意味と感謝(前編)
「自分の命があと十年くらいしか生きられないと思うと、自分がこの世に生まれてきた意味というものを考えるようになってね。そしてこの、人とは違った才能。何のために自分に与えられたのかと、そういったことも照らし合わせると、残りの寿命のうちで、この才能を使って何ができるのかと自分なりに考えるようになったんだ」
子供の形をしながら、まるで老後を迎えて第二の人生を見つめる年寄りのような弁である。
「それで、君なりに出した結論というのが、俺たちの学校を引きずり込んで、命をかけた脱出ゲームをやらせることだったと、そういうことなのかい? でもやはり、それにいったいどんな意味があるって言うんだい? もし意味がなければ、客観的に見てそれはただの自棄や、寿命が限られた人間の僻みからの暴挙にしか思えない」
問い詰めるように言うが、深沢の顔には昂ぶるものがない。
「僕なりの意味はある。いや、あったと言ったほうがいいかもしれない。僕は個人主義に興味はない。だからこの才能も、誰かのため、国のために使えないかと考えて、この世界を作っていたんだ。それが他人や国に届かなければ、どれだけ誰かのためと謳っても意味はないということもわかっている。僕はね、深沢君、人間というものはね、誰かのために何もできないということが一番不幸に思えるんだよ。手に入れた才能、手に入れた命、それらを埋没させて、ただ食うだけに生きる。ただ、徒にだらだらと死に向うだけの人生。それほど哀れな生き方はない。深沢君、君もそれをわからないわけではないと思う。君が最初に感じた興奮というものは、何もできず、何もしない毎日の退屈さから来ているもののはずだからね」
「それは… 確かにそうだけど…」
「君だけじゃない、世に生きる人、特に若者たちは、一度はそういった感覚を覚えるもので、充実して毎日を過ごせているものは稀だよ。でもね、深沢君、だからといって、何もしないのもまた罪なものでね、何もできないこと以上に、何もしないことのほうがさらに不幸なんだ。ただ、それに気付かないのは、何もその若者一人のせいによるものじゃない。それに気付かせるきっかけを誰も与えてくれないというのも悪いんだ。本来なら大人や社会が教えるものなんだろうけれど、個人主義に走った今の世の風潮の中では、自己責任の名の下に全てが片付けられて、誰も人の面倒など見ようともしないし、見ていられる余裕もない。大人だって行き詰っている人が多いんだ。だからね、深沢君…」
「西君、話が難しくなってきたけど、要するに君はその『きっかけ』になろうと、そのためにこの世界を作ったと、そういう意味だね?」
「うん。あくまで『きっかけ』に過ぎない。そこから先はその人の努力次第になるんだけど…」
それまで静かに熱を帯びていた西少年の語気がそこで少し萎んだ。
「『きっかけ』か… かなり手厳しい『きっかけ』だね、この世界は」
「うん、そうだね。その辺り、僕のセンスがまだまだだったと反省もしているよ。もっといい方法もあったと思う。クリエーターとして僕は全然素人だよ。でも、僕には時間もない」
「命に限りがあるからかい?」
「うん。でも、それだけじゃない」
「それだけじゃないなら?」
西少年は返事を少し躊躇う。それでも答えようと口を開きかけたとき、制御装置から警報が激しく部屋に鳴り響く。モニターを見ると、一階で戦っていた桐生たちがついにあの魔物の王を倒したようで、床が砂だらけになっていた。
「あの人たち、本当に凄いね。一人が抑えて、一人が援護して、最後の一人が攻撃する。連携も見事だよ。仲間があるっていうのは羨ましい。これで、完全にクリアだね。君たちの勝利だよ」
深沢へと振り返って西少年はにっこりと笑った。皮肉にも敗北を宣言したこのときが一番爽やかに見えた。
「西君… 君はどうするんだ? 上のプロの人たちはきっと君を捕まえて、色々と調べるだろうと思うよ」
「深沢君、それは僕に逃げろと言っているのかい?」
「いや、そうは言わない。むしろ自らあの人たちの前に出て行くことを勧める。どんな理由でも、どんな意義があっても、実際に怪我人が出てしまったその罪は償わないといけない。それに、あの人たちは悪い人たちじゃない。もしかしたら、君を、君の才能をよく使ってくれるかもしれない」
「…うん、やはり、君は冷静だね。君を探し出してよかったと思っているよ」
続きます




