第1話:押し付けられた兄弟
……平和だなぁ。
私は王国邸の庭で、のんびりと紅茶を飲んでいた。
目の前には、色とりどりの花が咲く花壇。
少し離れた場所では、カトレアが花の記録帳を開いている。
「お父さん! この前覚えたお花、今日も元気だよ!」
「おっ。本当だね!」
……ああ。
いいねぇ。
花の名前が知りたいと言われて《鑑定》を作ったのは、ついこの前のこと。
それからしばらくは、私も面白がって何でも調べていた。
……いやぁ。
ちょっと使いすぎたかもしれない。
今では、気になったときに使うくらいで落ち着いている。
別に、何でも魔法で調べなくてもいいからね。
こうやって眺めるだけでも、花は十分綺麗だ。
「リアリス様。お茶のおかわりはいかがでしょうか」
隣に控えていた桜花が、ティーポットを持ち上げた。
「ありがとう、桜花。もう少しもらおうかな」
「かしこまりました」
……うん。
このまま何も起きず、お昼までのんびり。
午後はカトレアと庭を散歩して。
夕食は巴さんの料理を食べる。
完璧じゃない?
私は、心の中で大きく頷いた。
……そう。
こういう暮らしがしたかったんだよ!
ところが。
「リアリス様」
屋敷の方から、セバスが歩いてきた。
「ん? どうしたの、セバス」
「お客様がお見えでございます」
……おっ。
こんな時間に誰だろう。
「どなた?」
「シルク王国のクオシン殿下でございます」
…………。
……えっ。
クオシンさん?
…………。
……これは、ちょっと珍しいお客様だね。
クオシン・シルク。
シルク王国の第一王子で、カバディ王の長男。
そして、私とは少々……いや、かなり口喧嘩になりやすい人だ。
会うたびに「お前」だの「ふざけるな」だの言われるんだよね。
……まあ、私もあまり気にしてないけど。
ただし。
あの人が根っから悪い人ではないことも知っている。
帝国の奴隷売買事件では、私と一緒に動いてくれた。
弱い立場の人が理不尽な目に遭うことを、本気で嫌っているんだ。
……うん。
口は悪いけどね。
「クオシンさんが? すぐに案内してもらっていいよ」
「かしこまりました。ただ……」
「……ん?」
セバスが、少しだけ首を傾げた。
「殿下は、お子様をお二人、お連れでございます」
…………。
……お子様?
クオシンさんが?
……あれ。
何の用だろう。
「ご一緒に応接室へご案内してもよろしいでしょうか」
「もちろん! 子供たちも一緒で大丈夫だよ」
「承知いたしました」
セバスが一礼して戻っていく。
私は桜花と顔を見合わせた。
「子供二人だって」
「はい。何かご事情がおありなのかもしれませんね」
……うん。
そうだね。
でも、クオシンさんが子供を連れてわざわざ私のところへ来るなんて。
……おお。
これは少し気になるなぁ。
「お父さん、お客さん?」
カトレアが記録帳を閉じて近づいてきた。
「うん。クオシンさんが来たんだって」
「クオシンさん?」
「前にも会ったことがある、お兄ちゃんだよ」
「あっ! 分かった!」
カトレアが、ぱっと笑顔になった。
……ふふ。
今日は何だか、賑やかになりそうだね。
◇
応接室へ入ると、ソファの前にクオシンさんが立っていた。
いつものように、王族らしい上質な服を着ている。
腕を組み、眉間にしわを寄せた顔は……。
……うん。
いつもどおり。
その後ろに、小さな影が二つ。
…………。
……あっ。
本当に子供がいる!
一人は薄緑色の髪をした男の子。
もう一人は茶色い髪の、小柄な男の子だ。
二人とも髪は伸びていて、少しぼさぼさ。
服もかなりくたびれている。
けれど、手を繋いで仲良く立っていた。
……ん?
よく見ると、耳の先が少し尖っているね。
もしかして、エルフの血が入ってるのかな。
「こんにちは、クオシンさん!」
「……おせえ」
…………。
……あっ。
第一声がそれ!?
「ええっ。すぐ来たと思うけど」
「俺を待たせるな」
……うん。
いつものクオシンさんだ!
ある意味、安心するね。
「それで、今日はどうしたの?」
「見りゃ分かるだろ」
「……えっと」
私は男の子たちを見た。
男の子たちは、少し不安そうにこちらを見上げている。
…………。
……うん。
見ただけじゃ分からないなぁ。
「子供が二人いるのは分かるよ」
「それが分かりゃ十分だ」
「いやいや、何も分かってないよ!?」
……おお。
今日はずいぶん勢いよく話が進むなぁ。
クオシンさんは、面倒そうに舌打ちした。
「……ったく。話が早え奴だと思ってたが、こういうときだけ鈍いな」
…………。
……えっ。
私が悪いの?
桜花が、横で小さく笑っている。
……ああ。
今日も平和……なのかな?
