縁、十六
修造と亜季子の家で暮らす様になった百合は、朝六時に起き、近所をジョギングして、朝食は四人そろって食べようとしたが、修造は散歩に出かけて喫茶店でモーニングを食べるのが日課だった。亜季子も、近所でラジオ体操をした後、そのまま修造がいる喫茶店へ寄る。なので朝食はいつも花と二人で食べていた。
「お姉ちゃん、朝早いよ。六時に起きて七時前に朝御飯は……」
「そんなの普通よ。花はここに来てから朝はどうしてたの?」
「私が起きる頃、伯母さんがトーストとゆで卵をお持ち帰りで」
「甘やかされてるわね。だいたいさぁ、それじゃ家にいる頃と変わんないじゃん」
「家にいる頃は、朝ごはんは食べてないもん」
「ああ、そうだったわね。遅く起きて、冷蔵庫に入ってるジュース飲んで、ダラダラしてるうちに、あっという間に昼ごはんだったもんね」
「バイトしてる頃はちゃんと起きてたよ」
百合が来てから、規則正しい生活を強いられて、花は窮屈だった。でも、前とは違い、自分の将来を誤魔化さずにちゃんと決めて行こうと、花なりに踏ん張っていた。
あれから少しして、夏彦からのラインが来なくなった。寂しいような安心したような花だったが、なぜか手紙が届いた。夏彦から、初めてもらった手紙だった。
住所を百合から聞き、綺麗な青い封筒に、割と大人っぽいしっかりとした文字で、「田村花様」と書いた夏彦は、ポストに投函する時、封筒に軽くキスをした。
夏彦からの封筒を、花は暫く開封する事ができなかった。でも、やっぱり気になって仕方がなくなり、三日後にはドキドキしながら封を開けた。
なぜか、仏間の仏壇の前に正座をして、夏彦からの手紙を読んだ。ずっとドキドキは止まらなかった。
ふわっと、夏彦の手紙は、バニラエッセンスの香りがして……。
「大好きな花へ」の一行で、花はもう泣きそうになった。
「何度もラインしてごめんね。花の気持ちも考えずに……。手紙なんて柄じゃないけど、でもね、気持ちを伝えるにはラインとかじゃなかった……私、間違えてばかりだね……たくさん花を傷付けて……本当にごめんなさい。それでね、あの夜の事……正直に言うね。花に告白されて、すっごくショックだった。何でかな? それはきっと、私が花の気持ちにずっと気付かないでいたから。世界で一番の理解者である花に、私はいつも甘えていました。いつも悩みを聞いてくれて、笑わせてくれて……花といると私は私でいられて、本当の自分は何なのか、花がいなかったら、私はずっと自分に嘘をついて生活していたのかもしれない。だからね、やっぱり花には知ってもらいたいの……好きな人ができたら、真っ先に話したかったから……。
私が好きになった人はね、花によく似ていて、自分を飾らずさらけ出す事が出来る人です。(まだ片思いだけどね)今までは花以外にそんな人はいませんでした。だから……今回の事で私たちの関係がおかしくなってしまうのはとても悲しいです。気まずくなって会えなくなるなんて嫌です。今は無理でも、いつになるか分からないけど、前みたいに過ごしたいです。だって、花は私に最高の言葉をくれたんだよ。
『男とか女とかじゃなくて、夏彦が好きなだけだよ……』
実はドキドキしました。私はこの人と、たとえ離れていても、どこかで結ばれていたいって心から思いました。親友、恋人、夫や妻……色々な関係があるけれど、花は一生、私にとってそれ以上の特別な存在です。
来月、留学先へ向かいますが、帰って来た時は必ず連絡するからね。嫌なら、無視してもいいからね。じゃあ、愛をこめて、夏彦」
読んでいて、涙が止まらなかった。今すぐ、夏彦に会いに行きたい気持ちだったが、花は堪えた。夏彦は、自分の道を行く。私も、前へ進まなくてはいけない。でも、朝ドラの主人公みたいに、真っ直ぐに頑張ろう! なんて無理だ。でも頑張る、私なりに……と花は心に誓った。




