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最終ボスとの戦い(後編)

「まだ終わっていない!」


 活を入れたのは深沢である。皆、ハッと我に返って、王へと構える。敵は苦悶の表情を浮かべながら全身に力を込めている。筋力によってか魔法力によってか、そのまま手で触れずとも体に突き刺さった矢や剣や槍を一度に抜いてしまった。さらには全身を発光させる。枯れ枝の如き王の細腕が膨らみ始め、腿も膨らみ、胸も胴も厚くなっていく。溢れ出るエネルギーが体表でスパークし、地震でも起きたようにフロアが、塔全体が揺れ始めた。


「真の姿に変身するつもり、って奴か…?」と誰かが言う。


 壁に一つ亀裂が走る。この揺れだけで、まるで凶器である。


「佐久間さん!」


 深沢が呼ぶ。滋はキッと顔を上げて、


「僕が行く!」


 計算あっての行動ではない。ただ任務と責任感に突き動かされた滋の本能が結界を作っている。両手を翳し、張った結界ごと光る王へと猛進して、そのまま壁へと押し付けていた。それによってまた一つ壁面に亀裂が走る。


「佐久間さん! 何を?!」


「先生! 僕が押さえているうちに、みんなで上に行ってください! ここの一番上に出口があるはずです! 誠司を、うちらの隊長を助け出して、みんなですぐに脱出してください! 羽田君を、羽田君を早く病院に!」


 光る敵は、滋の結界で押さえつけられながらも変身を続ける。続ければ続けるほど塔はますます揺れ、壁に亀裂が走り、天井からは砂埃が舞い落ちる。気絶した羽田の止血に井村も躍起になっている。もはや戸惑う暇も、躊躇う暇もない。


「わかったわ! みんな、いまの内に行くよ! 早く行かないと手遅れになる!」


 島田が叫ぶと羽田の仲間たちがまず呼応する。ある者は先陣切って二階に上り、ある者は島田と共に羽田を抱えて運んで行く。先生方もここが峠と声を出し、体を動かして他の生徒たちを引き連れ階段を上っていった。


 滋の側にいた深沢は、ふと床に目を落とす。王が現れた地下からの入口が、よく見ると閉まり切っておらず僅かに隙間がある。理由なく何故か惹かれて中を覗いてみると、さて誰かが彼を見上げている。それも少年である。目が合うと、少年はすぐに走りだして見えなくなった。


「深沢君! 早く!」


 階段を上る列の最後尾で安川が叫ぶ。だが深沢は、いま目にした地下の少年のことが胸の内で引っ掛かって、


「ごめん、先に行って!」


「そこでどうするの!」


 丁度そこで二階への階段の下半分が崩れ出す。安川は転げ落ちそうになるが、何とか踏ん張った。


「深沢君!」


「早く行って! 桐生さんを呼んできて!」


 深沢はそう叫んでコクリと頷いた。何か強い意思がある。安川も余儀なく頷くと、一気に二階へと駆け上がって行った。


 尚も光る敵を押さえつけている滋の背後で深沢は隙間の開いた床に手を触れ、開かないかと試みる。すると、これがまた簡単に開いてしまう。身を乗り出すように覗き込むと狭い一室にさらに地下へと下る階段も見える。


「深沢君!?」


 滋の声に振り返ろうと体を起こすと、運悪くまた塔が揺れる。バランスを失った深沢は、地下へと滑り落ちてしまった。


「深沢君! 大丈夫!?」


「はい、大丈夫です!」


 肩から落ちて軽く打撲もしたが動けない程でもない。すぐに立ち上がって辺りを見回す。一階へは三メートルほどの高さがある。梯子になるものもない。跳んで届かないこともないが、彼は階下へ下りる階段の方が気になる。これまた不思議と下りたくなっている。


 腰に手を当てると自身が丸腰であると気付く。しかし都合よく床にナイフが落ちている。


「もしあの少年が本当にここを管理している人間だったら、全部ひっくるめて止められるかもしれない…」


 ナイフを拾って腰に携えると、彼は一人地下へと下りた。



続きます

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