縁、二十二
亜季子が会員全て成婚したら、この相談所を辞めると言ってきた筈なのに、順子はまた、知り合いの息子や娘のお見合い話を持って来ていた。
「お母さん、伯母さんと伯父さんを困らせないでよ」
夕食の時間、深夜に作った餃子をホットプレートに並べながら、百合は不機嫌な様子。
「大丈夫よ。この際、一人や二人増えようが変わんないわよ」
「ああ、そうだよ。最近は、百合ちゃんと花ちゃんが手伝ってくれるから、成婚者も出て来て安心してるんだよ」
「お母さんさぁ、家に帰んなくてもいいの? お父さんのご飯は?」
花は人数分の小皿を並べていた。
「あっ、お父さんね、会社の帰りに……」
すると、敬一が「こんばんは」と入ってきた。
「うそ! びっくりした」
「どうしてそんなに驚くんだよ」
就活がほぼ進んでいない花は、敬一になんと言っていいのか悩んだ。
「ちゃんと就職はするから、でも、ごめんね、今は……」
「いっそのこと、お嫁にいくまでここを手伝ってもいいんだよ」
「ダメだよ、伯父さん。ちゃんと就職してからじゃないと、お嫁にも行けないよ」
「花、しっかりしてきたな。やっぱり家を出てみるのもいいものだ」
「敬一さん、座って」と亜季子が順子の隣の椅子を引いた。
「すみません、お義姉さん、二人もお世話になってしまって」
「いいえ。私は大歓迎よ」
ホットプレートには、普通の餃子と餡を大根で包んだのと、油揚げで包んだのが並んでいた。
修造は不思議そうに大根で包んだのを食べた。
「うん、美味い! 皮じゃなくても、いいもんだね。あっ、でも餃子包む時は誘って欲しかったな。伯父さんうまいんだよ」
「知ってるー伯母さんから聞いてるもん」
「凛とよく包んだんだよ。お父さんは不器用だね。凛が教えてあげるよ、なんて生意気な事言ってさ」
「私も凛ちゃんに教えてもらったわ。伯母さんより早く包めたよね?」
「そうそう、私はいい加減に包んでいつも叱られてたわよ」
修造が、冷蔵庫から缶ビールを出して来た。
「敬一、ちょっとだけなら飲めるか?」
「ああ、付き合うよ、ちょっとだけ」
ちょっとだけだと言いながら、修造と敬一のビールは進んだ。
釣られる様に、順子と亜季子も一緒に飲み始めた。
花と百合も付き合い程度に飲んでいた。
暫くして、花にとって苦手な、仕事の話し、身体のどこが痛いとか、親戚の噂話など、四人が喋り始めた時、そっと部屋を出た。
花が欠伸をしながら仏間に入ると、座布団を枕にして、百合が横になっていた。
「あれ? トイレに行ったんじゃなかったの? ねぇお姉ちゃん!」
疲れたのか、起きなかった。
百合の寝顔が、とても辛そうに感じられ、花は自分の手荒な行動を反省した。
隆之が好きな人が、現在独身だろうがなかろうが、百合には関係ない。隆之とは別れたのだから。でも、花は隆之の事が義兄として好きだった。ほんの少しでも可能性があるのなら、また二人はやり直せないだろうか? その為に、あの人がずっと独りでいる事はよくない。そう思っていた。
「百合ちゃんの再婚?」
修造に敬一が相談をしていた。
「やっぱり、ずっと独りでいるのは心配なんだよ。今回病気をして、前よりもこれからの事を考えたんだよ。そうすると、一番百合の事が気になってさ」
「ああ、そうだよな。百合ちゃんはあんな苦労もしてるし、いい人見つけられるといいな」
「この相談所でいい人がいたら、さり気なく勧めてくれないか?」
敬一がこの日、珍しく会社の帰りに寄ったのはその事をお願いする為でもあった。
「知り合いの息子さんや娘さんの心配をしてる場合じゃないだろ?」
と順子に嫌味を言うと、順子はアルコールも入ってるせいか噛みついてきた。
「あなたね、あの子のこと分かってないのよ! あの子はまだ隆之さんのこと引きずってるのよ! 私には分かる!」
「まさか、もう別れてかなり経つだろ?」
「百合ね、前に言ってたわ。離婚したばかりの頃、不妊、バツイチ、そろそろアラフォーの自分は何の価値もないような気がするって思ってたって……」
修造と亜季子は顔を見合わせた。
「百合ちゃんは素敵な子よね? そんなふうに自信を無くしてたなんて……な、なんか腹が立つわ! きっとここでお見合いしたら、みんな百合ちゃんと結婚したいって思う筈よ」
「そうだよ。よく、あの方は独身ですか? なんて聞いて来る会員の人もいるんだよ」
「そう? やっぱり? あの子は美人とかじゃないけど、清潔感があって好感度は高い方だと思うのよ」
「おい、恥ずかしいからやめろよ。でも、子供の頃からモテてはいたな」
酔っ払い四人が百合をやたら褒め始めた。
翌日、会社が休みだという事もあり、敬一と順子は泊まっていった。
退院して職場復帰して間もないのに、調子に乗って飲み過ぎた事。それを止めなかった順子。朝から百合はクドクドと二人を叱っていた。
「あれ? 兄さんと亜季子さんは?」
敬一は話を逸らそうとした。
「いつもモーニング行ってるから」
「俺も行けばよかった」
「私も」
百合がくどいので、敬一も順子も逃げたかったのだ。
「せっかくお味噌汁作ったのにー」
花が味噌汁を運んできた。
「えっ? すごい! 家では何にもしなかったのに」
「お母さんがさせなかったんでしょ? でも味、微妙だから」
敬一と順子が一口飲むと、ちょっと首を傾げた。
「なんか、久しぶりだな」
我が家ではないが、家族で食卓を囲むのはかなり久しぶりだった。
「花、就職が決まらなくても、いつでも帰って来ていいんだよ。お父さん、帰ってくるな、なんて言ってないだろ? 百合だって……」
「私、婚活するわ。本格的に」
まさか昨晩の四人の話を聞いていた? 何かを感じた様に朝からそんな話をするので敬一と順子は驚いた。
「相手はここで探すの?」
「今は相談員だし、もしここで探すなら、手伝いを辞めてからかな。分かんないけど……。でも、ちゃんとするから。で、適当な時期に家にも戻るし」
前向きな宣言をした筈なのに、疲れてるせいか、百合の表情はよくなかった。