「まず、座ろうか」
私がそう言うと、クオシンさんは眉を寄せた。
「俺は長居するつもりはねえ」
「分かった。じゃあ、ちょっとだけね」
……うん。
いつもこう言うんだよね。
でも、必要な話があると、ちゃんと付き合ってくれる。
私は二人の男の子へ目を向けた。
「こんにちは。私はリアリスです。名前を教えてもらってもいいかな?」
薄緑色の髪の男の子が、少しだけ背筋を伸ばした。
「……ダリル、です」
「ダリル君だね。こんにちは!」
すると、隣の小さな男の子が、お兄ちゃんの服をぎゅっと掴んだ。
「……セリム」
「セリム君か。よろしくね!」
……おお。
可愛いなぁ。
二人とも、ちょっと緊張してるみたいだけど。
そりゃそうだよね。
知らない大人の家に連れてこられたんだもん。
「ダリル君とセリム君、兄弟なの?」
「……はい。僕が兄です」
「そうなんだ。歳はいくつ?」
「僕が十二歳で、セリムが八歳です」
……うん。
お兄ちゃん、しっかりしてるね。
私が頷いていると、クオシンさんが横から口を挟んだ。
「俺が聞いてある。こいつらは兄弟で間違いねえ」
「そうなんだ」
「それから、二人ともハーフエルフだ」
……おっ。
やっぱり!
耳の形で少し気になってたんだよね。
「そうだったんだね」
私は二人へ笑いかけた。
「ここには色んな国の人が遊びに来るから、気楽にしてね」
ダリル君は少し驚いた顔をした。
セリム君は、まだダリル君の後ろから顔を出すだけだ。
……まあ、ゆっくりでいいよね。
「で、だ」
クオシンさんが、腕を組み直した。
「こいつらを、ここに置いていく」
…………。
……ん?
「……置いていく?」
「ああ」
「……ここに?」
「そうだ」
…………。
……おお。
ずいぶん思い切った話だね!
「えっと、どういう事情なの?」
「……長くなる」
「じゃあ、お茶を飲みながら聞こう!」
「お前、人の話を聞いてたか!?」
「うん。長くなるんでしょ?」
…………。
クオシンさんが、何とも言えない顔になった。
……ふふ。
これ、絶対にもう少し時間がかかるね。
「桜花、巴さんにお茶と、何か軽く食べられるものをお願いしてもらえる?」
「かしこまりました」
私は二人の兄弟へ尋ねた。
「ダリル君、セリム君。お腹、空いてない?」
ダリル君は、すぐには答えなかった。
ちらりとクオシンさんを見る。
セリム君のお腹が、小さく鳴った。
…………。
……あっ。
これは、分かりやすいね。
「……食わせてやれ」
クオシンさんが、ぶっきらぼうに言った。
「こいつら、さっきから食べなくていいって言い張ってやがる」
……ああ。
遠慮してたんだ。
「そっか。じゃあ、軽いものから食べようか」
私が笑うと、セリム君が小さく頷いた。
……うん。
まずは、ご飯だね!
クオシンさんも、ほんの少しだけ肩の力を抜いたように見えた。
……おっ。
子供たちのこと、ちゃんと気にしてるんだなぁ。
お茶が運ばれてくるまでの間に、クオシンさんが事情を話し始めた。
「今日、王都の外にある村を視察してきた」
「へえ。クオシンさん、村の視察もするんだね」
「……王族だからな。何か文句でもあんのか」
「ないない! ちゃんとお仕事してるんだなって」
「……お前、喧嘩売ってんのか?」
…………。
……あっ。
褒めたつもりだったのに!
私は笑って首を振った。
「それで?」
「……そこで、こいつらを見つけた」
クオシンさんが、兄弟へ目を向ける。
「村の端に、二人だけで住んでやがった」
…………。
……二人だけ?
私は、ダリル君を見た。
「お父さんとお母さんは?」
すると、ダリル君の表情が曇った。
「……いません」
……あっ。
そういうことか。
私は、言葉を急がず待った。
ダリル君は、セリム君の手を握り直してから答えた。
「父さんは……病気で、亡くなりました」
「……そうだったんだね」
「母さんも、病気になって……」
そこで、声が小さくなる。
セリム君が、ダリル君の腕に顔を押しつけた。
「……母さんも、もう、いません」
…………。
……ああ。
二人とも、まだ小さいのに。
私は静かに頷いた。
「話してくれてありがとう、ダリル君」
そう言うと、ダリル君は少しだけ顔を上げた。
「……はい」
……うん。
今は、それで十分だね。
「父親はエルフ、母親は人間だ」
クオシンさんが言葉を引き継いだ。
「両親が亡くなってから、兄弟だけで暮らしてたらしい」
「村の人は、知ってたの?」
「知ってた。食い物を分けたり、時々様子を見たりしてたそうだ。だが、それだけでどうにかなる話じゃねえ」
……なるほど。
村の人にも生活がある。
善意で助けてくれる人がいても、それで毎日安心して暮らせるとは限らない。
私は二人の細い腕に目を向けた。
……うん。
ずいぶん痩せてる。
ちゃんと食べられていなかったのかもしれない。
「それで、クオシンさんが二人を保護したんだね」
「……ふん」
クオシンさんが、鼻を鳴らした。
「村の様子を見てたら、たまたま目についただけだ」
……たまたま。
その割には、ずいぶん詳しく調べてるね。
「村の人たちとは話したの?」
「当たり前だ。勝手に連れ出せるわけねえだろ」
「……おお。確かに」
「家族のことも、今までどうやって暮らしてたかも聞いた。村側にも事情を確認した」
……なるほど。
きちんと確認してから連れてきたんだ。
……ん?
