの仕事をして。
ときどき冒険者ギルドへ顔を出して。
……うん。
それでいい。
私は、気を取り直して頷いた。
「よし。じゃあ、明日からまたいつもどおりだね!」
「はい」
桜花が微笑む。
……ああ。
よかった。
世界に何を言われようと、私の毎日は私のものだ。
……うん。
そう思うことにしよう。
……。
…………。
……本当に、明日もいつもどおりでいられるよね?
◇
――プチ番外編:ギルドマスターの観戦。
同じ頃。
シルク王都の冒険者ギルド前は、大勢の人で賑わっていた。
少し前、町の広場に突然大きな画面が現れたのだ。
そこに映っていたのは、シルク王国のカバディ国王。
しかも、ほかの国の王や代表者たちまで次々と姿を見せ、世界を襲った大厄災が終わったことを宣言している。
冒険者たちも受付の仕事をしていた人々も、気になって表へ出てきていた。
その人混みの中に、シルベスターとリリーナの姿もあった。
「……まったく。あいつ、今度は何を作ったんだ?」
シルベスターが、空に浮かぶ画面を見上げて呟く。
「ギルドマスター。あれ、リアリスさんの魔法なんですか?」
「たぶんな。さっき陛下に呼ばれて出ていったばかりだろうが」
「……確かに、そうですね」
リリーナも画面を見上げた。
魔法国、聖国、エルフ国。
次々と代表者が語る言葉に、集まった人々は真剣に耳を傾けている。
やがて魔王ドルステンの演説が終わると、再びカバディ王が映し出された。
『このステラを救ってくれた、ひとりの英雄がいるのだ!』
「……おっ」
シルベスターの口元が、わずかに緩んだ。
「ギルドマスター?」
「いや。ちょっと面白くなりそうだと思ってな」
そのときだった。
画面の端から、巨大な魔族の男が現れた。
そして、その大きな腕が誰かをひょいっと持ち上げる。
『……ええっ!?』
聞き覚えのある声が響いた。
画面の中央へ運ばれてきたのは、赤い髪の青年。
数刻前まで、ギルドの応接室で紅茶を飲んでいた男だった。
……リアリスである。
「…………」
「…………」
シルベスターとリリーナが、そろって口を開けた。
リアリスは大きな魔族の腕にしっかり抱えられ、足を宙に浮かせている。
何かを訴えているようだが、抱えている魔族は無言のまま。
しかも、周りの王たちは誰一人止めようとしない。
「……ぶっ」
シルベスターの肩が震えた。
「……くっ、くくっ」
「ギルドマスター?」
「……はっはっはっはっは!!」
突然の大笑いに、近くの冒険者たちが振り返った。
「おい、見ろリリーナ! あいつ、抱えられてるぞ!」
「……ええ。見れば分かりますけど……どうしてでしょう?」
「決まってるだろ! 陛下が逃がさねえようにしてるんだよ!」
「……あっ」
リリーナは、もう一度画面を見た。
カバディ王は堂々と英雄を紹介している。
その隣では、大きな魔族の男が実に真面目な顔でリアリスを抱えていた。
……確かに。
周りの王たちが、あまりにも落ち着いている。
「最初から、こうするおつもりだったんでしょうか……?」
「だろうな! でなきゃ、あんな大男が抱え上げたときに誰か止めるはずだ!」
シルベスターは、ますます楽しそうに笑った。
「はっはっは! 陛下も考えたなぁ!」
「でも……リアリスさんなら、《転移》ですぐに逃げられるのでは?」
「そこが面白いんだよ!」
シルベスターは、目尻の涙を指で拭った。
「あいつはな、世界中の人間が見てる前で、突然逃げ出すような奴じゃねえんだ」
「……そうですね」
「しかも、自分が作った魔法で映されてるときた! 逃げたら何が起こるか、本人が一番分かってるだろうよ!」
リリーナも、ついに口元を押さえた。
「……ふふっ。確かに、リアリスさんらしいですね」
その横では、冒険者の一人が首を傾げていた。
「……なあ。あの方が世界を救った英雄様なんだよな?」
「ああ。国王陛下が、そう言ってるな」
「……なんで、抱っこされてるんだ?」
「……さあ?」
別の冒険者が、真顔で答えた。
「でも、ずいぶん丁寧に抱えられてるな」
その言葉が聞こえた瞬間。
「ぶはっ!!」
シルベスターが、また吹き出した。
「はっはっはっは! そうだな! 丁寧だ! ものすごく丁寧に抱えられてる!」
「ギ、ギルドマスター! 声が大きいです!」
リリーナが慌てて止める。
だが、シルベスターはしばらく笑いを収められなかった。
やがて、画面の中のリアリスが口を開いた。
『皆さん、こんにちは。リアリスです』
少し困ったような顔のまま、リアリスは話し始める。
もう邪神はいないこと。
怖い思いをした人も、少しずつ日常へ戻っていければいいということ。
家族や友人と笑って過ごせる毎日が好きだということ。
そして。
『もう邪神はいません。これからも、皆さんと一緒に、のんびり暮らしていきたいです!』
その言葉を聞いて、シルベスターの笑い声が少しだけ小さくなった。
「……ったく。あいつらしいことを言いやがる」
ほんの少し前。
応接室で、リアリスは邪神との戦いの話をしていた。
世界を元に戻すほどの魔法を使い、自分自身は長い間、目を覚まさなかった。
それでも、再会したときには、いつものように笑っていた。
……そして今。
世界中へ向かって話していることも、結局は同じなのだ。
「……本当に、あいつは変わらねえな」
シルベスターが、ぽつりと呟いた。
リリーナも微笑んだ。
「はい。……皆さんが、あんなに喜んでいますね」
周囲では、人々が拍手していた。
子供たちも画面へ向かって手を振っている。
遠くの通りからは、英雄を讃える歓声が聞こえてきた。
シルベスターは、腕を組んで画面を見上げる。
「……まあ、これだけのことをしたんだ。少しくらい胸を張ればいいさ」
「そうですね」
しばらくして、王たちの宣言が終わり、空の画面がふっと消えた。
周囲の人々は、まだ興奮した様子で話し続けている。
シルベスターも、満足そうに頷いた。
「さて。ギルドへ戻るか」
「はい、ギルドマスター」
二人は並んで建物へ向かった。
その途中で。
「……くくっ」
「……ギルドマスター?」
「いや、悪い。どうしても、あの顔を思い出しちまってな」
リリーナは、少し呆れたように笑った。
「……もう。リアリスさんに怒られますよ?」
「はっはっは! だったら、次に来たとき本人に聞いてやるさ!」
「……何をですか?」
シルベスターは、実に楽しそうな顔をした。
「『英雄様、抱っこされてたときの気分はどうだった?』ってな!」
「……ふふっ!」
ギルドの扉が閉まるまで、シルベスターの笑い声は止まらなかった。




