きっと兵器の実験場にされるだけの世界
「随分と極端な話になったもんだな、死んであの世だとか、何か根拠があるのか?」
桐生にそう問われても弥生の眼光の先は西少年のままである。
「牢に入れられていたときに、私もずっと考えてた。あの子がこの世界を作ってこんなことをして、その目的っていったい何だろうって。あんたたちがこの塔に接近して、準備のために赤い髪たちが行ったり来たりしていたとき、あの二人があの子のいないときにこんなことを口にしてたの。あの子を満足させるために今回は好きにさせてるって。この件が終わったらビジネスに入るって。この世界を魔法兵器の実験場として使うって。この子がそれを知っているのか知らないのか、もし知らないなら騙されているって止めなきゃいけないし、知っていてそれに賛同する悪い奴なら、それもまた止めないといけないし、でも、知った上であえて知らない振りをしていたとしたら…」
弥生と睨みあいながら西少年は指先でキーボードをすばやく叩いた。すると彼の目の前、弥生たちとの間に突如として直径一メートルほどの「穴」が出現する。
「西君、何をする気だ? 本当に逃げるのか?」
訊ねる深沢に頭を横に振ってみせて、彼は再び弥生を正面にする。
「お姉さんの言うとおり、この世界はあの人たちに任せていると、そのうち兵器の実験場として使われるでしょう。随分前から僕としてもそれには気付いていました。僕の命はおそらくあと十年。僕が死ねばこの世界も消滅することになりますから、それまでの間に急ピッチで実験を繰り返そうとするはずです。でもお姉さん、僕としてもそんなものに協力する気はサラサラないんです。皆さん、いま作ったこの『穴』は僕たちの住む世界に繋がっています。どうか、この世界から出て行ってください」
すると今度は桐生が弥生の前に出た。
「流れがいまいち読めないが、だからといって、俺たちだけがこの世界から出て行かないといけない話にはならないだろう。君も連れて行く。色々と聴取しなければならないし、俺たちが預かれば、『あちら側』の人間の好きにもさせないからな」
しかし西少年はここでも首を横に振る。据わった目で桐生を見上げ、
「隊長さん、あなた方の存在を知って、僕もそのことを考えた。だけど、確かにあなた方はいい人かもしれない。僕の作ったこの世界を大量破壊兵器の実験場に使ったりはしないだろうと思う。だけど、あなた方もまた組織の一員だ。末端がどう叫んでも、上の人間が僕の力の使い方を兵器開発に使うと決めなくもない。魔法兵器だけじゃない、核兵器の実験にも適しているんだ。あなた方の組織でなくとも、僕を利用しようとする輩はこれからいくらでも増えてくる。恒久的に平和利用できるならいいが、僕の病気を考えるとそれも不可能です。兵器のために使われて、その兵器によって僕のような病気に侵される人を増やすわけにもいかないんです」
と、声に曇りなく言う。さすがの桐生も黙ると、炯々と見つめ返した。
「僕は、この世界での最低限の望みを達成できた。僕としてはこれ以上、望むものもないと思っている」
「それでこの世界を封鎖して自分の存在を消してしまおうというの? それも、死ぬことによって」
飛躍したものの見方をしているが、その弥生の見解も大方間違っていない。
「女の人って、本当に凄いですよね。想像力が豊かだ。あなた方がこの世界にやって来たことは本当に偶然だった。でも、運命のようにも感じる。どの世界においても、まだまだ大量破壊兵器が作られて、そのせいで僕のように病気に掛かってしまう一般人もいることをあなた方のような人たちに知ってもらえただけでも、僕の能力に、僕の命に、それなりの意味があったと思えて救われる」
そう言い切ると、西少年はイスから下りて深沢の腰に手を伸ばし、携えていたナイフを奪った。それを自分の胸に突きつける。
「動かないで!」
そう叫んで片腕を伸ばしてまたキーボードを叩く。それによって目の前の「穴」が消滅、同時に部屋が、いや塔全体が揺れ始める。
「五分後にこの塔が崩壊するようにセットしました。上ではまだ脱出できていない人が数名いる。早く助けに行って、あなた方も脱出してください」
続きます