ということは。
「ダリル君たちにも、ここへ来るか聞いた?」
「……は?」
「本人たちの気持ち、大事だからね」
クオシンさんが、ものすごく不機嫌そうな顔になった。
「聞いたに決まってんだろうが!」
…………。
……おお。
怒られた!
「俺を何だと思ってやがる。人を荷物みてえに運ぶような真似、するわけねえだろ!」
…………。
……あっ。
そうだよね。
あの奴隷売買事件で、誰より怒っていた人の一人だもんね。
「ごめんごめん。そこは確認しておきたかったんだ」
「……ふん」
……でも。
ちゃんと、本人たちに聞いてくれてたんだ。
……うん。
やっぱり、クオシンさんだね。
「それで、ダリル君」
私は兄弟の方を向いた。
「クオシンさんと一緒に来ることは、二人で決めたの?」
ダリル君が頷く。
「……はい」
「そっか」
「殿下が……ここなら、弟と一緒にいられるかもしれないって」
……おっ。
そう言われたんだ。
私はクオシンさんを見た。
「……何だ」
「いや、ちゃんと説明してくれてるんだね」
「当たり前だろ」
……うん。
当たり前、かぁ。
その当たり前をちゃんとしてくれるのが嬉しいんだよね。
「ほかにも言ってた?」
私が尋ねると、ダリル君は少し考えた。
「……僕が、セリムのことを守らないといけないって言ったら……」
「うん?」
「……殿下が、お兄ちゃんだからって全部一人でやるなって」
…………。
……おお。
それ、いい言葉だね。
私は思わず微笑んだ。
すると。
「……余計なこと言うな」
クオシンさんが、低い声で呟いた。
……あっ。
照れてる?
ダリル君は、びくっと肩を震わせた。
クオシンさんが、すぐに付け加える。
「……お前に怒ってるわけじゃねえ。こっちの馬鹿に言ってんだ」
…………。
……えっ。
私!?
「まだ何も言ってないよ!」
「顔に出てんだよ!」
……おお。
なんで分かるんだろう。
私は、肩をすくめて笑った。
……でも。
子供が怯えたら、すぐに言い直したね。
やっぱり、よく見てるんだなぁ。
セリム君が、そっと顔を上げた。
「……あの」
「ん? どうしたの、セリム君?」
小さな声で尋ねると、セリム君はクオシンさんの服を見つめた。
「……でんか」
「……何だ」
「……ぼく、ここにいてもいいの?」
…………。
部屋が、少し静かになった。
クオシンさんは、一度私を睨んだ。
……あっ。
これは。
答えろ、ってことかな。
私は、笑顔で頷いた。
「もちろんだよ。ダリル君もセリム君も、ここにいていいよ」
「……ほんと?」
「うん。まずはゆっくり休もう」
……おお。
セリム君の目が、少し丸くなった。
ダリル君も、驚いたようにこちらを見る。
「……でも、僕たち、お金が……」
「大丈夫。お金の心配はしなくていいよ」
「……働けば、置いてもらえますか?」
…………。
……えっ。
私は思わず首を横に振った。
「ううん。働かなくていいよ。二人とも、まだ子供なんだから」
「……でも」
「今までいっぱい頑張ったんだよね。これからは、ちゃんと食べて、寝て、元気になろう」
ダリル君は、少しだけ唇を噛んだ。
……ああ。
何でも自分で何とかしなきゃって思ってるのかな。
私は、できるだけ明るく言った。
「ここにはカトレアっていう女の子もいるんだ。よかったら一緒に遊んであげてね」
すると、セリム君が顔を上げた。
「……あそんでも、いいの?」
「もちろん!」
……うん。
遊ぶのも大事だよね!
そのとき、クオシンさんが小さく鼻を鳴らした。
「……話が早いじゃねえか」
……おっ。
褒められた?
「そうかな?」
「……調子に乗るな」
…………。
……あっ。
やっぱり、いつものクオシンさんだ!
ちょうどそこへ、巴さんが入ってきた。
「リアリスちゃん、お待たせ。お客様に軽いお食事を用意したわよ」
「ありがとう、巴さん!」
巴さんの後ろから、メイドたちが皿を運んでくる。
温かいスープ。
柔らかく焼いたパン。
それから、少しだけ果物。
……おお。
美味しそう!
