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興奮と冷静と同情

 調子の狂う緩い着信の音が一台のパソコンから流れる。しばらく続くので、


「西君、何か鳴っているよ」と深沢は気を使った。


「うん、そうだね」


 西少年はマウスを動かし、数回キーボードを叩いて音を消してしまう。


「西君、君がどんな答えを俺に求めているのかわからない。だから、俺がこの世界に放り込まれて感じたことを素直に言うよ。正直、一つには絞れない。二つ、いや、三つくらいある。それでも構わないかい?」


「うん、構わない」


 深沢はひとつ深呼吸をしてからこう話し始めた。


「学校がこの世界に飲み込まれたとき、正直なところ胸がドキドキした。緊張からというのもあると思うけれど、でもその大半は退屈していた毎日から抜け出せるような新しい何かを体験できるような、そんな『興奮』だったと思う。でも、怪我人が出たり、羽田たちの勝手な行動を見ていたりしているうちに、怒りというか、不愉快な気持ちになった。でもそれは一時的なもので、プロの人たちと一緒に行動するようになって、そういった怒りや不愉快といったものに直面すればするほど、自分を『冷静』に保たなければならないことに気がついていった。熱くなる気持ちをどう抑えるか。そんなことを考えながら、同時にこの世界はいったい誰が、何のために作ったのか考えるようになったんだ。こうして君を前にしても、その答えはまだ得られていないけどね」


「それが、君がこの世界で感じたことの全て?」


 深沢は首を横に振る。


「いや、もう一つ。いま、こうして君を前にして、君と話していて感じたことだけど、偉そうな言い方だけど、哀れみというか、『同情』のような気持ちがずっと続いている。何故そんな気持ちにと聞かれても、上手く説明はできないんだけど、感覚としてね。君に、どうしてこの世界を作ったと問い詰めながらも、そうかといって憎くて憎くて仕方ない訳でもないし、敵だという感じもしない。確かに、他人を巻き込んでいるという点で間違ったことをしているとは思うから、駄目なことはすぐにでもやめるべきだと止めてやりたいけど、そう思うからこそ同情してしまう」


「そうか… まるで親心だね。教師が生徒に注意するのにも似ているかも。深沢君、君はやはり冷静だ。同情か… そうされることを望んだことは一度もないんだけど、いや、ないと思っていたんだけど、君のように、一度受け入れて修正を促すための同情なら、それも悪い気がしないと思えてくるよ。君はちゃんと高校生として、体だけじゃなく頭の中もしっかりと成長しているね。それは羨ましい。僕は、僕の体は逆に年々幼くなっていく。考え方も成長しないのかもしれない」


「西君、それはどういう意味だい? まだ聞いていなかったけど、君はどうして小学生のままの姿なんだい?」


「深沢君、君はおそらく僕のこのナリを見て一番に同情したのだろうと思う。誰が見ても変だからね。僕はね、病気なんだよ。体が成長するのではなく、若く、幼くなっていく病気なんだ。発病したのが中学一年生のときだから、僕のいまのナリは小学四年生くらいのときのものだと思う」


「病気って… 突然かかった病気だってこと? でも、そんな不思議な病気があるのかい? あ…!」


 深沢は自身の疑問に己の閃きで答えに近づく。この世界に放り込まれて色々と不思議な体験をした深沢は、自分たちの常識や知識では説明しきれない様々な可能性がこの世に存在していることを知っている。西少年の言うことも、戯言でもなければ、ありえない話でもないと理解できるのである。


「君が感じているとおりだよ。現実にあるんだ、僕の病気は。でも、この病気と引き換えにじゃないけど、同時に不思議な力も得ることができた。この、新しい世界を作れるという力をね」



続きます

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