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深沢と西君(前編)

 最初は慎重に地下へと階段を下りていた深沢の足も、一段ずつ回転が速くなり、ついには駆け下りるまでになると、単独で行動する緊張もどこかに忘れる。代わって彼の胸に、まだ小学生の時分に山や坂や公園を友だちと駆け回っていたあの頃の爽快さが広がる。


 懐かしい。


 この塔にも、自分が落ちた先ほどの地下の一室にも、またいま自分が駆け下りる階段にも、来た覚えなどまったくない。それなのに懐かしい。おまけに誰かに呼ばれている気さえする。それが誰だろうかと考えると、また子供の頃の記憶が走馬灯のように脳裏を過ぎる。胸もほんわかとする。調子に乗ってますます速く駆け下る。仕舞いには階段の途中から踊り場へと飛び降りるようになる。着地で膝の筋が軋もうが、踝が痛もうが、足の裏が痺れようが、やめようとはしない。深沢は、そのような自分に訳がわからない。


 おそらく呼んでいるのは先ほどの少年である。そう思うのは、この世界でいま起きている状況を止めるのに自分こそがその少年を求めているからなのかもしれないが、この引き合う何かは運命の巡り合わせと感じずにはいられない。自分は特別な存在ではないと頭で驕りを捨てても、感覚が、自分の体の細胞が特別な運命だと訴えてくる。


 何段下りたかわからない、いくつ階段を飛び降りたかわからない、長かったような短かったような、現とも夢とも境がわからないほど高揚した頃に、彼の目前に扉が見える。ゆっくりと開くと、


「やあ、深沢君…」


 そこは十畳ほどの広さの部屋である。壁に設置された数台のモニターに、この世界の様々な場所の様子が映し出されている。羽田を運ぶ桐生の姿、結界で敵を押さえつける滋の姿、塔の最上階を目指して階段を駆け上がる島田先生や安川、その他生徒たちの姿。あのトロッコや自分が乗ってきて壊れてしまったロボット等々。どうやら監視部屋と思える。モニターの下部には電子機械の類、ノートパソコンも数台ある。それらを背に、肘掛のついた黒革の回転イスに座り、入ってきた深沢を真っ直ぐに見つめる少年の姿がある。色白で端正な顔のつくりをして、儚げな目をして、微笑んでいるのにどこか物悲しそうで…


「西君?」


 深沢の口から不意と出る。その名前に、懐かしさよりも奇妙な念が眉間に疼く。


「久しぶり、深沢君…」


 少年も頷いてまったく否定しないところ、「西」という名前に間違いはない。深沢の知る西君というのは、小学五年生の時の同級生である。不思議なことに、この少年の体型、顔は、当時の小学五年生の西君のままである。


 西君の姓名は「西 晴彦」だと深沢は覚えている。容姿も良ければ運動もでき、何より頭がよく、クラスでも一番の成績で、その上、人柄も良かった。五年生の時には学級委員長も務めていた。深沢も一目を置いて、彼になら何に負けても仕方なく思っていた。また、よく共に遊んだものである。六年生の途中で転勤族の親の都合で県外に転校していったが、あれからすでに三年は経っている。三年経っているはずなのに、外見上の成長が全くない。まじまじ眺めれば、むしろ当時以上に幼くすら見える。


「本当に… 西君、なのか?」


 やはり相手は頷く。


「気持ちはわかるよ。こんな形だからね。君はちゃんと高校生らしくなっているのに、僕は小学生のままだから。でも、憶えていてくれて嬉しいよ」


 再会を喜びたいところだが、あんな羽田でもクラスメイトを傷つけた首謀者と思えば気は緩められない。


「憶えているよ… 君は、本当にいい奴だったからね。俺がこれまで見てきた友人の中で、君くらいいい奴はいまのところ会ったことがないよ」


「そうか… 君にそう言ってもらえると、僕としても本当に嬉しいよ。僕としても君には一目を置いていたからね。僕からすると、君こそいい奴だよ。大袈裟に言うと、僕の気持ちを救ってくれた、恩人のような存在だからね」



続きます

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