私は二人の兄弟に声をかけた。
「じゃあ、先に食べようか。お話の続きはそれからね」
ダリル君は、皿を見つめたまま動かなかった。
セリム君も同じだ。
……あれ?
遠慮してるのかな。
すると、クオシンさんが椅子を引いた。
「座れ」
ダリル君が、びくっとした。
クオシンさんは、それに気づくと、少しだけ声を落とした。
「……腹が減ってんだろ。食え」
「……はい」
「弟にも食わせてやれ」
「……はい」
ダリル君は、セリム君を隣の椅子へ座らせた。
セリム君はスープをじっと見つめている。
……うん。
じゃあ、私も食べようかな。
「いただきます!」
私は、ひと口スープを飲んだ。
……ああ。
優しい味!
「うん。美味しいよ。二人もどうぞ!」
ダリル君が、そっとスプーンを持つ。
セリム君も、少し遅れてスープを口に運んだ。
…………。
……あっ。
二人の顔が変わった。
「……おいしい」
セリム君が、小さく呟いた。
「……うん」
ダリル君も頷く。
……ああ。
よかった!
巴さんが、にこにこ笑った。
「おかわりもあるから、ゆっくり食べてね」
……うん。
まずは、お腹いっぱいになってもらおう!
「……うめえな」
ふいに、低い声がした。
……ん?
クオシンさんだ。
いつの間にか、スープを飲んでいる。
…………。
……おお。
普通に食べてる!
「クオシンさんも食べてくれたんだね!」
「……何だよ。悪いか」
「ううん。嬉しいよ」
「……ふん。客に食わせるなら、味くらい確かめてやろうと思っただけだ」
…………。
……おお。
そうきたか!
「どうだった?」
「……悪くねえ」
「そっか。巴さん、褒めてくれてるよ!」
「ふふ。ありがとうございます、クオシン殿下」
巴さんが微笑む。
クオシンさんが、少しだけ顔を背けた。
「……別に褒めてねえ」
……あっ。
言い直した!
私は思わず笑ってしまった。
「じゃあ、おかわりはいらない?」
「……あるなら、もらってやる」
…………。
……おかわりするんだ!?
巴さんは、何事もなかったように新しい皿を用意してくれた。
……さすがだね。
その横で。
「……でんか」
セリム君が、小さく声をかけた。
「何だ」
「……これ、おいしいね」
「……ああ」
クオシンさんが頷く。
「……ちゃんと食え。残さなくていいように、ゆっくりな」
…………。
……あっ。
言い方はぶっきらぼうなのに、優しい。
セリム君は、小さく笑った。
クオシンさんも、その顔を一瞬だけ見つめて。
……すぐに目を逸らした。
…………。
……ふふ。
これは、なかなか面白いものを見たね!
食事が進むにつれて、二人の表情も少しずつ柔らかくなってきた。
ダリル君は、まだ背筋を伸ばしたままだけど。
セリム君は、スープのおかわりを一杯いただいた。
……ああ。
よかった、よかった。
「ところで、クオシンさん」
「あ?」
「どうして二人を私のところへ連れてきたの?」
すると、クオシンさんが眉を寄せた。
「……何だ。気に入らねえのか」
「えっ。全然!」
私は、すぐに首を振った。
「むしろ、頼ってくれたのが嬉しいよ!」
…………。
…………。
クオシンさんが、変な顔になった。
……あれ?
「……は?」
「だって、クオシンさんが私なら大丈夫って思ってくれたから、ここへ連れてきたんでしょ?」
「……誰がそんなこと言った」
「えっ。違うの?」
「……ちげえよ」
…………。
……おお。
否定が早い!
クオシンさんは、腕を組み直した。
「たまたま、この屋敷なら部屋が余ってると思っただけだ。お前は暇そうにしてるしな」
…………。
……あっ。
最後のひと言は余計じゃない!?
「暇じゃないよ。いろいろやってるよ!」
「だったら、この二人の面倒を見る余裕もねえんじゃねえのか?」
「あるよ!」
「……なら、それでいい」
…………。
……ん?
……これ、もしかして。
最初から私が断らないと思って来たんじゃない?
私は、クオシンさんを見つめた。
「……何だよ、その顔」
「……ううん。何でも!」
……ふふ。
何となく、分かってきた。
言い方は乱暴だけど。
子供たちが安心できる場所を探して、ここまで連れてきてくれた。
そういうことなんだね。
「王城へ連れていこうかとも考えた」
クオシンさんが、ぽつりと言った。
「でも、あそこは子供を預かるための場所じゃねえ。人はいるが、それだけで済む話でもねえだろ」
……なるほど。
王城なら部屋も食事もあるだろうけど、それで子供たちが落ち着けるとは限らない。
「それで、この家を思い出したんだ」
「……ふん。別に、お前を思い出したわけじゃねえ」
「……まだ何も言ってないよ!?」
「言いそうな顔してんだよ!」
…………。
……おお。
先回りされた!
