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最終ボスとの戦い(前編)

 羽田が一階へと下りた時にはすでに戦闘の最中であった。敵は人の形をしているが高さは三メートルの超長身。頭から黒ローブを纏って顔は精気を失い過ぎてほぼ髑髏というビジュアルである。皮膚の色は暗い緑か灰色か、人間のそれとは大いに異なり、眼は赤く怪しく光って、口は狼の如く裂けて牙もある。結界を張った滋に手から火炎や真空波を放ち、口からは凍てつく吹雪を吐きつけている。外見は死にぞこないだというのに、攻撃は魔獣の如き激しさと速さを持っている。生徒や先生方を全員結界の中に入れて、それら連続攻撃を全て撥ね退けるが、防戦一方で反撃の隙もない。また撥ね退けるたび、その衝撃は滋の掌に伝わり、腕、肘に響いているようである。止める以外に何もできないのも、一方的な敵の攻撃も羽田には不愉快で、先に全員を覆ってしまった滋のミスと舌打ちする。ただ、抜いた剣を振りかぶるのはいいが、敵の荒々しさに彼も攻撃の一歩を踏み出せない。


 この敵は地下より突如現れ、「我こそが王。この世界から逃がしはせぬ」と、この一言だけで攻撃を仕掛けてきた。容赦も交渉もない魔物である。滋も咄嗟に能力の結界で防御するのが精一杯であった。それでもただ耐えているのはまだ耐えるに力が余っているからである。限界を感じれば結界を衝撃波にして敵方へ放出する技もなくもない。なくもないが精度も力も未熟なら、この大一番で確実に決められるとも限らず、耐えに耐えて頃合いを計ることを名目に、その胸で期待するところは、桐生が様子見から戻ってこの状況を打開してくれることである。防御一辺倒でも、状況からして、自分の才能からして、守ることこそが自分の最前の仕事と決め込んで、彼にそう迷いもない。その滋の目にも二階から降りてくる羽田の姿が映る。そして目が合う。合ってすぐに、羽田だけだと分かって表情が曇る。それが滋の不本意でも、羽田には虚仮にされたと勘違いされる。羽田は歯軋りをして、


「あんたたちの隊長はな! いま罠に嵌って牢屋から出られないんだよ!」


 と、声を張り上げた。敵もすぐに彼に気付いて振り返る。掌を翳して狙いを定めるが、羽田も怒りに任せて、相手が魔法を放つよりも先に剣を投げつけた。それが見事敵の肩に刺さって先手を取る。滋たちにしてみれば状況打開のチャンス到来。この状況において自分たちが何をすべきか理解していた深沢が、滋の名を叫ぶ。それに呼応して滋も一度結界を解くと、深沢や、また羽田と共に行動していた男子たちが武器を手に四方に散り、飛び道具を持つものは遠距離より放ち、持たないものは羽田を真似て得物を投げつけた。すると、またこれが他の数十人の勇気に火をつけて、ここを決着の好機と見定め、生徒たちも先生方も各々武器を投げ、飛び道具を放つ一斉攻撃が展開された。数の力によって魔物の王の動きを止めてしまうのであった。


「やった!」


 誰かがそう歓喜の声を上げる。やられたモンスターがどうなっていくか見てきた滋や深沢、羽田は、砂となって消えるまでは顔から肩から緊張が抜けない。案の定、敵は再び動き出すと体に突き刺さった一本の剣の柄を握り、苦痛に耐えながら引き抜いてしまう。


「武器を貸せ! 俺が止めを刺す!」


 叫ぶ羽田を王も礑と睨み、引き抜いた剣を振りかぶると彼目掛けて放り投げた。それも並の速さではない。誰もが「あっ」と思ったときには、羽田の横腹が裂かれていた。彼の体が「く」の字に曲がり、膝が崩れて階段より転げ落ちてくる。


「きゃぁぁぁぁ!」


 すぐに井村の悲鳴が甲高く響いた。羽田の名を呼びながら駆け寄り、抱きかかえた彼女の手に腕に、赤い鮮血がベットリとつく。羽田の左脇腹も真っ赤に染まっている。夢でもなければ幻でもない。現実の大怪我に誰の頭にも「死」の一字を植え付けられる。それまで王を攻めたてていた勢いもみるみる萎んでいく。



続きます

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