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病と能力

 西少年は告白する。


 三年ほど前、彼は偶然「穴」を見つけ、自分たちが住む世界とは別の世界「あちら側」に迷い込んだ。迷い込んだ先は崖の上で、崖下では青色の旗の歩兵の軍と赤色の旗の歩兵の軍とが戦の最中であった。武器はおおかた剣や槍、弓、火薬はあっても銃の数は少なく、戦闘機の類は皆無であった。はじめ彼は、自分がタイムスリップしたものだと勘違いしていたが、近代兵器を使わない代わりに、その世界の人たちの中には魔法のような不思議な力を使って戦う者や、竜といった空想上の生き物を操って戦っているのを目にして、その線の考えをすぐに捨てた。次に考えたことは、夢の世界である。ただ、夢にしては風の涼味も、轟く爆音も、火薬の臭いも、堪らず鼻を覆った己の腕の肌の柔らかさも、どれも五感に鮮明であったため、その線もすぐに捨てた。そのうち青色の軍が荷台に乗せた巨大な水晶玉を持ち出すと、その中央から細い光りの筋が天に向って走るのを目にする。次には、雲一つない晴天の空より赤の軍の真ん中に雷が落ち、数百人の兵を炎に包んでしまった。雷は二発、三発と続いた。空気が裂け、大地が揺れ、焼かれる兵士の叫び声が耳に届いた。彼には何がなんだかわからなかった。呆然としているところに、四発目の雷が、狙いが誤って彼が立つ崖の側に落ちると、その衝撃波によって彼は吹っ飛ばされた。体が痺れたと思えば彼はそのまま意識を失った。


 次に目が覚めたとき、見知らぬ老人の住む小屋のベッドの上であった。怪我はほとんどしていなかった。博識の老人は、彼の身なりから別の世界からの迷子だと判断した。数日後、その老人の手配で黒い「穴」へと案内され、飛び込んでみると自分たちの住む町に戻れた。そのときの「穴」はすぐに塞がったそうだ。


「西君、それは何の話だい?」


「いや、聞いてほしいんだ。僕が能力に目覚めたときの話だから」


 それからしばらく彼は普通の生活を送っていたが、一年ほど経ったある日、学校の身体測定で自分の背が縮んでいることが判明する。変声期をむかえていた声も、小学生のときの甲高いものへと戻っていると気が付いて、身の異変に病院を訪れた。だが、その医者がヤブだったせいか、「気のせい」と取り扱われなかった。さらに一年が経つと、身長もまた縮んで、中学三年生でありながら、背丈が小学校五年生のときの数値と等しくなった。彼はまた病院に行き、そこでようやく検査を受けた。原因が特定できずに、しばらく入院することになった。


 ある日、その病室に老人が訪ねてきた。それは「あちら側」にて彼を介抱してくれたあの人であった。老人は、彼が若くなっていく病気であり、それは戦場で使われた魔法兵器の影響によるものだと教えてくれた。老人はさらに、若くなることのほかに自分の身に不思議な現象が起きていないかと訊ねた。彼は身に覚えがあった。空想が好きだった彼はパソコンを使って小説を書き、自作ゲームのプログラミングを趣味としていた。気を失ったあの日以来、時折その作業中に黒い「穴」が目の前に出現するようになった。老人は話を聞いて、それは間違いなく能力に目覚めたのだと言った。それも相当に希少な能力だと。


 数日後、西少年の前に再び老人が姿を現し、会わせたい人物がいると切り出すので、彼は躊躇なく会ってみると決めた。案内された先に「穴」があり、それを通過し、その先が彼の住む世界とはまた別の世界であることを知らされた後、その世界で、赤い髪をした男と白い髪をした男と会った。持ち込んだノートパソコンを使って、二人組と老人の前で「穴」を出現させてみせた。調べた結果、第三の世界が作り出されていると結論付けられた。


 老人たちの勧めで彼は自分の能力で何ができるか試すようになると、パソコン上でプログラミングした世界が第三の世界で実現、展開されることが判明した。赤髪の男は出資すると言い、その第三の世界を完成させろと言った。彼は自分が住む世界に戻り、一人で第三の世界の創造を続けた。ある程度できたところで、中間報告のために老人を訪ねに「あちら側」に出向いたが、老人は病に臥せって動けずにいた。曰く、老人もあの魔法兵器によって彼とはまた違った病気に身を侵されていた。さらに老人は、自身がその兵器の開発に携わっていたことも明かした。あの兵器を開発したことに後悔があるとも言った。数日後、老人は息を引き取った。その頃、赤髪たちとは連絡が取れずにいた彼は、一人で第三の世界を作り続けた。作りながら彼はふと自分の病気のことも考えた。若返り続ければ、いずれ無に戻る。自分もまた、長生きできないのだろうと思うようになった。



続きます

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