私は笑いながら頷いた。
「でも、ありがとう。二人を連れてきてくれて」
「……礼なんかいらねえ」
「じゃあ、クオシンさんから預かった二人、大事にするね」
「……預けたわけじゃねえ。押し付けただけだ」
…………。
……押し付けた!
自分で言っちゃった!
「そっか。じゃあ、ありがたく押し付けられておくよ!」
「……お前なぁ!」
……あはは!
こういう会話、嫌いじゃないなぁ。
クオシンさんが、呆れたように頭を掻く。
でも、さっきより少し機嫌がよさそうだ。
……うん。
やっぱり、二人を預けられることになって安心したのかな。
私は、テーブルの向こうで静かにパンを食べる兄弟を見た。
……ああ。
今日は賑やかになりそうだね。
「あの、リアリスさん」
ダリル君が声をかけてきた。
「うん。どうしたの?」
「……僕たち、ここで何をすればいいんでしょうか」
……おっ。
真面目だねぇ。
「そうだなぁ。まずはお風呂に入って、髪を整えて、ゆっくり休もうか」
「……それだけ、ですか?」
「うん。お腹がいっぱいになったら、眠くなるかもしれないしね」
…………。
……あれ。
ダリル君、困ってる?
「……何か、仕事をした方が……」
「ああ。仕事のことは気にしなくて大丈夫だよ」
「……でも、何もしないのは……」
……うーん。
ずっとお兄ちゃんとして頑張ってきたんだろうなぁ。
それなら、役目がないことが不安なのかもしれない。
私は少し考えた。
「じゃあ、お願いが一つあるんだけど」
「……はい!」
……おお。
急に背筋が伸びた!
「セリム君と一緒に、元気になってくれる?」
…………。
ダリル君が、きょとんとする。
「……元気に?」
「そう。二人でちゃんと食べて、遊んで、眠って。まずはそれから」
……うん。
難しい仕事は、もう少し先でいいんだ。
ダリル君は、しばらく何かを考えていた。
それから、小さく頷く。
「……分かりました」
「よし!」
私は、にっこり笑った。
……ああ。
この子、ちょっと肩の力が抜けたかな。
すると横から、クオシンさんがぼそりと言った。
「……だから言っただろ。一人で背負い込むなって」
……おっ。
また出た!
ダリル君が、クオシンさんを見た。
「……はい、殿下」
クオシンさんは、ふいっと顔を背けた。
……ふふ。
ほんと、素直じゃないなぁ。
◇
食事が終わると、私は巴さんとセバスに二人の部屋をお願いした。
「今日から、しばらくこの屋敷で過ごしてもらおうと思うんだ」
「ええ、もちろんいいわよ。リアリスちゃん」
巴さんは、嬉しそうに微笑んだ。
「小さい子が増えるのね。楽しみだわ」
「客間を二つ、ご用意いたしましょうか」
セバスが尋ねる。
私はダリル君とセリム君を見た。
「二人は、部屋を分けた方がいい? それとも、一緒がいいかな?」
ダリル君は、すぐにセリム君を見る。
セリム君は、お兄ちゃんの服を掴んだ。
「……いっしょ」
……ああ。
そうだよね。
知らない家でいきなり別々の部屋は、落ち着かないよね。
「じゃあ、まずは同じ部屋にしようか。ベッドを二つ置いてもらおう」
「かしこまりました、旦那様」
「ありがとう、セバス」
……うん。
これで安心。
「それから、二人に合う服も用意しよう」
「承知いたしました」
私は二人へ笑いかけた。
「お風呂も広いから、ゆっくり入れるよ」
セリム君が、目を丸くした。
「……おふろ?」
「うん!」
……あっ。
もしかして、大きなお風呂は初めて?
……ふふ。
楽しみにしててね!
すると、クオシンさんが不機嫌そうに言った。
「……おい。そこまでしてやる必要があんのか」
……ん?
「えっ、普通のことじゃない?」
「……いや、そういう意味じゃねえ」
クオシンさんは、言葉を探すように少し黙った。
「……何から何まで急に変わると、こいつらも落ち着かねえだろ」
…………。
……あっ。
そっちの心配か!
「そうだね。急がずに、二人の様子を見ながらにしよう」
「……ふん」
……うん。
今日もよく気がつくなぁ。
本人に言ったら、また怒られそうだけど!
そのとき。
「お父さーん!」
廊下から、カトレアの声がした。
……おっ。
どうやら、花の記録帳を片づけてきたらしい。
「入っておいで!」
「はーい!」
扉が開いて、カトレアが顔を覗かせる。
「お父さん、お客さん、まだいる?」
「うん。紹介したい子たちがいるんだ」
カトレアは、部屋に入るなり二人の兄弟を見た。
……あっ。
目が輝いた!
「こんにちは!」
元気な声が響く。
セリム君が、少しびくっとした。
ダリル君も、驚いたように顔を上げる。
「私はカトレア! お父さんと一緒に住んでるの!」
……ふふ。
自己紹介が早い!
「こっちがダリル君で、こっちがセリム君だよ」
「ダリルお兄ちゃんと、セリム君だね!」
……おお。
もうお兄ちゃん呼び!
