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快速四号  作者: ヤーツツ・トモミ
第三章 通過駅に戻るには
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第15話ー② 残された血痕

事件現場の周囲には古い住宅が密集し、商店街から続く細い路地に沿って家々が並んでいた。


何台ものパトカーに人々が足を止め、いつしか人だかりができている。


空はすでに赤紫色に染まっていた。


そこへ、もう一台パトカーが停まった。


「やあ、松井さん。遅かったじゃない?」


ずんぐりした体型の男が車から降りてきた。


「前の仕事が立て込んでてね。それより後藤さんこそ、なんでここに? 管轄外だろ」


松井が尋ねた。


「なんか来ちゃったんだよね」


後藤がとぼけるように答える。


「また勘が働いたとか言うんじゃないだろうな」


「そのつもりだったんだけどな。今回は外れたかな」


「また不謹慎な……」


松井は呆れたように言って、現場へ入っていった。


後藤と上広も続いた。


「こりゃまた、むごいねえ……」


鑑識官たちが入り、七畳ほどの部屋はすぐに人でいっぱいになった。


後藤と上広は廊下へ出る。


現場写真を撮るため、何度もフラッシュがたかれた。


その光が遺体を照らすたび、彼女が一瞬だけ笑ったようにも見えた。


「死ぬ前に、ずいぶん暴れたんだな」


遺体を調べ終えた松井が言った。


「精神錯乱状態ってやつかな」


後藤は遺体を見つめたまま答えた。


「死因はまだ特定できてないが、何かの服毒だろう。今のところ、他殺か自殺かはわからんがね」


松井がそう説明すると、後藤はポケットに手を入れたまま遺体を見つめた。


「少女は以前から情緒不安定で、精神科に通っていたらしい。原因は家族にも医師にも話していなかったそうだ。まあ、所轄の刑事さんからの受け売りだけどね」


後藤は少女から視線を外し、松井に寂しげな笑みを向けた。


「その情報が正確なら、県警は自殺と判断するだろうな。他に外傷もないんでしょう?」


後藤が尋ねると、松井はうなずいた。


「ああ。服毒による口からの出血以外には特に。あとは足の裏に傷があるくらいかな」


「足の裏?」


後藤が聞き返した。


「ほら、足元に陶器の破片が散らばっているだろう」


松井が遺体の足元を指した。


黒紫色の破片が散乱している。


後藤はその一つを拾い上げた。


丸みを帯びている。元は壺か何かだったのだろう。


黒紫色の地に黄色や青の線で複雑な模様が描かれ、色の塗られていない裏側にも白い線が走っている。


ほとんどの破片には、赤黒い血痕が付着していた。


「死ぬ直前に錯乱して、これを踏みつぶしたんだろう。足の裏から出血している」


松井が説明した。


「どうして、死ぬ直前だってわかる?」


後藤が聞いた。


松井は一瞬考えてから答えた。


「もしもっと前なら、部屋の外にも血痕が残っているはずだろう。わざわざ足を洗って、途中についた血まで拭き取ってから戻ってきたとは考えにくい」


「血痕なら、廊下についてたよ」


後藤がこともなげに言うと、松井の表情が止まった。


「え?」


「ほら、ここ」


後藤は廊下へ出て、先ほど見つけた染みを指した。


松井がしゃがみ込む。


「確かに血だ。よく見つけたな」


「なあに。たまたまさ」


後藤は少し先へ移動した。


「こっちにもある。これも血痕だろう」


階段の一段目にも、小さな跡があった。


松井がそれを確認する。


「ってことは……彼女は足から出血したあと、部屋の外へ出たのか?」


松井が首をかしげる。


「そう考えると不自然だろ?」


後藤が薄く笑った。


「だったら、自然に考えればいい」


二人の話を聞いていた上広が口を挟んだ。


「この事件、自殺じゃないってことですか?」


後藤が振り返る。


「どうしてそう思う?」


「だって後藤さんが……」


「他人の意見を丸呑みにするなよ」


後藤は苦笑した。


「じゃあ、どういうことだ?」


松井が尋ねた。


「彼女が一人だったと考えるから不自然になる」


後藤は部屋を振り返った。


「もう一人、この部屋にいたとしたら?」


「そいつが殺したのか?」


松井が聞き返す。


「そこまではわからない。ただ、彼女が死ぬとき、ここにいた」


「じゃあ、廊下の血は?」


「そいつに何らかの理由で彼女の血がついて、部屋を出るときにここへ落ちた。本人は気づかなかった」


後藤は血痕を指した。


松井はしばらくそれを見つめた。


「後藤さん。こう言っちゃなんだが、あんた、自殺じゃない方向へ無理に持っていってないか?」


「そうか?」


後藤は立ち上がった。


「俺はただ、この二つの事件に同じ匂いを感じるだけだよ」


「二つって……上村正の事件か?」


松井が確かめる。


「なんだ。わかってるんじゃない」


二人はしばらく黙って顔を見合わせた。


先に口を開いたのは松井だった。


「もし本当に誰かがいたとして……そいつは、死んでいく人間のそばで何をしていたんだ?」


「さあね」


後藤は薄く笑った。


「ただ一つ言えるのは、ちょっと変わった人間だってことだな」

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