第13話ー③ 弱いままの死神
夕焼けに染まる市街地に、ネオンの光が線を引いていた。
帰宅ラッシュの電車は、身動きも取れない。高橋はクラウフの壺が入った鞄を、前に立つ女の頭越しに荷物棚へ押し上げた。
女が振り返って睨んだ。壺が頭に当たったらしい。
高橋は謝るのも面倒で、体をねじって顔を背けた。
頭上は冷房で冷たいのに、乗客と密着した体は蒸し暑い。
鼓動が速くなり、強い波のように全身へ広がっていった。
予定どおりに進んでいる。何も問題はない。
何を恐れている。心と体を切り離せ。何も感じるな。
鼓動に合わせて、体が大きく伸び縮みする気がした。
ポケットの中のカプセルを握る。だが、その拳まで円を描くように揺れていた。
カプセルが野球ボールほどに膨らみ、縮む。
やがて車両全体が巻き込まれ、回転しながら膨張と収縮を繰り返した。速度が増していく。
光速の壁を越えた瞬間、視界が真っ黒になった。
気がつくと、座席に倒れ込んでいた。
車内には数えるほどしか人がいない。熱気が去り、空気は寒々としていた。
時計を見ると、思った以上に時間が過ぎていた。
鞄を棚から下ろし、駅に着くとホームへ降りた。まだ地面が揺れているようだった。
また、あの瞬間が近づいている。
上村の死を見届けた時の恐怖が、体に戻ってきていた。
冷徹な死神になったつもりだった。
それなのに、また弱い自分に戻ってしまった。
いや、違う。
俺は、ずっと弱いままだ。
目の奥が熱くなった。
今まで、どれほど悲しくても泣けなかったのに。
頬を伝う涙は、思いのほか温かかった。
高橋は袖で拭い、待ち合わせ場所へ急いだ。
地図を頼りに公園へ着く頃には、少し落ち着いていた。
涙と一緒に、張り詰めていたものが流れ出たようだった。
上村正を殺した事実は消えない。
生きている限り、あの死は自分についてくる。過去へ戻れないのなら、進むしかない。
そう考えると、答えは単純だった。
心に残っていたのは、闇というより諦めだった。
どうにか約束の時間には間に合った。
どこにでもある小さな公園だった。青い街灯が一つともっていたが、辺りを照らすには心もとない。人影はなかった。
やがて、一人の女が入ってきた。
五十メートルほど先から、とぼとぼ歩いてくる。時間からして、彼女だろう。
同い年くらいに見えた。
近づくにつれ、顔立ちが分かった。とても綺麗だった。
青い街灯のせいだろうか。
死神はこちらのはずなのに、彼女の方が、その役にふさわしく見えた。