ダリル君が、少し戸惑いながら頷いた。
「……よろしく、カトレアさん」
「カトレアでいいよ!」
「……うん。よろしく、カトレア」
……ああ。
いいねぇ。
すると、カトレアがセリム君に近づいた。
「セリム君、お花は好き?」
…………。
……おっ。
そこから入るんだ。
「……おはな?」
「うん! お庭にいっぱい咲いてるの!」
セリム君が、少しだけ首を傾げた。
「……すき、かも」
「じゃあ、一緒に見よう!」
……おお。
もうお誘いだ!
私は笑いながら、二人を見守った。
これなら、少しずつ仲良くなれそうだね。
「……リアリス」
クオシンさんが、低い声で呼んだ。
「ん?」
「あの娘は、お前の……」
「うん。カトレアだよ。私の娘」
「……そうか」
……おや。
どうしたんだろう。
クオシンさんは、カトレアとセリム君を眺めていた。
何だか、少しだけ穏やかな顔をしている。
……あっ。
もしかして、カトレアがいてくれて安心したのかな。
「カトレアはお花が大好きでね。最近は花の記録帳を作ってるんだ」
「……聞いてねえ」
「えっ。聞いてなかった?」
「そうじゃねえ!」
…………。
……あはは。
今日も会話が噛み合わない!
カトレアが、くすっと笑った。
「クオシンさん、面白いね!」
…………。
クオシンさんが固まった。
……おお。
これは珍しい。
「……何がだ」
「お父さんと仲良しなんだね!」
…………。
…………。
「誰がこいつと仲良しだぁ!?」
……おおおっ!
ものすごい勢い!
「ええっ、違うの!?」
カトレアが、目を丸くする。
私は笑って頷いた。
「うん。私も仲良くしてもらえて嬉しいよ!」
「お前まで何言ってやがる!」
……あはは!
クオシンさん、今日はずっと忙しいね!
……あっ。
ダリル君たち、びっくりしてるかな?
そう思って横を見ると。
セリム君が、少しだけ笑っていた。
…………。
……おお。
今、笑った!
……うん。
それが一番嬉しいね。
「お父さん、みんなでお庭に行ってもいい?」
カトレアが尋ねてきた。
「もちろん。二人が疲れてなければね」
私はダリル君を見る。
「少しだけ、外を歩いてみる?」
ダリル君は、セリム君を見た。
「……セリム、どうする?」
「……いく」
……おっ。
行きたいんだね。
「じゃあ、行こうか!」
私は立ち上がった。
すると、クオシンさんも腰を浮かせる。
……ん?
「クオシンさんも一緒にどう?」
「……は? 俺は帰る」
「そっか。お仕事あるもんね」
「……当たり前だ」
……うん。
さすがに王子様は忙しいか。
私は少し残念に思いながら頷いた。
「じゃあ、今日はありがとう。また遊びに来てね」
「……遊びに来るわけねえだろ」
…………。
……あっ。
そうですか。
でも、言い方がいつもどおりで、ちょっと安心する。
すると、セリム君が小さな声を出した。
「……でんか」
「……何だ」
「……もう、かえるの?」
…………。
クオシンさんの動きが止まった。
セリム君が、少しだけ不安そうに見上げている。
「……そうだ」
「……そっか」
…………。
……ああ。
少し寂しいのかな。
クオシンさんは、何か言いたそうに口を開いた。
けれど、すぐに閉じる。
それから、乱暴に頭を掻いた。
「……少しくらいなら、庭を見てやってもいい」
…………。
……おお!
予定変更!
「じゃあ、一緒に行こう!」
「……お前に付き合うわけじゃねえからな!」
「分かってるよ!」
……ふふ。
そんなに言わなくても大丈夫なのにね!
◇
庭へ出ると、柔らかな風が吹いていた。
カトレアは、いつもの花壇の前でしゃがみ込む。
「見て見て! これ、アサツユソウっていうんだよ!」
……おっ。
さっそく自慢の花だね!
セリム君が、花壇に近づいた。
小さな青紫色の花を、じっと見つめる。
「……きれい」
「でしょ!」
カトレアが嬉しそうに笑った。
「ダリルお兄ちゃんも見て!」
「……うん。綺麗だね」
ダリル君も、少しだけ笑った。
……ああ。
さっきより、ずいぶん表情が柔らかくなったね。
クオシンさんは、少し離れた場所で腕を組んでいる。
……ん?
ちゃんと二人の様子を見てるんだ。
私は、隣へ歩いていった。
「クオシンさん」
「……何だ」
「本当に、連れてきてくれてありがとう」
「……またそれか」
「うん。嬉しかったからね」
「……ふん」
……おっ。
今日は否定しない。
私は、三人が花壇を囲んでいる姿を眺めた。
「二人、少し笑うようになったね」
クオシンさんも、そちらを見る。
「……ああ」
…………。
……おお。
今の返事、素直だった!
