第14話ー③ 居場所のない帰郷
島の主要駅で、鈍行に乗り換えた。
かつて暮らした町の駅で、特急の通過待ちのため十分ほど停まるという。
高橋はふいに立ち上がり、列車を降りた。
町は、高校を出た三年前と変わっていなかった。
駅から、見慣れた形の山が見える。
山へ向かう途中に、通っていた中学校があった。夏休みの校庭から、部活動の声が響いてくる。
日に焼けた生徒たちは、誰もが曇りなく見えた。
俺の中学時代には、灰色の記憶しかないのに。
校庭と自分の間に、見えないガラスがあるようだった。
学校を回り込み、山のふもとまで来た時、ある朝を思い出した。
あの時も、通学路をそれてここへ来た。
学年の終わりが近い、真冬の朝だった。
どうしても学校へ行きたくなくなり、誰にも見つからないよう裏道を歩いた。
地元の山なのに、登るのは初めてだった。
登山道は小学校の脇にあった。
始業のチャイムが鳴り、子供たちの声が聞こえていた。
池のフェンスに身を隠し、静かになるのを待った。それから学校の前を駆け抜け、登山道へ入った。
登るにつれ、見つかる不安は薄れた。
代わりに、孤独が押し寄せた。
俺は何をしているのだろう。
振り返ると、小学校も中学校も、町の中に小さく収まっていた。
少し気が晴れた。だが、初めて学校を無断で休んだという事実が、すぐに重くのしかかった。
山頂でも、制服姿で人に会うのが怖かった。
寺の境内の草むらに隠れ、何時間も過ごした。
時計がなく、いつ帰ればいいのか分からなかった。
寒さと空腹に耐えながら、ここにも居場所はないのだと思った。
七年後、高橋は同じ道を歩いていた。
足を進めるたび、あの日の寂しさが蘇った。
あの頃の俺も、ここで絶望していたんだな。
今でも、どうすればよかったのか分からない。
それでも、草むらに一人で座るあの子に、何か一言、声をかけてやりたかった。
実家の空気は重かった。
いつもなら小言を言う母親も、目を合わせなかった。
帰って間もなく、父親に呼ばれた。
目の前に、留年を知らせる通知が置かれていた。
「この先、どうする気なんだ」
「大学を辞めようと思う」
父親は黙った。
「辞めて、どうする。学歴もないお前を、どこの企業が採るんだ」
言葉は強かったが、声には戸惑いがあった。
隣の部屋から、母親のすすり泣きが聞こえた。
「これ以上、迷惑をかけたくない。これからは自分で決める」
退学届を差し出した。
「父さんは何のために働いて、お前の学費を……」
父親は拳を握り、立ち上がった。
「母さん、判子を出してくれ」
「でも、今辞めたら、この子は……」
「もういい。あいつが決めたことだ」
戻ってくると、父親は退学届に強く判を押した。
「これでいいんだろう。だが、お前が選んだのは茨の道だぞ。何があっても泣き言は言うな。俺に頼ってくるな。いいな」
父親が出ていってから、高橋は自分が泣いていることに気づいた。
嫌っていたはずの家族だった。
それでも、最後の言葉は胸に刺さった。
退学届を持って、家を出た。
一度だけ振り返り、もう見るつもりのない実家を見つめた。




