表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/29

縁、十八

 百合は車の停めてある駐車場まで、隆之と並んで歩いた。違う方向なら良かったが、お互い、割と近めの場所に車を停めていた。隆之の車は、会社の名前が入ったワゴン車だ。

 百合と結婚していた頃もこの車で会社を往復していた。そうだ、買い忘れとかがあると、ラインをして買ってきてもらってたっけ……そんな事を百合は思い出していた。そしてさり気なく、隆之が下げている買い物袋の中をチラチラ見てしまった。何を頼まれたんだろ? でも、中にはお弁当とビール、チーズやカルパスなど、酒のつまみ? まるで一人暮らしの男性の買い物のようだった。

 隆之は「じゃあ」と右手を軽く上げた。


「じゃあ……」と百合も隆之の車の四台ほど離れたクラウンに乗ろうとした。

「ちょっと待って!」隆之が何か聞きたそうにしていた。

「何?」

「あのさ……ひょっとして再婚した?」

「は? 何で?」

「車……それって……」

「ああ、これは伯父さんの」

 百合が乗らないタイプの車に乗ろうとしていたので、咄嗟に再婚して旦那の車で買い物にやって来た? と思ったのだろう。それなら、この流れで百合も尋ねた。

「そっちこそ。再婚したんだよね」

「えっ? なんで?」

「は? なんでって事ないでしょ? 他の人と結婚したいから私と別れたんでしょ?」

 うわっ、また嫌な言い方をしちゃった……とすぐに思ったが、言ってしまった言葉はもう消せない。でも、何とか誤魔化そうと、百合は無理やり笑顔を作った。引き攣っていたのが自分でも分かった。

「ゴメン、もう関係ないのに……じゃね」

 逃げる様に車に乗ろうとしたが、隆之が慌てて話し始めた。

「違うんだよ。一方的にこっちが想ってただけで……」

「えっ? つきあってたんでしょ?」

「つきあってないよ。あっちは僕のことなんて好きでもなんでもなくて……君と別れてから、気持ちを伝えたけど……」

 その時の隆之の顔は、何年も一緒にいた百合でさえも見た事のない顔だった。心細げでどこかとても哀しそうで、それは歳を重ねた男性の悲壮感なのか? たぶん、そんなんじゃない。百合はなぜか、車の中から貰った煮物を一パック出し、隆之に渡した。

「あげる。たくさん貰ったから。それじゃあね」

 と素早く車に乗り込み、隣の車にぶつかりそうになりながら駐車場を出て行った。

 隆之は煮物を片手に持ち、百合の車を見送った。


 その日の晩御飯は、揚げ物、煮物、サラダと、全て百合が貰って来た総菜ばかりだった。みんなそれぞれ疲れていたからだ。

「助かったわ。今日は何か出前とかにしようかって思ってたもの」

 亜季子は安心したように、インスタント味噌汁の具をお椀の中に入れていた。

 隣で花は、沸いたお湯をお椀に注ぎ、今日のお見合いの事をあれこれ訊いていた。


「ああ、今日はないわ」

「そうだな。同じ球団のファンのはずなのに……いきなり選手のトレードが気に入らないとか、監督の戦術がどうだの……いきなり言い争って……」

 修造はいつもより元気がなかった。でも、それ以上に元気がなかったのが百合だった。百合の頭の中には、数時間前に会った隆之の事でいっぱいだった。

 花、修造、亜季子が食事をしながら色々と話しているのが、どこか遠くで話しているようで、ぼんやりとしていた。

「百合ちゃん、今日は疲れた?」

 亜季子が気になり尋ねると、慌てた様に我に返った。

「ううん、そんな事ないわよ。あっ、そうそう、花、あんたはさぁ、今日は家で留守番してただけでしょ? 気を利かせてお味噌汁くらい作っておきなさいよ」

「だって、木下紗枝さんと三時間も話してたんだよ」

「えっ? 木下さんって、明日お見合いの?」

「うん。ああ、でもキャンセルになったんだよ」

「そうそう、それで西川貞夫さんを紹介してほしいって事なのよ」

「西川さん? えっ! 紗枝さんの条件からは、かなり外れてない?」

「そうなのよー。でもね、私は何となく分かる気がするの。よく見たら、西川さんっていい顔してるのよ。若い頃の写真を見せてくれた事があるんだけどね、なかなかの好青年って感じでね」

「若い頃の写真をスマホに入れてるおじさんやおばさんいるよね? 昔はイケてたアピール?」

「そういうんじゃないのよ。昔ね、親戚の人がここで成婚したんですって。その時の結婚式に、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんが出席して、みんなで撮った写真があるっていうから見せてもらっただけ。確か、三十年位前だったっけ? ねぇ」

「そうそう、基本的に二人とも、会員の方の結婚式は出席しなかったから、出席するなんて珍しいんだよ」

「どうして? 仲人? 媒酌人だっけ? そんな感じで出席するんじゃないの?」

「お祖父ちゃんがそういうの苦手だったんだよ。でも、新婦の親が同じ大工で飲み友達だったから、その式には出席したみたいだけど」

「その写真、私も見てみたいなぁ……」

 と、花、修造、亜季子の話が徐々に、蝶子と番助の思い出話に逸れて行くのを、百合は見逃さなかった。


「それで? 西川さんと紗枝さんのお見合いはどうするの?」

「ああ西川さんにはまだ連絡してないの。紗枝さんは年上だし、求めてるものも合わない気がするしね。無理かな……」

「そう? 私ね、今日話してみて、西川さんみたいな人って、意外と紗枝さんのような人と合うと思うんだけど。ほら、長年持ってる価値観みたいなものを、パーッと変えてくれる、みたいな?」

「花、甘いわね。独身五十男はそんなに簡単じゃないわよ」

「そうかなぁ……紗枝さんって不思議な魅力があるのよ。ずっと化粧品の営業をしてただけあって、話も上手だし……恋愛遍歴もちょっと笑えたし!」

 花が思い出して笑うと、「どんな?」と亜季子も修造も興味津々だった。

「花、笑うなんて失礼よ。で、どんな?」

 そう言いながら百合も興味を示して来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