「クオシンさん、優しいね」
「……は?」
…………。
……あっ。
言っちゃった。
クオシンさんが、こちらを睨む。
「……ふざけたこと言ってんじゃねえ!」
「ええっ。でも、そう思ったんだよ」
「俺は面倒なガキを連れてきただけだ!」
「うん。面倒だと思いながら、いろいろ調べてくれたんだよね」
「……!」
…………。
……おや。
言葉に詰まった?
「村の人に話を聞いて、本人たちの気持ちも確認して、ここまで連れてきてくれた」
「……だから、何だ!」
「ありがたいなって」
クオシンさんが、大きく息を吐いた。
「……お前と話してると調子が狂う」
…………。
……あはは!
それは、お互い様かもしれないね。
セリム君が花壇の前から振り向いた。
「……でんか!」
「……あ?」
「……これ、みて!」
小さな指が、花を指している。
クオシンさんは、一瞬だけ私を見た。
……ん?
何でこっちを見るの?
「ほら、呼んでるよ」
「……分かってる」
クオシンさんは、面倒そうに歩き出した。
でも、花壇の前ではちゃんと膝を曲げ、セリム君と同じ高さで花を見る。
…………。
……おお。
そこまでしてくれるんだ。
「……これがどうした」
「……きれい」
「……ああ。そうだな」
セリム君は、にこっと笑った。
「……でんかも、すき?」
…………。
クオシンさんが、ぴたりと固まる。
……おっ。
難問だ!
「……嫌いじゃねえ」
「……そっか!」
セリム君が、満足そうに頷いた。
……ふふ。
可愛い。
カトレアも、楽しそうに笑っている。
「じゃあ、クオシンさんもお花のお友達だね!」
「……意味が分からねえ!」
…………。
……あははは!
私は、思わず声を出して笑ってしまった。
「クオシンさん、お花のお友達だって!」
「お前は黙ってろ!」
……うん。
今日も元気いっぱいだね!
ただ。
クオシンさんは、子供たちの前では決して怖い顔を向けなかった。
私には遠慮なく怒鳴るのに。
……ふふ。
その違いが、ちょっと面白かった。
しばらく庭を見て回ったあと、ダリル君が近づいてきた。
「……殿下」
「何だ」
「……ありがとうございました」
…………。
ダリル君が、深く頭を下げる。
セリム君も、慌てて隣に並んだ。
「……ありがと、でんか」
クオシンさんは、少しだけ目を見開いた。
それから、顔をしかめる。
「……礼なんかいらねえ」
……あっ。
いつもの言い方だ。
でも、ダリル君は続けた。
「……僕、弟を守らないとって、そればかり考えてました」
……うん。
ずっと頑張ってたんだね。
「……だけど、殿下が来てくれて……」
声が少し震える。
クオシンさんは、黙って聞いていた。
「……ここに来てもいいって言ってくれて、嬉しかったです」
…………。
……ああ。
よかったね。
私は、胸の奥が温かくなるのを感じた。
すると、クオシンさんが少しだけ声を落とした。
「……なら、ここでちゃんと食って、寝ろ」
「……はい」
「弟のことばっかり考えて、自分が倒れるんじゃねえぞ」
ダリル君が、顔を上げる。
「……はい!」
…………。
……おお。
いい笑顔だね。
セリム君も、隣で頷いていた。
……ああ。
クオシンさん、やっぱり優しいなぁ。
私は、そっと笑った。
……よし。
今は、何も言わないでおこう。
こういう場面では、茶化さない方がいいもんね。
「……じゃあな」
クオシンさんが、ようやく帰ることにしたらしい。
庭の出口へ向かう。
「クオシンさん、またいつでも来てね!」
「……来ねえよ」
…………。
……あっ。
やっぱり、そう言うんだ。
私は気にせず手を振った。
「じゃあ、何かあったら連絡するね!」
「……好きにしろ」
……うん。
これは、連絡してもよさそうだね。
そのとき。
「……でんか!」
セリム君が、もう一度声をかけた。
クオシンさんが振り返る。
「……何だ」
「……また、あえる?」
…………。
……おっ。
クオシンさん、困った顔になった。
私は、笑いそうになるのをこらえる。
……がんばれ、クオシンさん!
しばらくの沈黙。
やがて、クオシンさんが答えた。
「……気が向いたらな」
……おお。
あれ。
この言い方……。
「……ほんと?」
セリム君の顔が、ぱっと明るくなる。
「……ああ。気が向いたらだ!」
「……うん!」
…………。
……ふふ。
これは、また来そうだなぁ。
クオシンさんが、私へ顔を向けた。
「……おい、リアリス」
「はい?」
「……何笑ってんだ」
「えっ。笑ってた?」
「……気に入らねえ顔しやがって」
…………。
……あっ。
これ以上笑うと怒られそう!
私は、慌てて真面目な顔を作った。
「二人のことは、ちゃんと見ておくよ」
「……当然だ」
クオシンさんは、短く言った。
それから背を向ける。
「……頼んだぞ」
…………。
……おっ。
今。
頼んだぞ、って言った?
「うん! 任せて!」
「……調子に乗るな!」
…………。
……あはは!
最後までクオシンさんらしいなぁ。
でも。
……うん。
私は、ちょっと嬉しかった。
◇
クオシンさんを見送ったあと、私たちは屋敷へ戻った。
巴さんとセバスが、二人の部屋を整えてくれている。
桜花も、必要なものを確認してくれていた。
「リアリス様。お部屋のご用意が整いました」
「ありがとう、桜花!」
「衣服につきましては、まず体に合うものをお渡しいたします。後日、ご希望を伺いながら整えましょう」
「うん。それがいいね」
……ああ。
こういうとき、皆がいてくれて助かるなぁ。
私はダリル君とセリム君へ声をかけた。
「じゃあ、部屋を見に行こうか!」
「……はい」
「……うん!」
セリム君が、小さく頷いた。
二人は、カトレアに案内されながら階段を上がっていく。
「こっちだよ! お庭も見えるお部屋なの!」
……おお。
カトレア、もう案内役になってる!
私は、その後ろ姿を見守った。
……いいねぇ。
子供たちが一緒にいると、屋敷がもっと賑やかになる。
もちろん。
二人がこれからどうしたいかは、ゆっくり聞いていかないとね。
ずっとこの家で暮らすのがいいのか。
ほかにも安心できる場所があるのか。
今は、まだ何も決まっていない。
……でも。
まずは今日、ここで安心して休める。
それだけでも、よかったと思う。
しばらくすると、カトレアがぱたぱたと戻ってきた。
「お父さん!」
「ん? どうしたの?」
「ダリルお兄ちゃんとセリム君、お部屋、気に入ってくれたみたい!」
「本当?」
「うん!」
……おお。
よかったね!
「それからね!」
「うん?」
「今度、一緒にお花の絵を描くことになったの!」
…………。
……ふふ。
もう次の予定が決まってる!
「いいね。楽しそう!」
「えへへ!」
カトレアが、嬉しそうに笑う。
……ああ。
こういう笑顔が増えるなら、賑やかになるのも大歓迎だ。
すると、巴さんが近づいてきた。
「リアリスちゃん」
「ん?」
「二人とも、少し緊張してるけど、ちゃんとお礼を言ってくれたわ。とてもいい子たちね」
「うん。そうだね」
「しばらくは、ゆっくり過ごしてもらいましょう」
「お願い、巴さん」
「もちろんよ」
……ふふ。
頼もしい!
私は、窓の外を眺めた。
庭には、さっき皆で見ていた花が咲いている。
……そういえば。
私がカトレアと出会ったときも、突然だったなぁ。
あのときは、今みたいな毎日になるなんて思わなかった。
でも、今は家族として笑っている。
……うん。
ダリル君とセリム君にも、これから楽しいことがたくさんあるといいな。
……ああ。
お父さんとしても、ちょっと張り切っちゃうね!
その日の夕方。
私は、セバスから二人の様子を聞いた。
「旦那様。ダリル様とセリム様は、先ほどご用意したお部屋でお休みになられております」
「そっか。ゆっくり眠れてるならよかった」
「はい。入浴も済まされ、落ち着かれたご様子でございます」
……ああ。
よかった、よかった。
「セバス、ありがとう。しばらくは二人のこと、よろしくね」
「かしこまりました、旦那様」
……うん。
これなら安心だね。
私は、屋敷の食堂へ向かいながら考えた。
クオシンさんが見つけたのは、たった二人の兄弟。
でも、きっと。
この世界には、ほかにも同じように困っている子供たちがいるんだろうな。
…………。
……そういえば。
この国の、親を亡くした子供たちって、普段はどこで暮らしているんだろう。
孤児院みたいな場所はあるのかな?
……あれ。
私、そこは全然知らないや。
学校を作ったときも、子供たちが学ぶ場所のことは考えた。
でも、帰る家がない子供のことまでは、ちゃんと調べていなかったかもしれない。
……よし。
明日、ちょっと聞いてみようかな。
……うん。
まずは、この国のことを知るところからだね。
それにしても。
今日のクオシンさん、ちょっと面白かったなぁ。
私には、あんなに怒鳴るのに。
ダリル君たちには、何だかんだ言いながら、ずいぶん優しかった。
……あっ。
そういえば、最後に「頼んだぞ」って言ってたね。
…………。
……ふふ。
あのクオシンさんが、私を頼ってくれたんだ。
……うん。
やっぱり、嬉しいな!
私は、食堂の扉を開けた。
「ただいま! 今日の夕食は何かな?」
すると、奥からカトレアの声がした。
「お父さん! 明日、みんなでお花見ようね!」
「うん! そうしよう!」
……ああ。
こうして、また一つ。
我が家に、小さな笑顔が増えた。
……さて。
まずは、明日も美味しい朝ご飯を食べてもらおう!
……それから。
クオシンさんが、今度はどんな顔で遊びに来るのか。
……ふふ。
ちょっと楽しみだね!
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